電車内でぐずる子どもとその対応について困った人、困らされた人、それぞれいることでしょう。しかし小さな子どもを電車に乗せることには、教育的効果もあるそうです。そうしたとき、親はどうすれば良いのでしょうか。教育学博士の弘田陽介先生に話を聞きました。

なぜ子どもは電車でぐずるのか

 電車に乗ったら子どもがぐずってしまい、困った経験のある人は少なくないでしょう。またそうなること、そうなったときの周囲の目が気になって、電車利用が不安な人もいると思われます。

 しかし、そうなるのが「面倒だから」「大変だから」と、それを避けることも決して良くはないようです。親はどのように子どもと電車、社会と付き合っていけばよいのでしょうか。教育学博士で、大阪総合保育大学大学院の児童保育研究科専任講師、弘田陽介先生に話を聞きました。

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 小さいお子さんがおられる方のなかには、電車での移動を苦痛に思われる方も多いと思います。ベビーカーを使われている方は混んでいる車内に入っていくのにも遠慮がいりますし、エレベーターの場所を探すのにも一苦労です。また、子どもは車内でじっとはしてくれません。特に2歳ぐらいの「いやいや期」と呼ばれる時期のお子さんは、ぐずり出すと、どんな風に声をかけても電車のなかで大声で泣いたりするものです。

 子どもが泣いている原因は、見知らぬ車内環境への不安や、もしくは朝起きてからの生活での不満などにあります。ということは原因追求をして、それを解決するという大人の思考モデルではどうにも対処できるものではありません。

 また子どもへの対応だけではなく、周囲の方々の目も気になりますね。親としての力量を周囲から問われているようですし、また言っても聞かない年齢の子どもに声を荒らげて、静かにするように伝えても仕方がないですしね。

 最近(2015年2月)、ダウンタウンの松本人志さんが「新幹線で子供がうるさい。。。子供に罪はなし。親のおろおろ感なしに罪あり。。。」とツィートし、ウェブ上で話題と議論を呼んだことを覚えている方も多いでしょう。

 ここで言及されているのが、もし小学校3年生くらいの普通のお子さんで、周囲の状況に構わず騒いでいたのでしたら、親の責任だと考えられるでしょう。しかし、2〜3歳のお子さんが親の再三再四の声掛けや対処の後でもまだうるさく、保護者も疲れ果てていた状況でしたら、致し方ないと思うのが大人ですよね。

 いずれにしても、様々な状況がありますが、お母さん・お父さんが悩まれているのは、いざ電車のなかで子供がぐずり出したらどうすればいいのかということです。以下、年齢別に可能な限りの対処をお伝えしたいと思います。

さりげなく周囲に降車駅を伝達

 0〜2歳のお子さんには、「静かに」とか「ここは電車なのよ」という注意は逆効果です。注意しても、その言葉の意味を理解して静かにしてくれることはまずありません。したがって、別の方法を「あの手この手」と使っていかねばなりません。

 まずは本当に小さいお子さんでしたらベビーカーから出して、抱っこでなだめる。通常、家庭で行っているような形であやしてあげてください。これで泣き止まなければ「お腹が空いた」「おしめを換えてほしい」などが考えられますが、約束の時間も迫っていたりすると一旦下車して子どもの要求を叶えてあげるというのも難しいですね。

 しかし、車中のほかの方々も、抱っこして、懸命になだめている保護者の姿を見ると、子どもがうるさいなんて言えませんよ。また、保護者の方も「▲▲▲駅で降りるからね、もうちょっと待ってね」と子どもに話しかけながら、周囲の方にも降着駅をさりげなく告げて、安心感を与えるとよいと思います。

 2〜3歳になってくると、ある程度、子どもも親の言葉を理解するようになってきます。泣いている場合の不満もある程度、親も理解できます。ただその不満に対して、保護者が「なんでそんなことで泣くのよ」とか突き放しても逆効果です。

 したがって、不満から上手に目を逸らす作戦を取らなければなりません。「電車着いてから、デパート行こうか」とか「今日は、お友達の■■ちゃんに会えるねぇ」など、ともかく楽しいことを連想させるような言葉がけが必要です。ぐずぐずしていても、話しているうちに子どもは少しずつ不満を忘れていきます。

 また、こういう時には少し甘やかして、「飴」をなめさせるのも1つの手です。もちろん、これは車中でお菓子をあげるのではなく、降りてから「●●●食べようか」「欲しかったあの○○○は東京駅のなかに売ってるかな」など楽しいことに子どもを誘導していきましょう。

 もちろん過度な甘やかしは禁物ですが、一度電車に乗ってお出かけして何か買ってもらったりした楽しい経験をしていると、その後もその連想が働いて、電車移動も好きになってくれるかもしれません。

周りにいる「子どもと関わりたい人」

 4〜6歳くらいでは、幼稚園や保育所での集団生活もほとんどの子どもたちが経験しています。ですので、ある程度、理性的に社会的なルールを根気よく伝えていく必要があるでしょうね。「ここは電車のなかだから……」という形で、車内が公の場であることはきちんと教えなければなりません。大人でも車内での化粧や携帯通話がマナーに反するのは、公共の場で私的な営みに没頭することを咎めているからにほかなりません。

 例えば、この時期の子どもが大きな声で喋っているようでしたら、「声が大きいとほかの人がうるさく思うよ」「電車のなかはお家のなかとは違うのよ」ときちんとお話してください。ある程度理由もわかる年頃ですから、頭ごなしに注意するのではなく、よい教育機会だと思って、丁寧に伝えるとよいと思います。

 また車中の時間を利用して、子どもといろいろな話をしましょう。子どもも車内広告の写真や周囲の大人に興味をもっています。また、周囲の大人にも味方になってくれる方もおられます。特に年配の方々は、「子どもたちと関わりたい感」を前面に出している方がおられます。

 こういう機会を利用して、子どもに知らない大人との話し方を教えればよいのではないでしょうか。例えば、知らないおばあちゃんに「おいくつ?」と聞かれて、子どもが「4」と答えたとしましょう。この後、親が「4歳です」と丁寧語や最後まできちんと話す仕方を、子どもの言葉の後に親がリフレーズすることで、きちんとした教育をしていると思われ、周りの大人への印象もずいぶん変わります。

 いずれにしても、車内での経験はとても大切な社会経験です。小さいときから、公の場である電車での移動を経験させることは、子どもにも大人にも少し試練になるかもしれません。ですが、常に家庭の延長であるワンボックスカーで移動していると、年長さんの年齢になってから必要とされる社会性を身につけるきっかけとなる経験ができないことになります。

保護者にとっても大切な経験になる電車

 保護者の方には、子どものために右往左往して、あの手この手を使うことを好まない方もおられるかもしれません。しかし、子どもがある程度大きくなっても、なだめすかして、また叱って元気づける日々がまだまだ続きます。もちろん子どもに媚びるのと、上手なコミュニケーションは違います。子どもの連想を上手に沸き起こし、より楽しい時間を過ごせるようにする手練手管は必要なコミュニケーションの手段だと私は考えます。

 移動中騒がせないように、スマホやDSに子どもを預けてしまうのも、いかがなものかと思います。新幹線や飛行機など退屈になってしまう長距離移動は別ですが、電子機器に子育てを任せて、まったく会話がない親子というも味気ないものですし、その後のコミュニケーションを阻害してしまう要因になります。

 冒頭で、ダウンタウンの松本さんのツィートに絡めて、私も小学生の子どもが騒いでいたら親の責任と書きましたが、同氏のツイッター上のその後のやりとりでも見られるように、実際にはこのように単純ではありません。どうしても車中で落ち着いていられない発達上の問題を抱えるお子さんも増えてきています。このような事例では、保護者の方を責めるわけにはいきません。

 このように、今日の子どもの世界も、大人の世界同様に複雑化し、一方的に誰かを断罪することでは済まない状況になってきています。そこで求められるのは、大人の寛容さと保護者の知恵でしょう。もちろん昔のように見知らぬ人々と車中で会話し、社交する必要はありません。

 しかし、車中の方とも「袖触れ合うも多(他)生の縁」です。子どもを連れて電車に乗ることがお互いにとっての威嚇行為になるような社会から、お互いをよい意味で配慮しあうような社会へと変わっていくことに異論を唱える方はいないでしょう。そんなことを思って、この稿を書きました。


驚くぐらい周囲とのコミュニケーションをとらない(とれない?)内向きな大人も多いですよね。

…って、まさか新潟だけ!?