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恩田陸『蒲公英草紙 常野物語』あらすじと感想

2021-02-25 12:15:39 | 紙の書籍
集英社文庫 恩田陸『蒲公英草紙 常野物語』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。




【目次】
一、窓辺の記憶
二、お屋敷の人々
三、赤い凧
四、蔵の中から
五、『天聴会』の夜
六、夏の約束
七、運命
解説 新井素子


【あらすじ】
青い田園が広がる東北の農村の旧家槙村家にあるあの一族が訪れた。他人の記憶や感情をそのまま受け入れるちから、未来を予知するちから…、不思議な能力を持つという常野一族。
槙村家の末娘聡子様とお話相手の峰子の周りには、平和で優しさにあふれた空気が満ちていたが、20世紀という新しい時代が、何かを少しずつ変えていく。今を懸命に生きる人々。懐かしい風景。切ない余韻を残していく長編。


【感想】
解説で新井素子が書いているように、凛として美しく優しい、理想の少女時代を描いている。かつての少女たち(少年たちも?)が一度は憧れた世界。聡子と峰子の日常が微笑ましく楽しげだ。
『常野物語』という作品の一部でもあり、“常野”と呼ばれる一種の超能力を持った一族、春田家の人々が登場してサイドストーリーを紡いでいく。彼らの能力は「しまう」=人を丸ごと受け入れること。
穏やかで美しい世界もやがて災害や戦争に巻き込まれ、次々に大切な人々を失ってゆく。人知の及ばない災害と人が起こす戦争と、一体どちらが残酷で人の心を蝕んでゆくのだろう…。
最期の終わり方がなんとも胸に迫る。老いた峰子が終戦を迎え、絶望と悲しみの中で吐露する心情がたまらない。
「私は光比古さんに会いたくてたまりません。あの時、光比古さんが私にした問い掛けを、今度は彼にしたいのです。彼らが、そして私たちが、これからこの国を作っていくことができるのか、それだけの価値のある国なのかどうかを彼に尋ねてみたいのです。」

美しさと残酷さを合わせ持った、なんともいえない読後感が残る作品。


【余談】
恩田陸の『常野物語』シリーズはこれが初めて読んだ作品。できれば全部読んでみたいと思う。

超能力を持った人々という設定に、筒井康隆の『七瀬ふたたび』を思い出した。こちらは一族ではなかったと記憶しているが…。
彼らは予知はできる、というかしてしまうが、それを阻止することはできない。ただ、その未来が見えるだけ。とても残酷で辛い能力だ。
この設定は人の無力と理不尽について考えさせられる。
春田家の「しまう」能力は現実世界では、イタコとカウンセラーを融合させたようなものだろうか? 人は人として生きていくためには、そういった存在が必要なのだろうな…。
数少なくなったというイタコ、拝み屋、彼らはどこに行ってしまったのだろう? そして、彼らに頼っていた人々は今度はどこへ頼っていくのだろう?
そんなことをふと思った。





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