金山のまぼろし

全力で生きる!!

70 お昼休み(前編)

2021-04-02 23:40:00 | 幻の走り屋奮闘記エピソード1

 

 

会社の休憩時間は嫌いだ。

 
この鉄の扉会社の休憩は午前中の10時、正午のお昼休み、そして午後の3時休みだ。
 
無くていい。
 
でも、休憩がなければぶっ通しで8時間近く仕事をしなければならない。
 
でも、休憩は嫌だった。
 
 
午前10時と午後3時の休憩は工場内に一つだけあるストーブを囲んで皆んなで缶コーヒーを飲みながらくっちゃべっている。
 
僕は1人で自分の作業場の椅子に腰掛けて、物凄く疲れて皆と喋る気力がないフリをして過ごしていた。
 
 
学生生活が終わり、いよいよ社会に出て僕自身“大勢の中で人と喋ることができない”性格に気付いた。
 
だから、15分間ずーっとうつむいて「溶接は難しくて疲れるなぁ」という雰囲気を出していた。
 
 
本当は溶接は難しくなかった。
鉄板も重くても問題ない。
やる気になれば8時間ずっと仕事しっぱなしでも問題ない。
給料が少し安くても我慢できる。
 
でも、人と接したくなかった。
 
普通の人ならまだいいが、「自分と合わないな」と思った人との絡みは半端なく疲れた。
 
こんな小休憩の時は右隣の暗いおじさんがやっぱり1人で自分の所で休んでいるので、打ち解けられないでいる僕のささやかな慰めになった。
 
 
問題はお昼休みだった。
 
事務所の隣に小さなプレハブが立っていて、そこでほとんど皆んな食事をする。
 
12時になると工場からぞろぞろ作業員が出てきて長テーブルの左右にある背もたれの無い丸椅子に皆んな腰掛ける。
 
プレハブ内には長テーブルと丸椅子と給食弁当が積みあがっている給湯テーブルとテレビしかない。
 
 
テレビは『笑っていいとも!』がいつも点いている。
 
笑っていいとも!を自宅で見る時は笑いながら見たりするが、ここでは笑えない。
 
 
僕はいつもタモリを真顔で見ていた。
 
 
ほとんど皆んな給食弁当を頼んでいる。
愛妻弁当の人もいるが少ない。
 
給食弁当が給湯テーブルの上に積まれているので、皆んなそれぞれ1つずつ取っていく。
 
 
僕の座る席はカジキさんの隣だ。
 
テレビが前方にあって、右側が壁、壁にピッタリ長テーブルがセットされていて、壁際にカジキさん。
そして僕、僕の左にはカジキさんと同い年のお調子者坊主の先輩が座る。
いつもカジキさんはお調子者の先輩を小ばかにしていた。
 
 
僕たちは普通に食べようとすると左右の先輩の肘と僕の肘が当たる。
だから脇を閉めてご飯を食べる。
 
 
武道の稽古か!
 
 
普通、ご飯を食べる時、脇を意識して締めながら食べるだろうか?
 
 
脇を締めながらご飯を食べるのは物凄く苦痛なことだとこの会社に入って人生で初めて気が付いた。
 
 
恐らく‥この長テーブルは2人用だと思う。
 
そこに3人座ろうとするから狭いのだ。
 
 
だから、だろうか?
 
僕が入社してからずーっとカジキさんの隣で食べているが、カジキさんは最初の座った時点から左肘をこちらに開き気味で座っている。
そして、僕が給食弁当をテーブルに置いて椅子に座るとその肘を閉じるのだ。
 
そうすると、僕は必然的に左のお調子者の先輩寄りに座って、カジキさんはゆとりの昼食となるのだ。