スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

序章:『“勝ちパターン”でも勝ち切れない』 対ホンダFC戦@栃木SC通信

2007-05-28 01:32:21 | 栃木SC
ピッチに座り込んだ。両手で顔を覆いながら。ぴくりとも動かない。いや、動けなかったのだろう。俯いた表情からは悲壮感が漂っていた。目が腫れているようにも見えた。一旦、ロッカールームに引き上げ、再びクールダウンのためにピッチへと戻ってきても、高野修栄は同じ様に背中を丸め、胡座をかきながら数分前の出来事を思い起こしては後悔し、自責し、猛省していた。そこへチームメイトがひとり、またひとりと歩み寄る。高野を中心に輪ができた。ようやく、少し顔を上げてストレッチを行った。
 
昨季、天皇杯4回戦、対清水エスパルス戦(4―6の敗戦)を境に、栃木SCは残りのリーグ戦6試合を4勝2分けと無敗で締めた。その原動力となったのは、堅守を売りにした4バックだけではない。清水戦でブレークしその名を県民だけではなく全国に知らしめた永井健太であり、茅島史彦であった。彼等2人は“スーパーサブ”と呼ばれている。
 
以前、エース吉田賢太郎は、こんなことを話していた。
 
「途中交代は難しい。試合の流れがあるから。スーパーサブは特別な存在だと思う。重要な役割を担っている。状況が毎回違うのでスタメンよりも難しい」
 
先発が確約されていた昨季とは異なり、熾烈な競争下に身を置いている今季は途中出場も経験した吉田賢太郎。一発で形勢を逆転させるプレイをすることがいかに困難であるかを実感し、特異な人種に対して尊敬の念を抱きもした。
 
後半21分、永井イン。「紅白戦でもやっていなかった」1.5列目に配される。ポジションは不慣れでも、ボールに触ってしまえば、問題ない。何時の間にか右サイドに現れたと思ったら(この動きには裏付けがあるのだが後ほど)、先制点に結び付くクロスを供給して1アシスト。同点とされてから1分と経たない内に今度は山下芳輝直伝のポストプレイから、師匠・山下のゴールをお膳立てした。2アシスト目をマークした。Pボックス内の永井へロークロスを入れたのは、後半28分に送り出された左サイドの茅島だった。
 
試合を動かせること、変化をつけられることをものの見事に証明した。
 
永井のスピードと突進力、茅島の切れ味とテクニックを利してゴールを奪い、そのままリードを守り抜き、逃げ切ってしまう。昨季の終盤戦に構築された“勝ちパターン”である。

完璧にはまった。選手達は久方ぶりの勝利を体全体で表現し、遠路遥々、浜松まで駆けつけたサポーターと喜びを分かち合うはずだった。
 
ところが、である。「最後まで諦めないと警戒していたが、お家芸であるCKから取られた。悔しい」と唇を噛んだ高橋監督。ロスタイム、ホンダにCKから2―2の振り出しに戻されてしまう。勝ち点3は掌からするりと零れ落ちた。
 
勝ち切ることができなかった。喫した2失点に絡んだのは高野の対面の選手。ホンダの右サイドバック堀切良輔だった。1ゴール1アシスト。悔やんでも悔やみきれない。高野ひとりに非があるわけではないが責任を感じ、崩れ落ちるようにへたり込むのも無理はない。
 
一度は勝機を掴んだが、最終的に逸してしまった。“勝ちパターン”に持ち込んだはずだったのに。1分に満たないような、僅かな時間を堪えきれなかった。
 
結果がでない原因をDFリーダー谷池洋平は自己分析した。
 
「10試合以上やっているなかで『栃木のサッカーはこうだ』というものがない」。言い回しを替えて「土台に積み重ねがない。それがこういう結果(5月3日、対横河武蔵野FC戦での勝利から遠ざかっている)に繋がっている」とも言った。言葉が熱を帯びる。「勝ち切るサッカーとはどんなものなのか、と聞かれても・・・。カウンター主体なのか、ボールポゼッションを高めながら攻めるのか、守り切り勝つのか。見ている人にも説明が難しい。スタイルが確立していない」。
 
なるほど、勝利を呼び込めるカタチから2ゴールし、手が届きそうなところまでは持って行った。しかし、それを今季のメンバーが、チームが作り上げたものであるのか、ないのか。些細なところかもしれないが、その辺の意識が微妙に最後の最後で勝ち点3と1とを分けたのではないだろうか。突き詰めれば自分達のサッカーに自信を持ってやれているのか、いないのか、という一点に集約されるのだろうが。
 
「自分達のサッカーができれば負けない」とキャプテン北出勉は言う。では、自分達のサッカー、栃木SCが観衆をある程度まで魅了し、尚且つ結果までもが伴うサッカーとは。それは、例えば「相手に走り負けない」「気持ちで凌駕する」ということなのだろう。不可欠な要素である。忘れてはならない。

だが、再び谷池。「走る。頑張るのは当然。それ以外の連係など何が問題なのかを突き詰めないと」。開幕からの序盤戦は相手が相手だっただけに顕在化しなかったが、実力が拮抗、或いは優る相手と対戦したことで一気にボロが出た。

栃木SCのサッカーとは。やりたいことは明確である。理想もある。でも、見えない。見えてこないのが悲しいかな現状である。


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