グー版・迷子の古事記

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ぼくのなつやすみ(1)

2013年12月11日 | 落書き帖
あれは小学校2年生の夏休みの出来事だった。
あの時の冒険は今でもありありと思い出されてくる。
しかし今考えてみてもあの時何が起こったのか僕には良く分からない。

夏休みが始まってすぐ、僕達3人は近くの定時制高校のグラウンドに集まって友達を待っていた。
12時に集合して4人でどこかに冒険に行こうと約束していたのだ。
行き先も4人が集まってから決めようという約束だった。
4人のうち3人は約束の12時には定時制高校のグラウンドに集まっていた。

先に来ていた3人と言うのは、サッちゃんとエイジ君と僕。
グラウンドの砂場で僕達3人は、まだ来ないマア君を待っていた。
みんな男の子だが、ちゃんづけしたり君づけしたりして呼んでいたのはそれぞれの母親がそのように呼んでいたからかもしれない。
ちなみに僕はヨッちゃんと呼ばれていた。

マア君を待ちながら僕達3人は、「早く来ないかな。」「まだかな。」とか言いながらひたすら待っていた。
グラウンドから家が一番近いはずのマア君はいつまで待っても来ない。
マア君の家はグラウンドから目と鼻の先なのだから、誰か気を利かせて呼びに言ってもいいようなものだが、そんな事だれも思いもつかなかったのかもしれない。
僕もマア君を呼びに行く事なんか考えも及ばなかった。
ただひたすら3人は律儀にマア君が来るのを待ちながら、木の棒で校庭に絵を描いたり、砂場で穴を掘ったり、石をけったり投げたりして時間を潰していた。
陽がガンガン照りつける暑い日だった。

もう待ちくたびれて3人とも木陰で絵を描いていた時ようやくマア君がやってきた。
陽はもう半分以上傾いていたから午後3時は過ぎていたと思う。
マア君が申し訳無さそうに校門から歩いてきた。
その手にはコメッコとカールをさげている。

「ごめん、お母さんが夏休みの宿題するまで遊びに言ってはダメだって言って外に出してくれなかった。」

僕達3人は多分マア君に待たされたことなど、これっぽっちも責める気など無かったと思う。
ただマア君の手に下げられていたコメッコとカールに目を奪われ、マア君が遅れたことなどもうすっかり忘れていた。

「仕方ないから、お母さんに見つからないようにしてやっと抜け出してきた。これ台所から持ってきた。」

僕達の目の前にコメッコとカールが差し出された。
僕達3人は思いもかけないおやつにありつけて幸せな気分になった。
4人の泥まみれの手がおやつの袋の中で混ざり合った。

「もう今日は冒険に行くの無理だね。」
「うん。明日にしようか。」
「明日どこに行く?」
「僕、クワガタが沢山取れるところ知ってるよ。先週お父さんに連れて行ってもらったんだ。」

サッちゃんが言ったクワガタにみんなが反応していた。
サッちゃんは先週お父さんとクワガタ取りに行って、場所だけでなく取り方のコツまで教えてもらったそうだ。
みんなの目はもう明日取れるであろうクワガタを想像してうっとりしている。
もちろん明日の冒険はクワガタ取りで決まりだった。

陽が暮れるまで明日取れるであろうクワガタの話で盛り上がった僕達は、帰り際に明日は朝からこのグラウンドに集まろうと約束して、それぞれの家に戻っていった。

つづく

(迷子の古事記 2013.11.13)