幸福の黄色いハンカチのカツ丼

「ビール下さい」。大衆食堂に入ってきた男はこう言って座った。
そして席に座って真剣にメニューを見まわし、「あのー、醤油ラーメンとカツ丼下さい！」。と食堂のおばちゃんに頼むのだった。




映画「幸福の黄色いハンカチ」の主演高倉健さんの一場面だ。まんが飯ではなく、「映画飯」ですね。


この演技はすごくリアリティがある。刑務所から出所して初めてのメシ。


メニューを目で追って、迷うが、おばちゃんが注文を取りに来たので、ホントはまだ迷っていたのに、「醤油ラーメン」と「カツ丼」をチョイスするのである。

メニュー選びに真剣すぎて、顔はうっすら汗ばんでいる。


この辺は店の人に迷惑かけまいとする姿勢・「ごちゃごちゃメニュー選びなどしない」という九州男児のスパッとした性格、
でも、メニューには迷っているので「あのー」と言いながらメニューを見まわす。
そして久々のシャバのメシでとりあえず何か食べたいと思う焦り、刑務所での厳しい生活などが、このワンシーンで感じ取ることができる。

リアリティを感じるとともに、高倉健演じる主人公がどういった男なのか、その後のドラマ展開の布石になっているのである。
このシーンを山田洋次監督が演技指導したのか、高倉健さんが考えたのか詳しいことは知らないのだけれど、

リアリティを出すために高倉健さんは実際に2日間何も食べずに撮影に臨んだのだそうだ。


かくいう私も正月二日から32時間連続勤務という拘束時間を終え、やっと自由になったので、食堂で「カツ丼」を注文するのであった。


健さんは食堂のおばちゃんに対しても真摯に接するので、「とりあえずビール！」なんて頼み方はしないのだ。かくありたいねえ。