『試金石』
サテライト主体ながらもジェフ千葉、鹿島とJ1から2勝を挙げた栃木SC(ジェフ千葉戦は1、2本目の対戦成績)。華々しくJリーグは15年目の幕を開けた。そのJリーグ参入を目指すJFLのオープニングは2週間後に迫っている。これまでは県内で主に合宿を張っていたが、環境を変えてリフレッシュをする狙いもあったのだろう。外に飛び出した。千葉合宿の総仕上げとして、舞台を東京に移し横河武蔵野FC(横河)とのトレーニングマッチを行った。
昨シーズンは勝ち点で並びながらも得失点差5に泣き、最終順位は横河が6位と7位の栃木SCに勝った。開幕を控えた大事な時期の調整相手として双方にとって申し分はない。果たして、試合は今シーズンを占う重要な試金石となった。
45本×4本とボリューム満点の試合形式だったが、実際には4分割することなく90分を前後半に分ける本番を想定したものとなった。
栃木SCの陣容はGK原、4バックは左から高野、谷池、照井、北出、ボランチに山田と堀田、左に只木、右に小林、山下のワントップ下に吉田賢太郎を据えた。4―4―2の変則である4―5―1のフォーメーションを選択した。
「(相手が)ガーンと来た時に、(自分達が)ガーンと跳ね返せる気持ちがないと」(高橋監督)、「入りが悪かった。相手の勢いに押されて後手に回った」(山田)。栃木SCはJFL特有の戦術――ロングボールを主体にセカンドボールを拾い2次攻撃を繰り出すサッカー――に手を焼く。
横河は執拗にDFラインの背後を目掛けてロングフィードを蹴ってきた。これをトップが追うことで徐々に栃木SCのラインは下がり始める。山下と最終ラインの間隔が空いてしまったことで、プレスをかける位置は曖昧になった。ボールの取り所が見出せない。セカンドボールをマイボールにできない。「最初の10分」。キャプテン北出が重要性を訴えた序盤に混乱した。冷静さを取り戻せない。戸惑う栃木SCを更に追い込む。横河は正確なサイドチェンジで揺さ振ってきた。ピッチをワイドに使用される。両サイドからの侵入を許してしまう。
「サッカーになっていない」
頻繁に崩されたサイドの選手を含め全員を叱咤した高橋監督。座っていられずにタッチラインすれすれまで歩み出た。
檄を発奮材料にしたかったが、一向に改善される兆しが見られない。横河の前線からの強烈なプレスとシンプルな攻撃。両方にてこずる。攻撃する暇すら与えられなかった。
横河のラッシュは確かに凄まじかった。だが、栃木SCにも反省すべき点はあった。山田は振り返る。
「繋ぐよりも頭を越していく(ボールを蹴る)サッカーも必要。ロングボールを使うことで相手のラインを押し下げられる。そうすればボランチがゲームを作ることができる」
山田と堀田はビルドアップに加わるべく、最終ラインまでボールを受けにいった。ボランチを経由して試合を組み立てる。モダンフットボールの常套手段であり、栃木SCが志向するポゼッションサッカーには必要不可欠である。が、時と場合による。相手がコンパクトに、前からボールを追ってきた時には「繋ぐよりも裏」への意識があってもいい。蹴らされるのはまずいが、意図を持って蹴ることは悪いことではない。
「無理に繋ぎすぎた。押し込まれた状態で最終ラインから繋いでも、山下のポストは使えない」と北出。ボランチとサイドの選手は狙われ、何度もボールを掻っ攫われた。山下はハードマークにあう。パスコースを消されてしまい、ポストプレイは数えるほどだった。あまりにも「繋ぐ」ことに固執してしまったことで、自らの首を締めてしまった。
対照的だったのは横河。面白いようにボールが回り両サイドの大多和、池上がアタックできた。連動したプレイから次々と好機を生み出した。前半(1本目)終了間際には中央をドリブルで切り裂きシュート。栃木SCはポストと拙いフィニッシュに救われるも、失点1とカウントされるべき崩され方だった。
「(合宿の)疲労?とんでもない。(左胸を叩く仕種をして)ハートで負けているよ」。上野強化部長は覇気の乏しい選手達にご立腹だった。
「シュートを打たないと」。サポーターの嘆きである。
「後半(2本目)はロングボールで修正できた」と山田が言ったように、長いボールの使用頻度は増し、徐々に敵陣へ攻め入る回数が多くなる。「裏を狙え」。高橋監督から指示が飛び、それも奏効した。
人工芝に足を取られて負傷退場した吉田賢太郎。怪我の功名といっては気の毒だが、代わりに入った茅島が左サイドでボールを誘引し、起点となったことでリズムが生じる。サポート態勢は不十分だったが、無惨だった最初の45分に比べれば、コンビネーションも垣間見られるようになる。
ラスト15分、北出アウト、横山聡イン。4―5―1から3―6―1に。攻撃的にシフトした。
ジェフ千葉戦と同様、4から3にした後にゴールネットは揺れた。これは栃木SCにとって、ひとつのスイッチなのだろうか。
敵陣の左サイド、角度にして約45度の位置。堀田の狙い済ましたFKが逆サイド上段に突き刺さる。直接、決めた。堀田のキックは見事だったが、FKを獲得した茅島のドリブルも見逃せない。途中交代の役割をしっかりと把握している。あくまでも本人は先発にこだわるが、限られた時間の中で流れを変えられる存在は稀少だ。例え栃木SCが同タイプの選手を4人有していようとも。
攻撃面では持ち直した栃木SCであるが、守備は試合開始から覚束無いままだった。GK原の好守により危機を回避してきたが左サイドを攻略され、ついにロスタイムにクロスからヘディングシュートを叩き込まれる。最後のワンプレイでの失点、それも高さに自信のある山崎がクリアしきれずに背後から決められた。
内容はともかく1―0で勝ちきれなかったことは痛かった。そして、失点シーン。ジェフ千葉戦と全く同じ。サイドからのクロスとヘディングシュート。デジャブのようだった。同じ轍を踏んでいるようでは心許無い。修正が必要だ。
「ポゼッションしてくるチームには対処できる。蹴ってくるチームに対する対応が課題。JFLでは蹴ってくるチームが多いので、試合中に相手のやり方に気付くようにしたい」
来たるシーズンへ向けて、北出はJFL独特の戦い方に対する「傾向と対策」を練っていく腹積もりでいる。内容も結果も伴わなかったが、互角に戦える相手――例えばホンダFCのようにパスをベースとしたタイプ――とは異なるスタイルで挑んでくる相手と、どのように戦い、勝ち点を落とさないようにするのか。
本番前に不得手な相手と対戦し、新たな問題点が浮き彫りになった。己のスタイルが通用しないならば、一時的に回り道をしてもゴール(勝利)に辿り着けばいい。柔軟な発想が時として求められることを教えられた。これは大きな収穫だった。
メンバーを入れ替えた2試合目(3、4本目)も横河が攻勢、栃木SC劣勢の構図に変化はなかった。後半に3失点を食らった栃木SCは大敗した。
トレーニングマッチ 横河武蔵野FC1―1栃木SC(1、2本目) 2試合目(3―0) @横河グラウンド
サテライト主体ながらもジェフ千葉、鹿島とJ1から2勝を挙げた栃木SC(ジェフ千葉戦は1、2本目の対戦成績)。華々しくJリーグは15年目の幕を開けた。そのJリーグ参入を目指すJFLのオープニングは2週間後に迫っている。これまでは県内で主に合宿を張っていたが、環境を変えてリフレッシュをする狙いもあったのだろう。外に飛び出した。千葉合宿の総仕上げとして、舞台を東京に移し横河武蔵野FC(横河)とのトレーニングマッチを行った。
昨シーズンは勝ち点で並びながらも得失点差5に泣き、最終順位は横河が6位と7位の栃木SCに勝った。開幕を控えた大事な時期の調整相手として双方にとって申し分はない。果たして、試合は今シーズンを占う重要な試金石となった。
45本×4本とボリューム満点の試合形式だったが、実際には4分割することなく90分を前後半に分ける本番を想定したものとなった。
栃木SCの陣容はGK原、4バックは左から高野、谷池、照井、北出、ボランチに山田と堀田、左に只木、右に小林、山下のワントップ下に吉田賢太郎を据えた。4―4―2の変則である4―5―1のフォーメーションを選択した。
「(相手が)ガーンと来た時に、(自分達が)ガーンと跳ね返せる気持ちがないと」(高橋監督)、「入りが悪かった。相手の勢いに押されて後手に回った」(山田)。栃木SCはJFL特有の戦術――ロングボールを主体にセカンドボールを拾い2次攻撃を繰り出すサッカー――に手を焼く。
横河は執拗にDFラインの背後を目掛けてロングフィードを蹴ってきた。これをトップが追うことで徐々に栃木SCのラインは下がり始める。山下と最終ラインの間隔が空いてしまったことで、プレスをかける位置は曖昧になった。ボールの取り所が見出せない。セカンドボールをマイボールにできない。「最初の10分」。キャプテン北出が重要性を訴えた序盤に混乱した。冷静さを取り戻せない。戸惑う栃木SCを更に追い込む。横河は正確なサイドチェンジで揺さ振ってきた。ピッチをワイドに使用される。両サイドからの侵入を許してしまう。
「サッカーになっていない」
頻繁に崩されたサイドの選手を含め全員を叱咤した高橋監督。座っていられずにタッチラインすれすれまで歩み出た。
檄を発奮材料にしたかったが、一向に改善される兆しが見られない。横河の前線からの強烈なプレスとシンプルな攻撃。両方にてこずる。攻撃する暇すら与えられなかった。
横河のラッシュは確かに凄まじかった。だが、栃木SCにも反省すべき点はあった。山田は振り返る。
「繋ぐよりも頭を越していく(ボールを蹴る)サッカーも必要。ロングボールを使うことで相手のラインを押し下げられる。そうすればボランチがゲームを作ることができる」
山田と堀田はビルドアップに加わるべく、最終ラインまでボールを受けにいった。ボランチを経由して試合を組み立てる。モダンフットボールの常套手段であり、栃木SCが志向するポゼッションサッカーには必要不可欠である。が、時と場合による。相手がコンパクトに、前からボールを追ってきた時には「繋ぐよりも裏」への意識があってもいい。蹴らされるのはまずいが、意図を持って蹴ることは悪いことではない。
「無理に繋ぎすぎた。押し込まれた状態で最終ラインから繋いでも、山下のポストは使えない」と北出。ボランチとサイドの選手は狙われ、何度もボールを掻っ攫われた。山下はハードマークにあう。パスコースを消されてしまい、ポストプレイは数えるほどだった。あまりにも「繋ぐ」ことに固執してしまったことで、自らの首を締めてしまった。
対照的だったのは横河。面白いようにボールが回り両サイドの大多和、池上がアタックできた。連動したプレイから次々と好機を生み出した。前半(1本目)終了間際には中央をドリブルで切り裂きシュート。栃木SCはポストと拙いフィニッシュに救われるも、失点1とカウントされるべき崩され方だった。
「(合宿の)疲労?とんでもない。(左胸を叩く仕種をして)ハートで負けているよ」。上野強化部長は覇気の乏しい選手達にご立腹だった。
「シュートを打たないと」。サポーターの嘆きである。
「後半(2本目)はロングボールで修正できた」と山田が言ったように、長いボールの使用頻度は増し、徐々に敵陣へ攻め入る回数が多くなる。「裏を狙え」。高橋監督から指示が飛び、それも奏効した。
人工芝に足を取られて負傷退場した吉田賢太郎。怪我の功名といっては気の毒だが、代わりに入った茅島が左サイドでボールを誘引し、起点となったことでリズムが生じる。サポート態勢は不十分だったが、無惨だった最初の45分に比べれば、コンビネーションも垣間見られるようになる。
ラスト15分、北出アウト、横山聡イン。4―5―1から3―6―1に。攻撃的にシフトした。
ジェフ千葉戦と同様、4から3にした後にゴールネットは揺れた。これは栃木SCにとって、ひとつのスイッチなのだろうか。
敵陣の左サイド、角度にして約45度の位置。堀田の狙い済ましたFKが逆サイド上段に突き刺さる。直接、決めた。堀田のキックは見事だったが、FKを獲得した茅島のドリブルも見逃せない。途中交代の役割をしっかりと把握している。あくまでも本人は先発にこだわるが、限られた時間の中で流れを変えられる存在は稀少だ。例え栃木SCが同タイプの選手を4人有していようとも。
攻撃面では持ち直した栃木SCであるが、守備は試合開始から覚束無いままだった。GK原の好守により危機を回避してきたが左サイドを攻略され、ついにロスタイムにクロスからヘディングシュートを叩き込まれる。最後のワンプレイでの失点、それも高さに自信のある山崎がクリアしきれずに背後から決められた。
内容はともかく1―0で勝ちきれなかったことは痛かった。そして、失点シーン。ジェフ千葉戦と全く同じ。サイドからのクロスとヘディングシュート。デジャブのようだった。同じ轍を踏んでいるようでは心許無い。修正が必要だ。
「ポゼッションしてくるチームには対処できる。蹴ってくるチームに対する対応が課題。JFLでは蹴ってくるチームが多いので、試合中に相手のやり方に気付くようにしたい」
来たるシーズンへ向けて、北出はJFL独特の戦い方に対する「傾向と対策」を練っていく腹積もりでいる。内容も結果も伴わなかったが、互角に戦える相手――例えばホンダFCのようにパスをベースとしたタイプ――とは異なるスタイルで挑んでくる相手と、どのように戦い、勝ち点を落とさないようにするのか。
本番前に不得手な相手と対戦し、新たな問題点が浮き彫りになった。己のスタイルが通用しないならば、一時的に回り道をしてもゴール(勝利)に辿り着けばいい。柔軟な発想が時として求められることを教えられた。これは大きな収穫だった。
メンバーを入れ替えた2試合目(3、4本目)も横河が攻勢、栃木SC劣勢の構図に変化はなかった。後半に3失点を食らった栃木SCは大敗した。
トレーニングマッチ 横河武蔵野FC1―1栃木SC(1、2本目) 2試合目(3―0) @横河グラウンド