グー版・迷子の古事記

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鳴らない電話(6)

2013年12月28日 | 落書き帖
田舎へ戻って今年で10年になる。
東京での思い出全ては忘れようとした。
そして日々の生活の中で忘れていった。
忘れたつもりだった。

ついさっき部屋でゴロゴロしていると、高校の同級生から電話がかかってきた。
年末に同窓会をするのから連絡係になってくれ。
そんな内容だった。
僕は押入れの奥から昔使っていた携帯電話を出すと充電を始めた。
今は連絡を取ってない同級生の電話番号が携帯のメモリーに控えてあるからだ。

東京で使っていた携帯電話だ。
自然彼女の事も思い出されてくる。
そして意外な事に気がついた。
今使っている携帯電話の呼び出し音は明日香が好きだった曲なのだ。
スキータ・デイヴィスの「The End of the World」。
東京での事はすっかり忘れたつもりで居たのに…。
切ない気持ちが溢れそうになってくる。

リーン

懐かしい音だ。

リーン

東京で使っていた携帯電話が鳴っているのか?

リーン

いや、そんなはずはない。もう契約は切ってある。鳴る筈の無い電話だ。

リーン

疑いながらも古い携帯をつかみ液晶画面を確認した。

リーン

液晶には明日香の名前がある。

リーン

電話の向こうは彼女なのか?

リーン

通話ボタンの上に右手の親指を軽くかけると、押していい物かどうか迷った。
彼女からの電話である筈が無い。

リーン

いやもしかすると本当に彼女かもしれない。
声を聞きたい、でももしこのボタンを押してしまうと…
目の前に広がるかもしれない闇の様な物に恐怖した。

リーン

彼女の声を聞くなら早く押さなければ彼女ならば10回で電話を切るかもしれない。
彼女との決め事が背中を押そうする。

リー

10回目だ。
僕は親指に力を込めた。

つづく

(迷子の古事記 2013.12.1)