積ん読の部屋♪

本棚に積ん読な本を読了したらばの備忘録。

河合隼雄 茂木健一郎『こころと脳の対話』内容と感想

2012-05-19 11:27:13 | 紙の書籍
潮出版社 河合隼雄 茂木健一郎『こころと脳の対話』を読了しました。

内容と感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。




【目次】
第一回 こころと脳の不思議
第二回 箱庭と夢と無意識
第三回 「魂」を救う対話


【内容】
心理療法の大家・河合隼雄と気鋭の脳科学者・茂木健一郎が、こころと脳の不思議さ、奥深さを語り合う対談集。『潮』に2006年2月号から8月号までに掲載された対談をまとめてある。
生きるのに「しんどさ」を感じている人の悩みに向き合うための、宝石のような言葉たちが散りばめられている。
 

【感想】
対談集なので難しい学術用語は出てこないので、とても平易で読みやすかった。
河合隼雄に対する茂木健一郎の敬意が感じられて、読んでいて気持ちがよかった。総じて対談集には、「俺が!俺が!」的な自分の考えばかりを主張して、相手に対する敬意(相手の考えに共感できるかは別として)がなかったり、受け答えになっているのか、いないのかわからないようなものもあるので。
少し意外だったのは、茂木健一郎がもっと、「脳」のことだけで押していくのかと思っていたのにそうではなかったこと。「脳」それだけではないという見解をお持ちのよう。

第三回 「魂」を救う対話 の最後、「分かった気になる」落とし穴 のくだりに納得というか、溜飲が下がったというか。

>茂木:テレビなんかによく出ている精神科医の人というのは、分析しますよね。この事件はこうだ、犯人像はこうだとでも河合先生の場合、おそらく「他者というものはわからないものだ」という前提でやられているわけですよね。
河合:だから、事件があって、新聞記者の人にコメントを求められても、全部断りますね。「わかりませんので」といって断ります。わからないものね、本当に。

河合隼雄は本当にすごい方なのだな…と。専門家の方々は分析したがり、話したがり、自分だけがわかったような気でいらっしゃることが多い。専門家でありながら、「わからない」ということをきっぱりと言う。とても謙虚で真摯な姿勢をおもちなのだと思う。
「わからない」ものは「わからない」。あたりまえのことのはずなのに、どんどん知識や研究や分析・解析偏重になって言ってる風潮に正直、疑問を感じる。もっと、このような専門家の方が増えていって欲しいものだ。


【余談】
惜しくも亡くなられてしまった河合隼雄氏に、謹んでご冥福をお祈りいたします。




大石学『大江戸まるわかり事典』内容と感想

2012-05-17 09:53:02 | 紙の書籍
時事通信社 大石学『大江戸まるわかり事典』を読了しました。

内容と感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。







【目次】
一 武士のすがた
ニ 町人・農民のすがた
三 江戸のくらし
四 江戸八百八町
五 江戸の娯楽
六 江戸の一日と四季
七 江戸の旅と流通・貿易
八 江戸の世相と思想
九 江戸の犯罪
十 江戸の大事件
十一 江戸の雑学


【内容】
江戸っ子の常識277。時代劇・落語がもっと面白くなる。 


【感想】
新たな江戸時代観をもとに、江戸のさまざまなことがらを、わかりやすく記したのだそう。確かにとてもわかりやすく読みやすかった。表紙の愉快な絵柄は、山東京伝『江戸生艶気蒲焼』の中の絵を模したものだとか。
自分が知らなかったり、または勘違いしていたことを(時代劇などの影響)改めて学び直した感じ。映像などの刷り込みって怖いな。


【余談】



この本の中に挟まっていた栞。「戸田書店」って、どこにあるんだろう?
実はこの本、私が購入したものではない。今は亡き父が購入したもの。
父は時代劇が大好きで、私が子供の頃の食事どきのテレビ番組は決まって時代劇だった。そんな父が病に冒され闘病生活となり、ベッドで過ごすときの無聊を慰めるために購入したらしい。ほかにももう一冊、山野草のポケット図鑑があり、こちらの方は携帯に便利だったのか、病院の待ち時間に読んでいたようだ。
父が亡くなり、母はまだ四十九日も経たないうちに、父のものを目につくものから片っ端から捨てていた。母はよほど遺品を見るのが嫌だったのだろうと思う。写真すら全部捨てていた。
この本とポケット図鑑も同じ憂き目に遭うところを、私が救出していただいてきた。この本は父の形見ということになる。
もっと父といろんな話がしたかったなぁ。。と、大人になった娘の私は今思う。

筒井ともみ『着る女』内容と感想

2012-05-16 10:35:47 | 紙の書籍
マガジンハウス 筒井ともみ『着る女』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
オシメの情景
三本のリボン
セーターと毛糸の匂い
母の裁縫箱とミシンの音
ハギレの愉しみ
パッチン止めと少女の時間
’60とミニスカート
銀座の洒落モン
16歳のスプリングコート
マイ・アクセサリー・クロニクル
青春グラフィティ
不思議な母のセンス
ふたつの大切なブーツ
亜麻色の髪の乙女
女優のいる風景
爪とマニキュア
遠い日の姫鏡台
ストッキングとガーターベルト
母と仔犬とアップリケ
ニューヨークに消えた皮ジャン
靴フェチと祝祭
男と女と靴下
憧れのトレンチコート
スカーフ嫌いのスカーフ物語
下着について語るべきこと
パーティとドレスコード
お直しという愛の儀式
ファッションの力


【内容】
昭和の懐かしい匂いに包まれた少女時代から、高度経済成長期を経て現在へ。母の手作りワンピースからコムデギャルソンまでをひとりの女性の人生を通して生き生きと語るエッセイ集。


【感想】
この本は2004年から2006年にかけて、「おしゃれ工房」と「ウフ.」に掲載されたエッセイをまとめたもの。筒井ともみのエッセイは好きだったのだけど、本を購入したのは今回が初めて。期待どおりで楽しく、そしてちょっと思うところがあったり。
筒井ともみは私よりずっと年上でいらっしゃるのだけど、お母さまは私の母にも通じるものがあり、しんみりしつつ懐かしい気持ちになった。お母さまと一緒に洋服のデザインを考えたり、下北沢にお買いものに行ったりと、その様子が微笑ましく羨ましくもあり。お母さまをとても愛してらしたのだなと感じた。
彼女をたった一人の姪として溺愛していた叔母さまは、繊細な神経と女優という仕事柄、家の中がピリピリしていることが多かったそうだ。それがとても辛かった。初等科から大学まで成城学園に通わせてもらっていても、穏やかな毎日を過ごしたかった。経済的には女優の叔母さまの恩恵を受けながら、お母さま共々叔母さま夫婦の居候状態で過ごす子供時代とはどんなものだったのだろう?肩身が狭かったのではないだろうか…。
よくも悪くもこの子供時代が、今の筒井ともみを作ったことは間違いないと思った。


【余談】
文中にあった、映画「西の魔女が死んだ」の脚本のオファーが来ていて、梨木香歩は好きな作家さんなので嬉しいというようなくだりがある。確か、この「西の魔女が死んだ」の映画の脚本は監督の奥さまである、元アイドルで女優の水島かおり(脚本家名は矢沢由美)が書いていたと記憶している。
はて?どういういきさつがあったのやらなかったのやら。
ちなみに水島かおり、女優とは思えない暴れっぷりをご自分のブログで全開で暴露されていて爆笑というか苦笑する。

佐藤雅彦『教科書に載った小説』内容と感想

2012-05-14 09:57:10 | 紙の書籍
ポプラ社 佐藤雅彦『教科書に載った小説』を読了しました。

内容と感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
はじめに
とんかつ ‥‥‥ 三浦哲郎
出口入口 ‥‥‥ 永井龍男
絵本 ‥‥‥ 松下竜一
ある夜 ‥‥‥ 広津和郎
少年の夏 ‥‥‥ 吉村昭
形 ‥‥‥ 菊池寛
良識派 ‥‥‥ 安部公房
父の列車 ‥‥‥ 吉村康
竹生島の老僧、水練のこと ‥‥‥ 古今著聞集
蝿 ‥‥‥ 横光利一
ベンチ ‥‥‥ リヒター  上田真而子
雛 ‥‥‥ 芥川龍之介
あとがき
著者紹介・底本一覧


【内容】
中学や高校の国語の教科書に載っていた小説を、編者が集めたもの。


【感想】
「とんかつ」は母と息子の話。一人息子を寺の住職にするための修行に出す母親の心情と、それに答えようとする息子の姿に心を打たれる。
細かな心情の描写があるわけではないのに、心に染み込むようにその様子が伝わってくる。

「絵本」は豆腐屋から作家になった私と旧友Fの話。Fは若くして病を得て亡くなるのだが…。不思議な、でも少しも怖さを感じない心温まる話。

「少年の夏」は小学生の敏夫に起こった、ある夏休みの悲しい出来事。自分の夏休みが終わり、無邪気で単純な世界であった子供時代が終わりを告げていく。
誰もが経験したことがあるだろう、子供時代の気持ちの変化に共感できると思う。


【余談】
私は子供の頃、夏休みは図書館に住みたいと思うほど本が好きだった。その当時ですら、びっくりするくらい古い木造校舎にある図書館は、ぎしぎしする木の階段を登りきったところにあった。入り口には購買部があり、文房具の独特な匂いも好きだった。
図書館独特の古い本の匂い、かさかさと音を立てる本のページ、外から聞こえてくる生徒の歓声、窓から差し込むキラキラした日差し、どれをとっても大好きな時間と空間。
私の小学校では、夏休みに借りられる本は3冊までと決まっており、3冊なんてものの3日で読んでしまい、後の30日以上を一体どうしたらいいの?という感じだった。自宅には自分が読みたい本はなかったので、とてもつまらなかったことをよ~く覚えている。学研の科学と学習は定期購読してもらっていたが…。
大人になったらミニ図書館を自分の家に持つんだぁ~!と、子供心に本気で思っていた。残念ながら大人になった今も実現はしていない。

国語の授業中、よく退屈になると(読書は大好きでも、国語の授業はつまらなかったので)関係ない単元の小説などをこそっと読んでいた。これらの話はどれも私の琴線に触れ、いつまでも心に残るものが多かったように思う。
教科書の編集にあたった方々の眼はとても素晴らしく、そのための労力は相当なものだっただろうな。。
こんなアンソロジーがもっと出版され、読まれればいいのになぁ。。と心底思う。

いしいしんじ『麦ふみクーツェ』あらすじと感想

2012-05-02 09:43:43 | 紙の書籍
新潮文庫 いしいしんじ『麦ふみクーツェ』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
第一章
手術台で/吹奏楽の王様/いちばんうしろの高いところ/恐竜/コンクール/黒いマーチ/雨と楽園/みえないねこの声が街にひびく/麦ふみがこの世でとるさまざまなかたち/恩返しのための用務員さんのマーチ/あめ玉ください
第二章
遅刻する機関車/ちょうちょおじさん/赤い犬と目のみえないボクサーのワルツ/十月十二日のスクラップブックより/十一月三日のスクラップブックより/十二月二十一日のスクラップブックより(投函されなかった手紙)/三月二十三日のスクラップブックより/夏の盲学校/ぴかぴかの黒い羽根があなたを新世界へお連れします
第三章
せんたくばさみ/ねずみ男の末路/麦わら/きんたまつながり/女の子は船旅をたのしみにしている
第四章
みどり色/鏡なし亭にて/へんてこさに誇りをもてる唯一の方法/五月七日のスクラップブックより/六月十二日のスクラップブックより/ボクサーたち/生まれかわり男のみじかい思い出/やみねずみ再び/手術台で/心電図/この世では、待つことを学ばねばならない/灰皿/七月六日のスクラップブックより/七月八日のスクラップブックより/ものすごくからだのおおきな女性/麦畑のクーツェ

すべての話のつづきとして 栗田有起


【あらすじ】
ぼくは、とある海辺の町で、吹奏楽に取り憑かれている祖父と数式に取り憑かれている父と暮らしている。ぼくは、猫の鳴き声がとてもうまかったので、祖父から「ねこ」と呼ばれていたり、自分の部屋で「麦ふみクーツェ」と出会ったりする。
ぼくは、年齢よりはるかに大きな体と厄介な心を持て余しながら、音楽を志して住み慣れた町を出て、いろいろな経験をしながら少しずつ成長していく。


【感想】
いしいしんじの作品は以前に『雪屋のロッスさん』を読んだことがある。『雪屋のロッスさん』と違って『麦ふみクーツェ』のほうはなんというのか、読んでいてひりひりするような感じがしてたまらなかった。ファンタジーといえば聞こえがいいのだが、ただそんなに単純な話ではなく、痛いところを小さな針でチクチクされるような感覚がある。

「麦ふみクーツェ」
「ねずみ男」
「ねこ」
「黄色い土地」

これらが第一章から第四章までを通してつながっていき、最後には見事にあらゆることに辻褄が合い、「ああ。。そうだったのか」と思えるのだ。

とん、たたん、とん
とん、たたん、とん
黄色い土が麦ふみの足元から、もうもうと舞い上がる。

あとがきに栗田佑起が書かれていた文章が感慨深い。
>この本に、こどものころ出会いたかった、と思う。どんなふうに生きればいいかわからなくて、不安で、きょろきょろとお手本を探していたあの当時、もしもこの本を読む幸運に恵まれていたら、きっと夜は安心してぐっすりと眠ることができたにちがいない。じぶんがここにいることの不思議さや、元気すぎる同級生、理不尽な命令ばかりくりかえす大人たちを、あれほど恐れなくてもすんだだろうに、と思う。


【余談】
この作品を読んでいて、大島弓子『夏の夜の獏』を思い出した。主人公のぼく、実年齢は8歳の小学生、精神年齢は+10くらいだ。実年齢と精神年齢のギャップに苦しむ姿が重なった。
周囲と違和感を感じつつ、その場所にいなければならない辛さは、実はそこかしこに転がっているのかもしれない。


【リンク】
新潮社 いしいしんじ『麦ふみクーツェ』