積ん読の部屋♪

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恩田陸『七月に流れる花/八月は冷たい城』あらすじと感想

2021-01-28 10:44:01 | 紙の書籍
講談社文庫 恩田陸『七月に流れる花/八月は冷たい城』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。




【目次】
「七月に流れる花」
序詞
第一章 緑色の配達人
第二章 夏の城への道
第三章 少し奇妙な日常
第四章 流れる花を数える
第五章 消えた少女
第六章 暗くなるまで待って
第七章 鐘が三度鳴ったら
第八章 夏の人との対話
終章 花ざかりの城

「八月は冷たい城」
第一章 砕けた夏
第二章 蟷螂の斧
第三章 四人の少年
第四章 花の影
第五章 もう一人いる
第六章 緑の疑惑
第七章 暗い日曜日
第八章 動揺の理由
第九章 最期の鐘が鳴る時
終章 沈黙の城


【あらすじ】
呼ばれた子どもは必ず行かなければならないー。「夏のお城」への林間学校へ招待された少年少女たち。全身緑色をした不気味な「みどりおとこ」の引率のもと、古城での共同生活が始まった。
彼らはなぜ城に招かれたのか?同じひと夏を少女の視点で描く「七月」と、少年側から描く「八月」を一冊に収録。


【感想】
ダークファンタジーというジャンルになると思う。冒頭から不穏な空気感があって怖い…。ミステリー仕立てでもあり、後半はホラー要素も満載。グロテスクな結末なのに、ホラー映画を観た後のような不快感があまりない。不思議。ファンタジー色が強いからだろうか?
あちらこちらに伏線がばらまかれ、ラストに行くにしたがって粛々と回収されていく。
「夏流城」=夏が流れる城と書いて「かなしろ」と読む。少年少女たちの林間学校、同じ運命をもつものが夏の時間をすごす城。「悲しい」「哀しい」とも重なっているのかもしれない、意味深な名前だ…。
この城はかつてパンデミックを起こした、「緑色感冒」の患者を隔離するためのコロニー。少年少女たちが呼ばれるのは、家族の死期が迫っているから。でも死に目に会えるわけではない。感染力が強く隔離しなければならない伝染病だから。
家族の死期が近づくと鐘が三度鳴る。鐘が鳴ったら、お地蔵さんのところに行かなければならない。これがこの城の規則。お地蔵さんの後ろにはマジックミラーになった鏡があり、家族のほうからは見えるが少年少女たちには見えない。
「緑色感冒」に罹患し死を迎えると、全身緑色をした「緑色感冒」のサバイバー=「みどりおとこ」の引き継ぎがある。王位継承のようなものだが、文字どおり弱肉強食によって、弱いものが強いものに丸ごと食われてしまう。そして、それまでの患者の記憶をも引き継ぐのだ。

「七月」はこの町に引っ越してきたばかりの大木ミチル、「八月」は嘉納光彦が主人公、その二人に聡明で華のある佐藤蘇芳が深く関わっていく。蘇芳はミチルにはこの城の意味も亡くなるのが別れた父親だということも、伏せておいて欲しいとミチルの母親に頼まれている。光彦とは気の合ういとこ同志だ。
蘇芳は自分も親を亡くすのに、大変な仕事を任されて可哀想な役回りだ。なまじしっかりして賢いと、子供の頃から大人たちに小さな大人扱いされ、いろいろなことを押しつけられてしまう。正論の名のもとに。子供時代は子供でいていいのに…。
「七月」のラスト。ミチルが胸の中で呟く。
さよなら、夏の人。さよなら、あたしたちの夏流城。さよなら、あたしたちの悲しい夏ー
メメント・モリ。死を想え。
「八月」ラスト。「ーいい子ねえ、光彦は」耳の後ろでそんな声を聞いたような気がしたが、光彦はもう振り向かなかった。
悲しみと絶望、諦念の向こうにかすかな希望の明かりが見えている気がした。


【余談】
この作品は2016年12月に書き下ろし、2018年9月に刊行、2020年7月に文庫版第1刷発行されている。2021年1月現在、まさかこんな状況になっていようとは作者も思いもよらなかったはず…。
「事実は小説より奇なり」とはまさにこのことかもしれない。

松本清張『松本清張傑作短篇コレクション 下 ー宮部みゆき責任編集』あらすじと感想

2021-01-14 16:59:32 | 紙の書籍
文春文庫 松本清張『松本清張傑作短篇コレクション 下 ー宮部みゆき責任編集』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次とあらすじ】
第七章 タイトルの妙
 前口上 宮部みゆき
 支払い過ぎた縁談 旧家の萱野家が娘の良縁にこだわった結果…。 
 生けるパスカル 画家の矢沢辰生は、妻を無理心中に見せかけて殺害を企てる。ところが意外なことから犯罪が露見してしまう。
 骨壷の風景 祖母カネには墓も位牌もなく、とある寺に遺骨は預けっぱなしになっている。そのことが気になりだした私は遺骨を探し始める。 
第八章 権力は敵か
 前口上 宮部みゆき
 帝銀事件の謎ー「日本の黒い霧」より 帝銀事件の真相とは…。
 鴉 しがない中年サラリーマン浜島庄作が労働組合の活動に熱中するあまり…。
第九章 松本清張賞受賞作家にききました
 「真贋の森」と「西郷札」 山本兼一
 「菊枕」と思い出の高校演劇 森福都
 「火の記憶」の記憶 岩井三四二
 『地方紙を買う女』もどきを書いてみる 横山秀夫
 西郷札 西南戦争に際して発行された西郷札を巡る、人の金欲がもたらしたものは…。
 菊枕 ぬい女略歴 三岡圭助が結婚した才色兼備のぬい。俳句に熱中するあまり…。
 火の記憶 頼子が結婚をした高村泰雄は天涯孤独の身の上だった。泰雄が幼い頃に見た「火」の記憶とは…。
 終わりに 宮部みゆき

 
【感想】
短篇集で作品数が多いのでかなりざっくりと。

「支払い過ぎた縁談」
地方の旧家で財産持ち、プライドが高い当主とその家族。今に立派なところから話がもちこまれるに違いないと信じている。家柄・資産・教育の三種の神器がうちの娘にはあるのだからと。
客観的にみれば、この三種の神器がなくても若く美しく、性格に難がなければ、それだけでとうに…。つまりはそういうことなのだが…。
結局、良縁だと思っていた話はただの詐欺だったというおち。何事も分相応、高望みはしないこと。そして、上手い話には裏がある。ご用心。

「生けるパスカル」
画家の矢沢辰夫は『死せるパスカル』という小説にヒントを得て、邪魔な存在になってきた妻を無理心中に見せかけて殺害する。男の身勝手さにげんなりするが、本音はこんなものかもしれない。
無理心中計画をたてるまでが冗長に感じた。そこに至るまでの心理をきちんと描きたいのだと思うが…。松本清張の大ファンである宮部みゆきの作品構成も似ているような気がする。
絵の中の干からびたレモン・イエローと、小さな虫の翅から犯罪が発覚するというのもすごいなぁ。。

「骨壷の風景」
祖母カネの骨壷は墓ができるまでと、ある寺に一時預かりのままになっている。骨壷の寺預けというのは金銭的に苦しい貧乏人のすることだそうだ。「地獄の沙汰も金次第」そのままな話。人は生まれてから死ぬまで「お金」に縛られる生きものだとつくづく思う。
松本清張の作品にはこの手の「お金」絡みの話が多い。ご本人も経済的に困窮し、とても苦労されたという話を聞いたことがある。

帝銀事件の謎ー「日本の黒い霧」より
帝銀事件の犯人は最高裁の判決によって平沢貞通に決定した。だが、本当の犯人は誰なのか?誰がこの判決が出るようにもっていったのか?日本軍とGHQ、警察の関係に暗澹たる気持ちになる。

「鴉」
あらゆることにぱっとしない中年サラリーマン浜島庄作の悲哀。。では終わらなかった。労働組合運動を熱心に活動するうちに、今までもったことのないパワーとコントロール、支配力に自分自身が酔ってしまった。「凄いぞ!俺!」と。勘違いなのだが…。
やがて、全ての歯車が狂い始め、狂気が加速し、柳田を殺してしまう。哀れなのは浜島ではなく殺された柳田とその家族だ。やりきれない気持ちになった。

「西郷札」
明治の西南戦争に際して薩摩軍の発行した紙幣「西郷札」。「さいごうふだ」ではなく「さいごうさつ」と読む。間違えて読んでいた…。恥ずかしい。
ただの紙屑となった「西郷札」を巡って、一攫千金を狙った男たちと巻き込まれてしまった樋村雄吾の悲劇。彼らを破滅に導いたのが、樋村の義理妹の夫だったというのも哀れを誘う。

「菊枕」
才色兼備を自他共に認めるぬい。軍人の父の勧めるままに、美術学校を卒業した三岡圭助と結婚したのが、彼女にとって人生の大誤算だった。もっと才能と野心のある男だと思い結婚したから。ぬいは夫に苛立ち、憤り、軽蔑し、諦念した。
ぬいは自分の境遇を恥じていて、その鬱憤を俳句で認められることで晴らそうとする。やがて、家事も育児も放り出し、師匠につきまとい、精神を病んで精神病院に入院する。ぬいの自負と負けん気、プライドの高さに辟易しつつ、哀れとも思う。美貌と才能に恵まれたのに、田舎の貧乏教師に嫁ぎ、それに耐えられず自分で自分を壊してしまったのだろう…。
ふと、高村光太郎の『智恵子抄』を思い出した。

「火の記憶」
頼子の夫、高村泰雄は天涯孤独の身の上だった。結婚してから二年も経ってから、泰雄から聞かされた幼い頃の記憶。それは母の不貞と父の不在。それを泰雄は恥じていた…。
頼子の兄はこの話を妹から聞き、泰雄の思い違いだと妹に手紙を書いた。おそらくそれが本当のことだろう。
泰雄が三人で見た火の記憶は、炭鉱のボタ山に捨てられた炭が自然発火して燃焼している火だった。絵画のような光景で美しいと思った。


【余談】
人気実力とも当代随一の作家 宮部みゆきが責任編集した短編集の(下)。何故か(中)を先に購入していて読了済みだが、もたもたしているうちに感想をアップし損ね、次に(上)を読了したという変則の読み方になってしまった。
ほとんどの作品が過去に映像化されていて、ドラマにいたっては「何度目だ!ナウシカ!(日テレ)」並に多い。ケーブルの各チャンネルで今もよく放送されているので、その気になれば結構観られる。
そういえば、古いドラマのエンドクレジットに「霧企画」とある作品が多く、随分と松本清張作品ばかりを手掛けている制作会社なんだな~と思っていたら、ご自分の作品を映像化するための会社だったらしい。納得。

松本清張作品は過去が舞台なので、文化的なことやトリックには、現代では成り立たないことも多い。それはそれとして、逆にある距離感をもって読むことができるので、生々しさがなくストレスなく作品として楽しんで読むことができる。
それに、時代を越えた普遍な人というものをしっかりと描いているので、飽きがこず読み続けられるのだろう。ラストがびっくりするくらい呆気なく終わってしまうのは、多分、作家本人が謎解きそのものにはあまり関心がなく、そこに至るまでの人の心理や犯罪計画の過程のほうが書きたいのだと思う。

ノンフィクションは現実の歴史の1ページなので、矛盾や理不尽や不公平に読んでいてぐったりしてくる…。自国の歴史だから知らなくてはいけないとは思う。思うのだが、本音を言えば楽しくない。読書の楽しみを感じられないので、読んでいて結構辛いものがある。
これからもノンフィクションは苦手なのは変わらないと思う。