deep forest

しはんの自伝的な私小説世界です。
生まれてからこれまでの営みをオモシロおかしく備忘しとこう、という試み。

101・屋台

2019-03-29 19:44:01 | Weblog
 美大祭が華々しく幕を開けた。日が落ちる頃になって、やっと。
 それに先立ち、屋台の場所取りが行われていた。キャンパス内の取れるかぎりの空きスペースが、定められた面積に区画化され、ナンバーを振られる。それをめぐって「出店したい」というグループが寄り集まり、抽選で(あるいは、ゆずり合いや力ずくで)場所が割り当てられる。場所が決まれば、それぞれに調達したテント(小中学校などの運動会などで用いられる大振りなもの)が張られる。そこから先のディスプレイは、各団体の腕の見せどころだ。美大生としての沽券を賭けて工夫を凝らし、店舗として飾り立てていく。オレの場合、彫刻科2年生有志、塑像部屋、ラグビー部、という所属先があって、その各グループがすべて、別個に居酒屋を出す。各所で立ち働かなければならないが、逆に言えば、各所で酒を飲むことができるわけだ。いよいよ楽しみになってくる。
 彫刻科同級生のチームは、カミウチが「つぼ八」で店長格にまで登りつめてるので、店の仕入れルートから食材が手に入る「焼き鳥屋」をやる。この店舗は1年生時から根付いていて、つまり今年で二年めだ。串打ちされた焼き鳥肉はふんだんにあるので、準備となると、あとはそれを焼く焼き台づくりだ。これには、排水用のコンクリート製U字溝(きれいな)が最適だ。そいつを店先に設置し、焼き網をのっければ、もう完成。カミウチ調達の備長炭で焼き、カミウチ特製のタレに漬ければ、ヘタをするとつぼ八よりも美味い「カミウチ風焼き鳥」の出来上がりとなる。店内の設えは簡単。ビールを大ビンで取りそろえ、ビンの入ったカートンを、そのまま客用のイスとすればいい。おかわりの際には、尻の下から引き抜けばいいという、合理的なつくりでもある。店内が吹きっさらしでは、北陸金沢の、雪も降ろうか、というこの季節の北風に凍てついてしまうので、テントのぐるり周囲にブルーシートをめぐらせる。チープ感は否めないが、客を凍えさせるよりはいい。なるべく経費を節約し、身の周りのもので間に合わせるのが、バンカラ風の乙なのだ。このあたりの清貧思想と手際は、美大のやせがまん文化の中で一年間揉まれた誰もが自覚している。
 周囲にも続々と屋台が設営されていく。油絵科、日本画科、デザイン科・・・それぞれに得意分野を生かした店構えで興味深い。野球部、サッカー部、軽音部、映研・・・それぞれに個性を出してきて面白い。女子力を表に出す店は少ない。美大では、女子までが男前なのだ。あの屋台もこの屋台も、「酒」を前面に謳っている。学園祭というよりは、まるで呑んべ横丁の感謝祭のような光景だ。
 さて、様々に趣向を凝らした店の中で、ひときわ異彩を放つのが、彫刻科の石彫部屋が出店する居酒屋、その名も「安全第一」だ。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園