晴れときどき化学、ところにより雑想

もしかしたら何かの役に立つかもしれない化学のお話(と、よしなしごと)

パラジウム

2012年04月23日 23時29分38秒 | 元素のお話
パラジウムは光沢のある銀白色の金属で、展性・延性に富む性質をもつため、金と同様に厚さ1μmの薄い箔をつくることができます。

その名前の由来は、その頃新しく発見された小惑星パラス(Pallas)にちなんでいます。

またパラジウムに特徴的な性質として、自分自身の体積の約900倍もの水素を吸蔵することが挙げられます。


パラジウムの最も重要な用途は触媒です。

主なものとしては、水素化反応(部分水素化に優れた選択性をもつ)、酸化反応、脱水素化反応がありますが、

アセチレン化合物の部分水素化を行う際に使用するリンドラー触媒が有名です。

また、硝酸やテレフタル酸(PETボトルなどに使われるPET樹脂の原料)を合成する際の触媒としても用いられています。


なお、触媒として使用される際には、活性炭に坦持させたもの(パラジウムカーボン)、あるいはシリカやアルミナなどの各種無機物に坦持させたものを用いる場合が多いです。

具体的な製品への用途は、自動車用がその生産量の6割程度を占めていて、排気ガス中に含まれる不完全燃焼のガソリンを処理するための触媒転換器に用いられています。


それ以外の多少し変わった用途としては、銀にパラジウムを添加することで、表面に生じる黒ずみを抑えることができます。

そのため、重要な記念用のメダルなどにはパラジウムを添加することが多いようです。



タングステン

2012年04月15日 16時03分43秒 | 元素のお話
タングステンは光沢のある銀白色の金属です。

元素名のタングステンは、スウェーデン語の「重い石(tung sten)」に由来しています。

その一方で元素記号の方はラテン語の「wolframium」(鉄マンガン重石(wolframite)がもとになったもの)からきています。


金属タングステンは、現在では鉄マンガン重石や灰重石から酸化タングステンを得た後、水素で還元することにより得られています。

金属中で最高の融点(約3400℃)を有することが特徴で、高温でも高い強度を保ち、細い線に加工することができます。

そしてこの性質を利用し、白熱電球のフィラメントに使われているのが有名です。

なお、純粋な金属タングステンは、アーク溶接用電極や、高温加熱用の炉の発熱部分に耐熱用材料としても使われています。


タングステンは、鋼の添加元素としても特徴的な性質を有しています。

鉄鋼にタングステンを加えることで著しく強度が増すことが知られています。

タングステンが含まれた鋼は、焼き入れによる硬さが大きくなり、耐摩耗性が非常に高くなります。

そのため刃物や、銃身や大砲の材料などにも用いられます。

さらに高速度鋼と呼ばれる、工具をつくるために用いる特殊鋼にも使用されていて、これにはタングステンが12%以上含まれています。

※高温になっても硬さが変わらないのが特徴です。


また、炭素との化合物である炭化タングステン(WC)はさらに硬い材料のため、切削工具(機械工作用工具)に利用されています。



マグネシウム

2012年03月24日 11時39分32秒 | 元素のお話
マグネシウムは銀白色の光沢がある金属で、比較的やわらかい性質の金属です。

フランスのビュシーが、塩化マグネシウムを金属カリウムで還元することにより、はじめて単体として得られました。

※ちなみにマグネシウムの名前は、かつてマグネシウムを含む鉱物を産出していたギリシアのマグネシアという地名に由来しています。


マグネシウムは、海水や様々な鉱物に含まれていますが、単体では存在していません。

純金属の状態では酸化されやすい性質ですが、室温では表面に酸化皮膜が形成されるため、それ以上酸化されない状態となります。


マグネシウムは比重がアルミニウムより軽いため、軽量化を目的として合金の形で航空機や自動車の部品に使われますが、製造コストが高いのが難点でもあります。


金属マグネシウムは塊の状態では燃やすことが難しいですが、粉末やマグネシウムリボンのような反応しやすい形にすると燃えやすくなります。

また、その適度な反応性の高さを利用して、チタンを精製する際の還元剤として使用されています。


マグネシウムはヒトや動物にとって必須元素のひとつであり、何らかの形で摂取する必要がありますが、通常の食事を摂っている限りは問題にならないと言われています。

また、クロロフィル(葉緑素)の中心部分にはマグネシウムが存在することから、植物にとってもマグネシウムは重要な元素であることがわかります。


※余談ですが、にがりの中にも硫酸マグネシウムなどの形でマグネシウムが含まれていて、それが苦味を感じる理由のひとつになっています。



リン

2012年03月23日 20時41分13秒 | 元素のお話
リンの元素名は「光をもたらすもの」という意味のギリシア語からきています。
(空気中で発光することからその名前が与えられました)。
  
リンの発見については、ドイツの錬金術師ブラントによって、ヒトの尿を蒸発させて得られた残留物から分離されたのが最初と言われています。

天然には質量数31の安定同位体が100%存在しており、リン灰石などのリン酸塩の形で産出されます。


リンの同素体の主なものとしては、以下のものがあります。

○白リン(黄リン)

不純物(赤リンの薄い皮膜など)で黄色く見えるため、黄リンと呼ばれることが多いです。

リンの同素体の中では最も反応性が高く、空気中で発火するため、水中で保存します。

また猛毒であり、致死量は0.15gです。

経皮吸収されて中毒を起こすこともあるので、使用時には換気が必要になります。
(大気中の濃度は0.1mg/m3以下であることが定められています)。


○赤リン

暗赤色の粉末で、白リンを空気のない条件で300℃に加熱すると得られます。

最近はあまり見かけなくなっていますが、マッチの側薬(箱の方に塗ってある茶色の部分:発火剤)として使われているのが有名です。


リンを含む有機化合物は主に農薬、殺虫剤として使用されています。

これらは、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)の作用を阻害することにより、害虫に対する神経毒として効果を発揮します。

※なお、これらの殺虫剤はリン酸エステル型の構造を持っているため、環境中で比較的すみやかに分解されるのが特徴です。


生物に含まれるリン化合物の中で代表的なものとしては、DNAやRNAなどの核酸が挙げられます。

さらに生体にとって重要なものとしては、ATP(アデノシン三リン酸)があります。

これはエネルギーを蓄えておきながら必要なときに供給することのできる分子で、ATP分子内のリン酸結合が比較的大きなエネルギーを蓄えていることによるものです。

※細胞がエネルギーを必要とするときには、このリン酸結合を分解することで生じるエネルギーを利用することになります。



フッ素

2012年03月17日 19時18分07秒 | 元素のお話
フッ素の単体は、常温で淡黄緑色の気体(ニ原子分子)で、特有の臭気があります。

フッ素はきわめて激しい化学反応性を有していることから、ほとんどの元素と直接作用してフッ化物をつくるのが特徴です。

またこの高い反応性のため、フッ素は通常は単体では存在せず、何らかの化合物の形で存在しています。
(主にホタル石(CaF2)や、氷晶石(Na3AlF6)などの鉱物中に含まれています)。

さらにフッ素は最大の電気陰性度を持つ元素でもあります。

なお、天然に存在する同位体としては、質量数19のものだけが存在します。


フッ素原子は、有機化合物を構成する原子の一部となることで、特異な性質を発現します。

フッ化水素酸や単体のフッ素とは対照的に、有機化合物中の水素原子をフッ素原子に置き換えたものは極端に安定で、かつ無害なものが多いです。

その高い安定性は、耐熱性、耐薬品性に優れる性質となって現れます。

身近にある焦げ付きにくいフライパン、炊飯器釜の内面のコーティングなどは、その表面にテトラフルオロエチレンの被膜(ポリテトラフルオロエチレン)をつけたものです。

また歯磨きの中にフッ化物を添加しているものがあります。

これは歯のエナメル質をフルオロアパタイト(フッ素リン灰石)に変化させることで、虫歯菌がつくる酸への抵抗性を増すことをねらっているものです。


有名な有機フッ素化合物として、フロン(クロロフルオロカーボン)があります。

かつて、冷蔵庫、クーラーなどの冷媒、電子部品製造時の洗浄剤などの用途で多量に使用されていました。

極度に安定で、なおかつ無害な化合物ということもあり、様々な産業でフロンが使われていたことは記憶に新しいことと思います。

しかし、フロンがオゾン層を破壊する原因となることが判明して以来、世界中で製造や使用が規制されるようになりました。

※また、フロンには温室効果を持つものがあることもわかってきています。



リチウム

2012年03月11日 21時43分07秒 | 元素のお話
リチウム(Li)は銀白色の軟らかい金属で、ナトリウムやカリウムと同じアルカリ金属に分類されます。

※リチウムの名前は、ギリシア語の「石」にちなんで命名されました。

炎色反応では、きれいな赤色(深紅色)を発します。

リチウムは全ての金属の中で最も軽い金属であり、密度は0.534g/cm3 です。

単体は、塩化リチウムと塩化カリウムの混合塩を450℃に加熱して溶融させてから、電気分解することで得ることができます。


リチウムの用途はいろいろありますが、リチウム電池が最も有名です。

・リチウム一次電池(充電不可能)

金属リチウムを負極側に使っているタイプの電池です。

円筒形のものやボタン型(コイン型)などの様々な形状のものがあり、小型電池として、ガスや水道のメーター、電卓や腕時計などに使われています。

特徴としては、小型軽量で長寿命で信頼性も高く、使用可能な温度範囲が広いことが挙げられます。


・リチウム二次電池(リチウムイオン電池:充電可能)

リチウムを電池に用いれば高性能の二次電池を作れることは、かなり以前からわかっていましたが、電池の充電と放電を繰り返すとリチウム金属が樹脂状に析出して不安定となってしまうため、課題となっていました。

いろいろな検討の結果、負極に炭素(黒鉛)、正極にリチウム化合物のLiCoO2(コバルト酸リチウム)、電解液に有機電解液を用いることで、問題が解決し実用化されました。

リチウムイオン電池は、携帯電話やノートパソコン、電気自動車などの多くの用途に使用され、急速に普及しています。



水素

2012年03月05日 22時18分46秒 | 元素のお話
水素は、無色・無臭で、最も密度の小さい気体(空気の約14分の1)です。

水素の名前の由来は、「水を生成するもの」という意味のギリシア語が元で、フランスの化学者であるラヴォアジェによって提案されました。


水素の同位体には以下の3種類があります。

・質量数1のもの:(特にプロチウムとも言います:H)、存在比:99.985%
・質量数2のもの:デュウテリウム(重水素:D)、存在比:0.015%
・質量数3のもの:トリチウム(三重水素:T)、放射性同位体で半減期が12.35年

※質量の差が大きく、性質がかなり異なるのでそれぞれに特別な名前がつけられているのが特徴です。


水素は、常温ではほとんど反応性がありませんが、高温状態や触媒を用いることで多くの物質と直接反応します。

酸素や空気の存在下で燃焼させると、爆発的に反応して水を生成します。


アンモニアや塩化水素、多くの有機化合物の原料としても水素は重要な位置を占めています。

※特にアンモニアは、硝酸を経由して化学肥料や火薬などを作るための重要な原料になっています。

また原料としてだけでなく、燃焼によって大きなエネルギーが得られることから、ロケットなどの液体燃料としても使用されていますし、最近は、燃料電池の燃料としても注目を集めています。


水素は、星のエネルギー源である核融合反応の原料にもなっています。

太陽をはじめとする恒星の多くは、核融合反応によって発生するエネルギーによって輝いています。

太陽における主な核融合反応は、4個の水素原子核(陽子)から1個のヘリウム原子核ができるものであり、この過程で大きなエネルギーが生じます。

また、水素は宇宙で最初にできた元素で(同時に宇宙でもっとも多い元素で)、太陽には重量比で約74%含まれています。
(残りは、ヘリウム:約25%、その他:1%となります)。