巨大な反核大衆闘争を労働運動の転機に!
「闘う世界の労働者」⑩ 日本労働者運動の奮闘
労働者運動研究所 2012.07.27 18:00
7月16日、東京では「さようなら原発10万人集会」が開かれた。この集会には何と17万人が参加し、原発稼動阻止に対する日本民衆の意志を確認することができた。主催者はそれぞれだが毎週金曜日に首相官邸の前で開かれる集会にも十万人を越える群衆が集まっている。
全国各地で原発反対運動を行う市民は、首相官邸の前での集会を各県、各市町村にひろげようとしている。本稿では、巨大な大衆闘争の中で日本の労働組合はどのように活動し、原発下請け労働者の組織化のためにいかなる努力を行っているかを紹介する。
多数の組合員が反核運動の主体
日本の労働組合は社会変革の性格がかなり弱まり、労働組合の名が全面に出る闘争もなかったが、反核集会への組合員の参加は圧倒的で、労働組合の旗も無数に見られる。7月16日の集会パンフレットにはJR総連、全労連、連合の加入する連帯組織である平和フォーラム、全労協など巨大労組の席配置があらかじめ書かれていた。それだけの組合員の参加が予想されるということだ。
福島事故以降の反核集会には、それまで運動に関心がなかった市民も多数参加しているが、組織された労働者も反核運動の大きな軸を担っている。規模が大きい労働組合以外の少数労組の組合員も、7月16日の集会だけでなく首相官邸前での集会のような、いわゆるインターネットを通じて組織されたといわれる集会に自発的に参加するなど、反核運動に積極的に参加している。労働組合の中には、福島事故以前から反核運動に参加しているところも多く、原発がどのような下請け体系のもとで稼働しているのか、こうした体系が労働者をいかに搾取し、危険にさらしているのかを告発する役割を果たしている。
福島の労働組合
福島現地の労働組合の状況はまた異なる。福島現地の労組は、労働組合として反核運動に連帯するだけでなく、原発事故の被害者としてその権利を主張しなければならない。
福島の労働組合は様々な課題を抱えている。放射性物質から少しでも安全なところに避難するのは福島住民の権利だが、労働組合がこうした権利のために何をできるか? 原発事故によって職を失った労働者、職を失うことを恐れて避難したくてもできない労働者と共にどのような闘いをすべきか?
福島のある自主企業は、他の地域の労働組合に協力を求め、全組合員の家族を福島に隣接する山形県に避難させたという。家族はそこで暮らし、組合員は福島に出勤する生活を送っている。
だが、こうしたケースは特異な例で、大多数の労働組合にとってこうした選択は困難だ。
全国自動車交通労働組合連合会(以下全自交)の福島支部で昨年行われた議論では、「避難した場合、その地域での就職はどうするか」、「派遣、短期雇用だけを転々とした娘がやっと正規の職を得た。この会社はどんなことがあっても必ず出勤しろと言う。娘だけを残して避難することはできない」「看護師である娘の友人は、1週間自主避難をしたところ解雇された。解雇が恐ろしくて避難することはできない」ということで、多くの組合員が避難を選択しなかった。
全自交福島支部吾妻分会の執行委員長である阿部利広氏が昨年12月に明らかにした課題は、依然として福島のすべての労働組合のものであろう。
「福島の悲劇的実態は、労働者階級が今まで当たり前のように商品として扱われてきた実態の顕在化に過ぎないと考える。『生命は地球より重い』というが、実際の労働者は機械より安いではないか。交通費を支払って現場まで自分で駆けつける万能機械は、労働力商品としての人間以外にはなく、一日の使用料はレンタカーより安く、使い捨てもいくらでも可能だ。労働者の状態を理解し、組合員の揺れる複雑な感情を担保できる、現場労働からの意識的活動家の形成、団結権を社会的に復権させ、労働組合を組織し、階級闘争が本質であるという点を福島現地に根づかせる地域的労働組合と、こうした労働組合を拠点とした全県民の運動推進が必要だと考える。」
原発労働者をどう組織するか
茨城大学の稲葉奈々子氏は、今年3月、ある季刊誌でフランスの事例を紹介し、日本も同じ課題を抱えていることを指摘した。フランスの「すべての原発下請け労働者の健康のための市民団体」の発起人であるフィリップ・ビラールは、人々が事故が起きることを恐れるならば、何よりもまず現時点でしなければならないことは、原発で働いている労働者の権利を擁護することだが、そのような主張をする反核運動はない、と指摘する。原発が廃炉作業に入るにしても、また、廃炉が完了したあとも、被曝を伴う作業が必要となる。こうした現実を直視する運動がなければならない。日本でこうした問題意識で運動を建設するための様々な労働組合と団体の努力が進められている。
今年3月に韓国にも紹介された「被曝労働を考えるネットワーク」準備会は4月22日、「どのように運動を作るのか――被曝労働問題」というテーマで交流討論集会を行った。この討論会には180人余りが参加し、原発労働者を含む被曝労働全般をめぐる現実を共有した。
討論会で報告されたことによれば、現在福島には原発や除染作業など被曝の伴う仕事しかなく、仕事場が見つかったと思ったら原発だった、というのが現実だ。若い層は「自分たちがやらなければ誰がやるのか」と、あたかも特攻隊であるかのように収拾作業に向かう。よく知られているように、原発労働者の大部分が、日雇い労働者を中心とする非正規労働者だが、これは国家が今まで見捨ててきた人々についての問題だという指摘もあった。
「被曝労働を考えるネットワーク」は今年4月現在28の団体および個人が加わっており、このうち労働組合もかなりの数になる。彼らは「被曝労働自己防衛マニュアル」を労働者に配布し、記録映画「原発は今」を製作・上映している。
被曝労働の問題を解決しなければなければならないと考える日本の労働組合や社会団体活動家は、すでに組織されている原発正規職労働組合が被曝に関しても団体交渉を行うよう要求し、被曝労働者の健康相談のためのネットワークを立ち上げることも提案している。
最近、危険レベルが下がったとの理由で賃金が激減していることに対し、原発労働者が不満をもっているといわれるが、こうした労働者を組織する作業は容易ではないだろう。天皇制反対運動に携わってきた活動家1人が、現在、福島現地の労働者として働いているが、周りの仕事仲間が頻繁に変わるため、組織するのは容易ではないという。
非正規職が集団的に闘ったことのない日本の労働運動の経験も、厳しい条件として作用するだろう。81年、日本の労働運動史上でたった一度だけ敦賀原発で下請け労組がつくられたが、使用者側の弾圧で破壊されて以降、原発下請け労働者が直接闘いに立ちあがったことはない。
反核運動が日本社会を揺るがしている中、最大の被害者である原発労働者と、福島で被曝に甘んじて働いている労働者が闘争の主体になる日が一日も早く来るよう期待する。■