「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.185 ★ 中国、テック分野で「米国排除」急ぐ 国産品への置き換えを強化する「79号文書」

2024年03月14日 | 日記

DIAMOND online (The Wall Street Journal)

2024年3月13日

Photo:Bloomberg/gettyimages

 中国に進出している米テック企業に災いが降りかかろうとしており、その前兆は紙に書かれている。「79号文書」だ。

 中国政府が2022年に作成したこの文書は、米国産技術の排除を強化するよう指示する内容で、この取り組みは「Delete America(米国を排除)」を表す「Delete A」とも呼ばれる。

 79号文書は機密性が極めて高く、高官や幹部らは文書を見せられただけで、コピーを取ることは許されなかった。事情に詳しい関係者が明らかにした。そこには、金融やエネルギーなどの分野の国有企業に対し、ITシステムで使われている外国製ソフトウエアの置き換えを27年までに完了するよう指示されていた。

米テック大手は長年、コンピューターや基本ソフト(OS)、ソフトウエアを通じて中国の急速な産業発展を支え、同国で大きな利益を上げてきた。だが中国指導部は、長期的な安全保障上の懸念を理由にこの関係を絶ちたいと考え、自給自足を急がせている。

 最初に標的となったのはハードウエアメーカーだ。デル・テクノロジーズや IBM 、ネットワーク機器大手シスコシステムズは、自社製品の多くが中国企業製に置き換えられていくのを徐々に目の当たりにするようになった。

 基本的な事務処理からサプライチェーン(供給網)管理まで、日常業務に使われるソフトを提供する企業も標的にされている。マイクロソフトやオラクルの同業企業は、外国テック企業に残された中国での収益源の一つである同分野でシェアを失いつつある。

 中国のこの取り組みは、習近平国家主席の長年の構想の一端に過ぎない。習氏は、半導体や戦闘機といった重要技術から穀物や油糧種子に至るあらゆるものの自給自足を促している。大局的には、食料や原材料、エネルギーで西側諸国への依存を減らし、サプライチェーンを国内に絞る戦略を掲げる。

 79号文書が出された22年9月当時、米国は半導体輸出制限と中国テック企業に対する制裁を強化していた。中国政府は同文書で国有企業に対し、電子メールや人事、業務管理用のソフトについて、外国製から中国製への置き換えの進捗(しんちょく)状況を四半期ごとに報告するよう求めた。

 指令を出した国有資産監督管理委員会は国有企業部門の監督機関で、中国上場企業上位100社のうち60社余りを監督している。同委員会と国務院(内閣に相当)はコメント要請に応じていない。

 中国の22年の公的支出は48兆元(約988兆円)余りに達した。こうした公的部門の購買力に支えられたテック企業は、製品を改良して米企業との技術格差を縮めることができる。

 中国製の代替品が品質で劣る場合でも、国有企業が忠実に購入を増やしたことが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認したデータや仕入れ書、関係者の話で分かった。購入したのは銀行や金融サービス会社、郵便局などだ。

 06年当時の「中国は恵みの地で、知的財産が主な課題だった」。中国との技術協議に関わったことのある元米通商代表部(USTR)高官はこう話した。「今はチャンスの気配がついえたという感じだ。(西側)企業は何とか踏みとどまっている」

 技術の国産化を推進する動きは「新創」と呼ばれる。安全で信頼できる技術を指す「ITイノベーション」とも解釈される。技術や貿易を巡る米中対立が激化し、多くの中国企業が米国産技術へのアクセスを制限される中、中国にとって対策の緊急性が増している。

 李強(リー・チャン)首相は5日に行った全国人民代表大会(全人代、国会に相当)での政府活動報告で、この方針を改めて表明した。公表された24年予算案によると、科学技術への支出は10%増の約510億ドル(約7兆5000億円)に達する見通し。伸び率を前年の2%から引き上げる。

 中国各地で開催される見本市では、業者が外国ブランドに代わる国産技術を売り込んでいる。南京の見本市に出展したある半導体製造装置メーカーは、顧客がサプライチェーンから「米国を排除」するのを支援すると言い切った。

 中国で開発された代替品は使い勝手が良くなっている。地方政府の当局者は16年当時、中国軍関連企業が開発したOS「麒麟」を搭載したコンピューターで、スプレッドシートを開け閉めするのに丸1日かかったことを覚えている。麒麟の最新版について同当局者は、09年に発売されたマイクロソフトのOS「ウィンドウズ7」になぞらえ、素晴らしいというほどではないにしろ、使えることは使えると話す。

 つい6年前まで、中国政府が入札するハードや半導体、ソフトは大半が西側ブランドのものだった。23年までに国産品が多く占めるようになった。

 北京市の公務員の中には、それまで使っていた外国ブランドのパソコンを、同市に拠点を置く清華同方のものに交換させられたり、アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の代わりに中国製品を業務に使うよう指示されたりした人もいる。

細る受注

 習氏はこの10年、技術革新と産官による国産技術活用を繰り返し説いてきた。13年にエドワード・スノーデン元国家安全保障局(NSA)契約職員が、米当局が中国の携帯電話通信や大学、民間企業をハッキングしていたことを暴露すると、習氏の信念は一層強まった。国力と市場を活用して、OSなど必須ソフトの開発上の障壁をなくすよう、幹部に指示している。

 中国がハードウエアの置き換えに力を入れ始めたことで、IBMは中国での売上高が徐々に減少してきた。同社は21年、その20年以上前に立ち上げた北京の研究部門を縮小した。

 かつて中国で大きな存在感を示していたシスコは、国産品の応援買いが広がったことで中国の業者に受注を奪われていると19年に明らかにした。調査会社カナリスによると、デルは、中国パソコン市場におけるシェアが8%と、ここ5年でほぼ半減した。

 ファクトセットの推計によると、サーバーやストレージ、ネットワークを手掛ける米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)は、売上高に占める中国の割合が18年は14.1%だったが、23年は4%にまで減少。同年5月には中国合弁会社の保有株49%を売却すると発表した。

 この2年で、アドビやセールスフォース、シトリックスの親会社クラウド・ソフトウエア・グループなどの米ソフトウエア企業が中国直営事業から撤退または縮小した。

 マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツ氏と幹部は、人工知能(AI)や米中貿易での協力などに関して中国指導部と協議するため、頻繁に北京を訪れているものの、同社が現地で提供する製品は減っている。ブラッド・スミス社長は昨年9月、売上高に占める中国の割合はわずか1.5%だと米議会小委員会の公聴会で明らかにした。同社の昨年度の売上高は2120億ドルだった。

 マイクロソフトはコメントを控えた。

 一部の中国国有企業は、基幹業務に不可欠な外国製IT製品の国産品への置き換えに積極的ではない。状況を知る関係者が明らかにした。国産品の安定性や性能に懸念があるためだという。

 ただ、中国の独自技術は高度化しているだけでなく、国内のエコシステムにも深く組み込まれている。国産業務ソフトは、中国企業の間で電子メールの代わりに広く使われているチャットアプリ「微信(ウィーチャット)」に対応している。

 モルガン・スタンレーの調査によると、国内で調達する動きは民間企業にも広まりつつあり、国産ソフトを購入する傾向が強まっている。

 中国がまだ後れを取っている先端技術や、同国に参入している多国籍企業向け販売などでは、西側企業にもまだチャンスがある。

 だがいずれ、公的部門による国産品優遇により、中国市場では西側企業の不振が強まる可能性があるとアナリストは指摘する。

 経営助言会社アジア・グループの中国部門責任者ハン・リン氏は、「ソフトウエアの成長にはユーザーからの継続的なフィードバックが必要だ」とし、「それが国内業者にとって強みとなる」と述べた。

(The Wall Street Journal/Liza Lin)

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No.184 ★ 中国のアメリカ企業「対中再投資」の意欲が急低下 華南アメリカ商工会議所の年次調査で明らかに

2024年03月14日 | 日記

東洋経済オンライン (財新 Biz&Tech)

2024年3月13日

華南アメリカ商工会議所の年次調査は、中国進出企業の楽観度を占う材料としてメディアの注目を集める。写真は2月27日の記者会見の様子(同会議所のウェブサイトより)

中国南部に進出したアメリカ企業などで組織される華南アメリカ商工会議所は2月27日、会員企業を対象に毎年実施しているアンケート調査の報告書を発表した。それによれば、2023年に「中国で得られた収益を再投資した」と回答した企業は全体の66%にとどまり、前年の調査より14ポイント低下。アメリカ企業の対中投資意欲が後退している実態を示唆した。

この調査結果は、2023年10月9日から12月31日の間に会員企業から得られた183通の回答の集計・分析に基づいている。華南アメリカ商工会議所にはアメリカ以外の企業も加盟しており、アンケート調査の回答企業の49%がアメリカ系、26%が中国系、25%がヨーロッパや香港などその他の国・地域の企業だった。

再投資率がコロナ期より低く

過去の調査を振り返ると、中国で再投資を行ったと回答した比率は(新型コロナウイルスの世界的流行が始まる前の)2019年が78%、コロナ禍が始まった後の2020年が74%、2021年が79%、2022年が80%だった。

それらに比べて、2023年の66%という数字は落ち込みぶりが際立つ。アメリカ系に限れば対中投資意欲の後退はさらに顕著で、再投資を行ったとの回答比率は57%と前年より19ポイントも下がった。

それだけではない。今回の調査では、回答企業全体の40%が「今後3年間に中国事業を拡大する計画はない」と回答。この比率は前年より9ポイントも上昇し、過去最高を記録した。

華南に進出したアメリカ企業のセンチメントは複雑に揺れ動いている。写真は華南アメリカ商工会議所が本拠を置く広東省広州市(イメージ)

投資金額も大きく減少している。「回答企業が今後3年から5年の間に計画している中国での再投資額は合計約109億5000万ドル(約1兆6480億円)と、前年の調査結果に比べて4割減少した」。華南アメリカ商工会議所のハーレー・セアディン会長は、記者会見でそう述べた。

中国からの全面撤退は否定

もっとも、会員企業による対中投資のリターンは依然高水準であり、「中国からの全面撤退を選択する企業はない」とセアディン会長は強調した。報告書によれば、回答企業の88%は中国事業の損益が黒字であり、46%は予算を上回る利益を上げている。

さらに、回答企業の62%が「中国以外の国・地域に投資の重点を移す計画はない」と表明。「中国市場にコミットし続ける」と回答したアメリカ企業の比率は66%に上り、アメリカ以外の国・地域の企業よりも高かった。

アメリカと中国の外交関係についても、さらなる悪化を懸念する声は減りつつある。報告書によれば「今後1年間の米中関係を楽観している」との回答が全体の44%を占め、2022年の比率より17ポイント上昇した。

(財新記者:王婧、周勇勤)
※原文の配信は2月27日

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No.183 ★ 中国全人代 「沈黙は雄弁」を実践 政府の見解と経済の実態との差が広がる中、当局者は厳しい質問を回避

2024年03月14日 | 日記

DIAMOND online (The Wall Street Journal)

2024年3月13日

Photo:Bloomberg/gettyimages

【北京】この記事は中国首相の記者会見に関するものとなるはずだった。

 中国ナンバーツーの首相は30年余りにわたって毎年、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の閉幕後に記者からの質問に答えてきた。国営テレビで放送されるこの会見は国民にとって、中国が直面する喫緊の問題について政府高官が直接質問を受け、どう答えるかを聞くことができる数少ない機会となっている。

 それは11日までの話だった。今年は全人代の閉幕後、李強首相が一度も質問を受けることなく北京の人民大会堂を後にした。課題が山積する中で習近平国家主席が権力の掌握を強め、中国の意思決定は秘密主義に覆い隠されていることが浮き彫りとなった。

 先週の全人代は、表面上は例年と変わらないように見えた。中国全土から集まった3000人近い代表は、天井に巨大な赤い星が描かれた人民大会堂内の大講堂に着席した。初日の5日、李首相は中国版の一般教書演説のような政府活動報告を行った。

 だが全人代は、政府の見解と現実との差がどれだけ大きくなっているかも露呈した。政府は開放性と透明性を約束する一方で、これまで以上に報道陣を「演出」するようになった。李首相の記者会見は、ほぼ説明もなく取りやめとなった。当局者らは中国経済の見通しを称賛する一方で、経済が直面している問題には目をつむった。中国の意思決定権が習主席の下にますます集中しているにもかかわらず、全人代自体は、その投票は民主的なものであるとアピールしていた。

 そうした不一致は、ある程度までは中国政治の特徴であった。しかし、中国経済の根本的な弱点が一段と明らかになるにつれ、その傾向は強まっている。

 この1週間は、中国のテレビや国営のソーシャルメディア・アカウントが一斉に、全人代を何十時間にもわたって取り上げた。ただ、中国経済が直面している最大級の問題――人口減少、債務水準の急増、一部の主要貿易相手国との関係悪化、住宅価格の下落――は、話題に上ったとしてもほとんど触れられなかった。

 代わりに、こうした問題は内密に議論され、最も重要な決定は全て一人の人物、すなわち習主席に委ねられている。全人代の華やかさの下で、高官たちはこの1週間、習主席への全権委任というメッセージを強く打ち出した。

 国家発展改革委員会(NDRC)の鄭柵潔主任は、われわれは「習近平同志を核心とする党中央委員会の強力な指導の下で」持続的な経済回復と長期的な改善を推進する自信や能力があり、その条件も整っていると確信していると述べた。

 中国は特にデリケートな局面を迎えている。政府は何十年もの間、国内に他の問題が存在しようとも、経済全般が好調で、人々が徐々に豊かになっているという事実に頼ることができた。だが当局者らは現在、実態は異なることに気づいている国民が増える中でも、そうしたメッセージの発信を維持する必要に迫られている。

 当局者らは全人代で自信を誇示しようとした。李首相は2024年の経済成長率について5%前後という野心的な目標を打ち出した。習主席が経済成長の原動力を従来のインフラや不動産から先進的な製造業やテクノロジーといった分野へシフトさせようとする中でも、当局としては経済成長をあまり減速させたくないことがうかがえた。

政府はこの目標を達成するために、約1兆元(約21兆円)の超長期特別国債を発行し、その資金を科学技術や食料・エネルギー安全保障などの分野のプロジェクト強化に充てると発表した。習主席をはじめとする指導部は最近、国内での「新たな質の生産力」の解放について話している。この新たな政治用語は、 主に国産技術の強化 に言及しているようだ。

 習氏が国家主席に就任する前には、全人代の代表らは時折、さまざまな問題について公の場で発言していた。今はそうすることのリスクがはるかに高くなっている。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者は李首相の政府活動報告後、湖北省の代表である王道文氏に、首相の記者会見が中止された理由を聞いてみた。

「首相の記者会見中止は妥当だったか」と尋ねると、王氏は「ここでは妥当かどうかは問題ではない。全ては政府活動報告で明らかにされている」と答えた。

 記者が「しかし過去には外国人記者が質問する機会があった」と続けると、「聞いてなかったのか? われわれはもう首相から全てを聞いた」と王氏は述べた。「政府はすでに透明性も開放性も高く、それは素晴らしい政策だと思う」

 全人代で最も明らかになった瞬間のいくつかは、語られなかったことから生まれた。

 昨年の全人代では、当時の秦剛外相が数十人の記者に囲まれ、楽しそうにしていた。中国国旗の特大ピンを襟につけた秦氏はその日、米国を非難し、習主席の構想実現に尽くすナショナリストとしての評判を高めた。

 その3カ月後、秦氏は姿を消した。政府は秦氏に何が起こったのか説明しておらず、所在は不明なままだ。昨年秋にWSJが報じたところによると、政府高官らは、秦氏が不倫関係にあり、相手が米国で子どもを出産した件について調査を受けていると説明を受けた。

 今月7日、秦氏が1年前に記者会見を行ったのと同じ場所で行われた王毅外相による90分間の会見では、秦氏に何があったのか尋ねようとした記者は一人もいなかった(WSJの記者は質問者に選ばれなかった)。

(The Wall Street Journal/Brian Spegele)

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No182 ★ 全人代閉幕、垣間見えた権力闘争の「履歴」と新たな「萌芽」ー 東アジア「深層取材ノート」(第227回)

2024年03月14日 | 日記

JBpress (近藤 大介)

2024年3月13日

習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

シャンシャン全人代

 3月11日午後3時(日本時間午後4時)、中国の国会にあたる全国人民代表大会は、最後の日程である閉幕式を迎えた。壇上中央に無表情で鎮座する習近平主席以下、最高幹部たちをテレビカメラが順に映す中、司会進行役の趙楽際・全国人民代表大会常務委員長(国会議長)が、ひどく訛った中国語で宣言した。

「会議に出席すべき代表(国会議員)は2956人、出席は2900人、欠席は56人。出席人数は法定人数を満たしています。よって閉幕式を始めます……」

全人代の閉幕式を主宰した趙楽際・全国人民代表大会常務委員長(写真:新華社/アフロ)

 閉幕式では、以下の決議を行った。政府活動報告、改正国務院組織法、2023年国民経済・社会発展計画執行状況及び2024年国民経済・社会発展計画、2023年中央・地方予算執行状況及び2024年中央・地方予算、全国人民代表大会常務委員会活動報告、最高人民法院活動報告、最高人民検察院活動報告。

 現在では、決議はすべて机上のボタンで、「賛成」を押すだけだ。壇上中央の習近平主席に傅(かしず)いている代表たちは、まるで「反対」「棄権」のボタンなど存在していないかのように、粛々と「賛成」ボタンを押していった。

そのたびに趙楽際委員長(第14期全国人民代表大会第2回会議主席団常務主席・執行主席)が、「案件は議決されました」と宣言する。そして上記のすべてが議決された後、短いスピーチを行った。

「われわれは習近平同志を核心とする党中央の堅強な指導のもと、習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導を堅持し、同心同徳、凝心聚力、団結奮闘で、中国式現代化を確固として推進していく。(中略)われわれは習近平同志を核心とする党中央の周囲に、さらに緊密に団結し、万衆一心、拼搏奮進で、中国式現代化を全面的に推進して強国建設と民族復興の偉業のため、たゆまず奮闘していく」

 最後は全員が起立して「義勇軍行進曲」(国歌)を斉唱し、趙楽際委員長が「これにて円満に閉幕!」と宣言。午後3時31分(日本時間午後4時31分)に、全国人民代表大会はシャンシャンと終了した。

首相の権限縮小を印象付けた全人代

 CCTV(中国中央広播電視総台)のカメラが、スタジオに移り変わった。そこでは、アナウンサーや解説者たちが、「何と感動的で意義深い全国人民代表大会だったことか」と、滔々(とうとう)と述べ合った。

 最後はアナウンサーが、「『聴党話、跟党走』(ティンダンホア ゲンダンゾウ)を印象づけた全国人民代表大会でした」と総括した。「聴党話、跟党走」は、「党(習近平共産党総書記)の話を聴き、党(同左)とともに歩む」という意味だ。

 本来なら全国人民代表大会は、国務院総理である李強首相が、一年に一度だけ「主役」となるイベントなのだが、初日の「政府活動報告」(李強首相のスピーチ)は、わずか50分に短縮。最終日の年に一度の記者会見に至っては、「廃止」の憂き目に遭った。

 その上、今回の全国人民代表大会で決議した最重要の法案は、国務院組織法の改正だった。これは、中央政府(中央官庁)である国務院(李強首相)を、共産党中央委員会(習近平総書記)の傘下に事実上、落とし込む法律だ。

3月11日、北京の人民大会堂で行われた全国人民代表大会(全人代)閉幕式で拍手する習近平国家主席と李強首相(写真:ロイター/アフロ)

 日本で言うなら、首相官邸や霞が関の官庁をすべて、自民党本部の傘下に置くようなものだ。そうなると名実ともに、国家公務員は主に習近平総書記の顔色だけを見て仕事をすることになる。

もなや国内に諫言する者なし、増えるはイエスマンばかり

 要は、習近平主席・総書記のパワーを強化するための全国人民代表大会だったのだ。思えば、2012年11月に総書記に就任して以降、習近平総書記は、一歩一歩着実に、自らの権力を拡大してきた。おそらく本人としては、命懸けの権力闘争によって、権力拡大を勝ち取ってきたという自負があるに違いない。

 その結果、2022年10月の第20回共産党大会と、2023年3月の全国人民代表大会を経て、強大な権力を掌握するに至った。もはや中国国内には、何人たりとも習近平主席・総書記に逆らったり、異を唱えたりすることはなくなった。もし気に入らなければ、許されるのは「黙する」ことまでだ。

 逆に、まるで灯りの周りに蛾が群がるように、習近平主席・総書記の周囲には、阿諛追従(あゆついしょう)の輩(やから)が蝟集(いしゅう)するようになった。政治も経済も外交も軍事も文化も、すべての分野で、いわゆる「イエスマン」たちが唯々諾々と取り計らうようになった。中国はいまや「金太郎飴」の状態で、どこを噛んでも「習近平の顔」が出てきて、「習近平の味」だけがする。

 そのようにして3期目の習近平政権が発足して一年を経た今回の全国人民代表大会を見ていて、「二つの萌芽」を感じた。

過去の政権に例を見ないほどの「一糸乱れぬ堅固さ」

 一つは、「固くて脆(もろ)い」という特質である。超楽際委員長が述べたように、現在の中国の体制は、「習近平同志を核心とする党中央の周囲に緊密に団結」している。そのため、非常に堅固な体制となっている。その固さたるや、前任の胡錦濤政権や、前々任の江沢民政権の比ではない。まさに、世界に比較するなら北朝鮮に見られるような「一糸乱れぬ堅固さ」を誇っている。

 だが、これは言うまでもないことだが、習近平主席は「神様」でも「スーパーマン」でもない。すでに古希を迎え、日本の会社組織なら10年前に定年退職しているはずの高齢者である。

 そうであれば、世の中がこれだけ複雑化、情報化、スピード化している中で、すべての事象に対して、ただ一人の力で常に迅速かつ的確に対応ができるものではない。生身の人間として、時には指示が遅れるだろうし、ミスも起こして当然だ。

 だが部下たちは、習近平主席・総書記の指示や判断を、「絶対的」なものとして盲従するだけだ。そのため政治システム上、「脆い」一面が出てきてしまうのである。悪化する中国経済への対処法などに、すでにそうした「萌芽」を感じる。

反習近平派」も「非習近平派」もいなくなった

 もう一つの「萌芽」は、「中南海」(北京の最高幹部の職住地)で巻き起こる新たな権力闘争である。

 2012年11月に開かれた第18回共産党大会で習近平総書記が誕生した頃、ざっくり言うと「中南海」には3つの勢力が存在した。習近平総書記に付き従う「親習近平派」、反抗する「反習近平派」、そして様子見する「非習近平派」である。会議の採決で言えば、「賛成票」「反対票」「棄権票」のようなものだ。

 2017年10月に第19回共産党大会が閉幕した時、「反習近平派」は、ほぼほぼ一掃されていた。習近平総書記は、就任から5年の「第1次権力闘争」に勝利したのだ。

 続いて、2022年10月に第20回共産党大会が閉幕した時、「非習近平派」も、ほぼほぼ一掃されていた。習総書記は、「第2次権力闘争」にも勝利して、異例の3期目を決めた。

 こうして、「中南海」は「親習近平派」ばかりになった。だがそれで、権力闘争の火が消えたかと言えば、そんなことはなかった。今度は「お仲間」同士で、激烈な権力闘争が始まったのだ。敗れた秦剛外相や李尚福国防相らは、3期目の習政権発足からわずか数カ月で、表舞台から放逐されてしまった。

 今回の全国人民代表大会でも、そうした「新たな権力闘争の萌芽」を感じた。例えば、ゴリゴリの「親習近平派」であるはずの李強首相は、なぜあれほど冷遇されたのか? 閉幕日の恒例の首相記者会見を、李強首相が自ら拒否したとは、到底思えない。初日に「政府活動報告」を行った時も、李強首相の表情は、いつになく暗かった。

 ともあれ、この「二つの萌芽」により、今後の習近平政権が、百パーセント盤石で順風満帆にいくとは限らないのではないかと、一抹の不安を覚えるのである。かつ、今年11月には、中国が恐れる「トランプ復活」も視野に入ってきている。

 来年3月の全国人民代表大会は、果たしてどんな形になっているだろうか?

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No.181 ★ 中国、13兆円投資の「理想都市」閑散 習氏主導も企業や大学の移転進まず

2024年03月14日 | 日記

西日本新聞

2024年3月13日

マンションが立ち並ぶ一角は人けがなく、部屋の窓には「賃貸」の張り紙も見られた=1日、中国河北省の雄安新区

 中国の習近平国家主席が肝いりで主導する新都市「雄安新区」の建設が、北京郊外で進んでいる。有明海に匹敵する広大な田園地帯を、ハイテクを駆使した「理想都市」に変貌させる計画だ。昨年末時点で主要事業に6570億元(約13兆4500億円)の予算が投じられたという。「国家千年の大計」と位置づけられる巨大プロジェクトの進捗(しんちょく)状況を取材に訪れると、意外な光景が広がっていた。 (北京・伊藤完司)

  北京から車で高速道路を2時間ほど走ると、農地の中に突然、高層ビル群が現れた。雄安新区は北京の南西約120キロにある河北省3県にまたがり、総面積約1700万平方メートルに及ぶ。  まず玄関口の高速鉄道駅「雄安駅」の大きさに驚いた。総建築面積は47万5千平方メートルで駅として「アジア最大」。2020年に運用が始まり、北京や天津とそれぞれ1時間~1時間半で結ぶ。ただ正面玄関は閉鎖され、利用できるのは一部だけ。利用者も少ない。

 新市街地を歩くと、マンションは空室ばかりで1階は全て空き店舗の建物が目につく。開業から間もないアウトレットモールの施設で働く男性は「元の住民はマンションが整備されて戻ってきたが、移住してきた人はあまり見ない」。真新しいビル群は人けもまばらで、不気味な感じすらした。  

一帯は大きな湖がある風光明媚(めいび)な田園地帯だった。17年、先端技術を駆使し、自然と調和した人口200万~250万人規模の「副都」をつくる計画が発表された。首都北京の一極集中を是正し、渋滞や大気汚染の改善を狙う。

 5日開幕の全国人民代表大会(全人代)でも李強首相が政府活動報告で「雄安新区で代表的なプロジェクトの着地にしっかり取り組む」と表明。習氏が繰り返し現地視察するなど、思い入れの強さがうかがえる。

 かつての最高指導者、鄧小平氏は1980年、広東省の小さな漁村だった深圳を中国初の経済特区に指定し、巨大都市に育て上げた。関係者は習氏も雄安新区建設で「レガシー(政治的遺産)」を残そうとしているとみる。

 地元メディアによると、2023年時点で雄安新区には86の企業などが新規進出しているが、国内の大手IT企業や先端産業、研究機関が中心。進出企業を限定している点が改革・開放路線の下、起業家や海外からの投資を引きつけて発展した深圳と大きく異なる。地価高騰を防ぐため、不動産取引にも制限がある。

 人口は17年の約104万人と比べ、22年時点でも130万人程度と伸び悩む。教育・研究機関の集積を目指すが、移転を公表したのは5大学にとどまる。「交通の便が悪く、優遇策なども少ない。移転する企業は多くないのでは」と日本の企業関係者。  

中国では深刻な不況が続き、政府が号令をかけても企業や消費者の反応は鈍く、景気低迷の出口が見えない。35年の完成予定までには時間があるが、雄安新区の現状は笛吹けども踊らない中国経済の今を映し出しているように見えた。

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