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黒岩重吾『役小角仙道剣』あらすじと感想

2012-08-21 10:01:38 | 紙の書籍
新潮文庫 黒岩重吾『役小角仙道剣』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
修行者
ヤマメ
奇跡
尾行者
藤原京
失踪
女帝
対話
救出
陰謀
解説 細谷正充


【あらすじ】
七世紀後半の大和。修験者・役小角は、厳しい律令制度に虐げられる人々を救うために、異能を駆使して権力者に立ち向かう。鬼神の如き活躍を慕って多くの弟子たちが葛城山中に集結する。
遂に一大勢力の中心となった役小角を狙って、時の権力者・持統天皇や藤原不比等、物部氏率いる刺客の群れが迫り来る。


【感想】
この作品の主人公、役小角は修験道の開祖といわれ、数々の伝説が今も残っている人物。「続日本紀」や「日本霊異記」にも記述が見られ、おそらく(伝説の真偽はともかく)実在したと思われている。
律令政治が押し進められていた七世紀の後半頃、肝心の法は権力者のみに都合よく、民衆は搾取と貧困にあえいでいた。そんな中で権力者と時代に憤り、自分自身は下層階級の生まれではないのに、苦しむ民衆を助けようと立ち上がる。
多くの策略、悲劇、それでも彼は戦うことを決して、諦めない。この余りに強い意志とそれを支えているものは何なのだろう?役小角の根底に横たわる、暗い埋火のようなものが見えるような気がする。それはおそらく悲しみと怒り。
身分はあったが傲慢で乱暴な父。その父に、まるで虫けらのようにあしらわれていた母。彼らを見て、肌で感じて育ってきたことが大きいのだろうと…。

>小角には弱者を搾り取る権力者への憎悪が強い。母の血を受けているからではないか。それは虐げられてきた人間の憤りともいえよう。
この一文にすべての答えがあるように思えてならない。


【余談】
ご存知、「黒岩古代史シリーズ」のひとつ。このシリーズはとても好きなジャンル♪
黒岩重吾のゆるぎない世界観やしっかりとした構成、生き生きと描かれた人物像がよいのだ。無骨で硬い印象は否めないが。