TPPと報道

2011-02-10 11:39:58 | 日常
岩波書店の月刊誌「世界」1月号に掲載された「メディア批評」で、
ジャーナリストの神保太郎氏が
TPPに関するメディアの報道のあり方を
問う論評を発表していました。
神保氏は、大手メディアが160ページにも及ぶ(TPP)協定の中身には
ほどんどど触れないまま、
TPP推進の大合唱を行っていることについて、
「真実の報道、読者に対する誠実な対応というジャーナリズムの基本を
踏み躙る行為」と批判しています。
記事の内容を全部お伝えできないのが残念ですが、特に重要と思われる
部分のみ、抜粋させていただき
ます。

「世界」1月号に掲載された「メディア批評」から

奇妙な推進論 大手メディアの
TPP推進論に変わりダネがあった。一一
日に放映されたNHKテレビで解説委員が担当している時論公論
TPP どうする農業政策」である。
さまざまな論を展開しているが、要するに隣の韓国を見習えという主張だ。
日本でも、
TPPによって食糧にかけられている高率の関税(例えば、コメ
では
七七八%)がゼロになれば、外国の食糧が日本に流れ込み、コメ、小麦を
はじめ多くの国内産の食糧が壊滅的な打撃を受けるおそれがある。また、
国際的な旱魃や人口増によって、外国産の食料輸入が一時的であれ、急減する
ことも考えられる。
ところが、この解説委員は韓国を見習えば、
TPPが導入されても問題ない
と主張する。「韓国はパブリカなど競争力の強い農産物の栽培に力を入れ、
競争力の弱い小麦などはどんどん減らしています。
一九六〇年代には二〇万トン
近くあった小麦生産量はほぼゼロに、食料の自給率も急速に低下しています」
と強調している。「その分、韓国では不足する穀物や大豆などの栽培は海外に
求めてきました。ロシアやマダガスカルなどに土地を求め、国内で不足する
農産物を栽培し、輸入しようという戦略です」と説明している。
だが、二〇一〇月発表の米国農務省による「食糧報告」の韓国版を
要約すると、「近年、韓国政府は小麦の生産を大幅に増やす政策を立て、
二〇〇六年には五八一〇トンだった生産を二〇一七年には二〇万トンにする
計画である」とある。
また、この解説者は、
二〇〇九月に、軍のバックで誕生したマダガスカル
暫定政権のラジョリナ大統領が就任直後に,韓国の現代グループが同国の耕地の
半分を手にした
九九年の借地権を無効にしたことに触れていない。
米国の魂胆 情報が足りないといえば、TPPをめぐる米国の動きが日本の
大メディアでは十分に報道されていない。日本の新聞の読者やテレビの視聴者が
知る
一〇カ月ほど前から、オバマ政権はTPPを利用して日本を含む太平洋沿岸諸国
に大量の輸出をしようとして動き始めていた。
米国通商代表部のロン・カーク通商代表は
二〇〇九一二一四日に、TPP
めぐる交渉に参加すると、議会に通告した。これを受けて、オバマ大統領は
二〇一〇一二日に、「今後五年間に、米国の輸出を二倍にし、二〇〇万人の
雇用を創出する」と発表している。
米国が日本と並んで加盟を期待していた中国は、米国との通貨対立もあって、
TPPへの参加はいまのところ消極的だ。すると、米国の輸出の最大の狙いは日本に
なるだろう。また、
TPPは「公正な貿易」を強調している。米国は、日本の大企業が
輸出に際して手にする超額の消費税の還付金が不公正な慣行と批判してきた。日本が
TPPに参加すれば、還付金は中止を要求されるだろう。
日本経済団体連合会の米倉弘昌会長、日本商工会議所の岡村正会頭、経済同友会の
桜井正光代表幹事の三人は一一月一日に「
TPP交渉への早期参加を求める」という
共同声明を発表した。しかし、
TPPに参加すれば、米国が突きつけてくる各年の
「年次改革要望書」や「外国貿易障害報告書」などに盛り込まれた「不公正慣行」の
山をめぐり日本企業への対応はさらに厳しくなるに違いない。重大な問題なのに、
日本の政官財は、
TPP交渉を前に米国から不公正慣行などと指摘されてきた商慣行を
洗いざらい点検し、撤廃の準備をしておくべきだ、という報道を読んだ記憶がない。
日本の大メディアは、
TPP交渉にはプラス面もあれば、マイナス面もあることを
徹底的に取材して報道し、いまのように翼賛報道一辺倒を止めるべきだ。それが、
ジャーナリズムとして、各層の読者に対する最低限の義務ではないか。
(引用終り)

確かにそうですねぇ。メディアに求められているのはTPPの中身を徹底的かつ
冷静に報道することです。TPP関連の報道では「韓国に負ける」恐怖感からか、
落ち着きが感じられません。
なお、神保氏の「メディア批評」は、前半が
TPP、後半が「尖閣ビデオ流出」
問題を扱うという構成です。
「尖閣ビデオ」も興味深い内容なので、書店でバックナンバーをお求めください。

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