積ん読の部屋♪

本棚に積ん読な本を読了したらばの備忘録。

中野京子『怖い絵 3』内容と感想

2011-10-04 10:44:15 | 紙の書籍
朝日出版社 中野京子『怖い絵3』を読了しました。

内容と感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
作品1 ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』
作品2 レーピン『皇女ソフィア』
作品3 伝レーニ『ベアトリーチェ・チェンチ』
作品4 ヨルダーンス『豆の王様』
作品5 ルーベンス『メドゥーサの首』
作品6 シーレ『死と乙女』
作品7 伝ブリューゲル『イカロスの墜落』
作品8  ベラスケス『フェリペ・プロスペロ王子』
作品9 ミケランジェロ『聖家族』
作品10 ドラクロワ『怒れるメディア』
作品11 ゴヤ『マドリッド、一八〇八年五月三日』
作品12 レッドグレイヴ『かわいそうな先生』
作品13 レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』
作品14 フーケ『ムーランの聖母子』
作品15 ベックリン『ケンタウロスの闘い』
作品16 ホガース『ジン横丁』
作品17 ゲインズバラ『アンドリューズ夫妻』
作品18 アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』
作品19 アンソール『仮面にかこまれた自画像』
作品20 フュースリ『夢魔』
あとがき
参考文献


【内容】
西洋名画に秘められた恐るべき怨念・冷酷・非情を、歴史の裏の裏まで知り尽くした著者が、鮮やかな筆致で解き明かす、知的でスリリングな美術エッセイ。
 シリーズ完結編、渾身の謎解き。


【感想】
このシリーズ最後の表紙を飾るのは、フュースリ作『夢魔』。ベッドの上で若い女性がしどけなく、エロティックな肢体を横たえており、その腹部あたりに、醜怪な夢魔がぎろりとした目でこちらを睨んでいる。
怖いというより、気味が悪いといった感じかもしれない。

この本の中で一番怖く、恐ろしいと感じたのは、ホガース作『ジン横丁』。一見すると、ただ単に、堕落したイーストエンドの横丁で安酒のジンに溺れている人々が描かれているだけ。
しかし、この絵の背景にあるものがとてつもなく怖い。「囲い込み」政策により土地を失った農民や、他国から流れてきた人々などが、その日暮らしをするロンドンという都会の吹き溜まり。ここで、彼らは心身も魂も犠牲にして生きている。この安酒をあおることでしか、日々の憂さを晴らすことができないほどの貧困と絶望に喘いでいた。ジンが悪いのではない。この政策によって苦境を強いられる人々に対する無理解と無関心が、彼らに追い打ちをかけていく。
そして、彼らをもはや一人の人間として見なくなった傲慢で冷徹な心の持ち主が、「ジャック・ザ・リッパー」こと「切り裂きジャック」として、連続猟奇殺人事件を起こす。犯人は結局、捕まらなかった。
しかし、有力な容疑者の一覧表には、貧困とは無縁の弁護士、大学教員、医者、警官、ヴィクトリア女王の孫など、イーストエンドの外の人間だと思われる者たちがずらりと並んでいた。
背筋がうすら寒く、吐き気さえもよおすような、異常者の存在とその性的嗜好や思考に慄然とする。

一番怖いのはやはり人間なのかもしれない。


【リンク】

中野京子『怖い絵 2』内容と感想

2011-10-03 15:39:42 | 紙の書籍
朝日出版社 中野京子『怖い絵2』を読了しました。

内容と感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
まえがき
作品1 レンブラント『テュルプ博士の解剖学実習』
作品2 ピカソ『泣く女』
作品3 ルーベンス『パリスの審判』
作品4 エッシャー『相対性』
作品5 カレーニョ・デ・ミランダ『カルロス二世』
作品6 ベラスケス『ラス・メニーナス』
作品7 ハント『シャロットの乙女』
作品8 フォンテーヌブロー派の逸名画家『ガブリエル・デストレとその妹』
作品9 ベックリン『死の島』
作品10 ジェラール『レカミエ夫人の肖像』
作品11 ボッティチェリ『ホロフェルネスの遺体発見』
作品12 ブレイク『巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女』
作品13 カルパッチョ『聖ゲオルギウスと竜』
作品14 ミレー『晩鐘』
作品15 ドラローシュ『レディ・ジェーン・グレイの処刑』
作品16 ホガース『精神病院にて』
作品17 ブリューゲル『ベツレヘムの嬰児虐殺』
作品18 ヴェロッキオ『キリストの洗礼』
作品19 ビアズリー『サロメ』
作品20 ファン・エイク『アルノルフィニ夫妻の肖像』
参考文献


【内容】
歴史の裏を知り尽くした著者が、西洋名画に秘められた恐るべき怨念・冷酷・非情を解き明かす、知的でスリリングな美術エッセイの第二弾。


【感想】
前作よりも怖さが増しているように思った。わかりやすい怖さより、一見してどこが怖いのかよくわからないものの方が、実は本当に怖いのだろうな…。

表紙の装丁に使われている、ファン・エイク作「アルノルフィニ夫妻の肖像」が一番印象に残った作品だ。この絵を始めて観たのはまだ小学校の頃だった。実家にあった画集に載っていて、なんとも暗い陰気な絵だなぁ。。というのが、当時の印象だった記憶がある。
まだほんの子供だったし、この絵の時代背景や文化的なことなど知る由もなく、それでも、このアルノルフィニ氏の爬虫類のような冷たい眼差しだけは、はっきりと子供心にも覚えている。

絵というのが、こんなに怖いものだとは本書を読むまでは思いもしなかった。絵画を観る目が変わってしまった。気楽に鑑賞できなくなったというか。
いいのか悪いのか、果たしてどっちだろう?


【リンク】