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恩田陸『ライオンハート』あらすじと感想

2020-04-28 15:50:56 | 紙の書籍
新潮文庫 恩田陸『ライオンハート』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
エアハート嬢の到着
イヴァンチッツェの思い出
天球のハーモニー
記憶
あとがき
解説 梶尾真治


【あらすじ】
17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、フロリダ。時を越え、男と女は何度も出会う。
結ばれることはない関係だけど、深く愛し合ってー。神のおぼしめしなのか、気紛れなのか。切なくも心暖まる、異色のラブストーリー。


【感想】
『夜のピクニック』に続いて恩田陸の作品を読了。これでようやく二作品目。
北村薫『スキップ』、梶尾真治『クロノス・ジョウンターの伝説』、『時をかける少女』などのようなタイムリープもの。SFファンタジー小説のカテゴリーに入ると思う。
時代と国があちらこちらに飛ぶので、年表と世界地図が欲しいところだが、そんなものを片手に読んでいたら、この作品の感じが台無しになりそうなので、そのままで世界観を楽しんだ。多少、頭の中ではこんがらがっているのだが、大筋には問題ないと思うので。

金髪の美しい女性「エリザベス」と黒髪の凛々しい男性「エドワード」が出会ってはすれ違う。出会うたびに子供だったり、若者だったり、老人だったりする。
目次にある各章は(『エアハート嬢の到着』、『春』、『イヴァンチッツェの思い出』、『天球のハーモニー』、『記憶』)にそれぞれ名画の作品名。絵も載っている。

素敵な心にぐっとくる台詞、ロマンティックで胸がキュン♡とする台詞が多いのも特徴かもしれない。
裏表紙にあるエリザベスの台詞、「いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ……。」

『春』の章。
エリザベスの台詞、「なぜこうなるのかは分からない。でも、私の心はいつもあなたと一緒にいる。私の魂はいつもあなたを愛しているわ」。胸にくる切ない台詞だ。

『天球のハーモニー』の章。
イングランド女王エリザベス女王一世が登場する。映画『エリザベス』、海外ドラマ『チューダー』を思い出しながら読んでいた。
エリザベスの台詞、「私の魂だけは私のもの。誰にも束縛されず、誰にも干渉されない。私の魂には何の肩書きもない、先祖も、王位も、教会も、父も母も、男と女すらもその色を付けることはできない。私の魂だけは」。「どこまでも自由に飛んでいく。その存在のある限り永遠に。天の果てまで。時の果つる汀まで」。この台詞が、後に伏線を回収されるときに重要な意味をもつことになる。
「それがあなたの夢の始まりだったのですね」と男が静かに呟く。そう、これがすべての始まりだったのだ。
エリザベス女王の夢が具現化し、時代も国も文化も越えて駆け巡っていたのだ。簡単にいうと夢オチである。『莊子』の『胡蝶の夢』のようでもある。
エドワードの台詞、「考えていくうちに、僕は気が付いたー僕が彼女を訪れるのではなく、いつも訪れるのは彼女の方だ。彼女は僕に対して自由に接触してくることができるーつまり、夢を見ているのは僕の方ではなく彼女の方なのだと」。これは押井守の『ビューティフル・ドリーマー』と同じ設定だ。このアニメ映画もラムの夢を無邪鬼が具現化した、「学園祭の前日」というどたばたを延々と繰り返す。

エドワードの台詞、「エリザベス、よく考えるんだ。なぜあなたは私をエドワードと名付けたんです?」
幼い弟エドワード、ロンドン塔に消えたエドワード五世とその弟リチャード。父上に母上、キャサリン・パーにメアリ、処刑台に消え、病に倒れ、自分の存在価値を確認する暇もなく歴史のページに消えていった者たち。血まみれの駒となり、捨てられていった者たちが。
エリザベスの台詞、「そう。私は彼等の全てを解放したかったー彼等の魂の無垢なる部分を」。これがことの起こりの発端であり真相。

「魂は」「全てを凌駕する」「時は内側にある」エリザベスとエドワードの二人の声が重なり合い、言葉もなく見つめ合う。
別れの言葉は切なく、「ー覚えていて、エドワード」と。

その後にまた一人きりになったエリザベスの前に現れたのは、一枚のドア。え?これは『ドラえもん』の「どこでもドア」じゃないか~。

『記憶』の章。
各章に散りばめられた伏線が絵画の消失点のように、一点を目指して集束する。
エレンは思う。人間の意識は泡のようだと。どこかに人類全体の巨大な意識の流れのようなものがあって、個人の意識はその流れの中に浮かぶちっぽけな泡に過ぎないのだ。今こうして存在している世界そのものが、その巨大な意識が見ている壮大な夢なのかもしれない…と。
エレンの台詞、「私たちはいつも出会う。時を超えて。その短いひとときのために自分の人生を生きてきたの」。これが全て。

そして、冒頭の『プロムナード』へと時は戻っていく。彼女の名前はエリザベス・ボウエン。
そして、彼女が取材を申し込んだのはネイサン教授。エドワード・ネイサン。
失踪した教授の部屋に残されていた古いレースの白いハンカチ。これを管理人が彼女に渡す。
ハンカチの隅には、「from E. to E. with love」とある。エリザベスからエドワードへの愛の証、時代と国を超えてその時々に現れた白いハンカチ。

読後感のよい素敵な作品だった。大人になるとファンタジー小説は厳しいものがあるのだが、この作品はそのへんのさじ加減が絶妙でよかった。

あとがきには、この小説を書くことにしたいきさつが書かれている。メロドラマが書きたかったのだそうだ。メロドラマといえばすれ違いだが、今では成立するのはSFしかなかったとのこと。
まぁ、そうかな~。

解説には梶尾真治。自身の生い立ちや心に刺さった大人の言葉などを引用して、この作品に感じた運命的なものを書いている。
恩田陸を「ソウル・シスター!」とまで呼んでいるし。


【余談】
今は活動休止中の演劇集団キャラメルボックスでは、このタイムリープものがお好きだとみえて、『スキップ』『クロノス・ジョウンターの伝説』などを上演していたっけ。私が観劇したのは『スキップ』だけだけど。
恩田陸作品はほかにも、『猫と針』をスピンオフ的な公演をおこなっていたと思う。残念ながら観劇はし損ねたけど。
もう、あのサンシャイン劇場で公演することはないのかな。。




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