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和田はつ子・宮部みゆき他『なぞとき〈捕物〉時代小説傑作選』あらすじと感想

2021-10-20 10:00:50 | 紙の書籍
PHP文芸文庫 和田はつ子・宮部みゆき他『なぞとき〈捕物〉時代小説傑作選』細谷正充編を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
五月菓子 和田はつ子
煙に巻く 梶よう子
立花の涼 浮穴みみ
人待ちの冬 澤田瞳子
うき世小町 中島要
鰹千両 宮部みゆき
解説 細谷正充


【あらすじ】
五月菓子 和田はつ子
商家の妾が主夫婦の息子を柏餅で毒殺した疑いをかけられる。料理人の季蔵は独自の捜査を進めると…。

煙に巻く 梶よう子
弥太郎と弥二郎の兄弟は煙草屋吉田屋の看板息子。実はこの兄弟には、本人たちも知らないある秘密があった。

立花の涼 浮穴みみ
茶漬屋夢見鳥のお蝶はきっぷがよくてお節介。またぞろ面倒なことに首をつっこむことになり…。

人待ちの冬 澤田瞳子
幕府直轄の御薬園で働く真葛は、薬種屋から消えた女中の行方を探ってほしいと頼まれるが…。

うき世小町 中島要
一膳飯屋のたつみの看板娘お加代は器量よし。三崎屋の「江戸錦絵小町比べ」に絡んで、幼なじみのお八重、お志乃と思わぬ成りゆきに…。

鰹千両 宮部みゆき
棒手振りの魚屋角次郎に、鰹を千両で買いたいという奇妙な申し出があり…。


【感想】
五月菓子 和田はつ子
お大尽な商家の妻と妾というだけで、もういろいろと想像できてお腹いっぱい。妻のお加代は悋気が強い、妾のおいとは心優しい。
結局、死んだ息子の弥太郎は今でいう、小麦アレルギーのアナフィラキシーショックで亡くなったのだった。一件落着したが、家庭内はこの後どうなるやら…。

煙に巻く 梶よう子
弥太郎と弥二郎の兄弟は実は双子。生まれたときから兄弟として育ててきた。
双子は畜生腹、陰と陽がふたつに分かれたとされ、子の命を絶つことさえあった。人はなんて身勝手な生きものなのだろう…。勝手な理屈をつけて、それに振り回されて。

立花の涼 浮穴みみ
茶漬屋夢見鳥のお蝶は、珍しい朝顔の鉢を持っていた、女の子の格好をした男の子と関わることに。その子は高田屋の寮に住む兎一郎。義母のおつた恋しさに、おつたが喜ぶと思って朝顔を大切に育てている。
兎一郎が薬といって飲まされていたのは、心臓を弱らせる毒薬。拝み屋善治と女中のお松の仕組んだことだった。
兎一郎の健気さに泣ける…。みなそれぞれに、いろいろな事情や人に言えない過去を抱えて生きている。切なく哀しい…。

人待ちの冬 澤田瞳子
元岡真葛は肉親の縁に薄い生い立ち。それでも、健気に御薬園での仕事に励んでいる。薬種屋成田屋の悪い噂を確かめようとするうちに、思わぬ事件に巻き込まれる。
薬種屋成田屋の当代は入婿で、色男だが仕事もいい加減、女癖も悪いし、妻のお香津に手をあげることもある最低の男。なんでこんな男を好きになって婿に迎えるのか…。理性を失う「好き」ほど厄介な感情はないとつくづく思う。
一番哀れだったのは女中のお雪。夫を殺してお店を守りたいお香津に頼まれ、手伝うことになったうえに、無理強いされた末に身ごもらされて…。自分ではどうしようもない、弱い立場のお雪が哀れで仕方がない。

うき世小町 中島要
一膳飯屋のたつみの看板娘お加代は器量よし。増田屋の娘のお八重は不器量、貧しいが器量よしのお志乃。三人は手習い時代からの幼なじみ。
お志乃を殺したのはお八重だった。お志乃の放ったひとことが、お八重のコンプレックスのスイッチを押してしまった…。
三人三様、みな愚かだ。お加代は器量を気にかけないことで、お志乃は器量を鼻にかけることで、お八重を傷つけてきた。みんな仲良し♪幼なじみ♪ そんな無邪気が人を傷つけるのだ。無邪気は邪気がないからいいのではない。無邪気と愚かはイコールでもある。人間関係の難しさ、無情を感じる。

鰹千両 宮部みゆき
棒手振りの魚屋角次郎に持ちかけられたのは、鰹を千両で売ってくれという妙な話。言い出したのは大店の呉服屋伊勢屋の主人。
実は本当に欲しいのは鰹ではなく、角次郎の娘のおはるだった。実はおはるは伊勢屋の双子の娘。「双子は畜生腹」と言い張るきつい母に逆らえず、橋のたもとに捨てた子だった。手元に残した娘が疱瘡で亡くなり、その娘の代わりとばかり、おはるを千両で渡してもらうつもりだった。
伊勢屋夫婦のあまりの身勝手さに腹がたつ。娘が亡くなったのは気の毒だが、亡くならずにいたらそのまま知らん顔なのだろうか? もっといえば、母親に意見も言えず、自分の妻を守ることもできない、伊勢屋の不甲斐さが元凶だが…。
いろいろと腹がたちつつ、最後はほっとできる話。落語の人情噺のよう。


【余談】
捕物話はそれほど好きなわけではないが、嫌いなわけでもなく。作品にもよるし。
どの作者の作品でも、世間知らずのはねっかえり娘が出てくるのは苦手。事件によって成長していくーというのも苦手。正直、イライラしてしまうので。
実年齢に関係なく、人の世や心がわかっている、十手もちや同心が捜査にあたる捕物話が安心して読んでいられる。

「煙に巻く」と「鰹千両」はどちらも、たまたま双子が生まれたことから起こる悲劇。時代とはいえ憂鬱な気分になる。本当につい先頃まで、人の命は軽かったのだろうな…。
関係ないけど、私の弟も双子。二卵性の。この時代に生まれなくてよかったね…。しみじみと…。

収録作のうち、宮部みゆき『鰹千両』は読了していた作品。新潮文庫『初ものがたり』だった。アンソロジーはよくあるね、読了作品がかぶること。
「あれ~?これ読んだことあるよ?」みたいな。