グー版・迷子の古事記

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石川や(3)

2013年12月17日 | 落書き帖
真柴秀雄・武智光男・私、3人を乗せた車は、淡竹(はちく)を求め山道を彷徨っていた。
もう何度目の「Karma Chameleon」を聞いた事だろう。
カルチャークラブのテープが一周し「♪カマ カマ カマ……」がかかる度に真柴と武智が楽しそうに歌いだし、私にも歌う事を強要する。
私は促される度に嫌々歌っている様な素振りをしていたが、悪い気はしていなかった。
久しぶりに田舎に戻ってきて、高校の同級生のこの二人とこうしているのも悪い物ではない。
二人ともオカマちゃんではあったが、高校の頃と変わらずいい奴だ。

それにしても、中々淡竹の生えると言う山へ着かない。
私はてっきり二人の中のどちらかでも、淡竹の生える銭形のマスターの裏山への道を知っている物だと思っていた。
ところがどうもそうではないらしい。

「光子、マスターの家、この辺りでしょ?」
「うんそうだと思うけど、秀子知らないの?」
「私が知るわけ無いじゃない、あなたが言いだしっぺだからてっきり知ってると思ってたわよ。」
「秀子はマスターと仲がいいじゃない、何で知らないのよ。」
「アンタの方こそ仲がいいんじゃないの?去年お呼ばれされてたじゃない。」
「別に仲がいいわけじゃないわよ、去年は秀子は忙しくて行けなかっただけじゃない。それにもう道なんて忘れたわよ。」

大方この山奥の集落辺りに銭形のマスターの家があるらしいが、二人とも詳しくは聞いてなく、相方が詳しく聞いている物だと思っていたようだ。
山道は一つ間違うとまるで違う所へ出てしまう。
山奥の集落は入り口が分からなければ、よそ者は到底近づけない。

私達は一度麓へもどり、もう一度集落への道を探す事にした。
銭形のマスターへ電話をかければ済む様に思えるかもしれないが、マスターも夜の仕事なのでこの時間は寝ているはずだった。

山を下り車の往来が多い道へようやく出た。
山奥の集落への道を探すため道路標識を見ながら車を走らせていると、車の後ろには段々と行列が出来ている。
一度行った事のある武智光男が、目を皿のようにしてキョロキョロ周りを見ていると、突然大声を出した。

「そこよ、その道。」

車がその道を行き過ぎそうになり、慌てて真柴秀雄が急ブレーキをかけた。

ドン!

トロトロ走っていため後ろの車もイライラし車間距離を詰めていたのだろう、急に止まった私達の車に追突してしまった。
竹の子を掘りに行ってカマを掘られてしまったのだ。
私は緊張した場を和ませるために気を利かせたつもりでついつい口走ってしまった。

「オカマちゃん達、掘りに行って掘られちゃったよ。ある意味本望かもしれないね。」

二人は私の顔をまじまじと見つめ一瞬間が空いた。
私は後悔していた。いつも気を利かせたつもりで言った一言で傷つけてしまう事が良くある。

…またつまらぬ事を言ってしまった

沈みかけていると、二人のにぎやかな声が聞こえてきた。

「やーだ。くやしぃー!」
「本当の事だから反論できないわ!」

言葉とは裏腹に二人の顔には笑みがこぼれている。
私は二人に励まされていた。

おしまい

(迷子の古事記 2013.11.19)