「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.523 ★ 日本の沖ノ鳥島近海に観測ブイを設置した中国の軍事・経済的思惑  地球温暖化から沖ノ鳥島を守るために日本は科学技術を総動員せよ

2024年07月29日 | 日記

JBpress (横山 恭三:元空将補、現在(一財)ディフェンス リサーチ センター研究委員)

2024年7月25日

沖ノ鳥島は激しい風雨や強烈な太陽光により護岸コンクリートの劣化が激しく、頻繁な補修が必要になる(国土交通省のサイトより)

 2024年7月5日、政府は、中国の海洋調査船「向陽紅22」が太平洋の「沖ノ鳥島」北方に位置する日本の大陸棚(「四国海盆海域」)の海域にブイ(浮標)を設置したことを明らかにした。

 中国のブイは、これまで沖縄県・尖閣諸島周辺で確認されていたが、太平洋側では初めてである。

 目的や計画などの詳細を示さないまま設置したとして、林芳正官房長官は記者会見で「遺憾だ」と表明するとともに、「中国の海洋活動全般に様々な懸念や疑念がある」と指摘した。

 海洋の法的秩序の根幹を成す「国連海洋法条約」は、排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)(以下、EEZとする)および大陸棚における「海洋の科学的調査」について、沿岸国の同意を義務付ける一方で沿岸国は通常同意を拒絶できないとする「同意レジーム」を柱に、具体的な手続き規定を設け、沿岸国と調査国の権利義務を定めている。

 我が国は、国連海洋法条約等に基づき、我が国の大陸棚および排他的経済水域において、外国が「海洋の科学的調査」を行うことは我が国の同意がない限り認めないこととしている。

 このため、外国海洋調査船等に対し巡視船艇・航空機により監視を行い、我が国の同意がないものに対しては、現場海域において中止要求を行うとともに、外務省等関係機関に速報するなどにより対処している。

 さて、上記の日本の指摘に対して、中国側は「ブイは津波観測用で、日本が大陸棚に対して有する主権的権利を侵害するものではない」と応じたという。

 筆者は、今回の中国のブイの設置は、沖ノ鳥島を基点とするEEZと大陸棚の設定は認めないとする中国の意思表示であり、かつ中国は将来この海域をなし崩し的に中国海軍が自由に航行できる公海にしようとする思惑があると見ている。

 沖ノ鳥島について、日本は沖ノ鳥島は国連海洋法条約のもとでも島であり、沖ノ鳥島を基点にしてEEZと大陸棚を設定することができるとの見解を示している。

 一方、中国は、沖ノ鳥島は国連海洋法条約121条3項で規定されている岩であるので、沖ノ鳥島を基点としてEEZと大陸棚を有することはできないと主張している。

 日中の主張の詳細は後述する。

 沖ノ鳥島を取り巻く危機には、地球温暖化によって水没する危機と同島の法的地位が「島」から「岩」へ変わる危機がある。

 本稿では、沖ノ鳥島を取り巻く危機への対応と、沖ノ鳥島近海で活発に活動する中国海軍の狙いについて述べてみたい。

 以下、初めに沖ノ鳥島の概要について述べ、次に日本政府による大陸棚限界延長申請と中国による口上書の提出について述べ、最後に西太平洋海域へ進出する中国の狙いについて述べる。

1.沖ノ鳥島の概要

 本項は、国土交通省「沖ノ鳥島の直轄海岸管理」などの資料を参考にしている。

(1)沖ノ鳥島の重要性

 沖ノ鳥島は、我が国の国土全体の面積(約38万平方キロ)を上回る約40万平方キロものEEZをもつきわめて重要な島である。

 なぜなら、EEZを持つ国はその水域内にある生物や鉱物などの資源を調査、開発、保存する権利をもつことができるからである。

 周辺海域にはコバルトやマンガン(いずれも特殊鋼の材料等に使用)など貴重な海洋鉱物があると考えられている。また、周辺海域は、漁業資源が豊富で、漁場としても有望である。

(2)全景写真

 下の図1は沖ノ鳥島の全景写真である。写真左側が北小島、右側奥が東小島、右側手前が保全拠点と観測所基盤である。

図1:沖ノ鳥島の全景写真

出典:国土交通省「沖ノ鳥島の直轄海岸管理」

(3)地理

 沖ノ鳥島は、北緯20度25分、東経136度04分に位置し、東京から約1700キロ、小笠原諸島父島からでも約900キロ離れた我が国最南端の島である。

 この島は東西に約4.5キロ、南北に約1.7キロ、周囲11キロの卓礁で、我が国の国土面積(約38万平方キロ)を上回る約 40万平方キロのEEZを有する国土保全上極めて重要な島であるが、満潮時には北小島、東小島の2つの島が海面上に残るのみとなっている。

「高潮時、沖ノ鳥島の北小島は16センチ、東小島は6センチしか海上に出ていない」(出典:日本財団「沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団」報告書2005年2月)

 この2つの小島が侵食により水没する恐れがあったため、1987年から護岸の設置等の保全工事を実施した。

 このような背景のもと、1999年には国土保全上極めて重要である沖ノ鳥島の保全に万全を期するため、全額国費により国土交通省(当時建設省)が直接海岸の雑持管理を行うことになった。

(4)沿革

1543年:スペイン船サンファノ号が発見(沖ノ鳥島かどうか異議あり)
1931年:「沖ノ鳥島」と命名し、東京府小笠原支庁に編入(内務省告示)
1939年~41年:気象観測所ならびに灯台建設工事
1952年4月28日:米国の信託統治下に置かれる
1968年6月26日:小笠原の返還に伴い、沖ノ鳥島およびその領水(国家の領域に属する一切の水域)が米国より日本に返還される
1982年12月10日:国連海洋法会議において、海洋法条約成立(200海里のEEZ等を規定)
1983年2月7日: 国連海洋法条約に署名
1987年10月14日:東京都により海岸保全区域に指定
1987年11月1日:建設省による直轄工事の開始
1994年11月16日:国連海洋法条約発効
1996年6月14日:「領海及び接続水域に関する法律」の改正および「EEZ及び大陸棚に関する法律」を公布
2004年:観測施設上にCCIVカメラを設置
2004年8月:東京都において、「伊豆・小笠原諸島沿岸海岸保全基本計画」を策定
2005年:観測施設上に海象観測用レーダーを設置
2005年5月20日:石原慎太郎東京都知事(当時)沖ノ鳥島視察のため上陸
2007年3月16日:沖ノ鳥島灯台の運用開始
2019年7月:新観測拠点施設の運用開始

(5)筆者コメント

 地球温暖化により今後100年間で40センチの海面上昇が予想されている。高潮時、沖ノ鳥島の北小島は16センチ、東小島は6センチしか海上に出ない。

 島が水没すれば領海すら認められなくなる。何もしなければ、沖ノ鳥島が水没するのも時間の問題であり、早急に対策を取らなければならない。 

 日本財団の「沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団」報告書では、主として次のことを提言している。

ア.「サンゴ及び有孔虫の培養による砂浜の自然造成」

 沖ノ鳥島リーフ内の潮流を研究し、吹き溜まりを作り砂浜の自然造成を行なう。

 砂の材料としてサンゴや有孔虫(星の砂)の培養を行なう。

 環礁内の一部に防波堤を造り、潮流に合わせ吹き溜まりができやすい状態にする。

 できた砂浜には、即座にマングローブや熱帯性の低木を植樹する。

イ.「沖ノ鳥島地球温暖化対策サンゴ礁研究施設」の設置

 ア項の研究・実験を行なうための「沖ノ鳥島地球温暖化対策サンゴ礁研究施設」を設置する。

 地球温暖化による海面上昇で影響を受けるのは、沖ノ鳥島に限らず太平洋上の環礁、卓礁の島に共通の問題であるので、この研究施設は、国内の研究者だけでなく太平洋島嶼国やオーストラリア等の国々の研究者にも参加を呼びかけて国際的な共同研究施設として運営するものとする。

 上記ア項及びイ項の実施のためには、ヘリポートの建設と現在ある観測施設を改築し研究者の滞在に耐えられるものにしなければならない。

 さて、既述したが、沖ノ鳥島は、我が国の国土面積(約38万平方キロ)を上回る約 40万平方キロのEEZを有する国土保全上極めて重要な島である。

 近年の地球温暖化による海面上昇や波の侵食によって、「島」の存在が危ぶまれている。政府は、官民の力を結集して、沖ノ鳥島の水没を防止しなければならない。

2.日本政府による大陸棚限界延長申請と中韓両国による口上書の提出

 本項は、参議院外交防衛委員会調査室 加地良太氏著「沖ノ鳥島を基点とする大陸棚限界延長申請への勧告」を参考にしている。

(1)大陸棚の延長に関する規定

 国連海洋法条約は、沿岸国の領海を越える海面下の区域の海底およびその下にあって領海の基線から200海里の距離までのものを当該沿岸国の大陸棚とすることを規定するとともに、大陸縁辺部が200海里を超えて延びている場合、この条約が定める一定の条件の下で200海里を超えて大陸棚を延長できる旨を規定している。

 すなわち、下の図2の右側下部の「大陸棚の延長が可能」と示された部分を延長できる。

図2:海洋の区分

出典:海上保安庁海洋情報部「領海等に関する用語」

 各海域における沿岸国の権利、管轄権等は次の通りである。

領海:沿岸国が主権を有する。ただし、すべての国の船舶は、無害通航権を有する。

 

接続水域:沿岸国に、出入国管理(密輸入や密入国等)などの法令の違反の防止および処罰を行うことが認められている。

 

排他的経済水域:沿岸国に、天然資源の探査、開発、保存および管理等のための主権的権利や海洋の科学的調査に関する管轄権などが認められている。

 

公海:公海はすべての国に開放され、すべての国が公海の自由を享受する。

 

大陸棚:沿岸国に、大陸棚を探査しおよびその天然資源を開発するための主権的権利を行使することが認められている。

 

深海底:いずれの国も深海底またはその資源について主権または主権的権利を主張または行使できない。

 

(2)日本政府による大陸棚限界の延長の申請

 日本政府は、1982年に国連海洋法条約が採択されたことを受けて、その直後の翌1983年以降、海上保安庁による大陸棚の延長の可能性についての調査を続けてきた。

 2000 年に入り、国土面積の1.7 倍に相当する面積が新たに大陸棚として主張できる可能性が判明した。

 日本政府は2008年に調査を完了させ、2008年11月12日に7つの海域における大陸棚延長申請を国連の大陸棚限界委員会に提出した。

 7つの海域とは①茂木海山海域、②四国海盆海域、③小笠原海台海域、④南鳥島海域、⑤南硫黄島海域、⑥沖大東海嶺南方海域及び⑦九州-パラオ海嶺南部海域である。

 それぞれの位置は下の図3の通りである。

図3:大陸棚の延長を申請した7つの海域

出典:海上保安庁「大陸棚の限界の申請について」

 2009年3月から4月にかけて、国連大陸棚限界委員会(以下、委員会という)が開催され、日本政府の代表が申請の内容について委員会へのプレゼンテーションを行った。

 日本の申請を審査する小委員会は、同年8月から9月に開催された委員会において設置され、審査が開始された。

(3)韓国および中国が口上書を提出

 日本の申請に対しては、米国、パラオ、韓国および中国の4か国から口上書が提出された。米国およびパラオの口上書の内容は、日本との間で大陸棚として認められる範囲が重複する可能性があるが、その境界画定に影響を及ぼさないことを前提として、委員会による審査および勧告に対し異議を唱えないとするものである。

 他方、中国および韓国の口上書は、沖ノ鳥島は国連海洋法条約上大陸棚を有することのできる「島」ではなく「岩」であり、沖ノ鳥島を基点とした大陸棚の延長海域について委員会は行動をとらないよう要請するという趣旨のものであった。

 国連海洋法の第121条には次のように規定されている。

第1項:島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。

第2項:第3項に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、EEZ及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。

第3項:人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、EEZ又は大陸棚を有しない。

 中韓両国は、沖ノ鳥島は同条約第 121 条3項に規定される「居住又は経済的活動のできない岩」にすぎないとの見解を示している。

 これに対し、日本政府は、沖ノ鳥島は同条約第 121 条1項に規定される「島」であり、歴史的にその地位は既に確立しているとの立場をとっている。

 このように見解が対立する原因は、EEZまたは大陸棚を設定できる「島」または「岩」について同条約が明確な基準を示していない点にある(注1)。

 既述したが、本条の解釈をめぐっては、国際社会においても見解が相違しており、EEZまたは大陸棚を有することのできる「島」として認められる基準は、今後の国際判例や諸国の実行の積み重ねによって確立していくものと考えられる。

(注1)121 条3項の「岩」を一般の島から区別する基準として、海洋法会議において、その大きさや、地質学的な特徴を提案するものもあった。しかし、たとえば地質学的に強固な岩質からなる比較的大きな島が「岩」とされた場合は EEZや大陸棚は設置することができず、他方土砂が中心の小島が通常の島として扱われることは不公平などの理由で、地質学的な形成過程による区別はされることなく扱われ、最終的には「岩」の用語のみが残された。こうして法的な意味での岩は、一般にはサイズや地質学的特徴に関係なく、たとえば砂洲、環礁なども含まれるとするのが通説となっている。(出典:島嶼研究ジャーナル第10 巻1号「島・岩についての国際法制度」2020年10月)

 (4)大陸棚限界委員会による日本の申請に対する勧告の採択

 2012年3月から4月に開催された委員会の全体会合において日本の申請に対する勧告が採択された。

 委員会の勧告の内容は詳細が明らかになっていないが、これまでに外務省が公表した事項を取りまとめると以下のとおりとなる。

  • 日本が申請した7海域のうち6海域について勧告が出された。
  • 「九州パラオ海嶺南部海域」については、勧告が先送りとなった。

 これらが、いわゆる公式見解であるが、さらにマスコミ各社の報道内容等を加え、筆者なりに整理をしてみたい。

 まず、日本が申請した6海域のうち、「南鳥島海域」と「茂木海山海域」の2海域については、大陸棚の延長が認められなかった。

 残りの4海域のうち、「小笠原海台海域」と「四国海盆海域」については、その大部分の海域が大陸棚として認められたのに対し、「南硫黄島海域」と「沖大東海嶺南方海域」については、一部しか延長が認められなかった。

 また、中国および韓国から口上書が提出されていた沖ノ鳥島の南に位置する「九州パラオ海嶺南部海域」については、口上書に言及された事項、すなわち沖ノ鳥島の地位に関する問題が解決されるときまで、本海域に関する勧告を出すための行動をとる状況にないと考えるとして、勧告は先送りされた。

 4月27日、勧告の受領を受け、日本政府は「四国海盆海域について、沖ノ鳥島を基点とする大陸棚の延長が認められた」と歓迎する外務報道官談話を発表した。

 この外務報道官談話に対して、中韓両国が「根拠がない」として即座に異議を唱え、さらに中国は、「日本が沖ノ鳥礁(筆者注:中国は「島」を使用せず「礁」を使用している)を基点として大陸棚延長を求めていた九州パラオ海嶺南部海域は認定されておらず、認定を受けた四国海盆海域はあくまで日本の他の陸地に基づく延長であって、沖ノ鳥島とは関係ない」とする見解を示した。

 (5)大陸棚の延長に向けたその後の取り組み

 2014年7月、海洋に関する施策を集中的かつ総合的に推進するため内閣に設置された総合海洋政策本部は「大陸棚の延長に向けた今後の取組方針」を次のように決定した。

①「四国海盆海域」および「沖大東海嶺南方海域」については、EEZおよび大陸棚に関する法律(以下「法」という)第2条第2号に基づく政令の制定に速やかに着手する。

②「小笠原海台海域」および「南硫黄島海域」については、関係国(米国およびパラオ)との間における必要な調整に着手し、当該調整を終了後、法第2条第2号に基づく政令の制定に速やかに着手する。

③「九州パラオ海嶺南部海域」については、「大陸棚限界委員会」により早期に勧告が行われるよう努力を継続する。

 2014年10月1日、「四国海盆海域」および「沖大東海嶺南方海域」における延長大陸棚を設定する政令が施行された。

 2023年12月19日(米国時間)、米国は「小笠原海台海域」と重複する海域を含む7つの海域について、延長大陸棚の外縁を公表した。

 これにより、米国が公表した延長大陸棚と重複する海域を除いた「小笠原海台海域」の大部分を我が国の延長大陸棚として定めることができることとなった。

 2024年6月25日、政府は閣議で太平洋の小笠原諸島・父島東方に位置する「小笠原海台海域」の大部分を日本の大陸棚と定める政令改正を決定した。

 政令により新たに設定された延長大陸棚は下の図4の通りである。

図4:政令により新たに設定された延長大陸棚

出典:海上保安庁海洋情報部「日本の領海等概念図」

(6)筆者コメント

 沖ノ鳥島については、中国が、同島は「人の居住または独自の経済生活を維持することのできない岩」(国連海洋法条約第121条第3項)であって、EEZや大陸棚を有しない、と主張したことから、同島の法的地位が問題となっている。

 沖ノ鳥島が日本の領土であることに異論を唱える国はないであろう。中国も沖ノ鳥島が日本の領土であることを認めている。

 しかし、沖の鳥島が島であるという日本政府の主張が国際社会において確立したものであるとは現在のところ断定できない。

 その理由は、既述したが、国連海洋法条約に「岩」の定義がないために、第121条第1項で定める「島」と同条第3項の「岩」との関係については学説が分かれているからである。

 そこで、前出の日本財団の「沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団」報告書は、「沖ノ鳥島の国際法上の地位」研究プロジェクトを立ち上げてこの問題を研究し、我が国が不当に不利益を被らないようにすることを提言している。

 具体的には、国際法の専門家による研究会を組織して、国連海洋法条約第121条の成立過程における議論を整理するとともに、世界中に散らばっている沖ノ鳥島と同様な状況にある島(仏クリッパートン島、英ロッコール島、墨クラリオン島、ベネズエラのアベス島ほか多数)の状況と各国の実行を調査し、国連海洋法条約第121条の解釈、適用を研究し、その成果を内外に発表する。

 この研究では必要に応じて海外の専門家の意見も聴取するとしている。

 他方、中国も2021年から2022年にかけ、我が国が大陸棚延長を国際機関に申請している九州パラオ海嶺南部海域に中国海洋調査船を派遣して海洋調査を実施し、我が国の主張を否定しようとする科学論文を複数発表している。

 ところで話は変わるが、中国は日本政府が「四国海盆海域について、沖ノ鳥島を基点とする大陸棚の延長が認められた」とする外務報道官談話に反発し、「四国海盆海域はあくまで日本の他の陸地に基づく延長であって、沖ノ鳥とは関係ない」とする見解を表明している。

 日本政府が言うように、「四国海盆海域」について、沖ノ鳥島を基点とする大陸棚の延長が認められたたとすると、大陸棚限界委員会は沖ノ鳥島が第121条第3項で言う「岩」でないことを認めたことになる。

 そうすると、沖ノ鳥島の南に位置する「九州パラオ海嶺南部海域」の延長が先送りされた理由が分からなくなる。

 四国海盆海域について、沖ノ鳥島を基点とする大陸棚の延長が認められたのかどうかについて、専門家のご意見をお聞かせいただければ幸いである。

3.中国の西太平洋海域への進出

(1)沿岸海軍から近代海軍へ

 文化大革命で地位を追われていた鄧小平は、1977年7月に3度目の復権を果たすと、新憲法に「4つの現代化」を明記(1978年3月)するとともに米中国交樹立を実現(1979年1月)した。

 しかし米国のレーガン政権が台湾との関係を再強化する姿勢を示し始めると、鄧小平は海軍司令員(中国海軍司令官)劉華清に「第1列島線」概念の具体化を指示し(1982年8月)、中国は海洋進出と海軍建設への関心を強めていった。

 劉華清は近代海軍建設の工程表を作成した。

 それによると「再建期」1982年から2000年の18年間に中国沿岸海域を完全に防衛できる態勢を整備し、「躍進前期」2000年から2010年には第1列島線内部(中国近海)における制海権を確保し、「躍進後期」2010年から2020年に第2列島線内部の制海権を確保し、そのために航空母艦(注2)を建造する。

「完成期」2020年から2040年にかけ米海軍が太平洋とインド洋を独占的に支配する状況を打破する。

 そして、最終的には2040年段階で米海軍に対抗できる海軍建設を完了させる――というものであった。

 1997年に劉華清司令員の後継者となった石雲生は、海洋権益を固守することを明記した国防基本法である「国防法」の制定(1997年3月)に合わせて「沿岸海軍」を「近代海軍」へ変革させるための「海軍発展戦略」を策定し、この中で第1列島線と第2列島線の概念(注3)を明確に打ち出した。

 もちろんこれらの概念は軍内部の国防方針であったが、次第に中国共産党政権の基本的国防方針として広く世界に認識されるようになっていった。

(注2)現在3隻の空母を保有;①1隻目、「遼寧」(旧「ヴァリャーグ」)就役2012年9月25日(メディア発表)、②2隻目、初の国産空母「山東」就役2019年12月17日、③3隻目、初のカタパルト空母 「福建」進水2022年6月17日、就役予定2024年。

(注3)第1列島線は九州から沖縄・台湾・フィリピンからボルネオ島に至る線を指し、これらの島嶼線を第一潜在敵の米国が侵入するのを阻止するものとして規定されている。一方、第2列島線は、伊豆諸島から小笠原諸島、グアム、サイパン、パフアニューギニアに至る線を指し、台湾有事の際(台湾が独立を宣言する場合)に米軍海軍の接近を拒否する海域と理解されている。

(2)西太平洋海域へ進出する中国の狙い

 中国は1970年代から南シナ海に、80年代からは東シナ海に進出し、そして21世紀に入ってからは西太平洋に進出してきている。

 西太平洋の中心にある沖ノ鳥島の周辺海域において、中国は「海洋の科学的調査」や軍事演習を頻繁に行っている。

 近年では、2010年4月10日、キロ級潜水艦2隻を含む約10隻の艦隊が沖ノ鳥島海域を抜け出て西太平洋域に進出し訓練を実施した。

 これらの監視に当たった海自・護衛艦に対して中国海軍艦載ヘリが異常接近する事態も発生し、外務省は抗議をした。

 2020年7月9日、海上保安庁巡視船が沖ノ鳥島の北北西約310キロの日本のEEZにおいて、中国の海洋調査船が観測機器を海中に投入しているのを確認した。

 EEZの沿岸国の同意を得ずに行われる「海洋の科学的調査」は国際法違反である。

 2023年5月、防衛省の発表によれば、中国海軍の空母「山東」の艦隊は宮古島の南約220キロの地点で活動した後、日本のEEZの外縁をなぞるように東へ移動し、日本最南端の地・沖ノ鳥島の南東約370キロまで航行。

 そして数日間、その武威を誇示するように艦載機の発着訓練を繰り返した。

 さて、中国は米国が2隻の航空母艦を派遣した1996年の台湾海峡危機以来、その領域への米軍のアクセスを阻止できるレベルの兵器システムを配備することとし西太平洋の軍事バランスを変えようと努力している。

 関連する情報であるが、2008年3月米上院軍事委員会公聴会で、米太平洋軍司令官ティモシー・J・キーティング海軍大将は「2007年5月に司令官として中国を訪問した際、(中国海軍幹部から)米国がハワイ以東を、中国がハワイ以西の海域を管理するというアイデアはどうか」と打診された事実を明らかにしている。

 また、2015年5月17日に訪中したジョン・ケリー国務長官に対して、習近平主席は「広大な太平洋には中米2大国を受け入れる十分な空間がある」という提案していた。

 中国は太平洋分割統治論を持ちかけつつ、「接近拒否・領域拒否戦略」を進めていると見られている。

(3)筆者コメント

 中国海軍が沖ノ鳥島近海など西太平洋海域へ進出する狙いは、沖ノ鳥島は島ではなく岩であると主張し、同島周辺海域の日本のEEZにおける日本の管轄権行使を否定し、同島周辺海域で軍事目的の海底地形、水温や潮流などのデータを収集し、それにより原子力潜水艦を含む米国海軍艦艇の第2列島線内部へのアクセス阻止を企図していると考えられる。

 沖の鳥島は西太平洋上の孤島であっても、沖縄と米領グアムを結ぶ航路のほぼ中間に位置している軍事的要衝であることを忘れてはいけない。

おわりに

 2014年に小笠原諸島と伊豆諸島周辺の日本の領海とEEZでの中国の漁船によるサンゴ密漁への対応では、取締りを行う海上保安庁の巡視船の投入隻数が追いつかず、仮に積極的に違法漁船を摘発した場合、本土への移送に巡視船とヘリコプターが割かれてしまい、残りの漁船が野放しになってしまうため、摘発せずに漁船に警告をして、領海から追い出す措置にとどめていたという報道があったが、これが事実ならば言語道断である。

 海洋法条約で定める沿岸国の義務である法執行は、いかなる理由・事情があるにせよ厳格に実施されなければならない。

 この事案を教訓として、海上保安庁は、2022年12月16日に、新たな「海上保安能力強化に関する方針」を策定した。

 その中で、「新技術等を活用した隙の無い広域海洋監視能力」や「海洋権益確保に資する優位性を持った海洋調査能力」などの能力の強化および海上保安能力の強化に必要となる巡視船・航空機等の勢力の増強整備を謳っている。

 新技術等を活用した広域海洋監視能力では、無人機をはじめとした新技術を活用するものとし、無人機と飛行機・ヘリコプターとの効率的な業務分担も考慮した監視体制を構築するとした。

 海洋権益確保に資する海洋調査能力では、測量船や測量機器等の整備や高機能化を進めるとともに、取得したデータの管理・分析およびその成果の対外発信能力の強化や、外交当局等の国内関係機関との連携・協力を図るとした。

 また、巡視船・航空機等の増強については、必要性や緊急性の高いものから段階的に大幅な増強整備を進めるものとした。

 前出の「海上保安能力強化に関する方針」には、その目標達成時期が明記されてないので、何時とは言えないが、近い将来、我が国の主権または主権的権利が及ぶ海域等で違法活動する外国船を拿捕し、確実に罰せられる態勢ができていることを筆者は期待している。

 また、沖の鳥島が将来にわたって、島として存続することも願っている。

 

横山 恭三

元空将補、1970年防衛大学校卒業・航空自衛隊入隊、要撃管制官を経てフランス軍統合大学留学、在ベルギー防衛駐在官、情報本部情報官、作戦情報隊司令などを務め2003年航空自衛隊を退職。現在(一財)ディフェンス リサーチ センター研究委員。

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No.522 ★ 今や中国人が“ジリ貧日本”の救世主か?人口減少に歯止めをかける  「戦略的な移民考」

2024年07月28日 | 日記

DIAMOND online  (沖有人:スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント)

2024726

増え続ける外国人留学生。じつにその4割は中国人だ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

恐ろしい勢いで進む人口減少 300年後は日本の総人口が100万人台に?

「異次元の少子化対策」と岸田首相は言ったものの、財源は国民からの徴収となった。子どもが欲しい人に産みやすい環境を整えること、たとえば不妊治療の健康保険適用の拡張は政策として素晴らしいと思うが、単に人口を増やすために子ども産むことを国民に仕向けるのには違和感を覚える。

 その違和感の理由は、少子高齢化の人口構成では、現在の年金制度や健康保険制度が破綻することを回避することが目的化しているように感じるからである。私は20年以上、仕事で人口予測を行ってきた。その仕事が発生するのは、厚生労働省の外郭団体である国立社会保障人口問題研究所が発表し、無償で使用することができる人口予測が外れ続けていることが主要因となっている。

 それは、年金制度や健康保険制度が破綻しないように見せかけるために、常に出生数を多めに、死亡数も多めに予測されているのが原因だ。統計は多めにも少なめにも出すことができるが、その確率は50:50となるのが普通で、100:0になると恣意性があるものとして信用を失ってしまう。

 移民を除くと、日本の総人口を維持するには、親世代の人数分だけ子どもが産まれなければならない。その数は合計特殊出生率で2.1という数字になる。女性は全員2人以上子どもを産まなければ、この数字を達成できない。先進国でこの数値を達成している国はほぼない。現在の日本は1.2で、親子間の年齢差が30歳とすると、30歳の人口100に対して0歳人口は60になる。3世代、つまり90年後には21.6になる。おおよそ100年で2割になる計算だ。

 200年すると4%になり、300年すると0.8%となる。ざっくり言うと、300年後に日本の出生人口は年間数千人となり、総人口も100万人台になっている見通しだ。そして長期的には、日本の総人口はゼロに近づくことが不可避な状況にある。このような状況で出生率を多少上げたところで人口維持は不可能で、100万人に減少するまでの時間稼ぎにしかならない。

 そんな日本にあって、人口減少に歯止めをかけている要因がある。外国人居住者の増加である。在留外国人というが、直近1年の外国人の増加数は26万1889人(在留外国人統計・出入国管理庁)で、日本人は83万7000人減少(人口推計・総務省)している。日本人の減少を外国人の流入で補っているのが現状であり、差し引きで57万人超の純減となっている。

在留資格別にこの1年で最も人数が増え外国人は、特定技能に従事する人々で8万5629人となる。特定技能とは、人手不足の分野(介護・宿泊業、建設、農業など)で一定の技能がある外国人を労働者として受け入れるものだ。2019年度に始まった制度で、5年間で34.5万人を受け入れ上限にしている。コロナ禍期間に受け入れが遅れたが、最近急ピッチで増えて、受け入れ上限まで急上昇している。

 2024年度から自動車運送業や鉄道など4業種が追加になり、政府は5年間の受け入れ枠を以前の約2.4倍となる82万人とすることを閣議決定している。そのため、今後も特定技能者は年間16.4万人ペース(直近1年の約2倍)と急増が見込まれる。つまり、少子高齢化で日本の働き手となる年齢層の人口が減るに従って、外国人を増やす政策が取られているので、今後も在留外国人はこれまで以上に増えていく可能性が高い。

働き手は増えても労働生産性は低下 ジリ貧日本の救世主は中国人?

 とはいえ、実は近年、日本における働き手は増加している。就業者数は2013年に6326万人だったが、2023年には6747万人となり、6.7%増加している。これは女性の社会進出と高齢者の就業率が増加し、さらに外国人労働者も増えているからである。しかしながら、日本のGDP(国内総生産)はほぼ横ばいで増えていない。ということは、「GDP=就業者数×労働生産性」と考えると、1人当たりの労働生産性は落ちていることになる。確かに、女性と高齢者と外国人は非正規雇用の単純労働が多い。これでは経済的に繁栄しそうにない。

 毎年年収が上がっていく高度な仕事の担い手として、外国人の大学留学生はコロナ禍前に30万人に達していた。その留学生の4割は中国人で、米中の関係悪化から日本を留学先に選ぶ人は多い。中国では若年失業率が高く、就職が難しいため、日本で就職する人も増えている。東南アジアの国々からすると、日本は先進国であるし、若年失業率の高いヨーロッパの国々(スペイン、イタリア、フランスなど)は多いが、日本の2023年平均の完全失業率は2.6%と先進国では最も低い部類に入るため、就職先には困らないはずだ。

加えて、日本には治安の良さ、人の優しさ、街の清潔感など、日本では当たり前だが、諸外国ではあり得ない社会的な安心感がある。それは、外国人留学生には魅力的な面もあるだろう。そうした日本の長所を生かして、日本で働く外国人を増やすことは可能だと考える。国に対する信用の端緒として、東京都文京区の有名公立小学校に中国人生徒が増えていることは、先日ニュースとして大きく報道された。こうした子どもたちも、日本の担い手として育つ可能性が高い。

日本の少子化を補う外国人留学生 戦略的な活用を考えるべき

 そこで、少子化対策の提案をしたい。日本国民については「産む気がある人」を国を挙げて支援すべきだが、若い世代に単なる出産奨励を行う必要はない。一方で外国人については、単純労働ではなく高度な労働の担い手となる留学生を積極的に支援したい。「高度な」とは、総合職として年収が上がっていくことを指す。その際、大学時代に日本の文化・生活習慣を学び、実践し、身に着けてもらいたい。日本人ではないものの、日本の精神文化を大切にしてもらいたいのだ。

 また、卒業後に日本で一定期間以上働き続けることにインセンティブを設け、優秀な労働力として取り込んでいく。私は、日本で働く優秀な中国人やベトナム人を少なからず知っている。彼らの経済的なメリットは、生産性の高さだけでなく、育成期間のコストにある。日本人なら生まれてから一人前の労働力に育てるまでに22年ほどかかる期間を、外国人ではわずか4年(大学院を入れても6年)に短縮することができる。これは、日本人が18歳の子どもを産んでいるのと同じことを意味する。2023年の日本の出生人口は72万7277人なので、30万人の留学生を足すと100万人に達することになる。

 日本は世界で見ても、外国人の受け入れ数が上位の国となっている。ちなみに、経済協力開発機構(OECD)は統計上、「国内に1年以上滞在する外国人」を移民と定義しているので、ほとんどの在留資格者はこの定義上は移民に相当するが、日本では移民とは呼んでいない。しかし、この「実質的な移民」を少子化対策、労働力確保、経済成長をバランスよく実現する手段と捉えてもいいのではないだろうか。それが、国としての戦略性というものである。

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No.521 ★ 中国不動産業界「国有大手」さえ土地買わぬ手詰り 市況が一段と冷え 込み、資金力あっても様子見

2024年07月28日 | 日記

東洋経済オンライン (財新 Biz&Tech)

2024年7月26日

資金力に不安のない国有不動産大手も、開発用地の調達を大幅に減らしている。写真は2023年の土地購入額が首位だった保利発展の大型開発案件(同社ウェブサイトより)

中国の不動産不況が長期化するなか、不動産デベロッパーの新規開発用地の調達意欲が大幅に低下している。

不動産調査会社の中指研究院がまとめたデータによれば、2024年上半期(1~6月)に土地を購入した上位100社(取得額ベース)の購入総額は3801億元(約8兆4087億円)にとどまり、前年同期比35.8%減少した。

それだけではない。複数の業界関係者によれば、「上位100社」の顔ぶれは過去数年で大きく入れ替わり、現在は地方政府直属の都市開発投資会社が大きな割合を占めているという。

地方政府系は土地を“塩漬け”

「これらの都市開発投資会社は、地方政府の(開発用地払い下げによる)歳入を支えるために土地を購入している。そうした土地の多くは実際には開発されない」。財新記者の取材に応じた大手不動産会社の担当者は、そう実態を打ち明けた。

不動産調査会社の克爾瑞のレポートによれば、2024年1月から5月までの不動産投資額を基準にした上位100社のうち、専業の不動産デベロッパーは民営企業が23社、国有企業が21社と、両者合わせても半分に満たなかった。残りの56社は、いずれも地方政府系の都市開発投資会社だった。

都市開発投資会社は、購入した土地の多くを長期間“塩漬け”にしてしまう。そのため、完成物件の販売額上位100社と土地取得額の上位100社の顔ぶれが乖離するという異常事態が起きている。前出の克爾瑞のレポートによれば、2024年1月から5月までの物件販売額で見た上位100社のうち、7割近い企業は2024年の土地取得額がゼロだった。

注目すべきなのは、不動産不況の最中でも開発用地を(民営不動産会社に比べて)積極的に調達してきた中央政府傘下の国有不動産大手が、ここに来て購入規模を大幅に縮小していることだ。

資金繰りに窮する民営不動産大手の多くは、土地の新規調達を停止している。写真は経営危機に陥っている恒大集団の開発案件(同社ウェブサイトより)

中指研究院のデータによれば、2023年の土地取得額のランキングでは保利発展控股集団(ポリ・デベロップメント)が1125億元(約2兆4888億円)で首位、中海企業発展集団(チャイナ・オーバーシーズ)が1101億元(約2兆4357億円)で第2位、華潤置地(チャイナ・リソーシズ・ランド)が808億元(約1兆7875億円)で第3位と、中央政府系大手がトップ3を独占していた。

中央政府系の土地取得が激減

ところが2024年上半期(1~6月)のランキングでは、これら3社はすべてトップ3から姿を消した。中指研究院のデータによれば、保利発展の上半期の土地取得額はわずか110億元(約2433億円)で第8位、中海企業発展は120億元(約2655億円)で第7位、華潤置地は154億元(約3407億円)で第5位にそれぞれ後退した。

「2024年に入って不動産市場が一段と冷え込み、販売件数も販売価格も大幅に下落している。(資金力に不安のない)中央政府系の国有企業ですら、新規開発用地の調達を様子見せざるを得ない状況だ」

ある業界関係者は、上述3社の土地取得額が激減した背景をそう解説した。

完成物件の販売額のデータは、この関係者のコメントを裏付けている。中指研究院によれば、2024年1月から5月までの保利発展の物件販売額は1313億元(約2兆9047億円)にとどまり、前年同期比32.9%減少。中海企業発展は1017億元(2兆2498億円)で同30.8%減、華潤置地は920億元(2兆353億円)で35.9%減と、そろって3割超の落ち込みを記録した。

(財新記者:王婧)
※原文の配信は6月29日

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No.520 ★ 中国で「絶望」広がる…「生かさず殺さず」の地方や外資、習近平は 完全に開き直った?三中全会決議文の驚愕の中身

2024年07月27日 | 日記

JBpress (福島 香織:ジャーナリスト)

2024.7.26

習近平国家主席は開き直った?(写真:新華社/共同通信イメージズ)

 

 中国で三中全会が終わり、7月21日に三中全会で採択した決議文「改革をいっそう全面的に深化させ、中国式現代化を推進することに関する中共中央の決定」が発表された。これは18日に発表されたコミュニケの元になるもので、習近平が第3期目にどのような政策をとるか比較的細かく示されてある。

 全文を読んだが、全く救いのない、あまりにひどい内容だった。それは単に私の感想だけではなく、中国A株の反応などをみてもうかがえる。

 前回の原稿でも触れたように、この三中全会決議は改革開放終了宣言だ。あるいは一種の「中国経済死刑宣告」である。

 これからは、国有資本と国有企業をより優位に、より強くし、政府の市場コントロールを強化し、民営企業と人民から税金を搾り取る。「生かさぬように殺さぬように」と訳してしまいたくなる「放得活、管得住」という表現に、党の考えが反映されているように思う。

 経済を含め、すべてを党中央が統一集中コントロールするという、十分に人々を絶望させる内容だった。

 決議文は60項目あり、それぞれの分野の政策方針が示されている。一番ぞっとしたのが、地方財政と増税に関する部分だ。すでに企業から30年もさかのぼって消費税(ぜいたく品にかけられる付加価値税)などの徴収が行われるなどの事件が起きている。それがおそらく、地方政府に財政問題解決方法として、消費税徴収の権限を与える決定がこの三中全会でなされるだろうという予測をこのコラム欄でも紹介したが、その通りとなった。

【関連記事】
中国で相次ぐ巨額追徴課税で企業家パニック、日本企業も駐在員も危ない!30年前の過少申告も摘発、その狙いとは…

 その部分の決議文をちょっと長いが訳出してみた。

決議文の地方財政と増税に関する部分(全文)

(17)財税体制改革を深化する。予算制度を健全にし、財政資源と予算の統括を強化し、行政努力、政府信用、国有資源・資産から得られる収入はすべて政府予算管理に含まれるようにする。国有資本経営予算と業績評価システムを改善し、主要な国家重大戦略任務と基本的な民生のための財政の保障を強化する。
 予算編成と財政政策におけるマクロ経済指導を強化する。公共サービスの効率管理を強化し、事前の効果に対する評価を強化する。ゼロベースで予算改革を深化する。予算配分の権限を統一し、予算管理の統一性と基準化を改善し、予算開示と監督システムを改善する。発生主義に基づく包括的な政府財務報告制度を改善する。

 ハイクオリティな発展、社会の公平性、市場統一的な税制に健全に利するように税制の構造を最適化する。新しいビジネスモデルに適合した税制を検討する。税法の法定原則を全面的に実施し、優遇税制を規範化し、重点分野と重点リンクの支援メカニズムを改善する。直接税制システムを改善し、総合課税と分類課税を組み合わせた個人所得税制を完成させ、事業所得、資本所得、財産所得に対する課税政策を規範化し、労働所得に対する統一課税を実施する。税務行政改革を深化させる。

 明確な権限と責任、調整された財源、地域的バランスを備えた中央と地方の財政関係を確立する。地方政府の自主的財力を増加し、地方税源を開拓し、地方税収管理権限を拡大する。財政移譲制度を改善し、特別財源の移譲をいっそう強化して基準化し、一般財源の支払いを増やし、市・県の財政権力の一致度を高める。

 ハイクオリティ発展を促進するため、移転納付のインセンティブと制約メカニズムを確立する。消費税徴収の後方シフトと地方への着実な分権化を推進し、付加価値税(VAT)控除に対する税還付政策との抵当の連鎖を改善し、税収の分担割合を最適化する。都市維持建設税、教育付加税、地方教育付加税を地方付加税として統合することを検討し、地方政府に対し一定の範囲内での具体的な適用税率を決定する権限を与える。

 地方政府による特例債の支援範囲を合理的に拡大し、資本調達に利用する分野、規模、割合を適切に拡大する。政府債務管理制度を改善し、全面的な地方債務監視監督制度と長期的な隠れ債務リスク防止・解決メカニズムを構築し、(土地転売・都市再開発による錬金術を支えてきた)地方融資プラットフォームの改革・転換を加速する。税外収入の管理を規範化し、税外収入管理権限の一部を適切に縮小し、実情に照らして地方による税外収入の管理を区別する。

 中央政府の権限を適切に強化し、中央財政支出の比率を高める。原則として中央政府を通じて支出を取りまとめ、地方政府に委託されていた中央財政に関する権限を削減する。また、地方政府は違法に資金を手配してはならず、中央政府の権限行使の委託を受ける場合には、中央からの特別繰入金により財源措置を行う。

中央政府は地方を「支配はするが救済はしない」

 これを地方の権限が拡大して中央の権力が弱まったと読み解く人がいるかもしれないが、最後に中央財政の権限を適切に強化すること、と強調してある。地方融資プラットフォームや中央プロジェクト名義で独自に資金を調達して事業を行うことを規制しており、中央による統一集中支配強化の方向性と合致した政策だ。

 支配はするが救済はしない。地方の財政破綻問題については、中央は中央が徴収権を独占していた消費税や都市建設税や地方教育税など一緒に地方付加税として地方政府に徴収権を移譲するので、自分たちで何とかせよ、と突き放したということではないか。

 三中全会では「規範」という言葉が26回ぐらい出てくるが、文脈からみるに、これは規制、統制というニュアンスで、地方の税収管理、税外収入の管理も中央の規制、統制は強化される。

中国江蘇省のマンション群。地方経済は疲弊している(写真:CFOTO/共同通信イメージズ)

 つまり、徴税権は与えるので、民営企業と人民から搾り取れ、一方で地方政府が財源を自由に使うことは許さず、厳しく中央が監督する。人民から搾り取る増税の憎まれ役は地方政府に任せるが、その財源の使い方について自由度は低くなるのだ。

 そうなれば、おそらく地方経済はさらに悪化する。地方が独自の判断で行っていた民営企業誘致のための税制優遇なども見直され、実質の増税宣言だから人民の可処分所得が減り、消費需要も低下する。改革開放以降、地方にも登場しはじめた中間層はこれで絶滅させられ、等しく貧しい社会主義時代の回帰が加速するだろう。

 この方向性は外国企業、外国資本も無関係ではない。決議文を見てみよう。

中国が世界のルールメーカーに

(26)外資・対外投資管理システム改革の深化。市場主義、法治主義、国際化を重視した一流のビジネス環境を構築し、法律に従って外国人投資家の権利と利益を保護する。外資を奨励する業種を拡大し、外資参入のネガティブリストを合理的に削減し、製造業における外資参入の制限を完全に撤廃する措置を実施し、電信、インターネット、教育、文化、医療などの領域で秩序ある拡大を促進する。外国投資促進のための制度的メカニズム改革を深め、外資系企業に対し要素取得、資格許可、基準設定、政府調達の面で内国民待遇を保証し、産業チェーンの上流下流へ協力支援を支持する。駐在員の入国、居住、医療、支払い、その他の生活の利便制度を改善する。対外投資を促進・保障する制度メカニズムを改善し、対外投資管理・サービスシステムを改善し、産業チェーンのサプライチェーンにおける国際協力を促進する。

 この部分だけを読んで、習近平は対外開放を促進する方向に政策転換したといいだす人もいそうだ。だが、中国の特色ある社会主義法治体系の改善に関する部分を続けて読んでほしい。

(37)渉外法治建設を強化する。渉外立法、執法、司法、守法、法律サービス、法治人材育成の任務メカニズムを一体にして打ち建て推進する。渉外法律法規の体系と法治実施体系を改善し、法の執行と司法に関する国際協力を深める。裁判管轄権について当事者が合意し、法に従って域外法を適用することを選択するなど、対外民事法律関係の司法裁判制度を改善する。国際ビジネス仲裁・調停制度を改善し、国際一流の仲裁機関・法律事務所を育成する。国際的なルール作りに積極的に参加する。

 この渉外法治建設については、それなりに中国取材を続けてきた人ならば、その目的と意味が分かるだろう。習近平の最終的目的は新たな国際社会の枠組みの再構築を中国主導で行うこと。そのためには中国がルールメーカーにならなくてはならないと考えている。

 今の国際法、国際基準、国際秩序は欧米の価値観が中心だが、習近平はそれを中国の価値観、中国の秩序を中心としたものに変えていこうとしている。それで、今中国は渉外立法に取り組んでいる。

【関連記事】
中国が仕掛ける「法律戦争」、日本人はいつ逮捕されてもおかしくない!超法規的「法治国家」の世界標準化という謀略

 中国企業の中国人企業家が海外で腐敗や機密漏えいなどの罪を犯したときに国境を越えて適用できる法律と、財新などのメディアは解説する。だが、一部では外国籍法人や外国籍企業幹部にも適用されるという見方も出ている。たとえば、中国企業が海外に進出して外国法人化した企業や、中国企業に雇われた外国人経営者や商務弁護士なども適用対象だという。

完全に開き直った習近平

 何が言いたいかというと、中国共産党に忠誠を誓い、中国のルール、価値観、秩序に従った外国企業、外国人には対外開放の果実、内国民待遇を与えるが、それは中国人と同様、中国共産党の支配、管理、コントロールをおとなしく受けることが条件となる。国際ビジネスルールは中国が新たにつくり、それに従えば、中国でビジネスをしてもよい、ということだ。

 そういうやり方で中国市場にアクセスしたとして、本当に外国企業にとって利益につながるか。かつて国際社会で勇名をはせた著名中国人民営企業家の今のみじめな境遇を少し調べてみてほしい。

 こうして一つひとつ三中全会で打ち出された政策を読み解くと、90年代から2000年代に国際社会が夢見た中国の自由主義化時代、高度経済成長時代が完全に終わり、長い経済低迷時代、スターリン時代のソ連のような恐怖政治と搾取の冬の時代が来た、という感じがする。

 さらに嫌な感じなのは、この決議文で、習近平の固有名詞がこれまでのこの種の決議に比べて極端に減っているということだ。2万2000字あまりの決議文の中に習近平の名前は4回しか出てこない。

 つまり、こうした決定は、習近平が独断で行ったのではなく、党中央として採択したのだ、ということを強調するようにも読み取れるのだ。これは、習近平がごり押しで決めた政策がすべて失敗しており、習近平が急に自信を失って、自分の名前をこうした決議文にちりばめるのが恥ずかしくなったのだ、という見方をいう人もいる。

 だが、逆にいえば、この決議文による政策を進めて、どのような地獄が起きても、その責任を習近平は取る気もない、という開き直りともとれる。いずれにしろ、なんら希望が見いだせない三中全会決議文であった。

日本政府は頭がおかしいのではないか

 ところで、そんなふうに、多くの華人、ビジネスマンや投資家が絶望感に襲われているとき、三中全会が終わったタイミングで、日中がワクチン開発協力で合意したという発表があった。私は、日本政府は頭がおかしいのか、と思ったものだ。

 もし仮に、この合意が、2023年3月に中国でスパイ容疑で逮捕され、起訴され拘留中のアステラス製薬幹部の裁判の行方など「人質外交」の影響を受けたものであったら、日本はすでに、この中国の恐怖時代の支配下に入りつつある、ということではないだろうか。日本の今後にも、言い知れぬ絶望を感じてしまうのであった。

福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。

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No.519 ★ 日本企業 中国離れ鮮明 巨大市場戦略 転換点に

2024年07月27日 | 日記

中國新聞

2024年7月26日

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