金山のまぼろし

全力で生きる!!

73 ピンクのシルエイティー

2021-04-09 00:28:00 | 幻の走り屋奮闘記エピソード1

 

 

岡ちゃんの180SXに貼ってあった白の『Warmth』ステッカーがカッコいいと思い、僕はせっかく作った赤いステッカーは剥がして白いステッカーを作り直した。

 
岡ちゃんの180SXもそうだけれど、僕のハチロクも白と黒色しかない。
 
やっぱり貼り直して少し遠くからステッカーを眺めてみるとハチロクに馴染んでいる。
 
 
土曜日の夜と言えば3人集合ということだが、今夜は嶋田君は来ていない。
 
ドライの日は岡ちゃんと2台で走るのは白けるので、出来れば走りたくはなかった。
 
岡ちゃんとの話の流れが「僕の180SXに乗る?」という流れになったので、同乗させてもらった。
 
 
 
金山の上りの列に加わり、僕たちの前はピンクの180SXだった。
 
爆音でしかも大きなダックテイルだ。
 
 
岡ちゃん 「派手な180SXだねー。」
 
その一言でピンと来た。
 
岡ちゃんをハチロクに乗せてドライブしている時、結構な確率で180SXが僕のハチロクの前を走る事があった。
 
そんな時は「この180SXふざけてたらアオっちゃっていいから」と必ずと言っていいほど、僕にアオりの許可を出していた。
 
 
いい加減な180SXが大嫌いなのかもしれない。
 
 
だから今‥岡ちゃんは‥ピンクだしダックテイルだし爆音だし、前の180SXが若干、気に入らないのかもしれない‥。
 
漢は我慢だ。岡ちゃん、やってくれるな‥。
 
 
 
列は走り出した。
 
 
ボォーォー!
 
 
岡ちゃん 「お手並み拝見っ!」
 
 
ピンクの180SXが勢いよく飛び出す。
第1右コーナー、ブレーキランプが点いた。
 
 
岡ちゃん 「来る!」
 
 
ピンクの180SXのリアテールがザッと外に流れる。
 
 
ギャー!っと前を走っている180SXが派手にテールを流したと思ったら、そのままハーフスピンして止まった。
 
 
あ、スピンした。
 
 
岡ちゃんの180SXはアクセルを抜いてエンジンブレーキが少しかかりフットブレーキに足を軽く乗せたような状態で、スピンした180SXにどんどん近いていく‥。
 
 
え‥、ブレーキ踏まないの?
 
 
声には出なかった。
 
 
岡ちゃんは何故かちゃんとブレーキを踏んでいない!
 
このままだとハーフスピンしたピンクの180SXにぶつかるような減速の仕方で、僕は硬直していた。
 
 
あ、ぶつかっちゃう!
 
 
あ‥
 
 
あ‥
 
あ‥!
 
 
ガン!!
 
 
あぁ!!!
 
バンパーにぶつかった!
 
 
減速しながらピンクの180SXにぶつかった!
 
 
え!?
 
 
岡ちゃん 「あ!しまった!180SXにぶつけた‥。」
 
 
坂本 「うわっ!」
 
 
「ちゃんとブレーキ踏まなかったでしょ?」とは聞けなかった。
なぜなら、前の車がスピンしたら後ろの車はブレーキを普通なら踏むからだ。
 
 
 
前のピンクの180SXの人が降りて「上の駐車場で話しましょう!」とこちらに向かって頂上を指差した。
 
 
岡ちゃん 「はい!わかりました!」
 
 
 
うわー、どうなっちゃうんだ‥。
 
ていうか、なんで岡ちゃんは止まらなかったんだ‥。
完全なハーフブレーキだった‥。
 
 
岡ちゃん 「やっちゃったー‥。」
 
 
坂本 「前の車、派手にドリフトするかと思ったらスピンしたよね。」
 
岡ちゃん 「うん。」
 
岡ちゃんは自責の念に囚われている‥。
 
 
坂本 「前の車がいきなりスピンしたら後ろは急に止まれないかもね。」
 
岡ちゃん 「僕は人の車に後ろからぶつけちゃったよ。」
 
 
・・・
 
 
しばらく無言で上っていった。
 
 
岡ちゃん 「前の車、180SXだと思ったらシルエイティーだったね。」
 
坂本 「あぁ、確かにコーナーで横から見るとフロントはS13だね。」
 
 
・・・
 
 
頂上でピンクのシルエイティーは停まった。
 
僕たちも近くに停めて180SXから降りた。
 
 
向こうも降りた。同乗者もいたようだ。
 
 
どうなるんだ‥。
 
 
被害者男性 「あのー‥、岡ちゃんじゃない、ですか?」
 
 
岡ちゃん 「え‥‥、なんで知ってるんですか?」
 
被害者男性 「俺だよ、高野だよ!サッカー部の!」
 
岡ちゃん 「あ!高野君?元気だった?」
 
高野 「元気だよ。でもさっき衝撃が‥。」
 
岡ちゃん 「‥ごめん。」
 
高野 「いいんだよ。走り屋ならよくあることだよ。」
 
岡ちゃん 「リアバンパーいっちゃってるかな?」
 
高野 「いや、大丈夫だよ。凹んでないし、少しのキズだからタッチペンで直るよ。お互い様ってことで!」
 
 
高野君(仮名)と岡ちゃんと僕は中学3年の時、同じクラスだったのでもう5〜6年ぶりになる。
 
暗がりの中、高野君の後ろの方に立っていたのは中学の時の1コ上のテニス部の先輩だった。
僕と岡ちゃんはテニス部でその先輩とはほとんど喋ったことがなかったが、妙に身長が高い先輩だったので覚えていた。
岡ちゃんはテニス部の先輩に気付いているのだろうか?
 
 
思い返せば、岡ちゃんはテニス部の優等生で僕は劣等生だった。
岡ちゃんと僕は顧問先生の「お前ら背が高い同士ダブルス組め」の一言で入部してから卒業までずーっとダブルスを組まされていた。
 
テニスの上手さをシングルでランキングすれば、トップクラスが岡ちゃんで最下クラスは僕だ。
 
僕はダブルスの時は頻繁にイージーなボールをネットに掛けたりラインオーバーさせていた。
それが3回以上続くと岡ちゃんの表情は必ず豹変し、いつもその場から逃げたくなった。
でも、どうすることもできなかったのだ。
どんなに集中してボールをラケットで正確に打ってもボールはあらぬ方向へ飛んでいった‥。
岡ちゃんが怒れば怒るほど、僕はボールを取り逃した‥。
 
そんな下手な僕が上手い岡ちゃんとダブルスを組んだ時の苦い思い出が蘇ってくる‥。
 
 
「ダブルスのペアを身長だけで選んだ先生が悪かったんだ!」と言いたくなる、が‥。
 
岡ちゃん、あの時は下手でごめん。
 
 
もっと言えば、やる気のある岡ちゃんとやる気なんてほぼない僕がペアを組んだ数奇な運命!
 
テニス部は母親に「卓球なんか暗いからテニスにしない。テニスをしとけば会社の人たちと話題が合うんだから。」と言われて母親の言うことを信じてテニス部を選んだが、そもそもそんなにテニスに興味は無かったし、やりたくない所に厳しい練習を強要されて、やる気なんて無かったんだ!
 
先生に「やる気あんのか!坂本!」と言われて「はい!」と当時言っていたが、やる気なんてなかったんだ!
 
 
 
‥‥! 入り込んでしまった!
 
今は峠だ!
 
 
 
岡ちゃん 「坂本君もいるんだよ。」
 
高野 「あぁ!坂本君だったんだ!」
 
坂本 「やぁ!久しぶりだね!」
 
高野 「まさか坂本君が走り屋をやっていたとは!」
 
坂本 「うん、まぁ。」
 
高野 「走り屋頑張ってるかい?」
 
坂本 「あぁ、まぁね。」
 
岡ちゃん 「坂本君はパンダトレノに乗ってるんだよ!」
 
高野 「へぇ、凄いじゃん。」
 
坂本 「うん、乗ってるよ。」
 
高野 「おぉ、さすがだねー‥。岡ちゃんの180SX、後期じゃん。」
 
岡ちゃん 「どもっ。新車です。」
 
高野 「凄いねー。俺のは中古のシルエイティーだよ。」
 
岡ちゃん 「高野君はドリフトしてんの?」
 
高野 「ピンクのシルエイティーでドリフト目指してるよ。」
 
岡ちゃん 「しかもダックテイルでしょ。」
 
高野 「ダックテイル、バリカッコいいよ。」
 
岡ちゃん 「マフラーも爆音だし、まさに走り屋だよね。」
 
高野 「一応、デフも車高調も入ってるんだよね。ドリフトは先輩に教えてもらってるんだよ。」
 
岡ちゃん 「いい環境だよね。高野君は中学の時はバイクとX JAPANの話しかしてなかったよね。ウチら走り屋の先輩いないから羨ましいなぁ。」
 
高野 「その内いい先輩できるよ。じゃ、そろそろ帰るから。バイバイ、岡ちゃん!また会おう!」
 
岡ちゃん 「今日はホント悪かったよ。さよならっす!」
 
 
高野君は岡ちゃんの方だけ向いて岡ちゃんにだけ「さよなら」をした。
 
僕が高野君の視界に入っているのか疑問だったけど高野君に手だけ振ってみた。
 
 
・・・
 
 
岡ちゃんの180SXのフロントバンパーを明るい所で確認したが凹んでいなかった。
 
 
僕たち2人は下の駐車場に戻っていた。
 
 
岡ちゃん 「僕‥走り屋‥辞めるよ。」
 
坂本 「‥‥わかったよ。」
 
 
引き止められなかった。