「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.321 ★ 中国「過剰供給」、世界と摩擦 内需喚起より生産重視

2024年05月12日 | 日記

日本経済新聞

2024年5月11日

中国からの輸出のため港にならぶ電気自動車(4月、中国江蘇省)=ロイター

【北京=塩崎健太郎】中国の安価な電気自動車(EV)や太陽光パネルの輸出が急増し、世界で摩擦を引き起こしている。米政府は過剰な供給だとして、追加的な制裁関税を課す見通しだ。根っこには国内の需要喚起より生産を重視する習近平(シー・ジンピン)指導部の方針がある。

中国国家統計局が11日発表した4月の卸売物価指数(PPI)は前年同月比2.5%下落した。マイナスは1年7カ月連続。鉄鋼が8.5%低下するなど、産業構造の川上や川中にあたる生産財の下落が目立つ。企業の安値競争が激しさを増しており、需要に対して供給が過剰な状態を映す。

耐久財の値下がりも顕著だ。4月の消費者物価指数(CPI)によると、自動車やバイクが4.3%、スマートフォンなど通信機器は2.9%それぞれ低下した。不動産不況を起点とした需要不足が長引き、消費者の節約志向が定着した。

国内からあふれた製品は海外に流れ込む。かつて中国が生産と輸出を誇った「三種の神器(老三様)」はアパレル、家電、家具だった。いまはEV、太陽光発電の関連製品、リチウムイオン電池が「新・三種の神器(新三様)」と呼ばれる。

生産能力の拡大は需要を上回るペースで進む。中国メディアによると、自動車各社や各地方政府の計画を合算した中国の新エネ車の生産能力は25年に3600万台規模に達する。25年の国内販売は1700万台前後にとどまる見通しで、2000万台近くが輸出に回る計算だ。

EVなど「新・三種の神器」の3月の輸出総額は106億ドル(約1兆6000億円)と、3年前の21年3月から2倍以上になった。中国汽車工業協会によると、4月の新車販売台数のうち輸出は前年同月比34%増の50万4000台だった。

中国は国内の需要喚起より生産主導による景気拡大を重視しているフシがある。新型コロナウイルスによって経済が急激に落ち込んだ際も、現金給付など直接的な家計支援策を見送った。消費テコ入れ策は自動車買い替え時の補助金支給など小粒のものにとどまる。

丸紅中国の鈴木貴元・経済研究総監は習政権の経済対策について「供給サイドの経済改革を強く意識している」と指摘する。安定した需要拡大には技術やサービスに基づく新たな需要機会を作る必要があるとの考えが根底にあるという。

習氏は23年からEVや人工知能(AI)など高度な製造業への投資を拡大する「新質生産力(新しい質の生産力)」を提唱し始めた。巨額の補助金や国有企業を動員して、国家ぐるみで戦略分野の生産能力を高める政策だ。

米戦略国際問題研究所(CSIS)の試算によると、中国政府は09〜22年に総額1700億ドル程度の補助金を支出した。

中国は欧米の批判に真っ向から反発する。習氏は6日、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長らとの会談で「中国の過剰生産能力問題というものは存在しない」と言い切った。

王文濤商務相は中国のEV産業発展は「持続的な技術革新やサプライチェーン(供給網)の完備、市場競争によるものだ」と主張する。補助金によって競争上の優位性を得たのではないとの立場で、過剰生産能力の批判も「根拠がない」と全否定した。

みずほリサーチ&テクノロジーズの月岡直樹主任エコノミストは「中国の自動車などの輸出は堅調な傾向が続く」としたうえで「中国側の生産調整は期待できず、太陽光パネルにも問題が波及する可能性は高い」と分析する。

エコノミストの間では、中国が消費主導型経済への転換をめざして生産重視の政策を見直さない限り、過剰供給の根本的な解決は難しいとの見方が多い。

中国共産党は重要会議である第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)を7月に開く。4月の中央政治局会議で「需要不足など多くの課題に直面している」と内需の不振を認めたものの、政策転換を本格的に議論する兆しは見えない。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

西村友作

中国対外経済貿易大学国際経済研究院 教授

別の視点

問題は「補助金」だと思います。 国内販売と生産能力の差は単純に「過剰生産」とは言えません。例えば、日本は自動車輸出が多い国です。自動車工業会によると、22年の四輪車生産台数は784万台、販売台数は420万台で、国内販売よりも生産能力の方が高くなっています。 問題は、政府による補助金によって「過剰生産」が発生しているという因果関係を明らかにすることです。現在、EUが中国の再生エネルギー分野の製品に対する調査を行っていますが、これで補助金の存在が明らかとなるかどうかが重要だと思います。