deep forest

しはんの自伝的な私小説世界です。
生まれてからこれまでの営みをオモシロおかしく備忘しとこう、という試み。

99・後輩

2019-03-26 08:44:18 | Weblog
 2年生になるということは、後輩を持つということでもある。彫刻科にも、愛すべき、そして忌むべき、小生意気な後輩たちが入ってきた。
 一年前の自分たちのことを振り返ってみる。新鮮だったあの頃の気持ち。意欲に満ちた心意気。いや、なににも増して頭の中を走馬燈のようにめぐるのが、自分たちが先輩から受けた仕打ちだ。そう、思い出さなければならない。そして、引き継がねばならない。わが文化を、伝統を。
「明日の午後一時、1年生全員、グラウンドに集合ね」
 あの呪わしい新入生歓迎ソフトボール大会から、はや一年がたったのだ。新歓・・・ああ、待ちに待った心躍る催し。かつて自分たちが戦い、討ち死にした例のやつを、今度は倒す側にまわって主催できるのだ。なんと喜ばしいことではないか。
 グラウンドの三塁側ベンチ周辺にはブルーシートが敷かれ、日本酒、焼酎各種が準備万端並べられた。そこへ新1年生、すなわち、後輩たちがヨチヨチと入場してくる。可愛らしいぼくちゃん、嬢ちゃんたちが勢ぞろいだ。中には、高校時代に見知っていた地元の後輩もいる。ようこそ、この北陸の魔窟へ。いい子いい子してやるぜ、ふっふ・・・
 その後の彼ら彼女らの姿は、自分たちを描写した一年前のありさまに瓜二つと相成った。すなわち、泥酔と、叫声と、げっちゃんの海と、死屍累々の原の光景だ。自分が有利な立場に立って弱いものをいたぶるとは、なんと愉快な作業であることか。伝統に則って後輩を余さずつぶし、溜飲を下げたオレたち2年生は、その後に先輩たちと酒盛りをしながらの試合となった。ところがわが学年も、上級生たちによるかわいがりで、ひとり、またひとりと倒されていく・・・はて?こんなはずでは・・・弱い立場に立たされていたぶられるのは、2年生も同じだったというわけだ。このループは、最上級にのぼり詰めるまでつづくのだろうか?
 さて、ラグビー部にも、新入部のマドンナ候補生たちが入ってきた。特筆すべき女子は、日本画科の1年生で、チカちゃんというコロボックルのようなコビト族だ。彼女は手の平におさまりそうなほどの妖精で、ててて、と走ると、ピコピコピコ・・・と音を立てて空中を浮遊する。彼女はオレの姿を見つけると、いつも遠くから、ピコピコピコ・・・と寄ってくるのだが、どういうわけか、いつまでたっても近づいてこない。近づいてこないかと思いきや、すでに足元にたどり着いている。それほどの小ささと愛らしさを持った生物なのだ。まったく、ポケットに入れておきたくなる。
 この「愛の袋詰め」のような新マネージャーは、まことに貴重な存在だ。わが同級には、すでに油絵科のマネージャーが二人いるのだが、どちらもおっかない姐さんタイプだった。試合中にケガをしても、「ツバでもつけときっ」と突き放される。女心を期待して甘えようものなら、拳で返されそうな剣幕だ。ところが小さな小さなチカちゃんは、痛いよう、と申告しさえすれば、にゃにゃっ?と天使のような声で、背伸びをしても届かないこちらの頭をなでなでイイコイイコしてくれようとするるのだ。なんというすばらしさだろう。なのに、ひとたび試合がはじまれば、スタンドで大興奮しすぎ、姐さんたちとともに、「つっこめ~っ」「ぶっころせ~っ」「やすんでんじゃねえ、ビールのませねえぞ、くぉるぁ~っ」などと叫び、周囲を、どん引きを超越した笑いの渦に巻き込んでくれる。妖精とケモノの習性を同時に持ち合わせた、実に得がたいキャラクターと言えよう。まったく、部に通うのがまた楽しみになってきた。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園