車高調がゲットできてもできなくても、気分がローでもハイでも、どんな嫌な事があっても逆に楽しくても、一般道でのトレーニングは続けていた。
走りの天才なら努力しなくてもパーフェクトな走りができるかもしれないが、ノーマルサスだとしてもライバルよりもドライ路面を速く走らせることができないでいる現実があり、後で飛躍できると考え、努力するべきだと思っていた。
峠を走っている時間はたかが知れているので峠に行った時に100%で走るだけではなく、遥かに多い一般道を走る時に何を意識して走っているかがライバルに差を付ける重要な部分だと思って練習していた。
別に車好きで運転中「楽しいな」と思いながらただ走る人はそれでいいと思っている。人の好きだ。
金山をマスターするのに一番重要な能力は〝車幅感覚〟だと思う。
誰かに「金山を走っています」というと多くが「狭い所ですね」と返ってくるのだ。
だから人の感覚として金山の道は狭いのだと思う。
狭いということは広い道よりも車をぶつける危険が高まると思う。
そして、危険があると感じた場合、プレッシャーで体が委縮すると思う。
だから、根性で走るのではなくてぶつける可能性を遠のける感覚を磨くのだ。
根性で走っていいのはお金が潤沢にある人だけだと思う。
ということで車幅を掴むトレーニングは必須だ。
それ以外にしていたトレーニングの一つが、信号が青になったら発進するトレーニングだ。
当たり前に聞こえると思うが、詳しく説明すると赤信号で停車中先頭で停まっていると青になるが、その青になった瞬間を逃さないでブレーキペダルからできるだけ早く足を離してクラッチを繋いでアクセルを踏んで発進するという神経の反射のトレーニングだ。
それをしていると自然にブレーキを離す前からクラッチをほんの少し繋ぐ状態に持ってけるようになる。
ブレーキからアクセルを開けていく前段階として赤から青になったらできるだけ早くブレーキペダルから足を離すトレーニングをしておく。
これは予測で行うのではなくて100メートル走のようにピストルが鳴ってからダッシュするのと同じ感覚で行う。
もちろん、一般道なのでゼロヨンダッシュはしないであくまでも普通に発進するのだけれども、静止時から発進までのタイムをできるだけ短くするのだ。
これは先頭でなくてもブレーキだけなら後続でもできるし、前の車のブレーキランプが消えるのに合わせる練習もできる。
発進したら前の車と安全な距離を空けて一定の距離を保つ練習もある。
車を運転している人は色々な人がいるのでキチンと40キロを守る人もいれば安全運転を装いながら気分で急にスピードを高めたりするなどよめないので、そんな人たちの車のスピードにブレーキを踏まずにアクセルのみで一定距離を守りながら付いていくのだ。
これをやるとたまにこちらは煽ってないのに、その集中力に気づいてスピードを出して逃げようとする人もいたりする。
スピードを出している車に付いていくのは〝連なって暴走をしている〟とそれを見た人に映ると思うので付いていかない。
走り屋は一般道は危険な運転はしないのだ。紳士を意識するのだ。
または前の車の前にも車がいる場合、前の車と前の前の車との車間距離を、前の車と自分の車の間で再現する距離感の練習もしていた。
これは限界時に車をコントロールする為にはもしかしたら必要ないのかもしれないが、一般道を走る時に何も練習をしないのを避けるために練習してしまうのかもしれない。
このような練習は意外と面白い物だ。
雨の日は前の車のタイヤの跡が残るのでその右か左のタイヤを自分の車の右か左のタイヤで踏み続ける練習もしていた。
このタイヤ痕をタイヤで踏む練習は車線を踏む練習と同じでサイドミラーの確認で行う。
踏んだ感覚はないので集中して踏んだか踏まないかはいつもの白線を踏んで走っている感覚を頼りに判断していた。
僕はただ一般道を走っているんじゃないんだ、と誰かに知って欲しい気持ちを持っていた。