「何すんだよ!」
ベッドの上の彼女を睨むと、起き上がった彼女は、先ほどと同じ表情で、体と唇をガタガタ震わせていた。目は見開いたままで、顔は真っ青だった。
こいつ、一体どこ見てんだ?
おれの声と視線に、僅(わず)かにビクッとした彼女は、シーツをぎゅっと掴んで、体を支えるようにした。体はさらに大きく震え、唇をさらにわななかせる。立ち上がろうとは、しない。
「おい、どうしたんだよ…」
呆気にとられて、恐る恐る、彼女に手をのばした。
「やーーーーーーーーっ!!」
おれの手を払いのけて、激しく拒絶する。
「や……や……」
その目からは、とうとう涙が溢れだした。
「だいじょ…」
震える彼女の肩を掴むと、彼女の体がビクンとはねた。その体は、びっくりするほど冷たかった。
「や…いやぁぁーーーーー!!」
彼女の悲鳴が空気を切り裂く。頭を激しく左右に振り、おれの手をなぎ払う。そしてそのまま気を失い、ベッドにバタッと倒れ込んだ。
部屋の中は、一瞬にして静まりかえった。
おれは呆然として、動けずに、ベッドの上の彼女を見ていた。
しばらくして、ふと彼女の左腕に目がいった。巻いてある青いバンダナが少しズレて、ほどけかかっている。
近づいて、そっとはずしてみた。
「な…んだよ、コレ…」
ぎょっとして、思わず息を呑んだ。
バンダナの下の腕には、ケロイドのような、赤黒い、無数の傷痕(きずあと)があった。
目を動かすことができなくて、じっと見つめていると、なんだか気分が悪くなってきた。と同時に、彼女に突き飛ばされた時の痛みが、今頃背中に広がった。
「なんなんだよ、コイツ…」
背中をさすりながら、ようやく彼女の腕から、顔に目を逸らして、吐き捨てた。
彼女は、死んだように眠っていた。
「……………」
寝顔、けっこーカワイーけど。
って、ヘンタイじゃん、コレじゃ。
苦笑しながら、彼女を枕の所に移動させ、布団をかけてやった。
それから、だいぶ時間が経(た)った。
ベッドにもたれかかって座っていると、だんだん眠くなってきた。
欠伸(あくび)をしかけた時、
「ん…」
と、後ろで小さな声がした。振り向いて見ると、彼女が布団の中で、もぞもぞ動いている。どうやら目が覚めたようだ。
「気がついた?」
「あれ、なんで…」
ゆっくり起き上がった彼女は、ぼーっとした顔で、おれを見た。
「お前、今まで寝てたんだよ」
苦笑して言った。
「ふーん…」
ふーんて。おい。あ、やべー、おれ、バンダナかわいく結びすぎ。無理矢理ちょうちょ結びなんて、何。最初あんなじゃなかったよなー。後で絶対気づくぞ、あれ。
そんなことをぼんやり考えていると、せいあが髪を掻き上げながら言った。
「あたし、先にイッちゃったみたいね。んー、じゃ、1万でいいわ」
おれに向かって、掌(てのひら)を差し出す。
いや、イッちゃったも何も、そっちが勝手に叫んで暴れて気絶したんですけど。
憶(おぼ)えてないのか?こいつ。…つーか、
「何、1万て!」
思わず叫んでいた。すると彼女は、
「今夜のお金。仕事中の娼婦に声かけといて、遊びもくそもないんじゃないの」
睨まれた。
「マジかよ…」
そうかも。そうだ。…そうなの?…。あー。眠い。
そういう間にも、彼女は、ん、と言うように、掌を更に前に出してくる。
「ハイハイ」
反論の言葉を考えるのも面倒臭くなって、厄介払いをするような気持ちで、サイフから出した一万円札を、彼女の掌の上に、ぽんと置いた。
あーあ、おれの当面の生活費…。
「どーも」
彼女は受けとった金に頬を寄せ、ニッと笑った。出会ってから、一番かわいく笑ったかもしれない。
「じゃあね」
そう言うと、彼女はベッドを降りて、さっさとバスを出ていった。
おれは彼女がいなくなるのと同時に、こてん、と床に転がった。
眠りこむ間際に思った。
うーん、なるほど。
悪魔だ、あいつ。
* * *
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ベッドの上の彼女を睨むと、起き上がった彼女は、先ほどと同じ表情で、体と唇をガタガタ震わせていた。目は見開いたままで、顔は真っ青だった。
こいつ、一体どこ見てんだ?
おれの声と視線に、僅(わず)かにビクッとした彼女は、シーツをぎゅっと掴んで、体を支えるようにした。体はさらに大きく震え、唇をさらにわななかせる。立ち上がろうとは、しない。
「おい、どうしたんだよ…」
呆気にとられて、恐る恐る、彼女に手をのばした。
「やーーーーーーーーっ!!」
おれの手を払いのけて、激しく拒絶する。
「や……や……」
その目からは、とうとう涙が溢れだした。
「だいじょ…」
震える彼女の肩を掴むと、彼女の体がビクンとはねた。その体は、びっくりするほど冷たかった。
「や…いやぁぁーーーーー!!」
彼女の悲鳴が空気を切り裂く。頭を激しく左右に振り、おれの手をなぎ払う。そしてそのまま気を失い、ベッドにバタッと倒れ込んだ。
部屋の中は、一瞬にして静まりかえった。
おれは呆然として、動けずに、ベッドの上の彼女を見ていた。
しばらくして、ふと彼女の左腕に目がいった。巻いてある青いバンダナが少しズレて、ほどけかかっている。
近づいて、そっとはずしてみた。
「な…んだよ、コレ…」
ぎょっとして、思わず息を呑んだ。
バンダナの下の腕には、ケロイドのような、赤黒い、無数の傷痕(きずあと)があった。
目を動かすことができなくて、じっと見つめていると、なんだか気分が悪くなってきた。と同時に、彼女に突き飛ばされた時の痛みが、今頃背中に広がった。
「なんなんだよ、コイツ…」
背中をさすりながら、ようやく彼女の腕から、顔に目を逸らして、吐き捨てた。
彼女は、死んだように眠っていた。
「……………」
寝顔、けっこーカワイーけど。
って、ヘンタイじゃん、コレじゃ。
苦笑しながら、彼女を枕の所に移動させ、布団をかけてやった。
それから、だいぶ時間が経(た)った。
ベッドにもたれかかって座っていると、だんだん眠くなってきた。
欠伸(あくび)をしかけた時、
「ん…」
と、後ろで小さな声がした。振り向いて見ると、彼女が布団の中で、もぞもぞ動いている。どうやら目が覚めたようだ。
「気がついた?」
「あれ、なんで…」
ゆっくり起き上がった彼女は、ぼーっとした顔で、おれを見た。
「お前、今まで寝てたんだよ」
苦笑して言った。
「ふーん…」
ふーんて。おい。あ、やべー、おれ、バンダナかわいく結びすぎ。無理矢理ちょうちょ結びなんて、何。最初あんなじゃなかったよなー。後で絶対気づくぞ、あれ。
そんなことをぼんやり考えていると、せいあが髪を掻き上げながら言った。
「あたし、先にイッちゃったみたいね。んー、じゃ、1万でいいわ」
おれに向かって、掌(てのひら)を差し出す。
いや、イッちゃったも何も、そっちが勝手に叫んで暴れて気絶したんですけど。
憶(おぼ)えてないのか?こいつ。…つーか、
「何、1万て!」
思わず叫んでいた。すると彼女は、
「今夜のお金。仕事中の娼婦に声かけといて、遊びもくそもないんじゃないの」
睨まれた。
「マジかよ…」
そうかも。そうだ。…そうなの?…。あー。眠い。
そういう間にも、彼女は、ん、と言うように、掌を更に前に出してくる。
「ハイハイ」
反論の言葉を考えるのも面倒臭くなって、厄介払いをするような気持ちで、サイフから出した一万円札を、彼女の掌の上に、ぽんと置いた。
あーあ、おれの当面の生活費…。
「どーも」
彼女は受けとった金に頬を寄せ、ニッと笑った。出会ってから、一番かわいく笑ったかもしれない。
「じゃあね」
そう言うと、彼女はベッドを降りて、さっさとバスを出ていった。
おれは彼女がいなくなるのと同時に、こてん、と床に転がった。
眠りこむ間際に思った。
うーん、なるほど。
悪魔だ、あいつ。
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何をみたのでしょうか。。
あの変貌振りが気になります。