晴れときどき化学、ところにより雑想

もしかしたら何かの役に立つかもしれない化学のお話(と、よしなしごと)

アラミド繊維

2012年06月30日 23時10分27秒 | 化学のお話
アラミド繊維は、芳香族ポリアミドのことで、脂肪族ポリアミドであるナイロンと区別するために名付けられたものです。

これまでの繊維に比べて、引張り強度や耐熱性にきわめて優れています。

※アラミド繊維の引張り強度が高い理由としては、構成している分子が規則正しく並んでいることが挙げられます。

また耐薬品性にも優れていますが、紫外線には弱く、屋外では劣化して強度が低下してしまうため、樹脂などで被覆する方法が採られます。


主な用途としては、防弾チョッキ、タイヤのコード、消防服などですが、

航空機の補強材や耐震補強などの建築・土木の建材、スポーツ用品、軍手などにも使用されています。

なお、アラミド繊維は染色が難しいため、一般衣料用としてはほとんど使用されていないのが実状です。



パウリの排他原理

2012年06月29日 22時50分32秒 | 化学のお話
パウリの排他原理は、スイスの物理学者であるパウリが1924年に提出した原理で、単にパウリの原理、あるいは禁制律とも呼ばれます。

この原理についての、(たぶん)一番わかりやすい表現は、

・1個の軌道(原子軌道/電子軌道)に入ることのできる電子の数は、最大2個である

というものだと思いますが、別の表現としては、

・4個の量子数(主量子数、方位量子数、磁気量子数、スピン量子数)で規定されたひとつの状態には、ただ1個の電子しか存在できない

あるいは、

・多電子波動関数において、2個の電子の座標を入れ替えると、波動関数は符号を変える

というものもあります。


これらがすべて同じことを表現しているようには(普通では)とても思えませんし、

特に3つめの表現は、まったくもって「なんのこっちゃ」というもので、正直なところ私もよくわかりません。

ただ誤解を恐れずにこの原理について言うと、

原子のまわりにある電子は、最大でも2個ずつのペアとして存在する、そしてその電子を規定する量子数がすべて同じとなる電子はない、ということになるかと思います。


また、電子の2個のペアのことを電子対と言いますが、

原子間の結合(共有結合)をつくっている電子対を共有電子対、共有結合に関与していない電子対を非共有電子対と呼びます。

※電子は軌道の中で1個だけで存在しているのは不安定なので、どんな形でもよいから、なるべく2個のペアを作ろうとする方向に動く(それにより化学反応が生じる場合がある)、ということは知っていてもよいかもしれません。


なお、このパウリの排他原理と、原子軌道をエネルギーの低い方から並べたもの(1s、2s、2p、3s、3p、3d、4s、・・・)をあわせて考えると、なぜ元素の周期表があのような形になっているかについて、明確な説明ができるようになりました。



正しい選択

2012年06月28日 07時38分27秒 | よしなしごと
正しい選択をしたい、と思うのは誰しもそうではないかと思いますが、

実際のところは、その時点でベストと思われる選択を積み重ねていくしかない、ということに最近気づきました。

正しい選択かどうか、というのは後で結果が判断してくれるものなので、

可能な限り今を生きていくことに集中して、あまり悩み過ぎないことが大切かもしれないと考えています。



一酸化二窒素

2012年06月27日 23時07分21秒 | 化合物のお話
一酸化二窒素(N2O)は、亜酸化窒素とも呼ばれ、常温・常圧では無色透明の気体です。
(なお、液体も固体も無色透明です)。

構造は直線状の分子で、N-N-Oの順でつながった形をとっています。


工業的には以下のように硝酸アンモニウムの熱分解によって製造されますが、

 NH4NO3 → N2O + 2H2

その他の硝酸塩あるいは亜硝酸塩を、塩化スズ(II)やナトリウムアマルガムで還元するか、

あるいはアンモニアを酸素で酸化するなどの方法でも得られます。


木片やリン、硫黄などは、この気体の中では空気中よりもよく燃えるということですが、

それよりも特徴的なこととして挙げられるのは、この気体を吸うと顔の筋肉が痙攣して笑っているように見えることから、別名「笑気」と呼ばれていることでしょう。

そしてこの性質(麻酔作用)を利用するために、酸素を体積比で25%以上混ぜた上で、吸入麻酔薬として用いられています。


イギリスの化学者ハンフリー・デーヴィーがまだ駆け出しの頃に、研究対象としていた化合物のひとつでもあります。

自分の体を実験台にして、いくつかの気体(窒素酸化物)の作用を調べていたということです。

※現在ではあまりおすすめできる研究方法ではありませんので、よい子は真似をしないようにしてください(笑)。



パイレックスガラス

2012年06月26日 23時41分15秒 | 化学のお話
パイレックスガラスは、アメリカのコーニング社から発売されている、ホウケイ酸ガラスの一種につけられた商品名です。

SiO2(二酸化ケイ素)、B23(三酸化二ホウ素)を主成分としたガラスで、

組成比は、Na2O(酸化ナトリウム):4.4%、B23:11.9%、SiO2:80.6%(すべて重量%)です。

※このほかに、少量のAl23(酸化アルミニウム:アルミナ)とアルカリ土類金属の酸化物を含んでいます。

23を含むことで、化学耐久性、耐熱性、電気絶縁性が高くなります。

耐熱ガラスとして、主に理化学機器や温度計などに用いられています。


個人的な経験ですが、このガラスでできたフラスコを使って、290℃くらいまでの高温で反応を行っていたことがあります。

最初のうちは、200℃を超えるような高温にすると割れてしまうのではないかと、びくびくしながら行っていましたが、

慣れてくると、それほどでもなくなります(慣れとは恐ろしいものですね)。

なお経験上からも、パイレックスのフラスコが割れやすいのは高温時よりも冷却しているときの方で、うまく冷却していかないと簡単にひびが入って割れてしまいます。

上手な冷却の仕方は、何個かフラスコを壊して会得しました(笑)。



ナイロン

2012年06月25日 23時39分12秒 | 化学のお話
ナイロンは、アメリカの化学メーカーであるデュポン社が開発した世界初の合成繊維で、

分子内にアミド結合(-CONH-)をもつポリアミド系合成繊維です。

当初、「ナイロン」はデュポン社の商標名でしたが、徐々にポリアミド系合成繊維の総称として用いられるようになりました。


ナイロンには様々な種類のものがありますが、

[a],[b]-ナイロン、のように前に数字が2つある場合には、

ジアミンとジカルボン酸を縮合して得られるナイロンで、最初の数字[a]が ジアミン成分の炭素数、後の数字[b]が ジカルボン酸成分の炭素数を表します。

例1) 6,6-ナイロン:
 ヘキサメチレンジアミン(H2N(CH26NH2)とアジピン酸
(HOOC(CH24COOH)を縮合することで得られます。

例2) 6,10-ナイロン:
 ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸(HOOC(CH28COOH)を縮合することで得られます。


また、[c]-ナイロン、のように数字がひとつの場合には、

アミノカルボン酸を重合して得られるナイロンで、数字[c]は、原料となるアミノカルボン酸の炭素数を表します。

例3) 6-ナイロン:
 ε-カプロラクタム(-NH(CH25CO- の両端が繋がって環状になった化合物)の開環重合によって得ることができます。


なおデュポン社が最初に開発したナイロンは、6,6-ナイロンでしたが、

「水と空気と石炭から作られ、クモの糸より細く、鋼鉄よりも丈夫な繊維」

として大々的に宣伝されて発売されました。


ナイロンは合成繊維の中で最も強く、弾性があり、耐薬品性にも優れています。

肌触りや風合いは絹によく似ているので、女性用ストッキングに重用されていますが、

それ以外に魚網やタイヤコードなどの用途もあり、衣料用から工業用まで幅広く使用されています。



灰吹法

2012年06月24日 23時34分25秒 | 化学のお話
金や銀を鉛の合金として抽出した後、骨灰でつくった皿の上で溶融することにより空気と接触させて鉛を酸化し、金や銀を分離する方法を灰吹法といいます。

酸化された鉛の大部分は骨灰でつくった皿に吸収されるか、一酸化鉛の蒸気となって蒸発するので、金や銀などはそのまま残るというわけです。

ここで硫酸または硝酸で処理すると銀のみが溶解することから、さらに金と銀を分けることができます。

※江戸時代では金と銀を分ける際に、銀を硫化銀として分離していたようです。


なお、灰吹法は古くから行われていた方法で、現在は青化法や電気分解によって金や銀は精製されています。



文は人なり

2012年06月23日 23時58分13秒 | よしなしごと
「文は人なり」:文章を見れば、書き手の人となりがわかる

と言われますが、いろいろなブログを読んでいると確かにそうだなぁ、と思います。


翻って自分の文章について考えたとき、他の人にはどんなふうに映っているのか、ということがやはり気になります。

よりよく思われたいという気持ちは、もちろんゼロではないですが、

それよりも読んでいる人を不快にさせるようなことを書いていないかどうか、という方が意識の大半を占めます。


すべての人を満足するようなことを書くのはもちろん難しいですが、

少なくとも自分の書く文章のほんの一片でも、誰かの役に立っていればいいなぁ、と思っているところです。



極性

2012年06月22日 23時30分44秒 | 化学のお話
分子内で正負の電荷の重心が一致しない場合、その分子を極性分子といいます。

また、特定の化学結合について正負の電荷の偏りがある場合には、この結合は極性がある、といいます。


例えば塩化水素(HCl)分子は水素原子の方に正電荷、塩素原子の方に負電荷が偏った極性分子になります。

水(H2O)、アンモニア(NH3)なども、酸素原子や窒素原子の方に負電荷が偏っている(水素原子の中心線方向に正電荷が偏っている)ため極性分子となります。


一方で、四塩化炭素(CCl4)や二酸化炭素(CO2)は、ひとつひとつの結合だけを見ると極性がありますが、分子全体として見ると、極性を持っていません。

これは四塩化炭素が正四面体構造、二酸化炭素が直線構造であり、分子全体として見ると正負の電荷の重心が一致するからです。

※それぞれの結合の極性をベクトルとして考えた場合、これらの分子ではその和がゼロになるため、極性を持たない分子ということになります。


極性をもつ場合、反対符号のイオンや極性結合の原子と近づきやすくなり、反応速度や誘電率などに影響が現れます。

有機化合物においては、極性基(水酸基、アミノ基、カルボキシル基などのほとんどの官能基)の存在が、化学的反応性や物理的性質を決めるといっても過言ではないと思います。



チキソトロピー

2012年06月20日 23時20分48秒 | 化学のお話
ゲル状の物質に外から力を加えると流動性をもつようになり、力を加えない状態にすると流動性を失ってもとのゲル状になる、

という現象を、チキソトロピー(thixotropy)、あるいは揺変性といいます。

この現象は一般的に可逆的で、同じ温度において見かけの粘度が一時的に変化(外力を加えることにより低下)する現象とも言えます。


ある種の塗料は、この性質を持たせることによって、

はけで塗る(外力を加える)ときには液体状になるため、塗布しやすく、
塗った後(外力が加わらない状態)では固化することから、

壁などへの塗装において、均一に塗ることができるようになります。


また、最近見かけるようになったゼリー状になっている納豆のたれも、この性質を持たせることによって、

納豆に混ぜる前は流動性がなく、混ぜる(外力が加わる)ときには液体状になって均一に混ざりやすくなるように工夫されています。


難しい言葉については知らなくても、身近にそんな現象があることは知っておいてもよいかもしれません。



昇華

2012年06月19日 22時17分01秒 | 化学のお話
ある物質が液体の状態を経ずに、固体と気体の間で変化することを昇華といいます。

一般には、固体から直接気体に変化することに対して「昇華」という言葉をよく使いますが、

興味深いことに、その逆(気体から固体へ)の変化も同じく「昇華」と呼びます。

※英語も日本語と同じでひとつの用語(sublimation)で表されますが、中国語ではこの2つの変化は区別されていて、別々の用語があるそうです。


昇華の例としてよく出てくるのがヨウ素ですが、

その他の例としては、ドライアイス(二酸化炭素の固体)や、防虫剤に使われるナフタレンおよびショウノウなどが挙げられます。

※なお、0℃以下であれば氷も昇華します。

冷凍庫にずっと入っている氷が小さくなっているのは、少しずつ昇華しているからです。



アセチレン

2012年06月18日 00時46分35秒 | 化合物のお話
アセチレン(HC≡CH)は三重結合をひとつ持つ化合物(アルキン)の中で最も簡単な構造の化合物です。

古い製造方法としては、炭化カルシウム(カーバイド:CaC2)に水を加える方法があり、多量の発熱を伴ってアセチレンが生成します。

なお現在は、天然ガスやナフサに含まれる炭素数の少ないガス成分を高温で分解する方法によって製造されています。


アセチレンの三重結合は反応性が高いため、付加反応や重合反応に利用されます。

石炭が主に使われていた時代においては、

石灰とコークス(あるいは無煙炭)から得られる炭化カルシウムをもとにアセチレンが合成され、

それが様々な化合物の原料として使われたため、アセチレンが工業的に重要な位置を占めていましたが、

石油が使われるようになってからは、その位置をエチレンやプロピレンに譲ることとなりました。


アセチレンの燃焼の際に発生する発熱量はかなり大きく、十分に酸素を供給して完全燃焼させると、約3000℃の炎(酸素アセチレン炎)を得ることができます。

そしてこれを利用して金属の溶接や切断にアセチレンが用いられます。



高分子化合物と低分子化合物

2012年06月17日 17時54分23秒 | 化学のお話
高分子化合物と低分子化合物の定義はそれぞれありますが、いくらかあいまいなところもあります。


高分子化合物は、分子量が約1万以上の化合物で、特定の構造単位が繰り返し繋がってできているものが多いです。

なお、天然に存在するもの(セルロースやタンパク質など)を天然高分子化合物、

人工的につくられるもの(ポリエチレンやポリ塩化ビニル[塩ビ]など)を合成高分子化合物、

と呼んでいます。

高分子化合物の多くのものは鎖状構造ですが、その鎖状分子の間を架橋することで、三次元の網目状の構造にすることができるものもあります。


一方の低分子化合物ですが、

一般的には分子量がおよそ1000以下(場合によっては2000以下)の化合物を指しています。

(「低分子」は「高分子」に対して使われる言葉なので、あまり明確な定義があるわけではないようです)。


そうなると分子量が1000超~1万以下の化合物が抜けているように思いますが、

このあたりを指す言葉としては、「オリゴマー」というものがあります。

オリゴマーは、一般的に分子量が500~1万程度のもので、高分子化合物のように特定の構造単位が繰り返し繋がってできているものを指します。

(すなわち、繰り返し単位が2~20程度の、高分子化合物の小さなものといったイメージになるでしょうか)。


高分子化合物や低分子化合物、さらにオリゴマーについては、人によって微妙に指しているものが異なっていたりしますので、

ある程度こんなもの、というような理解の仕方で十分のように思います。




ルビーとサファイア

2012年06月16日 22時07分38秒 | 化学のお話
ルビーとサファイアは、一見するとまったく別物のように思いますが、

主成分は同じ酸化アルミニウム(Al23)です。

違いを決めるのは、不純物として含まれる微量の成分で、クロムが含まれると紅色(ルビー)になり、微量のチタンが含まれると青色(サファイア)になります。

どちらもコランダム型構造という結晶構造をとっていて、微量のクロムやチタンはアルミニウムと置き換わる形で含まれています。

※コランダム型構造は、酸素原子をなるべく隙間が少なくなるように充填したとき、その空間にアルミニウム原子が入り込む形の構造です。

酸化アルミニウムの組成がAl23なので、酸素がつくる隙間のうちの2/3の部分にアルミニウムが入っていることになります。


なお、ルビーはミャンマーやスリランカなどで、またサファイアは北米やスリランカで多く産出され、宝石としての用途があることはご存知の通りです。