親が育児休業中の保育園の0〜2歳児に対し、埼玉県所沢市が今年度から原則退園させる制度を導入したことに一部の保護者が反発、市を相手取り、退園の差し止めを求める訴訟を起こした。「少子化対策に逆行している」と保護者らを擁護する声がある一方、「保育園は家庭で育児ができない人が利用する施設」という声もあり波紋が広がっている。(村島有紀、中井なつみ)

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 ◆働く人のため

 「保育園は子供の生活の一部。突然、先生や友達に会えなくなるストレスも考えてほしい」。5月に次男を出産し、長男(2)が7月末に退園を迫られている原告の女性(37)は6月25日の提訴後の会見でこう訴えた。

 この問題が報道されて以降、所沢市には全国からさまざまな意見が寄せられている。市の担当者によると、「6対4の割合で市を支持する意見が多い」。「保育園は働く親のための施設」「育休中なら預ける必要はない」といった意見もあるという。

 所沢市は待機児童が集中する0〜2歳児の問題解消に向け、今年4月から「育休退園制度」を導入。出産し、親が育休に入った場合、保育園に通う0〜2歳児を翌々月末までに退園させる。空いた枠には待機児童が入る。退園し、復職する際には、優先的に同じ園に入れるようにし、定員を超えた場合は保育士を増員して対応するとしている。

 保育士養成を行う東京未来大こども心理学部の小谷博子准教授(育児工学)は「待機児童が多く、保育士が不足する中で、全員が権利を主張したら立ちゆかない。育休中に自宅で保育ができる人は譲り合いの精神で、働かなければならない人に譲ってほしい」と話す。

 しかし、母親にしてみれば、復園が百パーセント保証されない限りは不安だ。

 同市内の保育所に5歳と1歳を預ける女性(36)は「市は再入園できるというが、上のクラスにも待機児童がたくさんいる。受け皿を増やさなければ根本的な解決にはならない」と訴える。「国の少子化対策に逆行している。働く母親の気持ちが分からないのか…」。東京都内で3歳と1歳の子供を育てる団体職員(37)も憤る。

 ◆3歳児神話?

 今回の問題では、同市の藤本正人市長が、子供が3歳まで母親は育児に専念すべきだという「3歳児神話」を連想させる発言をしたことも、反発を招いた。

 原告団によると、藤本市長は5月17日、市民との対話の席で「子供は保育園より、お母さんと一緒にいたい」と発言。3人の子供を保育園に預けて働き、4人目を妊娠中の女性(36)は「働きながらも、わが子に愛情を注いでいる。市長の3歳児神話を押しつけないでほしい」

 小児科医でもあるお茶の水女子大、榊原洋一理事・副学長は「3歳児神話には科学的根拠がない。3歳まで親元にというなら、そもそも自治体が保育園を作ることが矛盾する」と指摘する。

 その一方、育休中だけでも自ら子供を見たいという人もいる。都内で4歳と1歳を保育園に通わせる女性会社員(37)は「再入園が確約されていたら、自宅でじっくりと2人の子供の成長を見守りたかった」

 ◆育児と保活…

 熊本市や堺市など所沢市以外にも「育休退園制度」を導入している自治体はある。

 堺市で0歳児を育てる育休中の女性(28)は「退園にならないよう、2人目は年齢差を空ける」と本音を漏らす。熊本市では年間250人が育休のため退園。ほぼ全員が保育園に戻っているが、きょうだい児が別々の保育園になることもあるという。同市内で6歳と4歳を育てる会社員女性(36)は「2人の世話と2人の保活(保育園探し)を同時にするのは大変」と振り返る。

 日本保育学会会長で東京大大学院の秋田喜代美教授は「待機児童問題がある中で所沢市の判断はやむを得なかった面がある。しかし、2人目を出産後の大変な時期に、1人目の子供の環境が変化することへのケアは必要だ。子供を産み育てやすい社会づくりに向けて自治体が考えるべき課題だ」と指摘している。


まずは待機児童問題が解決しないと、いつまで経っても…ねぇ。