「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.362 ★ 「激安の中国製品」が大量に流入しているのは日本だけではない…習近平政権の経済政策が米国を怒らせたワケ 対抗措置で日本製品の不買運動が起きる恐れも

2024年05月29日 | 日記

PRESIDENT Online 真壁 昭夫:多摩大学特別招聘教授

2024年5月27日

価格競争を強める中国に制裁を発動へ

米バイデン政権が、中国製の電気自動車(EV)、車載用バッテリー、太陽光パネルなどを対象とする制裁関税引き上げを発表した。その措置には、中国が過剰生産能力を使って輸出攻勢をかけるのを阻止する意図がある。

中国の習近平国家主席(2024年5月16日)

イエレン財務長官らは、これまでに何回も中国の過剰生産能力は世界経済にマイナスだと警告してきた。欧州委員会からも、中国製のEVは産業補助金や土地の供与などで過度な価格競争を引き起こし、欧州メーカーの収益が減殺されていると批判を強めている。

それに対して中国は、まったく問題は存在しないとのスタンスだ。米国の関税措置に関して、中国政府は即座に対抗措置を示唆した。19日、中国は、日米EUおよび台湾から輸入している、ポリアセタール樹脂(自動車部品などに用いる石油化学製品の一つ)を対象とするダンピング(不当廉売)調査を開始した。今後、中国からの対抗措置は増えるだろう。

バイデン政権の対中制裁措置、それに対する中国の対抗措置は米中の貿易戦争のきっかけにもなりかねない。米中の貿易摩擦熱は高まり、先端分野などでの米中対立の激化は、自動車や化粧品などの分野で中国依存度が高まったわが国にとって無視できない逆風になることが懸念される。わが国企業も相応の準備が必要だ。

中国製EVの関税率は一気に4倍に

5月14日、バイデン政権は中国製品に対する制裁関税率を引き上げた。中国製EVの関税率は25%から100%に上昇する。EVに搭載するバッテリーは7.5%から25%、太陽光パネルは25%から50%、それぞれ税率を引き上げる。

現在、中国のEV、車載用バッテリー、太陽光パネルは、いずれも過剰生産能力を背景に低価格での輸出が急増している。それに加えて、米国は中国製の鉄鋼・アルミに対する関税(0%~7.5%)も25%に引き上げる。

2025年、米国は、中国製の汎用型半導体(旧式の半導体製造装置を用いて生産されるチップ)の関税率を25%から50%に引き上げる方針だ。米国政府は、回路線幅が10ナノ(10億分の1)メートル以下の先端チップ分野で対中制裁を強化した。それは、汎用型の分野にも波及する。

2026年、黒鉛・永久磁石の関税が0%から25%に上昇する予定だ。永久磁石に関して希土類(レアアース)の対中依存の軽減が念頭にあるだろう。今回の対象品目の総額は180億ドル(1ドル=155円換算で2.8兆円程度)。2018年から19年にトランプ政権が実施した対中制裁関税(3700億ドル(約57兆円))の一部を引き上げる。

秋の大統領選をにらんだバイデン氏の思惑

今のところ、BYDが世界トップに成長した中国製EVは、ほとんど米国で流通していない。米国で販売しているEVはテスラを中心とする米国製とみられる。その意味では、今回の関税率引き上げはEVに関して、ほとんど効果はないものとみられる。むしろ、バイデン氏にとって、今年秋の大統領選挙をにらんだ政治的な意味が大きいのだろう。

経済面から考えると、今回の対中制裁関税引き上げは中国の過剰な生産能力の強化、それによる安価な輸出品の増加から米国の雇用を守る意図がある。米国が脱炭素、経済のデジタル化の加速を推進するために、EVや車載用バッテリー、太陽光パネルなど再生可能エネルギ関連技術の強化は不可欠だ。

それに伴い、汎用型から先端分野までチップの需要も増える。バイデン政権は中国製品を国内から締め出し、雇用と所得の機会を増やそうとの意図がありそうだ。特に、半導体などの分野は、米国の経済・安全保障体制の強化にかかわる。米議会からも対中強硬策強化の要請は強まっている。

11月の大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領にとって、激戦区の有権者への配慮を示す意味は重要だ。ミシガン州には自動車産業が集積している。USスチールが本拠点を置くペンシルベニア州は鉄鋼生産の中心地だ。

中国は日本に対しても“警告”

14日、中国政府は、自国の経済を守るため必要な行動をとると対抗措置の発動に言及した。習近平国家主席の欧州歴訪でも示されたが、中国は自国に過剰な生産能力はないとの立場だ。

19日、日米欧台から輸入するポリアセタール樹脂に関する調査を中国は開始した。調査は1年間かけて実施する。必要に応じ、6カ月間延長する可能性もある。日中韓の首脳会談を控える中、わが国も調査対象に含まれた。中国は米国の対中政策方針に与(くみ)すれば巻き添えにあうと警告を強めているように見える。台湾に関しては、20日に発足した民主進歩党の頼清徳政権に圧力をかける意図もあるだろう。

20日、中国は台湾への武器売却でボーイングなど米国の防衛大手3社を“信頼できないエンティティー(取引相手)”に指定した。3社とも中国との取引はない。収益への影響はほとんどないとみられるが、報復措置の強化は米中の対話機運に水を差す。米国の大手企業は、中国は敵ではなく競争相手との見解を示し対中デリスキング(リスクの低減)を強化したが、そうした取り組みが難しくなる恐れもある。

行き場を失った激安中国製品がドンドン増える

習政権下、供給能力の強化を優先する中国の経済政策方針が変わるとは考えづらい。中国国内では不動産市況の悪化に歯止めがかかっていない。家計は先行きの不安を強め、貯蓄率は上昇した。

理屈で言えば、供給サイドよりも不良債権処理と公共事業の強化などによる需要刺激が必要だ。しかし、今のところ、そうした政策が発動される兆しは出ていない。中国政府の経済対策はやや後手に回っているといえるだろう。

行き場を失った低価格の製品は、より大量に海外市場に流出することになる。欧州歴訪時、過剰生産に問題はないと明言した習氏の姿勢、米国の制裁関税引き上げ後の中国政府の見解を見る限り、中国の過剰生産能力の拡大は続きそうだ。

中国企業は輸出拡大を目指し、メキシコやベトナム経由での対米輸出強化も企図しているようだ。EV世界最大手のEVメーカーのBYDは、メキシコで工場用地の取得を目指している。米国はベトナムを市場経済として認定するか否か検討を進めている。それが認定されれば、ベトナムの関税は低下する。それを中国が利用し、若干の加工などを付加した製品を米国に輸出し、収益の獲得を狙うことも考えられる。

写真=iS※写真はイメージです

日本の半導体企業にも負の影響が出てくる

今後、米国はメキシコなどに、中国企業の締め出しをより強く求めることになるだろう。カナダも中国製EVに対する関税引き上げを検討し始めた。また、欧州委員会は中国製EV、太陽光パネル、医療機器、鉄道車両などに加え、ブリキ鋼板の反ダンピング調査も開始した。

欧州の自動車業界は欧州委員会の対中EV制裁関税への懸念を強めた。中国の報復措置は、ドイツ自動車メーカーなどの収益減少につながるとの不安は多い。それでも、過度な価格競争から産業を守るために、欧州委員会が対中制裁関税で米国と歩調を合わせる可能性は高い。

大統領選挙を挟んで、米国が対中制裁措置を強化したり、関税を引き上げたりする恐れもある。特に、戦略物資として重要性が高まる半導体分野で、米国の対中強硬姿勢は強まるだろう。米国は、半導体の製造・検査装置など半導体関連部材の分野で競争力が高いわが国の企業に、米国が対中輸出管理体制をより強化するよう求める可能性もある。

中国で“日本製品不買運動”が起きる恐れも

輸出管理の厳格化などに対し、中国は追加的な報復措置をとるだろう。関税の引き上げに加え、不買運動などの非関税障壁が高まる展開も考えられる。状況によっては、中国で日本製品などのボイコットが起き、食品、化粧品、自動車メーカーの収益が下押しされる恐れもある。

米中の貿易摩擦熱の高まりは世界経済にマイナスだ。米ソ冷戦と異なり、グローバル化の加速で米国やEU諸国、わが国、そしてアジア新興国などと中国の相互依存関係は高まっている。米国も、日用品やアパレル、玩具などの分野で中国製品を必要としている。米中の報復関税の発動、それによる貿易戦争のリスクが上昇するに伴い、世界の供給網の不安定化は高まる。

世界の企業にとり、在庫積み増しや、調達先分散の必要性はさらに高まる。米大統領選挙でトランプ政権が誕生すれば、世界の供給体制は急速に不安定化し、コストプッシュ圧力が上昇する恐れもある。短期間で、米中の貿易摩擦が終息に向かうことも考えづらい。わが国の企業にとって対応を急ぐ必要性は高まっている。

真壁 昭夫(まかべ・あきお)

多摩大学特別招聘教授。1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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No.361 ★ 「成果ゼロ?」の日中首脳会談を「有意義だった」と自賛する岸田  首相、拘束邦人や水産物禁輸問題はどうなるー東アジア「深層取材ノート」(第236回)

2024年05月29日 | 日記

JBpress (近藤 大介:ジャーナリスト)

2024.5.28

5月26日に首脳会談を行った中国の李強首相と日本の岸田文雄首相(新華社/共同通信イメージズ)

岸田首相自慢の外交手腕、中国・李強首相を相手に通用したか

 ソウルで行われた日中韓首脳会議に合わせ、5月26日夕刻に約1時間開かれた岸田文雄首相と李強首相との日中首脳会談は、またもや「ゼロ回答」に終わった。もしくは「発表できない進展」があったのかもしれないが、日中首脳会談後の華々しい発表とはならなかった。

 日本と中国の間には、いわゆる日本側が言う「4大懸念事項」が存在する。

①日本産水産物輸入禁止……昨年8月24日に、日本が福島第一原発のALPS処理水を太平洋に放出し始めたことに対し、中国が「核汚染水を海洋に放出した」として猛反発。以後、日本産水産物及び加工品をすべて輸入禁止としている。

②複数の日本人のスパイ容疑での拘束……昨年3月にアステラス製薬幹部を北京で「反スパイ法違反」などで拘束したのを始め、少なくとも5人の邦人が中国国内で「スパイ容疑」により拘束・逮捕されている。

中国生まれでオーストラリア国籍を持つジャーナリストのチェン・レイ氏(右)は、中国国営放送のニュースキャスターを務めていたが、国家機密を外国に提供した容疑で3年間も拘束された。昨年10月にようやく解放され、オーストラリアへの帰国を果たした(提供:Sarah Hodges/DFAT/AP/アフロ)

③尖閣諸島のEEZ(排他的経済水域)内でのブイ設置……昨年7月、中国が尖閣諸島のEEZ内にブイを設置。衛星と連動させた軍事目的の海洋計測などを行っているものと見られる。

④日本人短期渡航のビザ措置……コロナ禍が明け、中国はすでに多くの国に対して、短期のビザなし渡航を認めているにもかかわらず、日本に対しては中国へ渡航するすべての日本人に対して、ビザを義務づけている。

「求めた」「求めた」「求めた」「要請した」が…

 日本外務省の発表によれば、今回、岸田首相は李首相に対し、「4大懸念事項」について、それぞれ次のように求めた。

「ALPS処理水の海洋放出について、両首脳は、昨年11月の日中首脳会談以降、専門家を含む両国間の事務レベルの意思疎通が進展していることを評価した。その上で、岸田総理大臣から、IAEAの下で関心国の参画を得て行われているモニタリングが中国を含む関心国の理解を促進することを期待している旨述べた。両首脳は、問題の解決に向けて、これまでの意思疎通の進展を踏まえ、事務レベルで協議のプロセスを加速していくことで一致した。また、岸田総理大臣から、中国側による日本産食品の輸入規制の即時撤廃を改めて求めた」

「中国における邦人拘束事案について、岸田総理大臣から、我が方の立場に基づき改めて申し入れ、拘束されている邦人の早期解放を求めた」

「日本のEEZに設置されたブイの即時撤去を求めた」

「岸田総理大臣から、中国短期滞在査証免除措置の早期再開を改めて要請した」

 このように、「求めた」「求めた」「求めた」「要請した」のだが、日本側が納得のいく回答が得られなかった、もしくは幾ばくかの進展はあったが発表には至らなかったというわけだ。これは、昨年11月にサンフランシスコAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の際に行われた岸田首相と習近平国家主席の日中首脳会談の時と同様である。すなわち、結果としてこの半年間で、進展を見せていないのだ。

だが岸田首相は、会談後に記者団に対して、こう述べている。

「『戦略的互恵関係』の包括的な推進と、『建設的かつ安定的な関係』の構築という大局的な方向性を確認した上で、諸懸案についても議論ができ、有意義な会談となったと受け止めています」

 何が有意義だったのだろうか? 「有意義だったが発表できないこと」があるとしたら、それはなぜなのか?

唯一、進展が見込めそうなのは…

 一方、中国側の発表を見ると、新華社通信は、次のような李強首相の発言を報じている。李首相の発言部分を全訳する。

「昨年11月、習近平主席は岸田首相とサンフランシスコで会談し、重要なコンセンサスに達した。両国の戦略的互恵関係を全面的に推進することを改めて確認し、双方の関係発展に重要な政治的指導を提供したのだ。

 日本が中国とともに、さらに多くの点で前を向いて進み、両国のリーダーが達成した重要なコンセンサスをうまく実行していくことを望む。互いの信頼を不断に固め、協力を深化させ、意見の相違をうまく処理し、新時代の要求に合致した建設的、安定的な中日関係構築へ向けて努力していくことを望む。

 歴史問題と台湾問題は、中日関係の政治的基礎をなす重大な原則問題であり、基本的な信義の問題でもある。台湾問題は中国の核心利益の中の核心であり、(越えてはならない)レッドラインでもある。日本側が重く受けとめて遵守し、両国関係が積極的な雰囲気を作り不断に発展していくことを望む。

中日の発展は、互いにとって重要な機遇である。中日経済は、すでに『あなたの中に私があり、私の中にあなたがある』という局面にある。両国の国民に、実に実際的な福祉をもたらすのだ。中日の経済は、互いの長所を補填し合うということが長期にわたって存在する。そして科学技術のイノベーション、デジタル経済、グリーン発展、第三国市場などの方面で、さらに巨大な協力の潜在力がある。

 双方が相互の成就を担い、インダストリアルチェーンとサプライチェーンの安定した流通と全世界の自由貿易システムを、共同で維持、保護していくべきだ。中国は日本と、引き続き多くの分野、多くのルート、多くのレベルでの友好交流を展開していくつもりだ。さらに人員の往来を利便化し、青少年の交流を積極的に展開し、中日友好協力の民意の基礎を、不断に実行していく。

 日本の福島の核汚染水の海洋放出問題は、全人類の健康と、全世界の海洋環境、国際的な公共の利益に関することだ。中国は主要な利益相関者であり、中国政府と国民はこのことに対してとても懸念している。日本は長期の国際的な監視測定の設定などの問題で、さらに一歩誠意と建設的な態度を持って、国内外の正当で合理的な懸念に真摯に向き合い、自身の責任と義務を着実に履行することを望む」

 以上である。この内容を深読みすると、①はまったくの平行線。②と③は無視。④は近く進展の可能性ありというところだろうか。

低支持率の他国トップには冷たくなる中国

 今週は、中国共産党の劉建超中央対外連絡部長の来日を予定している。それが、④を決断するきっかけになればよいが、逆になる可能性もある。

 一般に、日本よりもプラグマチックな外交を展開する中国は、日本の政権の支持率が2割を切ると、急に冷淡になる。「どうせ半年以内に首相が代わるだろうから、大事なことは次期政権と決めればよい」となるのだ。

 中国は岸田政権をどう見定めるのか? ④すらも進展しないとなれば、「岸田総裁は9月に再選なし」と判断したということだろう。

近藤 大介

ジャーナリスト。東京大学卒、国際情報学修士。中国、朝鮮半島を中心に東アジアでの豊富な取材経験を持つ。近著に『進撃の「ガチ中華」-中国を超えた?激ウマ中華料理店・探訪記』(講談社)『ふしぎな中国』(講談社現代新書)『未来の中国年表ー超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書)『二〇二五年、日中企業格差ー日本は中国の下請けになるか?』(PHP新書)『習近平と米中衝突―「中華帝国」2021年の野望 』(NHK出版新書)『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)『中国人は日本の何に魅かれているのか』(秀和システム)『アジア燃ゆ』(MdN新書)など。

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No.360 ★ 中国は大崩壊へ 世界から孤立し輸出産業が打撃を受けた世界第2位の 経済大国はどこで道を誤ったのか?

2024年05月29日 | 日記

MAG2NEWS (by 坂口昌章『j-fashion journal』)

2024年5月28日

 不動産市場の低迷などもあり、回復の兆しが見られないとされる中国経済。一時は「アメリカを抜く」とも言われ指導部もその気になっていた中国は、どこで道を踏み外したのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』ではファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、中国経済が成長するために必要でだった施策を考察。さらに世界情勢や日本の今後の予測を試みています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:2024年、世界と日本の展望

1.中国とアメリカが揃って迎える経済危機

中国経済が崩壊しようとしている。この流れは2024年も変わらないだろう。2024年は、世界第2位の経済大国がどのように崩壊していくかを観察する年になる。最悪の場合、再び文化大革命が実行されるかもしれない。

中国経済の悪化は、コロナ禍だけが原因ではない。それ以前から、不動産バブルは進行していたし、供給過剰も起きていた。コロナ禍が過ぎれば、経済が回復するという説には根拠がなかったのだ。

中国経済が成長するには、人民の所得をあげ、国内市場を育成することが必要だった。企業には内部留保を義務づけ、累進課税を導入し、所得格差を是正する。持続可能な経済のためには必要な施策だ。

中国政府が世界に覇権を唱えるのではなく、平和を維持し、国内経済を成長させていれば、現在のような状況には陥らなかった。中国が孤立することもなかったし、輸出産業が壊滅的な打撃を受けることもなかった。

不動産バブルについても、人口に見合う不動産の供給量を計画するべきだった。それでこそ、計画経済である。しかし、自分で価格を決定した物件を売れば売るだけ地方政府の収入になったのだから、供給過剰に陥るのも当然だ。不動産価格を市場原理でコントロールすれば、これほどの供給過剰になる前に不動産価格が暴落していただろう。

習近平が言う「マンションは住むためのものであり、投資するものではない」という主張は正しい。しかし、その前に行うべき政策を何も行わなかったのだ。

中国が供給過剰に到るまで設備投資できたのはなぜか。不動産バブルに到るまで不動産を買い続ける購入資金があったのはなぜか。これは、海外から潤沢な資金供給があったからだ。米国の国際金融資本は、発展途上の中国に巨額融資を行い、経済成長を促した。米国は中国製品を積極的に輸入し、中国企業の米国市場上場に対しても優遇した。

その結果、中国企業は西側先進国の企業に勝利し、中国政府は米国にも勝利できると確信した。

米国の国際金融資本の資金は中国不動産市場にも流れており、それが地方政府の財政を支えていた。不動産バブル崩壊は、中国の産業と地方政府を支えていた資金の流れを止めてしまった。

中国経済は崩壊し、米国の国際金融資本は莫大な不良債権を抱えている。世界第1位、第2位の経済大国が揃って経済危機を迎えるのだから、世界経済もその影響を免れることはできないだろう。

2.崩壊する太陽光発電とEVという「SDGsビジネス」

国連が定めたSDGsは、持続可能な社会をつくるための具体的な目標である。その中でも、温室効果ガスであるCO2の削減が重視されている。

具体的には、石炭火力発電から再生可能エネルギーへの転換、ガソリン車からEVへの転換が目標となっている。

SDGsの周辺には、様々なビシネスが存在している。その中でも、日本で注目されているのは、太陽光発電とEVだ。

太陽光発電は既にピークを越している。中国では、補助金目当ての数多くの業者が参入し、大量の太陽光パネルを販売したが、補助金を受けとると会社を畳んで逃げ出した。その結果、中国では太陽光パネル発電は下火になった。太陽光パネルは大量在庫となり、それが日本に輸出された。

日本でもメガソーラー発電は供給過剰となった。既に電力会社が買い取れる発電量を越え、電力の買い取り料金が下落している。更に、杜撰な造成や設置工事が原因で、土砂崩れが発生している。太陽光パネルには毒性の強い物質が含まれており、耐用年数を過ぎたパネルの廃棄処理も課題となっている。中国の事例を見る限り、適切な廃棄処理が行われるかは怪しいだろう。

また、太陽光パネルの原料となる多結晶シリコンは中国の新疆ウイグル地域が最大の生産地である。ウイグル人の人権侵害問題で米国は中国製太陽光パネルを輸入禁止にしている。日本政府はどのように判断するのだろうか。

以上のように、現状では太陽光発電事業に持続可能性は見いだせない。

EV(電気自動車)は走行中にCO2を排出しない環境に優しい車として欧米各国で積極的に導入された。また、中国はEV生産を国家プロジェクトと位置づけ、テスラの工場を特別待遇で誘致した。そして、多くの中国企業がEV製造に参入した。中国製の安価なEVは、国内外で販売を伸ばした。

欧米市場へのEV輸出が激増し、中国政府は「自動車輸出で日本を抜いた」と喜んでいる。

しかし、問題も山積している。エネルギー危機により電気代が高騰し、ガソリン車よりもコストが高くなってしまった。また、気温が低いとバッテリー性能が低下するため、冬場には立ち往生するEVも増えている。購入して3年を過ぎるとバッテリー性能が著しく落ちるため、保険に入れないという問題も発生している。バッテリー交換の費用は非常に高額であり、バッテリーのリサイクルへの見通しも立っていない。

環境に良いはずのEVも、製造工程まで含めるとガソリン車以上にCO2を排出していることも分かってきた。また、バッテリー廃棄により環境汚染を招く危険性も指摘されている。

2023年末になると、EV人気は下がり、プラグインハイブリッド車の人気が高くなっている。

こうした現実を見る限り、EVはまだ発展途上の技術であり、実用段階には達していなかったことがわかる。ユーザーに多くの選択肢を与えるというトヨタの全方位戦略は正しかったと言えそうだ。

SDGsそのものには価値があるが、周辺ビジネスについては、再構築が必要になるだろう。

3.数百万のドローンによる防衛戦略を構築すべき日本

2022年2月24日に開始したロシアによるウクライナ侵攻は未だ継続している。戦争の状況は刻々と変化し、次第に新しい戦争の形態が見えてきた。

当初、ロシア軍はミサイル攻撃の後、戦車で地上戦に向かった。しかし、何台もの戦車がロケットランチャー、ドローンによる攻撃で破壊された。

また、ロシアの黒海艦隊の旗艦「モスクワ」は、ミサイル攻撃で沈没したという情報もある。

第二次世界大戦で主力として活躍した戦車、軍艦は、その座標がわかれば簡単にミサイル攻撃を受けてしまう。そして、座標は軍事衛星やドローン、地上のセンサー等により計測が可能である。

ロシア・ウクライナ戦争が長期化する中で、兵器のコストも重要な要素となっている。冷戦時代の武器は高額で高性能なものが多く、実戦というより牽制が目的だった。NATOからウクライナに供与された高額で高性能な武器はたちまち弾薬不足に陥っている。

23年2月4日、中国は米国に対し偵察用気球を飛ばし、米軍はF-22戦闘機によるミサイル攻撃で中国から飛来した偵察用気球を撃墜した。

軍事衛星全盛の時代に、中国は旧時代の気球で対抗している。しかし、気球の飛行高度は高く、通常の戦闘機では届かない。最新鋭の戦闘機によるミサイル攻撃は非常にコストが高い。しかし、気球の製造コストは安価である。もしも、数百、数千の気球が飛来した場合、米軍は対抗できるのだろうか。しかも気球は無人で、戦闘機は有人なのだ。

低コストで無人の兵器が主流になれば、戦争の作戦も軍備のあり方も大きく変化するだろう。

22年10月17日、ロシアはイラン製の自爆ドローンで地上の住宅を攻撃している。

一方のウクライナは、23年3月にオーストラリア製の段ボールドローンCorvo PPDSを数百機を受けとっている。Corvo PPDSは安価で、フラットパックで提供され、1時間で組み立てが可能だ。

更に、23年8月ウクライナ海軍は、無人潜水艇(UUV)のプロトタイプ「マリーチカ」を公開した。マリーチカは全長約5.5mの魚雷のような無人艇(ドローン)で、数百kgの爆薬を積んで1,000km近く航続し、ロシアの軍艦の最も脆弱な部分を攻撃できるという。

ウクライナにとって、今回の戦争は防衛戦であり、主戦場は国内だ。従って、航続距離が短く安価なドローンの活用が可能である。しかし、自国から離れた地域への侵略戦争の場合、航続距離の長い船舶や航空機、長距離ミサイルが必要となる。これらの兵器は高コストだ。

今後の戦争は低コストで大量生産可能なドローンが主力になるだろう。

高性能のセンサー、カメラ、半導体を搭載した防衛用ドローンの大量生産は、日本の得意分野である。数百万のドローンによる防衛戦略を構築してほしいと思う。

4.政治家の煽動に簡単には乗らない日本人

さて、日本はどうなるのだろうか。

日本は米国の属国であるとか、中国に支配されているとか言われることがある。それほど、日本としての主張が聞こえてこないのも事実だ。

しかし、日本全体が間違った方向に進んでいるわけではない。米国、中国等を見ていると、国のリーダーが間違った方向に進むと、国全体も間違った方向に進む。日本は個人のリーダーに引っ張られているのではない。一人一人は好きな方向に進んでいるように見えるが、群れ全体は天が示す道を進んでいる。これは日本人の特徴でもある「常に相手の気持ちを考えること」に由来しているのではないか。

常に相手の気持ちを推し量っているので、周囲の空気には敏感である。新たな情報が入れば、すぐに収集しようとするし、周囲の人がどのように考えているかも確認する。意見が割れているときには、意見が集約されるまで保留することもある。

こうして集合知が生成されることが日本の特徴かもしれない。

更に、日本人はリーダーのトップダウンより現場の集合知を重視することが多い。総理大臣が何と言おうと、その意見が常識外れであれば、国民はその意見には従わない。無視するだけだ。そして、国民が無視していることを政治家やマスコミも感じ取る。いつのまにか、主張が消えていることも少なくないのだ。

日本の問題は、マスコミや政治家、役人が「大衆は愚かである」と思い込んで、真実を伝えないことだ。問題が明確に設定されれば、日本人の集合知で解決できる。しかし、自分の利益だけを考えて情報を操作されると、解決できるものも解決できない。多くの場合、愚かなのは、マスコミ、政治家、役人の方だ。

日本において、衆愚政治は存在しない。政治家の煽動に簡単には乗らないからだ。例え、間違えることもあっても必ず修正されるだろう。

従って、問題があるのなら、問題を開示すること。問題がないように情報を隠蔽するのが最も罪深い。

その意味で、世界が危機を迎える時代は、日本人が成長する時代でもある。2024年が成長を実感できる年になることを祈りたいと思う。

image by: Fabio Nodari / Shutterstock.com

坂口昌章(シナジープランニング代表) 

グローバルなファッションビジネスを目指す人のためのメルマガです。繊維ファッション業界が抱えている問題点に正面からズバッと切り込みます。

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No.359 ★ 中国・上海市、住宅の頭金比率引き下げ 購入規制を緩和

2024年05月29日 | 日記

By ロイター編集

2024年5月28日

 5月27日、中国が今月、総合的な不動産支援策を発表したことを受け、上海市は住宅の頭金比率を引き下げ、一部の購入規制を緩和すると発表した。昨年5月、上海で撮影(2024年 ロイター/Aly Song)

[北京 27日 ロイター] - 中国が今月、総合的な不動産支援策を発表したことを受け、上海市は住宅の頭金比率を引き下げ、一部の購入規制を緩和すると発表した。

1軒目の住宅購入時の最低頭金比率は20%に、2軒目については郊外で30%に、それ以外は35%に、それぞれ引き下げる。28日から適用する。

これまでは1軒目が30%、2軒目は40─50%としていた。

上海市はまた、1軒目の住宅ローンの最低金利を従来のLPR(最優遇貸出金利)マイナス10ベーシスポイント(bp)から、LPRマイナス45bpに引き下げる。

同市の非居住者に対する購入規制も緩和し、購入資格を得るまでに必要な社会保険と所得税の納付年数を短縮する。また、離婚した夫婦の住宅購入制限も撤廃する。

中国政府は17日、住宅ローン金利や頭金比率の引き下げなどを盛り込んだ総合的な不動産支援策を発表。 

頭金比率の全国水準は1軒目が15%に、2軒目が25%に引き下げられた。

1級都市の上海、北京、深セン、広州では全国水準より高い頭金比率と住宅ローン金利が求められている。

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