晴れときどき化学、ところにより雑想

もしかしたら何かの役に立つかもしれない化学のお話(と、よしなしごと)

一酸化二窒素

2012年06月27日 23時07分21秒 | 化合物のお話
一酸化二窒素(N2O)は、亜酸化窒素とも呼ばれ、常温・常圧では無色透明の気体です。
(なお、液体も固体も無色透明です)。

構造は直線状の分子で、N-N-Oの順でつながった形をとっています。


工業的には以下のように硝酸アンモニウムの熱分解によって製造されますが、

 NH4NO3 → N2O + 2H2

その他の硝酸塩あるいは亜硝酸塩を、塩化スズ(II)やナトリウムアマルガムで還元するか、

あるいはアンモニアを酸素で酸化するなどの方法でも得られます。


木片やリン、硫黄などは、この気体の中では空気中よりもよく燃えるということですが、

それよりも特徴的なこととして挙げられるのは、この気体を吸うと顔の筋肉が痙攣して笑っているように見えることから、別名「笑気」と呼ばれていることでしょう。

そしてこの性質(麻酔作用)を利用するために、酸素を体積比で25%以上混ぜた上で、吸入麻酔薬として用いられています。


イギリスの化学者ハンフリー・デーヴィーがまだ駆け出しの頃に、研究対象としていた化合物のひとつでもあります。

自分の体を実験台にして、いくつかの気体(窒素酸化物)の作用を調べていたということです。

※現在ではあまりおすすめできる研究方法ではありませんので、よい子は真似をしないようにしてください(笑)。



アセチレン

2012年06月18日 00時46分35秒 | 化合物のお話
アセチレン(HC≡CH)は三重結合をひとつ持つ化合物(アルキン)の中で最も簡単な構造の化合物です。

古い製造方法としては、炭化カルシウム(カーバイド:CaC2)に水を加える方法があり、多量の発熱を伴ってアセチレンが生成します。

なお現在は、天然ガスやナフサに含まれる炭素数の少ないガス成分を高温で分解する方法によって製造されています。


アセチレンの三重結合は反応性が高いため、付加反応や重合反応に利用されます。

石炭が主に使われていた時代においては、

石灰とコークス(あるいは無煙炭)から得られる炭化カルシウムをもとにアセチレンが合成され、

それが様々な化合物の原料として使われたため、アセチレンが工業的に重要な位置を占めていましたが、

石油が使われるようになってからは、その位置をエチレンやプロピレンに譲ることとなりました。


アセチレンの燃焼の際に発生する発熱量はかなり大きく、十分に酸素を供給して完全燃焼させると、約3000℃の炎(酸素アセチレン炎)を得ることができます。

そしてこれを利用して金属の溶接や切断にアセチレンが用いられます。



キチン

2012年06月15日 21時35分25秒 | 化合物のお話
キチンは、エビの殻やカニの甲羅、昆虫の殻、さらには菌類の細胞壁の構成成分です。

その構造は、N-アセチルグルコサミン(ブドウ糖のOH基のひとつがアセトアミド基[CH3CONH-]で置換された化合物)が、平均でおよそ850個ほどつながったものです。


キチンは有機溶媒や水、薄い酸や薄い塩基には溶けません。

キチンに濃塩酸を作用させると、加水分解されて単糖であるグルコサミンと酢酸が得られます。

一方でキチンに濃水酸化ナトリウム水溶液を作用させると、アミド結合の部分だけが加水分解されて、キトサン(グルコサミンのポリマー)と酢酸が得られます。


キチンを分解する酵素としてはキチナーゼが挙げられますが、ヒトにはその酵素はありません。

ただしヒトの体内ではリゾチームなどの酵素によって分解されるため、毒性や安全性に関して問題はない化合物です。



ベンゼン

2012年05月30日 06時56分39秒 | 化合物のお話
ベンゼン(C66)は、ファラデーが発見し、ケクレによってその構造が提案された化合物で、

6個の炭素原子が平面上に正六角形を構成するように配置されています(いわゆるベンゼン環です)。


ナフサから得られる改質ガソリンや、分解ガソリン中に存在し、分留や抽出によって得られます。

特有のにおいのある揮発性の化合物(常温では液体)であり、蒸気を吸入すると有毒です。


ベンゼンは化学的には比較的安定な化合物ですが、強力な反応剤によって、置換反応や付加反応を受けます。

そしてそれを利用することにより、各種化学製品の合成原料(出発物質)として使用されています。

いくつか例を挙げてみると、

・エチレンとの反応によりエチルベンゼンを生成 → スチレン(合成ゴムや樹脂の原料)。

・水素添加してシクロヘキサンを生成 → アジピン酸、ヘキサメチレンジアミン、ε-カプロラクタム(ナイロンの原料)。

・プロピレンとの反応によりイソプロピルベンゼンを生成 → フェノール(医薬品や樹脂の原料)とアセトン(溶剤や中間原料)。

などがあります。


普段の生活でベンゼンそのものを見たり感じたりする機会はほとんどないと思いますが、

ベンゼンをその構造の一部に持つ、いろいろな化合物を利用していることになります。



アスパルテーム

2012年05月10日 23時36分07秒 | 化合物のお話
アスパルテーム(L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル)は、

L-アスパラギン酸とL-フェニルアラニンのメチルエステルが結合したジペプチドの人工甘味料(合成甘味料)です。

白色の結晶性の物質で、1965年にその甘味が偶然発見されました。


アスパルテームは、ショ糖(砂糖)の約200倍の甘味を持ち、低カロリーでサッカリンのような苦味もありません。

またショ糖によく似た甘味で、食塩やクエン酸が一緒に存在すると甘味が増強されるという特徴があります。

ただし加熱には弱く、強酸条件下およびアルカリ条件下では分解して甘味を失うので、主に加熱しない食品に使用されています。

※ショ糖によく似た甘味ということで食品用の香料とよく調和しますが、ある種の香料とは相互作用を生じるので、その場合には成分の調整や変更が必要となります。


アスパルテームの構成要素であるL-アスパラギン酸は特徴のある味ではなく、またL-フェニルアラニンは苦い味でしかないのですが、

この2つのアミノ酸をアスパラギン酸-フェニルアラニンの順に結合させて、フェニルアラニン側のカルボキシル基をメチルエステルとすることで、予想できない甘味が発現することになります。


なお、アスパルテームは体内で消化されてその構成要素(L-アスパラギン酸、L-フェニルアラニン、メタノール)に分解され、通常の経路で代謝されます。



サッカリン

2012年05月09日 22時41分31秒 | 化合物のお話
サッカリンは人工甘味料(合成甘味料)のひとつで、わりと古くから使われています。

※日本では1961年に食品添加物に指定されています。

白色の結晶あるいは粉末状の物質で、O-トルエンスルホンアミドを酸化した後、無水物にすると得ることができます。

※発見された経緯は、O-トルエンスルホンアミドの酸化についての研究中でした。

水に溶けにくいため、通常はナトリウム塩(あるいはカルシウム塩)として用いられます。


サッカリンの甘味はショ糖(砂糖)の約200~700倍ですが、独特の苦味の(ある種金属的な?)後味もあります。

※ただし濃度が薄いと苦味が少なくなり、甘みが増す特徴もあります。


熱や酸に弱く、分解すると甘味が失われるので、主に加熱しない食品に用いられています。



酸化亜鉛

2012年04月20日 23時43分08秒 | 化合物のお話
酸化亜鉛は、亜鉛華、亜鉛白とも呼ばれる無定形の白色粉末です。

精製した炭酸亜鉛を600℃で熱分解することで、純度の高い酸化亜鉛を得ることができます。

また、炭酸水酸化亜鉛を400℃以上で熱分解すると、多孔質の酸化亜鉛が得られます。

工業的には、金属亜鉛を空気中で燃焼させてつくります。


酸化亜鉛は水にはほとんど溶けませんが、薄い酸や濃い塩基には溶解する両性酸化物です。

空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する性質があります。


用途としては、白色顔料としてペイントや絵の具などに広く用いられています。

粒子の細かいものは化粧品や医薬品にも用いられます。


※日焼け防止クリーム(いわゆる日焼け止め)の中には酸化亜鉛(亜鉛華)が入っているものがありますが、

これは酸化亜鉛によって紫外線が反射・散乱する効果を利用したものです。



グリセリン

2012年04月18日 23時27分45秒 | 化合物のお話
グリセリン HOCH2CH(OH)CH2OH は、

グリセロール、1,2,3-トリヒドロキシプロパン、1,2,3-プロパントリオールなどとも呼ばれる化合物です。

脂肪酸とのエステルであるグリセリド(※)として、動植物油脂中に広く存在する(最も単純な)三価アルコールです。

※パルミチン酸やステアリン酸などの脂肪酸とのエステルを、グリセリドと言います(油脂の主成分)。

なお、「グリセリン」はギリシア語で「甘い」という意味の言葉から名づけられました。


グリセリンは粘性があり、無色透明で甘味をもつ吸湿性の液体で、水、エタノールには任意の割合で混合することができます。

油脂の加水分解や、セッケン製造の副産物として得られ、工業的にはプロピレンから合成されます。


グリセリンの用途は多様で、合成樹脂(主にアルキド樹脂)、ポリウレタン、可塑剤の原料、薬品や化粧品等、様々なものがあります。
(ニトログリセリンの原料としても有名です)。

また、食品添加物としても安全なものとして認可されています。



尿素

2012年04月14日 00時53分04秒 | 化合物のお話
尿素は炭酸のジアミド化合物で、カルバミドとも呼ばれます。

無色の柱状結晶であり、融点は132.7℃です。

またこの化合物はアンモニア臭があり、水によく溶けます(水1mlに尿素1gが溶解します)。

人体や動物の体内でタンパク質が分解するときに生じるアミン類が、尿素の形で無毒化されて尿として排出されることからこの名前がつきました。

ヴェーラーによって、無機化合物(シアン酸アンモニウム)から初めて合成された有機化合物としても知られています。

工業的には、二酸化炭素とアンモニアを高温・高圧条件で反応させた後、脱水する方法で製造されます。


尿素は中性の窒素肥料として硫酸アンモニウム(硫安)よりも肥効性があるため重要です。

また合成樹脂の原料としても有用で、種々のアルデヒド(代表的なものとしてはホルムアルデヒド)と反応して熱硬化性樹脂(尿素樹脂)をつくります。

さらに製紙工業においては、セルロースの軟化剤としても利用されています。



ジエチルエーテル

2012年04月01日 21時14分35秒 | 化合物のお話
ジエチルエーテル(C25OC25)は、エチルエーテル、エトキシエタン、あるいは単にエーテルとも呼ばれる化合物で、特有の臭気を持つ揮発性の液体です。

引火点がかなり低く(-45℃)、麻酔作用があるのが特徴で、主に有機合成や抽出の際の有機溶媒として用いられます。


ジエチルエーテルは、エタノールに濃硫酸を作用させて、140℃で脱水縮合することにより工業的に製造されます。

実験室では、ハロゲン化エチル(例えばヨウ化エチル)と、ナトリウムエトキシドを反応させることにより得られます。


この化合物は、光や空気と長時間接触していた場合に爆発性の過酸化物を生成するので、蒸留前には過酸化物の有無を確認した方がよいです。

その方法としては、
ジエチルエーテルをヨウ化カリウムの酸性溶液と振とうします。

そしてもし黄色いヨウ素が生成した場合には過酸化物があるということになりますので、

硫酸鉄(II)の水溶液とよく振って過酸化物を除去し、乾燥させてから蒸留します。


また、気体のジエチルエーテルは空気と爆発性の混合物をつくり、きわめて引火しやすいので、取り扱いには特に注意が必要になります。


かなり昔には、医療用の麻酔として使われていたこともありますが、現在はその目的での使用はほとんどないようです。



アクリロニトリル

2012年03月29日 23時15分19秒 | 化合物のお話
アクリロニトリルは、プロペンニトリル、シアン化ビニルとも呼ばれる化合物で、CH2=CHCNという構造を有しています。

無色の引火性の液体であり、甘い臭気があって猛毒の化合物です。

光により徐々に黄色に着色し、強酸、強塩基、硝酸銀などの存在下で爆発的に重合する性質があります。

※保存方法としては、空気に触れるのを避けるため不活性ガスを封入した上で、重合禁止剤としてアンモニア、塩化銅(I)などを加えて冷暗所にて保管します。


アクリロニトリルは活性の高い二重結合を持っているので、ディールス・アルダー反応における親ジエン化合物として反応させることができます。

また、塩基触媒の存在下で、アルコール、アミン、アミド、アルデヒドなどの活性水素を持つ化合物を二重結合に付加させることも可能です。


アクリロニトリルの製法は、

1)塩化銅(I)触媒存在下でアセチレンにシアン化水素を付加させる。

2)エチレンオキシドとシアン化水素からエチレンシアノヒドリンを合成して脱水反応を行う。

3)金属触媒の存在下、プロピレンとアンモニアと空気から合成する(プロピレンのアンモ酸化(ソハイオ法)による)。

などがありますが、現在は上記の3)の方法で工業的に製造されています。


また用途としては、

・アクリル繊維、合成ゴム(ニトリルゴム)、合成樹脂の原料

・塗料や接着剤、医薬品、染料などの原料

・酸化防止剤、界面活性剤などの合成中間体

・貯蔵用穀類のくん蒸殺虫剤

などが挙げられます。



ビタミンC

2012年03月04日 13時39分08秒 | 化合物のお話
ビタミンCは、L-アスコルビン酸という化合物のことです。

水溶性ビタミンの一種で、コラーゲンの生成に必要であり、鉄分、カルシウムなどの吸収を促進するなどの働きがあります。

もしビタミンCが不足すると壊血病になったり、風邪をひきやすくなったりします。

※壊血病は、体の中で出血性の障害が出る病気で、昔は長期の航海において新鮮な野菜を食べられなかった船乗りがよくかかった病気です。

また、みずみずしいお肌を保つためにもビタミンCが必要と言われます。


ビタミンCを比較的多く含む食品としては、ブロッコリー、ほうれん草、イチゴ、レモン、みかんなどがあります。

ビタミンCに限らず、多くのビタミンは身体の中でつくることができないので、食物から取らなければなりません。
(1日の所要量としては100mgといわれています)。

バランスよく食べることが必要といわれる理由のひとつが、これらのビタミンをきちんと摂取することにあります。

そして風邪をひいた場合や、ストレスが多いときなどには、このビタミンCが通常よりも多めに必要になります。


なお、ビタミンCには抗酸化作用があることから、食品の酸化防止剤として使われたりもしています。



一酸化炭素

2012年02月22日 23時05分01秒 | 化合物のお話
一酸化炭素は、無色、無臭で有毒な可燃性の気体で、工業的には様々な種類の化合物の原料として有用です。

工業的な製法には、ナフサの水蒸気改質や、石油・石炭の部分酸化などがあります。

また身近な例としては、炭素や炭素化合物が不完全燃焼した場合に生じます。


いわゆる一酸化炭素中毒は、酸素分子(O2)と一酸化炭素分子(CO)の構造がよく似ていることに理由があります。

酸素の場合は、ヘモグロビンに結合したり離れたりすることができます(そのためヘモグロビンが酸素を身体中に運ぶことができます)が、

一酸化炭素がヘモグロビンに結合してしまうと、酸素の場合と違ってそれを離すことができないので、結果的にそのヘモグロビンは使い物にならなくなります。

そのため窒息してしまう、というわけです。

※構造の良く似た化合物が毒になるという一例といえます。


ガスや炭などの不完全燃焼によって一酸化炭素は簡単に発生してしまうので、火を使うときにはきちんと換気をするようにしてください。



オゾン

2012年02月21日 22時37分15秒 | 化合物のお話
オゾン(O3)は酸素の同素体で、酸素原子3個が曲がった形で結合している物質です。

成層圏にあるオゾン(オゾン層)は、エネルギーが高く有害な短波長側の紫外線を吸収してくれます。


その仕組みですが、

まず酸素分子(O2)に極短波長の紫外線が当たることで遊離の酸素原子が生成し、それが酸素分子と結びつくことでオゾンができます。

そしてオゾンは、上に書いた短波長側の紫外線を吸収することで分解して酸素分子に戻る、

という循環です。


環境問題のひとつとして挙げられるオゾン層の破壊は、フロンなどに代表されるクロロフルオロカーボン(CFC)によって引き起こされますが、

その問題点は、有害な紫外線から生物を守ってくれている「防護壁」が壊されてしまうということにあります。

※CFCはかなり安定な化合物で、オゾン層のあるところまで壊れずに到達することができることから、結果的に悪さをすることになるというわけです。


また、オゾンは強力な酸化剤でもあることから、水の殺菌や排水施設での臭気処理などに利用されていますが、

強力な酸化剤という性質上、オゾンそれ自体は生物にとって有毒な化合物になります。


※あまり近付き過ぎずに、遠くから見守ってあげる方がよい化合物と言えるかもしれません。



エチレン

2012年02月20日 22時40分41秒 | 化合物のお話
エチレンは C2H4 で表される化合物で、原油を分留して得られるナフサを、熱分解することによって得ることができます。

※ここで分留というのは、沸点の違いを利用して(蒸留によって)成分を分けるという方法です。


こうして得られたエチレンは、工業用として使われる様々な化合物の原料となるわけですが、

その一方でエチレンには植物ホルモンとしての顔もあります。


果物の多くはこのエチレンによって成熟することが知られています。

例えば、バナナは青いうちに収穫された後、成熟させてから出荷されますが、成熟させる際にエチレンが使われます。


また、りんごはエチレンを放出しやすいので、食べ頃には少し早いかな、という果物をりんごと一緒に置いておくと、比較的早く食べ頃になるので便利(?)です。


その一方で、りんごと花が開く前のカーネーションを同じ場所に置いておくと、カーネーションの花が開かなくなるという現象があったことから、

エチレンには植物の成長を促進する場合と、成長を阻害する場合があることがわかりました。


ホルモンというと複雑な構造の化合物を思い浮かべることが多いと思いますが、

エチレンのようなかなり単純な化合物が植物に対して作用するということを考えると、なんだか不思議な気がします。