「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.358 ★ 中国、7兆円ファンドで半導体供給網 米国の規制に対抗

2024年05月28日 | 日記

日本経済新聞

2024年5月27日

中国はAI向けなどの半導体で独自の供給網を構築し米国に対抗する=ロイター

【北京=多部田俊輔】中国政府が半導体の新たな国策ファンドを立ち上げたことが27日分かった。資本金は過去最大の3440億元(約7兆4000億円)。人工知能(AI)に不可欠な半導体を巡って米国が対中包囲網を強化している。中国は独自のサプライチェーン(供給網)の構築を急いで対抗する。

中国の企業情報サービス「企査査」によると新たな投資ファンド「国家集成電路産業投資基金三期」が24日に設立された。筆頭株主は財政省で、出資比率は17%。国家開発銀行の子会社が10%、上海市政府傘下の投資会社が9%など株主には国有企業が並ぶ。

投資先は明らかになっていない。米国の対中輸出規制で輸入が難しくなっているAI向けの半導体製品や製造装置などを軸にするとの見方が広がっている。最先端製品ではない半導体製造装置を使ってAIの能力を高める手法などの研究開発も強化するとみられる。

シリコンウエハーや化学品、産業用ガスなどの材料を製造するメーカーの育成にも力を入れる。中国の半導体大手が海外大手から国内企業への切り替えを急いでいるためだ。

中国政府は2015年にハイテク産業の育成策「中国製造2025」を発表した。半導体の国策ファンド「国家集成電路産業投資基金」を立ち上げた。第1期の投資額は約1400億元、19年に始まった第2期は約2000億元に達する。

中国の国策ファンドが育成してきた中芯国際集成電路製造(SMIC)

新たなファンドは第3期となる。代表者は半導体などの産業政策を担う工業情報化省出身の張新氏が務める。張氏は半導体の産業政策の立案などにかかわってきた。第1期や第2期のファンドの経営トップなども務める。3期目でも投資対象などの決定に大きな権限を持つ。

これまでのファンドでは中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)のスマートフォン向けに半導体を供給した中芯国際集成電路製造(SMIC)に投資している。メモリー大手の長江存儲科技(YMTC)といった有力企業や工場を対象に100以上の投資を実行してきた。

中国以外も自国の半導体産業の強化を急いでいる。米政府は22年成立の「CHIPS・科学法」に基づき、総額527億ドル(約8兆円)を米国内で半導体製造拠点を新増設する企業などに振り向ける。欧州連合(EU)は23年に欧州半導体法を成立させた。30年までに官民で430億ユーロ(約7兆円)を投資する。

韓国は23日に総額26兆ウォン(約3兆円)規模の半導体産業支援策を準備したと発表した。日本も半導体工場などの支援を加速しており、過去3年間の予算措置の合計額は3.9兆円に達した。半導体を巡る各国・地域の支援競争が激しさを増している。

益尾知佐子

九州大学大学院比較社会文化研究院 教授

分析・考察

習近平政権は全土を「国家実験室」として産業振興政策を進めています。今月の中露共同声明は、中露関係が反米同盟的な色彩を強め、歴史問題を含めたあらゆる分野で積極的に共闘を進めていると明らかにしました。ただ、中国にはまだ先端半導体が作れません。そのため習政権は米国との関係を長期戦とみなし、中長期的に体制の挽回を図ろうとしており、この記事はその計画が着実に進行中であることを示しています。かつて中国に半導体は作れないという声もありましたが、実際は米国等の予想を超えた形で中国の技術発展は進んでいます。 中国は日韓とFTA交渉の再開で合意しましたが、これは誰にとっても短期的な緊張緩和策にすぎないでしょう。

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No.357 ★ このままでは共産党の統治体制も危うい…不動産バブルが崩壊した中国を待ち構える金融危機の深刻さ 年金ファンドの資金が枯渇する可能性

2024年05月28日 | 日記

PRESIDENT Online (柯 隆:経済アナリスト)

2024年5月24日

中国では3年前に不動産バブルが崩壊し、これまで急成長を遂げてきた経済が停滞している。経済アナリストの柯隆さんは「住宅ローンやデベロッパーの借金の返済が滞り、銀行には不良債権が発生しつつある。立派な市役所などを建てた地方政府も財政危機になり、その結果、年金も払えなくなるかもしれない」という――。

※本稿は、柯隆『中国不動産バブル』(文春新書)の一部を再編集したものです。

日本と同じように、中国の高齢者も貯蓄率が高い

ハリウッド映画をみていると、アメリカではミドルクラスの人でも、財布にわずかしか現金が入っていない場面が多い。アメリカ人の貯蓄率が低いのは有名な話である。よくいわれることだが、アメリカ人は借金をして消費をする傾向が強いのだ。それに対して日本では、毎日のように電話による詐欺事件が起きていると報道されている。犯人は高齢者からいとも簡単に数百万円ないし数千万円のお金をだまし取る。これほどの現金をすぐに出せる高齢者が数多く存在するというのは、世界的にみても普通のことではない。

一方、中国は2022年時点での1人当たりGDPが1万2000ドル程度、世界ランキングで68位であるにも関わらず、不動産価格は世界トップレベルになっている。中所得国の中国人はなぜ世界一高いマンションやアパートを買うことができるのだろうか。まことに尋常なことではない。

中国人の貯蓄・消費・投資事情を説明し、それが不動産バブルにどのような影響を与えたのかを見ていきたい。

中国で主流のデビットカードは預金がある分しか物を買えない

今から20年以上前のことだが、北京であるカンファレンスに参加したことがある。主催者は当時の人民銀行(中央銀行)金融研究所所長(当時)の謝平(しゃへい)で、海外からの参加者とのディスカッションが行われた。謝が何を話したかはほとんど記憶に残っていないが、一つの問題提起だけは今も鮮明に覚えている。アメリカ人は借金をして、目の前の生活を幸せにしている。中国人は借金をしないから、経済も発展しないうえ、自分の生活も幸せにならないとの指摘だった。当時は朱鎔基(しゅようき)首相の時代で、中国国内のエコノミストの間では、クレジット経済を推進すべきとの論調が強かった。中国人もアメリカ人に倣(なら)い、もっと借金すべきとのことだった。

写真=i※写真はイメージです

  中国の銀行はほとんどが国有銀行である。国有銀行は個人はもとより、民営企業にもほとんど融資をしようとしない。それゆえ、中国ではいまだにクレジットカードが普及していないのだ。広く使われているのはデビットカードである。

クレジットカードはカード保有者が事前に設定した限度額まで利用でき、使ったお金は事後的にカード会社に払う仕組みである。設定される上限額は、いわばその人の信用度である。だからクレジットカードと呼ばれているのであろう。アメリカなどではクレジットカードを持っていなければ、信用がないということを意味する。それに対してデビットカードは、リンクする銀行口座にあるだけの金額を利用できるカードだ。口座に1000円しかなければ、1000円までしか使えない。1億円があれば、1億円まで使える。

クレジットカードや住宅ローンはいまだに普及せず

銀行から借金して消費するというのは、中国ではまだ一般的ではない。ある意味、中国の国有銀行が個人に住宅ローンを組むようになったのは、大きな進歩だったといえる。1995年には「担保法」が制定・施行され、銀行は国有企業以外の法人や個人への融資について基本的に有担保原則となった。中国の銀行は個人に融資を行う際、家や車などの固定資産を担保に設定している。

それでも中国ではいまだに、高齢者ほど節約を美徳として消費を控える傾向がある。基本的にお金があれば、できるだけ貯蓄しておこうとする。この点については日本人とほとんど同じだが、違うのはここから先の行動である。中国は貯蓄に対してリターンを求めるが、日本人はリスクをとってまでリターンを求めない。だからこそ日本では、銀行の預金金利がゼロになっていても、ほかの運用方法を考えないでせっせと預金する人が多い。

一方、中国人はお金を貯めたら、できるだけリターンを最大化しようとする。中国の銀行の定期預金の金利は世界的にみて高い水準にあり、物価は大きく高騰していないにも関わらず、なんとか利益を最大化させようとするのだ。

「株はギャンブル」だから不動産への投資熱が高まった

ただし、中国では、株式に投資する人は極端に少ない。元国務院発展研究センター教授の経済学者・呉敬璉(ごけいれん)は、かつて「中国の株式市場は賭博場のようなものである」と指摘した。実際株式に投資したことのある経済学者が、「賭博場はまだルールというものがあるのに、今の株式市場にはルールがない」と批判したこともある。おそらく大損したのであろう。中国では株式市場の設立後、何回かブームは起きたが、そのあと大暴落した。とくに個人投資家の多くは大損してしまい、株式投資のリスクが周知徹底された。

写※写真はイメージです

不動産投資は証券投資と違って紙くずになるリスクが低く、個人投資家たちに選好されているのだと思われる。しかし、個人にとってマンションを購入するのはかなりの高額投資であり、家族や親戚からお金を借り入れてまで購入するケースが多い。親友同士でお金を出し合ってマンションに投資する「群」(クラブ)まで現れている。

むろん、実際に不動産投資ができるのは一握りの富裕層である。多くの人は投資信託の一種である理財商品に投資しているが、管理がずさんなうえ、詐欺も横行しているため、大損した人も少なくない。中国人にとって、手持ちの資金をどのように運用するかは悩みの種である。

不動産バブル崩壊で、銀行には不良債権が発生するだろう

今後、不動産バブル崩壊の影響はどのように広がっていくだろうか。

写真=Aフランスを訪問した中国・習近平国家主席、2024年5月6日

あらためて不動産バブルの原因とプロセスをみてみよう。富裕層は投資目的で不動産を購入し、不動産バブルに拍車をかけた。だが、習主席の呼びかけと3年間のコロナ禍によって、不動産の需給バランスは大きく崩れてしまった。バブルが終息する条件は、供給が需要に見合うレベルにまで下がって需給がリバランスすることである。中国不動産市場の需給関係をみると、今のところ、サプライサイドの調整より需要の萎縮が速いため、リバランスするのに予想以上に時間がかかると推測される。

不動産バブル崩壊がマクロ経済に与える影響としては、中国の経済成長率を一段と押し下げる恐れがある。中国の不動産業は、建設業のほか、広く捉えれば建材や家具などを含めて、GDPの3割を占めるといわれている。要するに、不動産バブルの崩壊は、経済成長を牽引(けんいん)するエンジンが弱まることを意味する。

また、不動産バブルの崩壊は間違いなく、市中銀行(そのほとんどは国有銀行だが)に飛び火する。デベロッパーはすでに債務返済を延滞している。マンションを購入した個人の一部も住宅ローンの返済を延滞している。結果的に市中銀行のバランスシートに巨額の不良債権が現れると予想される。

このまま放置すれば、共産党の統治体制も危うい

地方政府も影響を免れることはできない。中国の地方政府は地方債などを起債して、巨額の債務を抱えている。とくに地方政府は銀行から融資を受けやすいように、「融資平台」と呼ばれる投資会社をたくさん設立している。これらの投資会社は政府保証あるいはサポーティングレターを手に、国有銀行から巨額の融資を受けている。この融資を最終的に返済する義務があるのは間違いなく地方政府である。

柯隆『中国不動産バブル』(文春新書)

土地財政が崩壊していない局面においては、地方政府はなんとか切り盛りができていた。経済が順調に成長している局面においては、地方政府に対するガバナンスが機能せず、彼らは貴重な財源を好き勝手に無駄遣いしていた。中国の市役所や区役所はアメリカの議会議事堂と同じぐらい大規模なものが多い。これらの役所の建設費と修繕維持費はいずれも地方財政にとって重い負担になっている。土地財政が崩壊してしまえばあっという間に危機に陥る。

中国の年金などの社会保障基金は各々の市政府が所管している。地方財政が破綻状態に陥れば、年金ファンドも資金が枯渇してしまう恐れがある。

こうして全体を俯瞰(ふかん)すると、中国政府は不動産バブル崩壊に迅速に対処しなければならないことが分かる。問題は、どのように対処するかである。このまま状況を放置すれば、不動産バブルの崩壊は不動産業に限らず、金融、行政、さらに共産党の統治体制を脅かす心配がある。

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