遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

古面45 蘭陵王面はガルーダ!?

2024年02月17日 | 古面

今回の品は、日本の舞楽で使われる蘭陵王面(レプリカ)です。

先回のブログで、インドネシアの霊鳥、ガルーダを取り上げました。そして、元々、インドのヒンドゥー経の聖鳥が長い年月の後、インドネシアに渡ってガルーダとなり、さらに仏教に取り入れられて守護神、迦楼羅と変化してきたことを述べました。

日本では、迦楼羅像の他に、古代に大陸から伝わった伎楽で使われる迦楼羅面が知られています。

迦楼羅面(東大寺、重要文化財)

これは後に烏天狗面へと変化していきました。

一方、伎楽の後、日本独自の舞踊として、舞楽が興りました。舞楽に用いられる仮面の中でも、飛びぬけて特異な物が蘭陵王面(羅陵王面、陵王面)です。

幅 20.2㎝x 長 34.5㎝ x 奥 15.2㎝。重 712g。木粉-樹脂製。現代。

蘭陵王は、よく演じられ、我々には馴染み深い舞楽です。

『仮面の美』(熱田神宮、平成16年)

名古屋の熱田神宮での大規模な展示会の図録です。熱田神宮も古面を多く所蔵しています。

蘭陵王面はどうして生まれたのでしょうか。一説によれば、この面は、たぐい稀な美男であった北斉の蘭陵王長恭が、兵士達を鼓舞するために醜い面をつけて戦いにのぞんだという故事に由来しているとのことです。

事の真偽はさておき、この面は日本の仮面の中でも、飛びぬけて奇怪です。

醜い顔にくわえて、

吊り顎がブラブラ動きます(本来は、眼も動く)。

今回の品はレプリカですが、経年の剥げなども表現されています。

いったいこの品は何でできているのでしょうか。木製にしては重いし、質感も冷たい。

片隅に傷をつけて(^^;  顕微拡大してみました。

表面の黒塗料の下に赤塗料、その下は白粉が塗られています。奥に見えているが本体。どうやら、木の粉を糊か樹脂で固めてあるようです。水で濡らしても軟化しませんから、樹脂ですね。触感はひんやり、木にしては重い、という手取り感覚がうなずけます。

面の裏側には、粗い布(麻?)が貼り付けてあります。どうやら、乾漆の面を模しているようです。確かに、古代の伎楽面には、木造の他に乾漆造の物があり、裏面は布で補強されています。しかし、少し後に興った舞楽で用いられる舞楽面は、ほとんどが木彫です。蘭陵王面も当然、木彫。やはり、レプリカの時代考証は、中途半端なのですね(^^;

さて、今回のブログの本題はこれからです。

奇怪な蘭陵王の頭の上には、さらに奇怪な生き物が乗っています。

上の図録の蘭陵王面にも、必ずこの生き物が。

どうやら、生き物がグッと頭をもたげている面(右頁)と這っている面(左頁)とに大別できるようです。

この生き物は龍とされています。龍が王権を象徴しているからです。

しかし、翼を広げた様子は、どうみても龍ではなく、鳥に見えます。霊鳥ガルーダと考える方が自然だと思うのですが・・・・・。

先回の本家、ガルーダと並べてみました。

頭の上の生き物だけでなく、眼が飛び出た顔自体もガルーダ的ですね。こりゃあまるで、ダブルガルーダ(^.^)

2体のガルーダが、

トイレの悪霊を退治してくれるので安心です(^.^)

 

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古面44 バリ島ガルーダ仮面(補遺版)

2024年02月16日 | 古面

ブログをアップした後、なにげなく図録を繰っていたら、天理大学の所蔵品のなかに、故玩館のガルーダと非常によく似た品を見つけました。末尾に追記として載せましたので御覧ください(2024/2/16)。


 

今回は、よく知られた品、ガルーダです。

幅 25.6㎝x 長 20.8㎝ x 奥 26.3㎝。重 672g。インドネシア。20世紀前半。

ガルーダは鳥の姿をしたヒンドゥー教の戦いの神で、神鳥、聖鳥とされています。長い年月を経て、インドから東南アジア、東アジアに広がっていきました。ガルーダは、人間の身体、鷲頭、嘴、鉤爪、大きな翼をもつています。不老不死で、毒のある蛇を退治してくれることから、無病息災、家内安全の神として大変人気があります。
なお、伎楽で使われた迦楼羅面は、仏教に取り入れられて変化したガルーダ面です。

原色で毒々しく彩色された金ぴかのガルーダが、我々が普通に目にする物です。歴史風土の違いを考慮しても、感覚的にはなかなかなじめない人が多いと思います。

今回の品は、古いガルーダ面です。色は退色し、塗りは剥げ、木部の風化がすすんでいます。かなりの年月を経ているので、ケバケバしい感じは全くありません。故玩館の日本の古面に混じっても、それほど違和感を感じません。

戦前に請来された品でしょうか。

手の込んだ彫りです。

長~い舌や入り組んだ牙は、くっ付けてあります。

 

少し小さいですが、被れないことはありません。

が、上部に二つ穴があいているので、壁などに掛けたのでしょう。

なぜか内部にも赤彩色が。

耳も付けてあります。

聖鳥の風格は十分ですね。

 

【追記】

故玩館には仮面関係の書籍・図録類が70冊以上あります。そのうちの一冊、『変貌の道具 仮面』(天理大学、昭和55年)に、今回のガルーダとよく似た面が載っていました。

すべて、天理大学所蔵の仮面です。

この頁は、インドネシア、バリ島の神事劇で用いられる仮面です。

その中の一つを拡大してみると、

ガルーダではありませんか。

しかも、今回の品と非常によく似ています。

赤、黒、白、金泥を用いた彩色も同じです。

図録の解説によると、「バロンとランダ」という神事劇で、悪の魔性、ランダに立ち向かうため、善の象徴、バロンが、いろいろな仮面をつけて踊る場面で使われます。ガルーダ、豚、牛、虎、獅子などです。霊鳥であるガルーダをつけたバロンの舞いは、悪の力と対決するにはうってつけなのでしょう。

故玩館のガルーダも、バリ島で実際に使われた物と思われます。一度、これを被って、悪に立ち向かいたいものです(^.^)

追追記:故玩館には100枚ほどの古面がありますが、素性のわかる品はほんの数枚です。今回のガルーダで一枚増えました(^.^)

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野生の眼覚め!正月菜

2024年02月14日 | ものぐさ有機農業

冬野菜も終盤の畑です。

ほとんど終わりの畝。

正月菜です。

小松菜の系統で、柔らかく、味にクセがない。

中部地方では、正月の雑煮になくてはならない青菜です。

餅がかくれるほど、ドバっと入れます。

10月の始めに種を蒔いて、順調に育ちました(極めて育てやすいので当たり前(^^;)。

もう収穫時期は終わっています。

冬場の青物ということで、例年、正月後にも採れるようにと、10月末にも播種します。ところが、昨年末はうっかりしていて1か月後の11月末にあわてて播きました。もう、播種の適期を過ぎていました。

その結果がこれです。

2か月半たったにもかかわらず、この状態。

これでは食べられません。

おまけに、葉が黄色くなって、今にも枯れそう。冬野菜とはいえ、寒の内に成長するのは無理なようです。

11月末の播種のとき、3年前に自家採取した正月菜の古い種がいっぱい残っていることに気づき、処分も兼ねて、その辺りに適当にバラマキました(^^;

その結果が下の写真です。

タマネギの畝とヌートリア避けの金網との間の猫のヒタイよりも狭い場所です。

驚くことに、同じときに播いたにもかかわらず、こちらの正月菜は、すくすくと育っています。

タマネギ畝の穴に入り込んだ種からは、こんな立派な菜が。

これはもう、正月菜が野生に目覚めたとしか考えられませんね。

期せずして、不耕起無肥料無農薬の自然農法(^.^)

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古面43 アフリカ・パスポート仮面

2024年02月10日 | 古面

今回は、小さなアフリカ面です。

 

 

 

幅 13.3㎝x 長 15.8㎝ x 高 7.4㎝。重 94g。アフリカ。国、部族不明。20世紀前半。

小形で軽い木彫面です。繊細な彫りが施されています。

かなり時代を経ています。

これは、パスポートマスクと呼ばれる面です。

パスポートマスクは、移動する際、腰などに着けて携帯し、所属集団を表す小型の仮面です(同じ部族でもいくつかの集団に分かれていることもある)。自分の出身を示す身分証明書であり、お守りの役目もします。

先回の不明族仮面と較べると、大きさの違いがよくわかります。重さは、十分の一以下です。

以前に紹介したプヌ族の仮面(左側)も、パスポートマスクでしょう。

アフリカからはるばる日本の片田舎の私設博物館にやってきて、感慨深げ!?(^^;

 

 

 

 

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古面42 アフリカ不明族仮面

2024年02月08日 | 古面

今回の品は、アフリカ仮面と思われますが、部族などは不明です。

 

幅 24.6㎝x 長 32.3㎝ x 高 12.0㎝。重 1045g。アフリカ。国、部族不明。20世紀。

堅い木に、しっかりとした彫りが施された大型の仮面です。

部族や国名は不明ですが、作行きからして、アフリカの面だと思います。

ゴリラをモデルにしているのでしょうか。

見る角度によって、表情が変わります。

裏面の彫りも、手抜きがありません。

アフリカらしい、大胆な彫りです。

大きな耳は、伎楽面のよう。

 

存在感にあふれていますね。

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