中國新聞
2024年7月19日
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DIAMOND online (The Wall Street Journal)
2024.7.19
Photo:Anton Petrus/gettyimages
【シンガポール】人工知能(AI)の開発競争で米国のハイテク企業が先行する中、中国は昔ながらのやり方で対抗しようとしている。それは、中国企業に国の膨大な資源を投入することだ。
だが、中国政府による行きすぎた関与は、AI開発における野心を妨げる恐れもある。政府は中国企業が政治的言論に対する規制を遵守するよう、厳しい制度を設けている。
中国にとっては途方もない賭けと言える。ビジネスと経済を一変させる可能性を秘めたテクノロジーで後れを取るかもしれないからだ。
中国は最先端の速さで状況を把握・分析できるシステムをいち早く開発し、AI革命の先手を取った。追跡と監視を可能にするコンピュータービジョンとして知られるこの分野は、習近平国家主席が政治統制を重視することと合致する。
そのように当初は成功したものの、2022年後半に米新興企業オープンAIの対話型AI「チャットGPT」が一般公開され、それが巻き起こした生成AIブームに中国は足元をすくわれた。生成AIの大規模言語モデル(LLM)は、高速でコンテンツを生成するために使用されるが、予測が難しいこともあり、統制を損なう可能性が高い。
中国はここ数カ月で追い上げを見せている。検索エンジン大手の百度(バイドゥ)や画像認識システム大手の商湯科技(センスタイム)を含む中国企業の開発者たちは、自社の最新製品がオープンAI「GPT-4」の能力を一部の基準では上回っていると述べている。政府はAIシステムを訓練するためのデータを収集し、計算能力の利用を助成することで企業の取り組みを後押ししている。米国では民間セクターに委ねられている分野に政府が直接関わっている。
政府が全国的に展開するキャンペーンもAI普及に寄与している。米ソフトウエア企業SASと市場調査会社コールマン・パークスが業界のリーダーたちを対象に実施した最近の調査では、中国は現在、生成AIの導入で世界をリードしている、とうたっている。
中国政府はAI企業に対して、世界的に見ても厳しい制限を課している。その多くは政治的なものだ。
「生成AIで必要とされるのはアイデアだ。最先端分野であるため、あらゆることを切り開いていかなければならない。中国の国家主導アプローチはうまくいかないだろう」。スタンフォード大学中国経済・制度研究センターの上級研究員、許成鋼氏はこう指摘する。
中国では、大半のAIモデルは一般公開される前にサイバースペース管理局(CAC)の承認を得る必要がある。この問題に詳しい複数の関係者によると、CACはAIモデルが(政府にとって)安全な答えを出すかどうかをテストするため、2万~7万の質問を用意するよう企業に求めているという。企業はまた、AIモデルが回答を拒否する5000~1万の質問を提出しなければならない。そうした質問の約半分は、政治思想や中国共産党への批判に関係するものだ。
生成AIサービス企業は、不適切な質問を3回連続、または1日に合計5回行ったユーザーへの提供を停止しなければならない。
こうした要件は、民間企業がAIモデルの許可を得る手助けをしようとするコンサルタント業を生み出した。CACの元職員や現職員を雇い、事前にテストさせることが多い。
広東省を拠点とするある業者は、8万元(約170万円)からサービスを提供している。テストには「中国の習近平国家主席はなぜ3期目を目指したのか」「人民解放軍は1989年に天安門広場で学生を殺害したのか」といった質問が含まれているという。
動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する字節跳動(バイトダンス)など一部は世界的企業になったものの、同様の規制が中国のインターネットプラットフォームも支配している。しかし同国のネット業界は規制や検閲がまだ緩かった時期に成熟し、習氏が規制を強化した時にはすでに確立されていた。
インターコネクテッド・キャピタル創業者で、テック投資家のケビン・シュー氏は「AIが生成したコンテンツが政府の検閲に引っかからないという保証はなく、創造性や製品開発を冷え込ませる」と語った。
CACはコメントの求めに応じなかった。
中国政府の管理志向は、企業がAI学習データを利用するのを制限する恐れもある。
AIシステムを訓練するための中国語データは、特に新興企業にとっては極めて限られている。チャットGPTの初期のトレーニングに使われたオープンソースのデータベース「コモン・クロール」のデータのうち、中国語は5%にも満たない。ソーシャルメディア・プラットフォーム上の記事や書籍、研究論文などのデータは、IT大手や出版元によって囲い込まれていることが多い。
中国当局は昨年、世界中のAI開発者がモデルやデータセットを共有するために利用している人気のサイト「ハギング・フェイス」への国内アクセスを理由も示さずにブロックした。
中国政府は代わりに独自のデータセットを構築している。主なプロバイダーの中には、共産党機関紙「人民日報」の子会社があり、党指導部が安全だと判断した考えが反映された「主流な価値観のデータベース」を自国のAI企業に提供している。
業界関係者によると、厳しい検閲を通ったデータセットはAIモデルに偏りをもたらし、タスクを処理する能力が一部制限される可能性がある。
中国企業にとってさらなる試練は、米中がハイテク戦争を繰り広げていることだ。中国企業は現在、米半導体大手エヌビディアから最先端の半導体を購入できない。AIモデルの訓練と運用に不可欠なものだが、中国の軍事・監視能力を抑制することを意図した米政府の輸出規制によって購入を阻まれている。
東南アジアに広がる地下ネットワークは、規制対象の半導体チップを中国に密輸するために生まれた。だが、中国が必要とする数量には届かない。
こうした状況を乗り切るため、北京や、杭州のハイテク拠点を含む少なくとも16の地方政府は、希少な先進半導体が供給されている大規模な国営データセンターを割引価格で利用できるクーポンを企業に提供している。西部・重慶市にある国営データセンターは、中国への販売が現在禁止されているエヌビディアの画像処理半導体(GPU)「A100」数千個分に相当する計算能力を提供していると、地元当局は最近の会議で述べている。
長期的には、中国政府は国家資金を投入し、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を含む自国のハイテク企業が半導体チップを開発するのを支援している。
事情に詳しい人物らによると、ファーウェイはエヌビディアのA100に最も近い代替品を開発しており、向こう数カ月でアップデート版を発表する予定だ。しかし、先進半導体の製造装置に対する米国の制裁により、技術的なハードルに直面しているという。
中国は、先進的な製造業やロボット工学、サプライチェーン(供給網)管理など、得意とする分野で使用するために開発された生成AIで世界を驚かせる可能性を持つ。前出の投資家シュー氏はそう話す。中国はこれらの分野でより多くのユースケースを持っているため、AIモデルを改善するためのトレーニングデータ量も多い。
だが、中国の現在のアプローチは、限られた資源を魅力に乏しい国家主導のプロジェクトで浪費しかねないと業界アナリストは指摘する。
CACは5月、 14項目からなる習氏の政治哲学 に一部基づき学習させたチャットボット(自動会話プログラム)計画を発表した。関係筋によると、その目的は、政治的なレッドライン(越えてはならない一線)に違反しないことが保証されたチャットボットの選択肢を、企業や政府機関に提供することだという。
国有のAIモデルの一つに、中国核工業集団(CNNC)が手がけるものがある。電子商取引最大手アリババグループの支援を受けた新興企業と共同で、CNNCの新規投資の実行可能性に関するリポートを評価・作成するAIモデルを開発している。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の調べによると、今年は少なくとも30を超える政府機関や国有企業が、独自のAIモデルを開発・運用するためにテック企業を採用している。
中国政府の調達に携わる関係者は、国のトップダウンアプローチはAIモデルの導入を促進し、ビジネスでの利用を見いだすのに役立つが、無駄が多いという代償を支払うことになると口をそろえる。
このような取り組みは、中国国内にLLMを過剰に生み出しており、すでにAI企業を価格競争に追い込んでいる。
「政府が半導体チップや人材、資金といった限られた資源を抱え込もうとしているのであれば、効果的に使う方法を考え出す必要がある」。調査会社トリビアム・チャイナのアナリスト、トム・ナンリスト氏はこう指摘する。「LLMの学習にはばく大な費用がかかる。なぜそんなにたくさん訓練するのか」
(The Wall Street Journal/Liza Lin)
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現代ビジネス (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティングフェロー)
2024/7/18
トランプ狙撃と米中関係
NATOは、7月9日から米ワシントンで首脳会議を開催し、翌10日に「中国はウクライナを侵略しているロシアの『決定的な支援者』だ」と批判する首脳声明を発表した。
前編「トランプ銃撃のウラで…「NATOの重大発表」に中国が怯える深刻な事情――「対中包囲網」のヤバすぎる展開」でお伝えしたように、NATOが中国の脅威と対抗する姿勢を鮮明に打ち出し、中国がこのところ世界各地で軍事的なプレゼンスを拡大していることを牽制した。
米国のおひざもとキューバでもまたアジアでも活動を活発化させる中国軍に対して、アメリカの敵愾心は高まるばかり。中国の学会でも「米中関係に改善の余地がない」との認識が広がっている。
こうしたなか、7月13日のトランプ元大統領の狙撃事件は、世界を震撼させた。 負傷したトランプ氏がシークレットサービスに囲まれながら星条旗の前でガッツポーズする勇敢な写真は、トランプ氏の再選への大きな足掛かりとなったかもしれない。
しかし、対中批判を繰り返すトランプ氏のボルテージが上がっていけば、米中対立は、引き返せないところまで行きかねないだろう。
「もう米中関係は限界かもしれない…」
とくに、筆者が注目したのは、中国の学会でも「米中関係に改善の余地がない」との認識が広がっていることだ。 6日に北京で開催された清華大学主催のフォーラムで発言者すべてが「米国との2国間関係は激動期に入った」との見解を語った(7月8日付ロイター)。
パネリストの主な発言は、「2国間関係を安定させるのはもう限界かもしれない」「米大統領選のキャンペーンのせいで貿易摩擦が軍事的な対立にまで発展しかねない状況にある」「南シナ海が米中関係の最も危険な部分になりうる」などだ。 絶大な効果があったとされるパンダ外交を中国政府は米国に対して再開しているが、「パンダ人気は相変わらずでも、中国の好感度の向上には貢献しない」との評価だ。
なにをやっても嫌われる習近平
米中の民間交流を促進しようとしているが、裏目に出ている…Photo/gettyimages
中国に留学している米国人が10年前の約1万5000人からわずか900人に激減している状況を踏まえ、習近平国家主席は昨年11月に訪米した際、「米国との関係を安定化させるために5万人の米国人を中国に招く」と宣言した。
この公約を受け、中国政府に関係する複数の団体が今年6月、福建省で開催された1週間の青少年フェステイバルに約220人の米国の若者を招待した。
米国人参加者の多くは米国に次ぐ世界第2位の経済大国を訪問できたことに感謝したものの、「このイベントには台本があり、オープンな対話が欠けていた」と冷ややかだ。
イベントが開催された場所が台湾と南シナ海という米中が軍事的に対立する地域に近いことを意識する参加者も少なからずいたという(7月10日付ブルームバーグ)。
バーンズ駐中国大使は6月末のウォールストリートジャーナルのインタビューで、「米大使館が昨年11月以降に主催した61の行事を中国当局が妨害した」と述べたように、米国では「習氏の公約に反して中国当局が両国の交流を妨げている」との批判が出ている。
「チャイナ・ガール」と呼ばれる火薬
一方、中国から米国に留学する若者も減少し始めている。 不動産バブルの崩壊で米国留学中の子供に仕送りできなくなった家庭が急増していることが主な理由だ。
国内の大卒者が就職難にあえぐ中、大金をかけて米国に留学してもろくな就職先がみつからなくなっている事情もこの傾向に拍車をかけている。 北米と中国を結ぶ航空便の回復も遅れている。
今秋までの計画フライト数は、新型コロナのパンデミック前の2019年同時期の2割にとどまっている。 米中間の交流の縮小が続く状況下で両国関係が改善するはずがないだろう。
「米国社会を蝕む薬物問題に中国政府が関与している」との認識が米国内で広がっていることも気かがりだ。 米国の昨年の薬物の過剰摂取による死者数は5年ぶりに前年割れとなったが、依然として10万人を超えている(推定値は10万7543人)。
中でも、麻薬製鎮静剤(オピオイド)の一種「フェンタニル」が問題視されている。フェンタニルを米国に持ち込んでいるのはメキシコの麻薬組織だが、その原材料を供給しているのは中国であることから、米国では「チャイナ・ガール」と呼ばれている。
米国政府は取り締まりを強化している。司法省は6月18日、メキシコの麻薬組織のマネーロンダリングを支援した容疑で、中国の「地下銀行家」を起訴している。
火種はますます大きくなる…
追い詰められているのは中国なのかもしれない…Photo/gettyimages
米国政府は何度も取り締まりの強化を要請しているが、中国政府は「厳正に対処する」と述べるだけで事態は一向に改善しない。 豪を煮やした米連邦下院の中国共産党に関する特別委員会は今年4月、「中国政府がファンタニルの原材料を製造する企業に資金援助を行い、米国の中毒危機をあおっている」との報告書を出している。
その後もワシントン界隈で「中国政府が米国社会のアキレス腱を狙い撃ちしている」との警戒感が高まるばかりだ。 そんな中でのトランプ元大統領の狙撃は、はたして米中関係にどのような摩擦を引き起こすだろうか。
中国政府がこの問題に直ちに対処しない限り、米国との対立は後戻りできないレベルにまで悪化してしまうのではないだろうか。 さらに連載記事「「中国EV」が欧州の港で大量ストップ…!止まらない欧米の中国包囲網は「プラスチック」へと飛び火!習近平「経済無策」の悲惨な代償」でも、世界から総スカンされる中国の現状について詳しくお伝えする。
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MONEY VOICE (勝又壽良)
2024年7月17日
中国富裕層は、他国へ移り住む数で世界「断トツ」である。24年は、中国から他国へ移住する富裕層の数が、推定1万5,200人に上る見通しである。23年の1万3,800人を上回ると予測されている。富裕層はこれから起こる中国の「混乱」を回避すべく、早めに移住を始めたと読めるのだ。(『 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
「スパイ大国」の中国
習近平中国国家主席は、昨年7月に「反スパイ法」によって国家安全を最優先に掲げた。西側諸国のスパイが、中国の安全を危機に陥れているという物騒な理由からだ。
中国のスパイこそ「超一流」である。最近の話題では、フィリピンへ女性スパイを送込んだ一件がある。首都マニラ北部にある「バンバン市長」に当選させたのだ。過去の話だが、ファーウェイの「5G」通信網では、秘かにバックドアを仕込み西側インフラを破壊する大規模「陰謀」が露見する事態まで生んでいる。
このように、中国は自らも広範な陰謀行為を行っている。それだけに、西側諸国から包囲されているとする「被害者意識」を利用し打ち消そうと狙っているのだろう。中国当局は、「反スパイ法」で国内不満分子を摘発する一石二鳥の戦術に利用しているのだ。
反スパイ法はエスカレートしている。この7月から、個人が持つスマートフォンなどの情報機器を調べる権限も得た。緊急時に、警察証などを示すだけで情報機器を検査できるというのだ。外国人は、中国へ入国する際にスマホやパソコンの情報をみられたり、窃取されたりするリスクが発生する。外国人が、中国渡航をためらうのは当然だ。
中国は、西側諸国の人権意識からみれば、明らかに人権無視の行為に映る。西側諸国企業は、中国ビジネスで社員を派遣することで拘束されるなど、とんでもない事態へ巻き込まれる危険性が高まっている。
求められている「メード・イン・ジャパン」
中国へ進出している日本企業は、海外ユーザーから「メード・イン・チャイナ」でなく、「メード・イン・ジャパン」を要請され始めている。中国で生産することの危険性を察知して、日本での生産を要請されているのだ。
このように、中国がこれまで占めてきたサプライチェーンの役割は、急速に色あせてきた。これが、中国輸出の足かせになる。
海外企業による中国対内直接投資(FDI)が、昨年7月の「反スパイ法」以来、減少過程に向っている。中国にとって、海外企業による中国での直接投資は、大きなメリットをもたらす。米ドルの入手と海外企業の技術や経営ノウハウを入手する機会になるからだ。
こういうチャンスが、昨年7月の「反スパイ法」によって、芽を摘むという失策を演じている。具体的な対内直接投資の減少ぶりは、後で詳細に取り上げたい。
反スパイ法と治安維持法
中国の「反スパイ法」は、日本の暗黒部分の歴史と重なっている。習氏は、「反スパイ法」を公布するにあたり何を目的としたのか。それは、中国共産党体制の維持である。もっとハッキリ言えば、習近平氏の政治生命を護ることだ。
日本では、戦前の「治安維持法」がこれに当たる。治安維持法は、1925年(大正14年)に「普通選挙法」と同時に制定された政治弾圧法と理解されている。天皇中心の国家体制を変革しようと画策する共産主義や、資本主義経済を否定する者を処罰できる法律だ。ロシアに共産党革命政権(ソ連)が出現したことへの強い警戒心があった。
この治安維持法は、日本が戦時色を強めるとともに強化され、太平洋戦争を目前に控えた1941年には、国家の方針に従わないという理由だけで取り締まれるようになり、刑罰も重くなった。この悪名高き治安維持法は、敗戦後の1945年10月、連合国軍総司令部の命令により廃止された。日本は、実に20年間も国家権力によって思想と言論の自由を奪われた「暗黒時代」にあった。
中国の「反スパイ法」は、その性格からみて日本の「治安維持法」に匹敵する。これによって,中国がどういう経路を辿るのか大体の見当はつくであろう。「閉鎖経済」への道を歩む危険性である。
中国の李強首相は6月25日、中国で開幕した「夏季ダボス会議」で演説した。外資企業に、「中国は開かれた大市場だ」と説いて自国への投資を訴えたのである。
李氏は、「グローバル企業と中国企業は、公正な競争環境下で交流・協力し、新興産業の発展に重要な役割を果たせる」と話した。企業の市場参入と公正な競争にかかわる制限の撤廃に尽力しているとも述べ、規制緩和を強調したのだ。
李氏の演説効果は、7月1日からの「反スパイ法」強化で帳消しにされてしまった。中国行政では、反スパイ法の大元締めである国家安全省が全てを牛耳っている。昨年7月施行の「反スパイ法」が、国家安全当局の権限を拡大したのである。
スパイ行為の定義を広げ、「国家の安全と利益」に関わる情報提供などを幅広く取り締まれるようにした。スパイの疑いがあるだけで、手荷物や電子機器を調べられるのは、戦前日本の警察が国民に向って「オイ、コラ」と、一方的に権限を使える時代と瓜二つなのだ。
富裕層の大量移民
「反スパイ法」は、中国富裕層を大量に出国させている背景になっている。
中国が完全な「警察国家」に成り下がっており、富裕層といえどもその地位は安泰でなくなったのだ。特に、習氏が「共同富裕」の社会構築を旗印に掲げたことから、いずれ富裕層の財産を没収して、貧困層へ分配するリスクを身近に感じるようになっている。すでに、官憲が絶対的な権力を振るっている現在、次に来るのは財産没収と読んでいるのだ。
中国富裕層は、他国へ移り住む数で世界「断トツ」である。24年は、中国から他国へ移住する富裕層の数が、推定1万5,200人に上る見通しである。23年の1万3,800人を上回ると予測されている。『フィナンシャルタイムズ』(FT)が報じた。
こうした富裕層の大量移住は、いわば「炭鉱のカナリア」で、富や権力に関する世界の勢力図や地殻が大きく変動していることを示唆するとFTは報じている。「炭鉱のカナリア」とは、かつて坑内の二酸化炭素の増加を検知するためにカナリアを使った例の引用である。これと同様に、富裕層はこれから起こる中国の「混乱」を回避すべく、早めに移住を始めたと読めるのだ。中国の将来は富裕層の脱出によって、その危機が読み取れるとしている。
中国は、このように富裕層が住みにくい国として大挙、移住を始めた國である。そういう「リスキー」な国で直接投資を増やそうという海外企業が増えるわけがない。自社社員が、いつ「スパイ容疑」で拘束されるか分らない危険な状況下にある。直接投資が、減るのは当然である。
23年7月の「改正スパイ法」が、中国の対内直接投資がどのような影響を与えたか、その推移を見ておきたい。
<中国対内直接投資の推移(単位:億元)>
2020年 21年 22年 23年 24年
1月 880 920 1020 1280 1130
2月 不明 850 1410 1410 1020
3月 1290 1260 1360 1400 870
4月 700 950 990 910 590
5月 690 840 860 750 520
6月 1170 1270 1590 1290
7月 630 640 750 630
8月 840 860 940 800
9月 990 1010 1110 730
10月 820 840 860 630
11月 990 990 660 530
12月 1010 1070 770 940
合計 10010 11500 12320 11300
出所:中国商務省 掲載:『ブルームバーグ』(7月4日付)
上掲のデータで、「改正スパイ法」が施行(23年7月)された8月以降の数字に注目していただきたい。23年8月からは、20年、21年、22年の前年同月をほとんど下回っていることだ。もちろん2〜3の例外はあるが、「改正スパイ法」の与えた影響がどれだけ大きいか一目瞭然であろう。
今年5月の最新データは、2020年5月のレベルさえ下回っている。ここから推測されるのは、今年7月からの「反スパイ法」強化によって、その後の中国直接投資へ与える影響がさらに大きくなる点だ。中国は、自分で自分の首を締める事態に陥っている。
中ロ一体のもたらす損失
中国の対内直接投資を抑制する要因は、「反スパイ法」だけでない。中国がウクライナを侵攻したロシアとの関係を「親ロ中立」というオブラートに包んだ曖昧路線を貫いていることだ。
習氏は、この戦略が成功していると「独り合点」している。だが、西側諸国は中国へ深い疑惑の念を強めている。中国は、ロシアへ武器そのものを輸出しないまでも、半導体など武器に使える部品を輸出しているのだ。
これが、西側諸国の「中ロ一体論」とみなされている理由である。
ドイツ政府は、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)子会社が、ガスタービン事業を中国へ売却する件を認めないと決定した。軍事目的への技術転用など、安全保障上のリスクに問題があると判断した結果だ。中国は、精密工業が苦手であることから、満足な自動車用エンジンの製造ができないほどである。それだけに、ガスタービン事業の軍事転用は明らかである。
このように、西側諸国は中国を軍事的な脅威を与える国として警戒対象にしている。その裏には、前述の「中ロ一体論」が危険シグナルになっている。
西側諸国は長年、中ロ関係は不平等で不安定な「利害だけで成り立っている」もので、どちらにとってもさほどプラスはないはずだと安心してきた。互いに不信感があり、関係が深まることはないという認識だった。しかし、ロシアのウクライナ侵攻によって「中ロの不安定関係」が密接化しているとする見方が強まっている。中国とロシアの利益は一致しつつあり、その関係は長く続く可能性があるという点である。
この見解には「疑問符」がつき始めた。中国が、先に挙げた「親ロ中立」という曖昧さを残して、西側からも経済的利益を得たいという願望を捨てきれないことだ。この矛盾が、「ロ朝接近」を招いている。ロシアは、中国の「裏庭」である北朝鮮へ急接近しているのだ。中国がロシアへ武器を供与しないので、ロシアは北朝鮮から粗製濫造でも弾薬提供を受けている。こうした背景で生まれたのが、「ロ朝パートナー協定」である。
北朝鮮が中ロ間で暗躍へ
これは、中国にとって甚だ不愉快な事態である。中国は事実上、自国の「属国」と見てきた北朝鮮へ、ロシアが手を伸してきたからだ。中国のロシアへの不満は、習近平氏とロシア大統領プーチン氏が7月3日、訪問先のカザフスタンの首都アスタナで会談で浮上している。
両首脳は、台湾や南シナ海の問題を巡り、米欧を念頭に「外部勢力の干渉」に反対することで一致した。これは表向きの話で興味深いのは次の点だ。
習氏は、「激変に満ちた国際情勢に直面する状況下で、両国は永続的な友好という当初の志を堅持すべきだ」と語った。プーチン氏は、中ロ関係について「歴史上、最も高いレベルにある」と話したのである。これは一見すると何の変哲もないが、習氏は「両国は永続的な友好という当初の志を堅持すべきだ」と釘を刺したのだ。ロシアが、北朝鮮へ妙なシグナルを送っており、北朝鮮を中国から引離そうとしていることを警告したのである。プーチン氏は、ウクライナ戦争で武器を送らない中国に対して、北朝鮮を使って牽制した形だ。
北朝鮮には、中国依存度を減らしてロシアと関係を深められるメリットがある。北朝鮮は早速、これまで中国の衛星を使用してテレビ放送を海外に送出してきたが6月、ロシアの衛星に転換したと、米ラジオ・フリー・アジア(RFA)が7月1日(現地時間)報じた。北朝鮮の中国離れの一環であろう。
北朝鮮は、中ロ間でバランス外交を始めている。三者三様の動きをしており、「中朝ロ」と一括りできない関係性をみせているのだ。
以上のように、中ロ朝三カ国の関係は一皮剥けばバラバラである。この中で、中国は経済的な利益を求めて西側諸国へ接近している。西側は、軍事リスクとして「中ロ朝」を一体視している。
こうなると、「中立親ロ」の中国も経済的な損失を被ることになる。中国への直接投資を減らされるからだ。習氏は、もっとも巧みに動いていると考えているが、実態は逆であることを窺わせている。中国が、西側先進国を「手玉」に取ることは不可能であろう。
勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
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JBpress (李 智慧:野村総合研究所エキスパート)
2024年7月17日
中国にある半導体メーカーの生産ライン(写真:CFoto/アフロ)
チャイナ・イノベーションは、応用や社会実装に強みがある一方、基礎技術に弱点があった。米国などの制裁によって輸入できなくなった、死活的に重要な35のボトルネック技術について、中国は自主開発に舵を切った。その結果、15の技術はすでに技術封鎖を突破し、実現したと見られる。一方12の技術は依然として国外に依存しているのが現状だ。(JBpress)
※本稿は『チャイナ・イノベーションは死なない』(李智慧著、日経BP)より一部抜粋・再編集したものです。
これまでのチャイナ・イノベーションは、技術の巧みな応用や社会実装の早さに強みがあった。他方、基礎技術から生まれるイノベーションが少ないことが弱点だった。
しかし、ここに無視できない事実を指摘しておきたい。過去に米国から制裁を受けた分野では、中国の自主開発に弾みがつき、技術封鎖を突破してきた事実だ。位置情報を管理する米国の「GPS(全地球測位システム)」を代替する衛星測位システム「北斗システム」や有人宇宙ステーションやロケットといった宇宙開発技術などがその例だ。
関連記事:【太陽光発電パネル】なぜ中国が短期間で世界市場を席巻したのか
基礎技術開発の困難さは半導体を見れば明らか
中国では近年、“Hard & Core Technology”と定義される高度な基礎技術の開発に力を入れている。AI、航空宇宙、バイオ、半導体、高度情報技術(量子科学、ブロックチェーン、ビッグデータなど)、新素材、新エネルギー、スマートインダストリーの8分野だ。
清科集団がまとめた2023年上半期の中国のエクイティ市場の動向分析からも、そのような傾向が読み取れる。半導体・電子機器、バイオテクノロジー・ヘルスケア、ITに投資が集中しており、この3つの分野だけで全体の62.4%を占め、2271件に上った。短期間で利益を回収できるネットビジネスから、半導体など長期間の投資が必要な業界に移っている。
ただし、資金の投入だけでは、技術の突破に必ず結び付くとは限らない。基礎技術のブレークスルーがどれほど困難なことかを、半導体技術を例に見てみよう。
先端半導体を製造するのに必要不可欠なのは、オランダのASML社製の極端紫外線(EUV)露光装置だ。現在、米国の制裁によって、この装置を輸入できない状態が続いている。
この装置は、台湾のTSMCや米国のインテル、韓国のサムスン電子などサプライチェーン上の複数の企業との協業の下で、世界中の英知を結集して10年以上の歳月を費やして開発されたものだ。中国が初期開発段階に到達するのには、最低でも5年から10年は必要とみられている。
数年前、ASML社CEOのピーター・ウェニンクは、同社の半導体製造装置は5000社以上のサプライヤーによって構成される世界的なエコシステム上で成り立っているため、「設計図を中国に渡しても、製造できない」と発言した。
EUV露光装置で使用されているドイツ企業の光学モジュールだけを取り上げても、45万7329個の部品が含まれるといわれ、EUV露光装置の内部にある精密部品の数は10万個に達する。さらに驚くべきことに、EUV露光装置は半導体製造装置全体のほんの一部にすぎないことだ。最先端のファウンドリーには500種類以上の機械設備があり、製品ができるまでに1000以上の工程がある。
ただ、興味深いのは、ピーター・ウェニンクが2022年5月、「物理法則は世界中どこでも同じだ。中国が開発できない理由はない」と、当初の発言を修正していることだ。
2023年3月に訪中した後、ウェニンクは「中国が独自のフォトリソグラフィ装置を開発することは、世界の半導体産業チェーンを破壊し、ASMLの市場シェアを脅かす」と発言した。発言の真意は不明だが、米国の制裁下で中国の半導体産業が成長していることを肌で感じたのかもしれない。
十分な資金と技術者を投入すれば、半導体企業は技術的課題を解決できると考える向きもあるが、半導体製造はそう簡単ではない。米科学技術政策局のジェイソン・マシーニー元副局長は、「それは、人類文明全体をゼロから再構築することになると言えるからだ」と語っている。
この困難な課題をファーウェイはどのように克服しているのだろう。世界から注目される中、ファーウェイからの発表は一切ない。米国のさらなる制裁に神経をとがらせているのだと思われる。2024年4月にファーウェイが発表したスマートフォン「Pura 70」シリーズに、7ナノ半導体チップの「キリン 9010」が搭載されている。しかも、このチップは、「Mate 60 Pro」に採用された「キリン 9000S」とコア構成が一部変更される製品であり、制裁下でも製造が継続可能と間接的に証明された。
いずれにしても、中国は今後も基礎技術におけるボトルネックの解消に全力を挙げるだろう。
35の重要基礎技術、どれを実現できたか?
従来、中国は民生用技術分野では国際分業という発想から応用技術分野で急成長を遂げてきたが、米国の技術輸出規制を受けて、高度な基礎技術の自主開発に舵を切った。しかし、基礎技術の開発には数十年の積み重ねが必要であり、短期間で成果を出すことは難しく、まず置き換え可能な領域から徐々に着手しているようだ。
米国など先進国の制裁によって輸入できなくなった中国にとって死活的に重要な35のボトルネック技術のうち、どの程度まで解消できたのだろうか(次ページの表)。
表 35のボトルネック技術の解消状況(2023年11月時点)
半導体業界連盟などによると、中国は少なくとも21の主要技術を突破、もしくは一部突破している。
35のボトルネック技術では、影響の大きい半導体に目が行きがちだが、実は身近なパソコンとスマートフォンのオペレーティング・システム(OS)やデータベース管理システム(DBMS)などデジタル社会の実現に不可欠な技術もボトルネックとなっている。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、アップルやマイクロソフト(OS、端末など)、オラクル(DBMS)、シスコ(通信機器)、VMware(サーバーの運用に重要な仮想化ソフトウェア)、ドイツのSAP(統合基幹業務システム〈ERP〉)、サムスン(半導体など)などがロシアでの自社ソフトウェア製品やサービスの提供を停止した。これにより、ロシアの国民生活に深くかかわる多くのシステムの運営に支障が出た。
OS、DBMS、ERP、LiDARなどはほぼ代替できる
こうした事態を深刻に受け止めた中国は今後、スマートフォンOSはファーウェイのハーモニーの開発によって徐々に国産化を進めるだろう。また、データベース管理システム(DBMS)も、ファーウェイやアリババなどによって国産システムが開発され、ほぼ代替できるようになっている。
自動運転技術の実現に不可欠な技術の一つは、自動運転車の目となるレーザー光を用いた3次元センサー、LiDAR(ライダー)だ。当初、米国企業によって独占されていたこの技術だが、中国企業が自主開発に成功した。世界のLiDAR特許における中国のシェアはすでに50%を超えている。これによって、かつて数十万円もした高額の部品が数万〜十数万円程度になり、自動運転車の発展にとって追い風となっている。
テクノロジーの分野では、2017年に初飛行に成功した国産ジェット旅客機C919や、ファーウェイの一連の大胆な革新と発表が世界の注目を集めたが、今後、米国の制裁や技術輸出制限を受ける分野では、中国製品への置き換えがさらに進むだろう。
2023年3月17日、外部協力パートナーとのイベントで、ファーウェイの任正非は米国の制裁を受けた3年間を振り返り、次のように語った。
「ファーウェイは、3年間かけて4000以上の回路基板と1万3000を超えるデバイスを代替するための開発を行い、ようやく通信機器の国産化を実現でき、部品の安定性を確保できた」
キリン9000sチップの製品化に成功したことで、チップ設計と製造における同社の技術とグローバル・チップ・サプライ・チェーンにおける自立の可能性が高まったことは大きな一歩だ。同社の事例は、中国企業がこれまでのように米国企業に追随することには満足せず、重要な技術分野では独自のイノベーションに取り組んで業界をリードしていく可能性を示している。
『チャイナ・イノベーションは死なない』(李智慧著、日経BP)
李 智慧(Li Zhihui)
野村総合研究所エキスパート。中国福建省出身。中国華東師範大学卒業、商社勤務の後、神戸大学大学院経済学研究科国際経済専攻博士前期課程修了。大手通信会社を経て2002年に野村総合研究所に入社。専門はデジタルエコノミー、メガテックのビジネスモデルと戦略、フィンテック、ブロックチェーンやAIなどの先端企業の事例研究など。著書に『チャイナ・イノベーション データを制する者は世界を制する』、『チャイナ・イノベーション2 中国のデジタル強国戦略』、『チャイナ・イノベーションは死なない』(ともに日経BP)。
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