グー版・迷子の古事記

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石川や(2)

2013年12月16日 | 落書き帖
「あ、そうだ、今からでも大丈夫?」

秀雄はそう言うと返事も聞かず境内の端へ行き携帯電話をかけ始めた。
どうやら何か企んでいそうだ。

「もしもし光子、…………山賊…………10分………じゃあね。」

電話から戻ってくると、「じゃあ行こっか!」と言いながら神社の階段を降りて行く。

「えっ?」
「いいから行くよ!」

…今から大丈夫だとはまだ言ってないのに

秀雄は私の優柔不断な性格を思い出していたらしい。
仕方なしに私は後を追った。

赤いワゴンRの助手席に乗ると、車は峠へ向けて走り出した。
秀雄はニヤニヤしながら運転している。

…いったい何を企んでいるのだろうか?

10分ほど走り峠の頂上まで来ると山賊の駐車場へ入っていった。
駐車場の奥の方を見ると、いかにも怪しそうな人が独りで立っている。
ピンク色のジャージの上下、顔には大きな白いマスク、肩の下まで伸びた茶色いソバージュは元気に飛び跳ねている。
どうやら、あの人が電話の相手なのだろう。
予想通り車はその人の側に止まった。

「おまたせぇー。」
「もう何なのよ、秀子一人だと思ったからそのままで出てきちゃったじゃない。」
「ごめん、それにしてもアンタひどい格好ね、マスクなんかして怪しすぎるわよ。」
「うるさいわね、10分後だって言うからヒゲも剃らず出てきたんじゃない。」

確かにマスクの端からは黒いごまの様なものが覗いている。
もう秀雄の企みと言うのも分かってきた。
秀雄がオカマちゃんになってたんだ、もう一人くらいオカマちゃんになってたってもう驚きはしない。

「もしかして、助手席に座ってるのって石川君だよね、私誰だかわかる?」
「分かるよ、光男だろ?」
「何だ、わかったのかぁ、それから光男はやめて、せめて苗字で呼んでよ。」

彼?は武智光男。どうやら二人を呼ぶときは苗字で呼んだ方が良いようだ。
私も秀子・光子と二人を呼ぶのはかなり抵抗がある。

武智光男が後部座席に座り込むと、しばらく3人で高校時代の話に花が咲いた。
真柴秀雄と武智光男の二人は、高校時代には既にお互いの秘密を知っていたようだ。
知らなかったのは私だけと言うことになる。

「せっかく同級生3人集まったんだから、今からどっか行かない?」
「いいけど、真柴は夜仕事があるんだろ、今から寝ないでいいの?」
「光子と二人でやってる店だから何時でも好きな時に休めるのよ、それに火曜日は暇だしね。」

そう言う事なら二人に従うしかない。
同級生のために仕事も休み、何時もなら寝ている時間にも係わらず遊びに行こうと言っているのである。
私も久しぶりの同級生との再会を楽しむ事にした。

「光子、普段は昼間遊べないから今日は健康的な所に行こうよ。」
「じゃあさ、淡竹(はちく)堀りに行かない?銭形のマスターが裏山で勝手に掘ってもいいって言ってたし。」
「それいいわねぇ、掘ってすぐ食べよ、石川もそれでいい?」
「いいよー。」

車は走り出し、テープを入れ替えたばかりのカセットからはカルチャークラブが流れ出してきた。
曲はもちろんあの曲である。

♪カマ カマ カマ カマ カマ カメレオーン

つづく

(迷子の古事記 2013.11.18)