まちづくりはFeel-Do Work!考えるより感じよう、みずから動き、汗をかこう!(旧“まちづくり”便利帳)

まちづくりの支援者から当事者へ。立ち位置の変化に応じて、実践で培った学びの記録。もう一人の自分へのメッセージ。

見える社会、変わる仕組み~持続可能社会に向けた世界の動きと行政への期待

2004-08-16 04:48:29 | Personal Views
(財団法人自治体国際化協会の機関誌『自治体国際化フォーラム』11月号掲載!)

1.今日の日本社会

「今の日本はよい社会だ」との設問に「そう思う」8.7%-朝日新聞、8月1日朝刊

 これはある大手進学塾が、関東6都県の中学生計約二万人を対象とした意識調査の結果である。回答は、「そうは思わない」が約六割、「どちらともいえない」が三割強という結果であった。約九割がよいとは思えない社会。メディアの影響もあるだろうが、モラルや治安の悪化、年間自殺者数三万人超の現状は、現実として認めざるを得ない。
 私達がよりよい社会を手に入れるためには、一体どうしたらよいのだろうか。そして理想とする社会に向けた取り組みには、どのような潮流があり、行政には何が期待されるのか。世界の動きを追いながら考えてみたい。

2.持続可能な社会とその背景-もう一つの理由

 「持続可能な(サスティナブル)」という言葉が頻繁に使われるようになった。今の社会が持続不可能であると、広く認識された証拠だろう。これは、戦後世界各地で多発する公害問題に危機感が募り、’72年第一回国連人間環境会議の開催に端を発する。その後、’87年環境と開発に関する世界委員会の報告書『我ら共有の未来』で「持続可能な開発」という概念が登場、更に’92年環境と開発に関する国連会議(リオ・サミット)、’97年地球温暖化防止京都会議(COP3)、’02年持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)へと継承されている。これに並行して、’90年ICLEI-持続可能性をめざす自治体協議会(64ヶ国約400自治体、日本の28自治体が会員)が発足し、ローカルアジェンダ21を促進。昨年11月にはアテネで世界大会が開催された。
 持続可能な社会というと、環境ばかりが注目を浴びるが、実際には必要条件の一部に過ぎない。なぜなら、環境に優しい生活を強要しても、経済的な負荷や極端な不便を強いられれば、持続することが困難だからである。持続可能な社会の定義については諸説あるが、その多くは「世代を越えて環境・経済・(人間)社会の三要素がバランスの取れた社会」と言うことができる。
 では、三要素のうち経済と社会が注目されないのはなぜか。これは、環境変化の善し悪しが判断し易いのに対し、経済と社会は複雑で見えにくく、あるべき姿がわからないからである。環境では、ここ数十年の間に身の回りの動植物が激減し、ライフスタイルの変化によって消費電力やゴミの量が驚くほど増加した。限りある資源の奪い合いは火種を生み、国連環境計画(UNEP)の「地球環境概況2000」や最新の「地球白書」が示す地球は、氷山に向かうタイタニック号のようだ。一方、経済と社会では、方向が見えないまま、日本は未曾有の人口減少高齢化社会を迎えようとしている。事の正否を別にすれば、これまでの変化をこう表現できる。

・グローバリズムによる世界的分業化が進み、身近にあったものが地域から離れていった。
・水も電気も食料も、お金さえ払えばいくらでも手に入るようになった。

 この変化は何を生んだか。それは想像力・創造力の欠如と、身の程をわきまえない過剰消費と言える。生産と消費の場が離れ、互いが見えなくなった。具体的には、屠殺や農体験がないために、生産の苦労や残飯の意味がわからない。自転車をこいで発電する必要もないので、その大変さや自然エネルギーの偉大さもわからない。世の中の仕組みが見えにくくなるほど、余計に想像力が必要とされる。大袈裟な言い方ではあるが、一見を与えない環境が百聞を要求し、教育負荷が極端に増す。昨今の社会問題は、実は必然的に起きているのである。

3.持続可能な社会に向けた世界の動き

 持続可能な社会の追求とは、「見えなくなった世の中をもう一度見えるようにする」試みと言えないだろうか。最近の流行を列挙すると、スローフード、食育、トレーサビリティ、フェアトレード、地域通貨、市民バンク、コミュニティビジネス、CSR(=Corporate Social Responsibility)や社会起業、市民風車、家庭用燃料電池、コンパクトシティ、エコ村、エコツーリズム…。これらの共通点は、「仕組みが見える」ということの他に、「コンパクト」も挙げられる(『世界がもし100人の村だったら』が世界中に広まったのは、縮小化によって問題を顕在化させたことが一因と言える)。更に、これまで主流だった早い・安い・便利を優先する価値観と対極にある、新しい価値観が台頭していることがよくわかる。
 また、最近では「グローカル」という造語も飛び出しているが、「情報とネットワークはグローバルへ」「生産と消費はローカル(地産地消)へ」ということに注意したい。例えば、エコ村(ここでは共同体の意)に関しては、90年代からGEN(=The Global Ecovillege Network)と呼ばれる世界的なネットワークが構築され、アジアや南米、アフリカといった地域まで浸透している。初期のエコ村は、元々60年代に各地で発生した経済発展に左右されない精神的な共同体が、結果的に環境に配慮したライフスタイルに辿り着いたというケースも多い。もちろん、生協で有名な豪州マレーニ(人口1,500人)のように既存地域を再生したケースもある。最近ではコーポラティブハウスを中心としたコミュニティや、都市との交流に積極的等、より現代的で敷居の低いエコ村が次々と生まれている。
 持続可能性の進捗度や豊かさを測る指標づくりも盛んになっている。人間開発指数、持続可能性指標、生活の質指標、エコロジカルフットプリント等がその例だ。各々の指標は統一基準もあれば、地域によって基準が違うものと多様である。指標の目的は、理想社会の到達度を知ることと、戦略の正否を確認することである。指標以外にも、ナチュラルステップのシステム条件(市島町、白川村、那覇市が導入)や、経済的な観点を強調したLOHAS(=Lifestyle of Health and Sustainability)という概念なども登場している。

4.環境に優しい生活は息苦しいか?-英国と北欧を例に

・英国ウェールズ州エコテーマパークCAT(=Center for Alternative Technology)
 1970年代初頭公害問題が表面化する中、民間有志が20年以上荒廃した採石場跡地に新しい形のコミュニティを作ろうとしたのが始まり。この施設の特徴は、一般向けの滞在型施設があること。ここでの生活は、使用可能な電気・燃料・水の量が制限されており、その仕組みと使用量がパネルに表示される。電気を使い過ぎれば停電し、エネルギー源である天候にも左右される。教育関係者や世界からの訪問者が後を絶たないのは、持続可能な生活が楽しい発見に満ちているからだ。

・スウェーデンとデンマーク
 都市と田舎、再開発地区、エコ村、そしてそこにある自治体や学校、図書館、企業、民宿等を訪問。持続可能社会への取り組み、特に環境面を見ることが目的であった。ところが、何よりも強く印象付けられたのは「自分達の社会は自分達でつくる」という民主主義本来の姿であった。福祉も男女平等も、根底には必ずこの精神が流れている。望む社会を描き、実践し、躓いたらやり直す。例えば、泳げるほどきれいなストックホルムのメラレン湖。50年前はトイレの水が垂れ流しだったとは信じられない。例えば、ウーメオにある商業エコモデル区画のグリーンゾーン。天然エアコンや植物利用の空気清浄機、大小分離型コンポストトイレなど、徹底した安価ローテクのフル活用で最高のパフォーマンスを引き出している。例えば、スウェーデン初のエコ自治体オーベルトーネオ(人口5,500人)。地域通貨に頼らずとも、インフォーマル経済を大切に維持している。
 自らつくった社会に住むことが快適でないわけがない。その過程が楽しいからこそ無関心な人まで惹き付けている。

5.求められるコミュニティの姿と行政の役割

 ブータン(人口66万人)では、’72年弱冠16歳で即位した第四代国王が次のような方針を表明している。「経済成長自体が国家の目標であってはならない。目標はただ一つ、国民の幸せに尽きる。富の増加が幸福に直接つながると考えるのは間違いである。国民総生産GNPではなく国民総幸福量GNH(=Gross National Happiness)の向上を目指す。」幸福量を測る指標があるわけではないが、先に挙げた指標群も目指すところは同じである。
 マレーニ再生の中心人物ジル・ジョーダンは、理想の暮らしについて次のように語っている。「誰もが自分たちの住む土地とつながりを感じ、人々がお互いにつながっていることを実感できている暮らし、そして心の平安を得ることができている暮らし」(雑誌『ソトコト』No.50より引用)
 幸福の追求は、自治体やコミュニティにとって究極の目標である。ローカルマニフェストや政策指標、県民しあわせプランなど、ビジョンや指標が重視されるようになった。まちづくりにおいても、環境・経済・社会のバランスが大事である。要素ごとにそれぞれ循環・共生する状態が健全であり、その把握は行政にしかできない。産官学民がビジョンづくりの段階から協働することで信頼関係が増し、産学民の役割と行政が補完すべきことが明確になる。地域の目指す社会がどんな姿で、どの部分がどのくらい足りないのか。到達度を把握することで次の方策が見えてくる。指標を統一する必要は全くなく、地域ごとにお互いの長所や短所を比較し合うことが、取り組みを一段と加速させる(東京都の地域危険度格付け最下位を脱した墨田区京島三丁目は好例)。是非、市町村やコミュニティでも、積極的に取り組まれることを期待したい。

掲載記事原本自治体国際化フォーラム181号(2004年11月号)脚注付きの写真がいくつか載ってます。
The Global Ecovillage Network HP
Center for Alternative Technology HP 日本語(中間法人CAT普及協会の内村雅生さんが作成)
Local Agenda 21 Net 国内事例紹介
ソトコトLOHASプロジェクト★日本的LOHAS工房
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5 コメント

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頑張りましょう! (れお)
2004-08-29 08:19:44
私も最近街づくりに興味をもってます。が、1人で活動するのは大変だナァと最近つくづく思っております。なんとか町につくせて食べていけないもんかと思っておりますが、試行錯誤中です。でもポジティブにやらんとね!お互い頑張りましょ^v^
返信する
れおさん、コメントありがとう! (管理人)
2004-08-31 02:19:28
今全国各地で、地域に根付いた経済を確立すべく「コミュニティビジネス」と総称される分野が台頭してきました。更に活発になることを祈りつつ、自分も勉強しています。私が正会員になっているNPO法人地域経営支援ネットワークでは、様々なセクターに対してコンサルを行っています。



また、八重山諸島にもご興味がおありということですので、最近の西表島の開発問題に関するURLをご紹介します。こちらの方も支援のための人脈づくりを進めています。

NPO新聞 JANJANより西表開発特集

http://www.janjan.jp/left-list/iriomotegima.php



もふたつオマケ

美ら島物語 TODAY'S美ら島

http://www.churashima.net/todays/index.php3

内閣府の沖縄政策

http://www8.cao.go.jp/okinawa/



せっかく住む日本だから、私達の手で善くしたいですね。私は沖縄のゆいまーるの精神が世界を救うと思っています。お互い頑張りましょう。
返信する
いいですねェ (れお)
2004-08-31 05:57:51
ゆいまーるの精神、いいですね~。その方向で行きたい限りです。

(「いちゃりばちょーでー」も好きですよ)



URL教えていただいて有難うございます。

内閣府の沖縄政策をみてゆいレールのことを思い出し、(私は八重島諸島の方しか行ってないし、当時はできる前で"観光客しか使わんのじゃない?"なんて話しか石垣島で聞いてなかったので)

ちょっと調べてみましたけど目標数を下回る数だったようで。課題はあるようですが地元の人の意見がたくさん出てるようなので今後に期待ですね。

沖縄タイムズ記事:http://www.okinawatimes.co.jp/day/200408101300.html#no_5



ちなみに・・・「コミュニティビジネス」なる言葉、先ほど知りました・・・。

あー、自分のやりたいの、これかー!って(笑)

いや、今日は脳みそにシワが一本増やせました、有難うございます。

返信する
コミュニティ・ビジネスの事例紹介と注意点 (管理人)
2004-08-31 13:07:42
沖縄タイムズの記事紹介ありがとうございます。沖縄にはいい言葉が残っていますよね。



有名な歌の替え歌「ゆい are the world」を世界に広めるとか、年に一度ビジネスマンも時間から開放される「100万人のうちなータイム」を沖縄全島イベントとして開催するとか、勝手に想像して楽しんでます。

ノノ(´Д`)ノノ♪ノノ(´Д`)ノノ♪ノノ(´Д`)ノノ♪ノノ(´Д`)ノノ♪



…まじめモードに切り替えます。



コミュニティ・ビジネスの説明や事例紹介

http://japan.internet.com/public/report/20030415/1.html

http://www.pref.yamagata.jp/sr/shogyo/482400/2851800.html

http://www.hosouchi.com/index.html

(最後の細内信孝氏はコミュニティ・ビジネスの提唱者とのこと)



H16年度国民生活白書~人のつながりが変える暮らしと地域―新しい「公共」への道~

http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h16/01_honpen/index.html



テレビで紹介された国内事例(番組台本をクリックすると詳細情報に移ります)

http://www.nhk.or.jp/business21/bangumi/h13.html

http://www.nhk.or.jp/business21/bangumi/h15.html

徳島県上勝町

http://www.nhk.or.jp/business21/bangumi/0402/index4.html

大分県大山町

http://www.nhk.or.jp/business21/bangumi/0405/index3.html



代表的なものを取り上げましたが、このテーマは”社会起業家”とつながっています。社会起業家というのは、簡単に言うと「社会的な課題をビジネスとして取り組む人々」のことですが、対価がきちんと得られるからこそ、継続して課題に取り組めることが重要な点です。

そして社会起業家の中には、仏教で面白い(本来の目的を目指す)取り組みをしているお坊さん達(高橋卓志住職が代表例)も含まれると私は考えます。



社会起業家フォーラムSEKAIネット・アーカイブ

http://www.jsef.jp/sekai/index.shtml#message

メルマガ「社会起業家クラブ」バックナンバー

http://www.softnomics.or.jp/society/mailmagback/back-nm.html

仏教ルネッサンス塾 第4回「お寺はこんなにおもしろい」より

http://www5.ocn.ne.jp/~seishoji/rune6.html



コミュニティ・ビジネスでも、まちづくりでも言えることですが、成功した場合にその一点だけが過剰に強調されるために、バランスを崩してしまうことが往々にしてあります(経済と社会が良くても環境がひどい等)。そのバランスの偏りを意識しながら、二の手、三の手を考え理想的なコミュニティに近づけることが大事です。本文(全国自治体関係者向けの機関誌に掲載予定)は、この陥り易い問題点を喚起する内容であり、行政は通常のシンクタンクやコンサルには担えない広範囲において、バランサーとしての機能とコーディネーターとしての機能が求められます。



さらに、バランスで注意せねばならないことは、地域の外からの視点です。例えば、コミュニティの外へのマーケットを想定したビジネスの場合、近隣地域やその他の競合などが大勢いたら、その分厳しいことを念頭に置かなくてはいけません。地域の内外や国内での位置づけ、世界との関わりといったバランス意識も大変重要ですし、これができてこそ地域色が豊かになり、国のグランドデザインも魅力的になるわけです。



また、継続性の面では、関わる人が楽しいか否か、これが重要になります。義務や責任感も必要ですが、そればかりが表面に出ては悲壮感が漂ってしまいます。関係者が楽しんでこそ、そっぽを向いていた人も興味を持つし、人が寄ってきます。「しなくちゃいけない」から、「あれもしたいこれもしたい」へ。笑顔のあるところに賑わいは生まれます。



キーワード「地元学」

http://www.h3.dion.ne.jp/~tfa/jimoto/jimoto01.html

http://www.kumanichi.co.jp/minamata/kankyo/kankyo06.html

http://www.iwate21.net/oryza/oryza53/tokushuu2.htm
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Unknown (れお)
2004-09-04 14:30:19
まじめモードでなくていいのに(笑)

実は私も沖縄は宮古島の「おとーり」を地元でやってみたいなぁってのもあったりします。

ま、自分が飲みたいだけですが(汗



高橋住職、へーぇなんか面白いことやってる坊さんもいるんだなぁなんてプロフィール見てみたら行ったことあるお寺でした・・・浅間温泉、普通に通ってたので・・・。





バランス、特に地域外からの視点、これは今までの自分の頭では考えてませんでした。この辺もうちょっと視野を広げてみてみたいナァと。



継続性の方、全くそのとおりだなぁと思います。

楽しくなくちゃ続かない!と、今はつくづくそれを思うのですが、いざ活動の時には必死になって楽しむことを忘れてしまいそうな気がして怖いっす。



それにしても毎度毎度お役立ちサイト有難うございます!毎日頭をパンクさせながらもかろうじて脳みそに残った情報を徐々に増やしてもらってますよ♪

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