「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.152 ★ 中国、2024年国防費は7.2%増の34.9兆円-5年ぶりの大幅な伸び

2024年03月05日 | 日記

Bloomberg News

2024年3月5日

 中国の今年の国防費が前年比で7.2%増と、ここ5年で最大の伸びになることが分かった。内部の腐敗が軍の刷新を阻害している兆候がみられる中でも国防費を大幅に増やした。

 全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕する5日にブルームバーグが確認した財政省の年次報告によると、2024年の国防費(中央政府分)は1兆6700億元(約34兆9000億円)に増加する見込み。バイデン米大統領が昨年署名した24年度国防権限法(NDAA)案の予算総額は8860億ドル(現在のレートで約133兆3000億円)だった。

 中国の習近平国家主席は同国軍が「世界一流の軍隊」になる期限を27年としている。しかし汚職がこの野望の実現を阻んでいるのではないかとの見方が強まっている。

 昨年、李尚福国防相のほか、核兵器などを運用するロケット軍の高官2人を理由の説明なく解任。ほかに複数の軍の高官が全人代の代表職を解かれた。中国軍は今年に入って、「汚職との困難な長期戦」を続けると表明した。

原題:China Defense Spending to Climb 7.2% as Xi Pursues Buildup(抜粋)

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中国の国防費増「深刻な懸念事項」 林芳正官房長官

日本経済新聞

2024年3月5日

林芳正官房長官は5日の記者会見で中国の国防費の増加に懸念を示した。「中国は十分な透明性を欠いたまま軍事力を急速に増強させている。日本と国際社会の深刻な懸念事項だ」と述べた。

「日本および国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上でこれまでにない最大の戦略的な挑戦だ」とも語った。

中国政府は2024年の国防予算が前年比7.2%増の1兆6655億元(およそ34兆8000億円)だと発表した。

 

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No.151 ★ 中国成長率目標は5%前後で据え置き、経済モデル転換確約 全人代開幕

2024年03月05日 | 日記

ロイター編集

2024年3月5日

 中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が5日開幕し、李強首相は2024年の経済成長率目標を5%前後に設定すると表明した。北京で4日撮影(2024年 ロイター/Tingshu Wang)

[北京 5日 ロイター] - 中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が5日開幕し、李強首相は2024年の経済成長率目標を5%前後に設定すると表明した。また、国の発展モデルを転換させ、企業の余剰能力を抑え、不動産部門や地方債務のリスク抑制に取り組む方針を示した。

李首相は就任後初となる政府活動報告で「われわれは最悪シナリオを見失うことなく、全てのリスクと課題に備えるべき」と訴えた。

「とりわけ成長モデルの転換を推進し、構造調整を進め、質を改善して成果を高める必要がある」と語った。

今後の具体的な構造改革策は示さなかった。

李首相はまた、安定が「われわれの全ての行動の基礎」を成すと強調した。

成長率目標は昨年と同水準に据え置かれたが、李氏は達成が「容易ではない」と指摘。積極的な財政政策と穏健な金融政策を実施する考えを示した。

成長目標は「雇用や所得を押し上げ、リスクを予防・解消する必要性」を考慮に入れたとした。

昨年の中国経済は新型コロナウイルス禍からの立ち上がりが遅く、個人消費の弱さや投資リターンの低下など構造的不均衡の深刻さを印象付け、経済モデル転換の必要性が指摘されてきた。

<控えめな刺激策>

政府活動報告後の中国株式市場(.CSI300), opens new tabと人民元相場は横ばいとなった。

リーガル・アンド・ゼネラル(L&G)インベストメント・マネジメントのアジア太平洋投資ストラテジスト、ベン・ベネット氏は「政策当局は現在の軌道に満足しているようだ」とし、これは予想通りと述べた。

「より強力な内容を期待していた向きは失望した」とし、地方政府債務と不動産部門を口先で支えるだけでなく、実際の行動が必要だと指摘した。

OCBC銀行の大中華圏リサーチ部門責任者、トミー・シエ氏は「大規模なバズーカ砲型の刺激策が導入される可能性は低い。財政支出を通じた景気支援には現時点でまだ多くの制約がある」と述べた。

政府活動報告は24年の財政赤字目標を対国内総生産(GDP)比3%に設定。23年の約3.8%から縮小した。

ただ、通常予算には含まれない特別国債を1兆元(1390億ドル)発行するとした。

地方政府特別債発行枠は23年の3兆8000億元に対し、3兆9000億元に設定。また、インフレ目標を3%に設定したほか、都市部で1200万人以上の雇用を創出し、失業率を5.5%程度に維持することを目指す。

<新たな生産力>

李首相はまた、習近平国家主席が打ち出した「新たな質の生産力」の概念に沿って技術革新と先進的な製造業に引き続き資源を投じる方針も示した。

国家発展改革委員会(発改委)は別の報告書で、製造業の外国投資規制を完全撤廃し、通信や医療サービスなどサービス業でも市場アクセス制限を緩和する方針を示した。

出生率低下など人口動態の変化が消費主導型経済への転換を脅かしている現状を踏まえ、出生率を高める支援を拡充し、高齢者向けの年金など給付を引き上げる方針も示した。

政府活動報告はまた、量子コンピューティングやビッグデータ、人工知能(AI)といった新興産業の発展計画を策定し、技術の自給達成を引き続き目指すとした。

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No.150 ★ 中国「不動産不況」で広がる節約志向、全人代で見逃せない “2つの注目点”とは?

2024年03月05日 | 日記

DIAMOND online ((伊藤忠総研 主任研究員 玉井芳野)

2024年3月5日

写真はイメージです Photo:PIXTA

春節休暇中の消費は一見好調も 節約志向が見え隠れ

 中国では2月10日から17日にかけ、旧正月である春節休暇を迎えた。今年の春節休暇は例年よりも休暇が1日長く8連休となった。さらに、大みそかにあたる2月9日の休暇取得を政府が企業などに奨励したため、9連休を享受した人々も多かった。

 例年、大型連休となる春節休暇には、帰省して家族団らんを楽しんだり、国内外の観光地に旅行したりする人が多く、一年の中でも最も消費が盛り上がる時期の一つだ。したがって、春節休暇中の消費動向は、中国の景況感をはかるバロメーターとして注目されている。

 今年の春節休暇中の飲食や旅行などのサービス消費は、一見すると好調だった。国家税務総局によると、春節休暇中の全国のサービス消費関連産業の1日当たり売上高は前年比52.3%増と大幅に増加した。

 サービス消費のうち、旅行について見ると、国内旅行者数は4億7400万人、観光収入は6327億元(約12兆6500億円)となった。例年と同じ7連休で換算すると、昨年の春節休暇(1月21~27日)に比べて旅行者数・観光収入がそれぞれ34.7%増、47.3%増と大きく改善した。

 昨年は、一昨年12月のゼロコロナ政策緩和をうけ、感染が急拡大した直後だったため、旅行者数・観光収入はいずれもコロナ前の2019年の水準を下回っていた。だが、今年は2019年対比でそれぞれ19.0%、7.7%の増加、5年ぶりにコロナ前の水準を上回った(下図)。また、オンライン旅行会社の携程集団によると、省をまたぐ旅行が全体の約6割、前年比約2倍となり、ようやく長距離旅行が復活したとみられる。



 しかし、別のデータからは、中国経済の停滞を受けた消費者の節約志向が示唆される。先述の国内観光収入を国内旅行者数と休暇日数で割った1人1日当たりの旅行支出は167元(約3400円)と、前年比4.3%減、2019年対比でも5.7%減少した。

 携程集団傘下のレンタカーサービス・携程租車によると、春節休暇中のレンタカーの予約数が前年比約2倍、2019年対比5倍超となるなど、自動車による移動が急増したことも、節約志向の高まりを反映している。

 また、今年はコロナ後の海外旅行が昨年2月6日に解禁されてから初めての春節休暇だったため、海外旅行動向にも注目が集まった。出入境者数(※1)は1352万人、1日平均では169万人となり、前年比で2.8倍と急増。旅行先では、中国からの短期滞在者に対するビザが最近免除されたシンガポール、タイ、マレーシアなど東南アジアのほか、日本や韓国も人気だった。
(※1)行き先に香港、マカオを含む。

 ただし、1日平均出入境者数は、国家移民管理局による事前予想(約180万人)を下回り、2019年対比でも約9割とコロナ前の水準には至らなかった。所得の伸びが鈍化する中で、海外旅行より国内旅行を選択する人々が多かったとみられる。

長引く不動産市場の調整が消費を下押し

 こうした消費者の節約志向には、不動産市場の調整長期化が影響しているとみられる。

 2020年に中国政府が不動産バブル抑制のためデベロッパーの借入規制を強化したことを契機に、2021年後半からデベロッパーの資金繰りが悪化。建設中住宅の工事が滞り住宅引き渡しが遅延、2022年半ばには住宅購入者によるローン返済拒否の動きが中国各地で広がった。

 これに対し政府は、住宅の建設再開・引き渡し支援を進めたほか、2022年11月には金融機関のデベロッパーに対する貸出期限の延長容認など資金繰り支援を強化、さらに2023年8月には頭金比率や住宅ローン金利引き下げなど住宅購入規制の緩和にも動いた。

 しかし、デベロッパーの経営状況に対する消費者の不安は残存、不動産販売の低迷が続いている。それによりデベロッパーの業績がさらに悪化、新規投資が縮小するという悪循環が発生している。その結果、2023年の不動産販売面積、不動産開発投資、新築住宅価格は、いずれも2022年から2年連続で前年比マイナスを記録、調整の深刻さを示した(下図)。



 春節休暇中の不動産販売も不調だった。春節休暇開始日を挟んで前後2週間(1月27日~2月24日)の主要30 都市不動産販売面積は前年同期比41.7%減と大幅に減少。不動産調査会社の中国指数研究院が春節休暇直前に実施したアンケートによると、住宅購入を控える理由として最も多かったのが、「不動産価格の下落が続くとみているから」という回答だった。価格下落期待による投機需要の減退や実需の先送りが示唆される。

 中国のGDP(国内総生産)に占める不動産業と建設業のシェアは約30%と試算され、不動産市場の調整が経済全体を大きく下押しし、所得・雇用環境に悪影響を与えているとみられる。

 さらに、中国人民銀行による2019年の調査によると、家計の保有する資産の約6割が住宅に偏っているため、逆資産効果も消費を下押ししているもようだ。

 実際、消費者マインドは、2022年4月に実施された上海での大規模なロックダウンを受け、楽観・悲観の境目である100を大きく割り込み悪化した後、2022年末のゼロコロナ政策緩和をうけて一時改善するも、再び低迷している(下図)。消費性向(消費支出/可処分所得)も2023年平均で68.5%と、コロナ前の水準(2019年平均70.2%)を下回ったままであり、特に都市部(66.4%→63.9%)での落ち込みが大きい。

全人代で注目される財政赤字幅と不動産支援策

 このように不動産市場の低迷や消費の弱含みが続く中、中国政府はどのように経済政策運営に取り組もうとしているのだろうか。それを考える手がかりとなるのが、3月5日から開催される第14回全国人民代表大会第2回会議(以下、全人代)だ。

 全人代では、今年の主要数値目標のほか、予算案、重要政策方針などが発表される。例年、成長率目標が全人代の最大の注目点であるが、今年は昨年同様「前年比+5%前後」に設定されるとの見方が大勢を占める。

 しかし、景気停滞が続く中、「5%前後」の目標達成のハードルは高い。したがって、いかに成長目標を達成するか、その政策手段に注目が集まろう。

 財政・金融政策は、基本的に2023年12月の中央経済工作会議の方針が反映されるだろう。

 同会議では、財政政策について「積極的な財政政策は適度に強化し、質と効率を向上させる」とし、内容を見直しつつも規模を拡大する方針が示された。

 注目点は、2024年予算の財政赤字の規模である。

 従来、中国政府は財政規律の観点から財政赤字を名目GDP比3%以内に抑制し、3%以上となったのはコロナ・ショックで経済が大きく悪化した2020年と2021年のみであった。しかし2023年には、10月に決定された1兆元の国債追加発行により、予算制定時の3.0%から3.8%へと拡大した。これを受けて、今後は政府が3%という上限ラインにとらわれず、景気下支えのため柔軟に財政赤字を拡大させるのではという見方が広がっている。

 不動産市場の低迷と債務返済圧力を背景に地方財政の悪化が続く中、地方への財政移転を前提とした中央財政の拡大が求められ、2024年の財政赤字も3%以上に設定される可能性がある。ただし、政府は過剰投資への懸念から野放図な財政拡大は回避するとみられ、拡大するにしても小幅なものにとどまる見込みだ。

 金融政策については、同会議で「穏健な金融政策は、柔軟かつ適度、的確かつ効果的でなければならない」とし、行き過ぎに留意しつつ必要に応じて追加の金融緩和を行う姿勢が示された。

 物価低下傾向を受けて実質金利が高止まりする中、金融緩和の必要が高まっている。

 足元でも、当局は2月5日に2023年9月以来となる預金準備率引き下げを実施、2月20日には1年物LPR(最優遇貸出金利)は据え置かれるも、住宅ローンの参照金利となる5年物LPRを2023年6月以来初めて引き下げた。米国が年央には利下げに転じるとの観測が広がる中、金融緩和による人民元安圧力が昨年より和らぐこともプラスに働こう。ただし、金融機関の利ざや縮小による収益悪化が懸念されるため、大幅な金融緩和は難しいだろう。

 財政・金融政策による景気下支えが求められる一方、最大の下押し要因である不動産不況への対応策が必要となる。足元では、「一線都市」と呼ばれる大都市(北京、上海、広州、深セン)での住宅購入制限緩和や、各都市が金融支援に適する比較的優良な不動産プロジェクトを「ホワイトリスト」として金融機関に提出し融資拡大を図るといった政策対応がみられる。

 しかし、住宅購入者のマインドを好転させ、不動産市場の悪循環に歯止めをかけるためには、デベロッパーの経営状況に対する不安を解消するような対策が必要である。例えば、不動産市場の調整の契機となったデベロッパーの借入規制の緩和や、国有資本ファンドによるデベロッパーの救済などだ。全人代でこうした踏み込んだ政策の可能性が示唆されるのか、注目したい。

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No.149 ★ 「半導体のプロ」坂本幸雄氏はなぜ中国に賭けたか 「いずれ中国のIC微細化は限界迎える」と予見

2024年03月05日 | 日記

東洋経済オンライン (山田 周平 : 桜美林大学大学院特任教授 )

2024年3月5日

2月14日に亡くなった坂本幸雄氏は、エルピーダメモリの破綻後は中国企業に活動の場を求めた(写真:尾形文繁)

日本の半導体業界では珍しい「プロ経営者」だった坂本幸雄氏が2月14日に死去した。日本テキサス・インスツルメンツ(TI)副社長などを経て、エルピーダメモリ(現マイクロンメモリジャパン)を一時的とはいえメモリーの世界大手に導いた手腕は広く知られている。

2012年にエルピーダが経営破綻した後は表舞台から遠ざかったが、死去するまで中国の半導体メーカーで経営者としての復権を目指していた。

「日本企業が日本メディアの報道をうのみにして、中国との交流を避けるのはよくない」。坂本氏は2023年7月、深圳市昇維旭技術(スウェイシュア)最高戦略責任者(CSO)の肩書で、筆者が勤務する桜美林大学で講演した。同社はメモリーの一種であるDRAMへの参入を目指す中国の国有企業で、坂本氏は2022年6月に入社していた。

坂本氏は取材や講演で持論を述べるのが好きだったが、スウェイシュアへの入社以降は控えていた。中国のハイテク産業を警戒する日本の世論を意識していたようだ。しかし、前職の記者時代から20年以上の交流がある筆者が依頼すると、「学生さんが相手なら」と快諾してもらった。

結局は当日、メディア批判を含めて以前と変わらぬ毒舌ぶりを発揮し、筆者は苦笑してしまった。キャンパス前でタクシーに乗る姿を見送ったのが最後になるとは思いもしなかった。

「負け犬のままでは終われない」

坂本氏がエルピーダを離れた後、中国企業に活動の場を求めたことは本人が時折、取材に応じて明らかにしていた。ただし、それは顧問や社外取締役としての側面支援というレベルではない。

本人は常々、「負け犬のままでは終われない」と語り、あくまで現役の経営者として復権することを真剣に考え、実行していた。近年は休日には剣道に打ち込んでいたが、これも経営者として戦える健康づくりが大きな目的だった。

坂本氏は「日本TIの社長になれなかったのは大きな挫折だった」と回顧しており、順調に出世していればエルピーダの社長を引き受けなかった可能性が高い。エルピーダが健在で、DRAMの世界シェアでサムスン電子など韓国勢を再逆転する目標を達成していれば、坂本氏は引退していたかもしれない。

2013年7月、エルピーダはアメリカのマイクロン・テクノロジーに買収された。発表会見後に報道陣に囲まれる坂本氏(写真:梅谷秀司)

本人にとっては、エルピーダの破綻は経営者として負けであり、リベンジの場を中国企業に求めたのだろう。

坂本氏は2002年のエルピーダ移籍の直前まで聯華電子(UMC)の日本子会社の社長を務め、移籍後は力晶半導体(パワーチップ)と提携するなど台湾メーカーと縁が深かった。

中国政治の変化に翻弄される

中国とのパイプを築いたのは2008年以降だ。かつての「坂本番」記者で、現在は中華圏の企業動向の研究を専門とする筆者は、坂本氏と中国の関係には4つの段階があったと分析している。

1つ目はエルピーダが2008年8月に発表した江蘇省蘇州市でのDRAM工場の建設だ。市政府系の投資会社との合弁事業だったが、直後に起きたリーマン・ショックでDRAM市況が急速に悪化し、市政府側の翻意で白紙になった。

2つ目は安徽省合肥市のDRAMプロジェクトだ。坂本氏が設立したサイノキングテクノロジー社が開発・生産技術を担当し、市政府側が集めた資金で工場を建設する青写真を描いた。2016年には記者会見まで準備したが、旗振り役だった市長が習近平指導部による反腐敗運動で失脚し、立ち消えとなった。

3つ目は2019年11月、国有半導体メーカーの紫光集団の高級副総裁に就いたことだ。重慶市でのDRAM工場建設の責任者に指名され、JR川崎駅前のビルでは日本・台湾のDRAM技術者が100人規模で働けるオフィスも整備していた。紫光はその後、資金繰りが悪化し、2022年1月に法的整理に追い込まれたが、坂本氏も直前の2021年末に離職を余儀なくされていた。

李克強首相との会見にも同席

最も復権に近づいたのは紫光時代だろう。コロナ禍で日中間の往来が困難な時期だったが、紫光の趙偉国董事長(当時)に急に北京に呼ばれ、李克強首相(同)との会見に同席したことがあったという。中国は半導体経営のプロが少なく、坂本氏の手腕に期待したようだ。

しかし、その後は政治の風向きが変わったためか、紫光に公的な救済の手が伸びることはなく、趙氏は2022年7月に汚職の疑いで身柄を拘束されてしまった。

坂本氏の中国ビジネスは、共産党・政府との距離感という「チャイナリスク」への挑戦の連続だったと総括できるのではないか。リーマンやコロナという不運もあって、いずれも成功したとは言いがたい。筆者は坂本氏が紫光を離職した後、そうした見方を本人に直接ぶつけ、「山田さんは俺が中国でいつも失敗していると言いたいの」と怒られた記憶がある。

坂本氏を紫光にスカウトし、その剛腕ぶりから「中国の飢えた虎」の異名をとった趙氏についても多くを語ろうとしなかった。しかし、中国の半導体メーカー全般の技術水準など、個人や個社を特定しない問いには答えてもらえた。例えば、中国の半導体産業は現在、米制裁のため最先端のEUV(極紫外線)露光装置を輸入できず、IC(集積回路)の微細化が行き詰まると指摘されている。

答えは「現在の技術の延長線上にいる限り、中国のIC微細化にはいずれ限界が来る」だった。坂本氏は中国企業における自らの役割について、いつか起こる可能性のある技術のパラダイムシフトに対応できるよう、経営基盤を固めることだと考えていたようだ。こうした坂本氏の見立ては、筆者が中国の半導体産業を観察するうえで非常に参考になった。

坂本氏はスウェイシュアでも同じ思いで仕事をしていたらしい。筆者が2023年5月、講演依頼のメールを送ると、「今はベルギーにいるので帰国後に調整しましょう」との返事があった。

半導体でベルギーといえば、IC製造技術の世界的な研究機関imec(アイメック)が頭に浮かぶ。米中ハイテク摩擦や企業秘密に直結しそうなのであえて確認しなかったが、スウェイシュアでも使える技術を探りに行ったのではないか。

帰国した坂本氏からは「この年になると17時間のフライトは疲れますよね」とのメールが入った。坂本氏はかねて海外出張もエコノミークラスで往復し、経費を少しでも節約することを経営者としての信念としていた。ベルギー往復もエコノミーの乗り継ぎだった可能性がある。当時75歳の身体には大きな負担だっただろう。

日本にとって中国ハイテクの台頭は安全保障上のリスクでもあり、中国企業に協力する人を「裏切り者」扱いする向きがあるのも理解できる。しかし、坂本氏は個人の損得ではなく、経営者としてのプライドを賭けて中国に身を投じていた。筆者には責めることができなかった。意見交換できる日が二度と来ないのは残念で仕方がない。心からご冥福をお祈りする。

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No.148 ★ 最高の人間学「三国志」、新しいリーダーが渇望される今こそ必要な「読み方」ー三国志に学ぶ企業変革のすゝめ (1)

2024年03月05日 | 日記

Japan Innovation Review (鈴木 博毅:ビジネス戦略、組織論、マーケティングコンサルタント)

2024年3月5日

甘粛省天水 諸葛軍塁の諸葛孔明像 写真/フォトライブラリー

約1800年前、約100年にわたる三国の戦いを記録した歴史書「三国志」。そこに登場する曹操、劉備、孫権らリーダー、諸葛孔明ら智謀の軍師や勇将たちの行動は、現代を生きる私たちにもさまざまなヒントをもたらしてくれます。ビジネスはもちろん、人間関係やアフターコロナを生き抜く力を、最高の人間学「三国志」から学んでみませんか?

腐ったリーダー、腐った組織上層部、腐った時代の最悪3拍子

 今から約1800年前、古代中国の大地で黄巾の乱が始まります。この民衆反乱は、後漢帝国の土台を大きく揺り動かします。しかし、黄巾の乱のもともとの原因を作ったのは、後漢帝国による政治の腐敗、悪政の蔓延でした。政治抗争が常態化し、問題解決ではなく腐ったリーダーたちによる権力争い、金権政治が横行していたのです。

 三国志は、滅亡寸前の後漢から始まります。約400年間続いた漢帝国が腐敗し、その覇権が崩れ落ちようとする時代。政治は混乱を極め、皇帝の外戚と宦官が醜い権力争いを続けている。この腐敗と混乱の大きさを察知した優秀な人物は、次第に中央から離れ、実力のある者は各地で自立を目指します。

『これがために、有能な人材は宮廷を去り、野に隠れ、力量のある者は、地方に割拠した』(書籍『三国志の世界』より)

 腐り倒れる古い権力から、多くの人々の心が離れ、英雄が新たな時代を創る時。それは一方的に抑圧で苦しみ続けた大衆が、全社会的に怒りのマグマをたぎらせている時期でもありました。政治や権力、支配の腐敗が、弱者へのしわ寄せや弾圧につながるのはいつの時代も同じです。新しい英雄が生まれる土台は、悪政の蔓延と組織上層部の腐敗によって生み出された、民衆の憤懣と激怒のパワーが原動力だからです。

曹操、劉備、孫権。3リーダーが新しい時代に部下に与えたものとは

 歴史好きの人で、中国の三国志を知らない方は珍しいでしょう。最大の魅力は、なんといっても群雄が並び立ち、権謀術数の限りを尽くすこと。魏の曹操、蜀の劉備、呉の孫権という新しい時代のリーダーの魅力とその活躍。彼らに従うキラ星のような勇将、智謀の軍師たち。

 曹操、劉備、孫権の3人のリーダーは、時間の経過とともに、多くの人々を自らの陣営に引き寄せていきます。彼らは、腐敗の3拍子を極めた後漢の末期に、多くの人々が集まる希望の中心点でもあったのです。

 3人の新たなリーダーは、多くの人に何を与えたのか。リーダーとなる人、リーダーである人でさえ、自然に求心力が持てるわけではありません。何かを部下たちに与える対価として、リーダーはその人たちの強い献身を集めていくのです。曹操、劉備、孫権の3人の新リーダーは、大混乱と腐敗の時代を抜け出して、次第に人を集め大勢力となり、最後はそれぞれが皇帝を名乗るところまで上り詰めました。

 この3人の新リーダーが、部下や大衆に与えたものは一体なんだったのか。それは腐敗した後漢帝国のリーダー、腐敗した旧支配層には絶対にできないことだったに違いありません。新リーダーが成長を続けて高みにのぼる時、部下を含めた組織全体、新リーダーを支持する大衆から、非常に多くのものを得て競争から抜きん出ていきます。

 リーダーの成長は、部下や集団に「何を与えるか」で決まる。私たちは、新時代のリーダーとして成功を収めるため、三国志の3リーダーが大衆に一体何を与えたかを洞察していくことが重要になるでしょう。

「サバイバル・レース」を勝ち抜く行動原理を教えてくれる三国志

 三国志は、リーダーたちのサバイバル・レースという側面も大きくあります。後漢の腐敗による混乱は、無数のリーダーたちに「これまでにない決断を要求」したからです。そうです、混乱の時代、これまでとはちがう潮流が出てきた時代には、社会に広くいる大小のリーダーのほとんどが、これまで人生で経験したことのない決断を迫られます。

 これまで経験したことのない状況には、これまで経験したことのない視点による決断が必要です。突拍子もないことを始めるという意味ではなく、既定路線を外れて新しい進路を描く構想力が必要ということです。

 後漢の武将だった皇甫嵩は、黄巾の乱の討伐で抜群の成果を上げました。彼は非常に有能な人物で、崩れ落ちる漢帝国の組織改革なども指導していたほどです。しかし、完全に新しい時代に切り替わる歴史の転換点を読めず、最後はその力量とはほど遠い立場・末路を迎えます。

 一方、三国志の英雄の一人、劉備の幼少期は、草履やむしろを売って生計を立てていた庶民でした。彼は幼いころに父が死別したことで、生活の苦しい母子家庭で人生の初期を過ごしたのです。乱世は、劉備のような生まれの人物を、英雄の資質ありと認めれば、皇帝の高みまで押し上げてくれる。劉備の身に付けた行動原理は、それを可能にしたのです。

 曹操、孫権も、後漢帝国の権威とヒエラルキーの中では、さしたる権力があるわけでもなく、ましてや、のちに皇帝となるほどの人的勢力や優秀な人材を最初から得ていたわけではありません。しかし、この3人は乱世にもっとものし上がれる行動原理を熟知していたことで、無数のリーダーが消えていく中で、生き残り、成長し続けたのです。三国志には、難しい時代にリーダーが直面するサバイバル・レースを生き抜く行動原理が描かれているのです。

今あきらめるのか、上を向いて歩くリーダーになるか

 社会的な大混乱を迎えているのは、後漢も現代も変わらないかもしれません。英雄の心を持たない人間たちから見れば、後漢の政治腐敗と社会的な混乱は、まさに絶望以外の何物でもないからです。しかし、そのような社会的混乱と、悪しき政治の腐敗から生み出された抑圧の中でこそ、上を向いて歩く人間の姿が強い光を放ち始めるのです。

 過去4年間、コロナによる世界的な混乱が社会を席巻しました。落ち着いているように見えて、その混乱と社会的な秩序の変化は、いまだに尾を引いています。誰もがこの4年間の難しい体験をして、人によっては疲労困憊し、過去に夢見ていた明るい未来像を失っている可能性もあるでしょう。

 多くの人がうつむき、下を向き地面を見ながらとぼとぼと歩く中で、英雄たちは上を見上げて進みます。草履売りだった幼少期の劉備は、どうだったでしょうか。後漢の政府中央で、古い権力の腐敗と、リーダーたちの堕落を見ていた曹操は、若き日をどう過ごしたでしょうか。彼はあらゆるものを諦めて、鬱屈として生きようとしたでしょうか。南方の小勢力だった呉の軍事集団を、兄の孫策から受け継いだ孫権は、自らの未来を暗く思い描いたでしょうか。

 彼らは誰もが下を向いて歩いているとき、毅然として上を向き、心の中に怒りをたぎらせながら、明るい未来を掴むためのエネルギーを胸中で爆発させていたに違いありません。三国志は、悪政の蔓延と支配腐敗の中でさえ、自然に備わる人間の偉大な力を思い出させてくれる人間の物語でもあるのです。

乱世にのし上がり、生き残る人の人間関係力としての三国志

 勝ち残る者、敗北する者の人間関係は違います。乱世に生き残り、成功を手にするには自分の力だけでは不可能です。単に機会に出会うだけでも足りません。そこには、仲間としてのあるいは同志としての熱い人間関係が不可欠なのです。混沌とした、生き馬の目を抜くような時代に、誰と関係をつなぐのか。あるいは、あなたは誰から必要とされるのか。

 三国志には、無数の人間が登場します。彼らは皆生きて時代に直面し、それぞれが自らの人生を完全燃焼させるため、化学反応のように相乗効果が出る人間を相互に探していたのです。人の力、人間関係の力、出会いの威力を教えてくれることは、三国志の大きな魅力の一つであり、日本人を惹きつけて止まない学びの要素でもあります。三国志は、これからの時代に、より重要になっていく人間関係力の養い方を教えてくれるのです。

最高の人間学「三国志」は、アフターコロナの最高の教科書になる

 三国志の英雄たちは、華々しい活躍をする一方で、人間らしさも持っています。強い志と夢を持っていた彼らも、運命に戸惑い、目の前の戦いに不安や恐怖を覚えます。父子、兄弟、男女や仲間とのつながりを求め、愛情や恨みに囚われて苦しむ。私たちが三国志の世界に強く惹かれるのは、そこに描かれた英雄たちが、人間らしい、人間臭い存在感を放つからでしょう。英雄も、私たちと同じ人間であり、人間だからこその弱さを持ち、人間だからこその強さを持っていたのです。

 不安定な時代は、誰もが未来におびえます。しかし、リーダーの立場にある人は、大衆と同じように不安におびえていてはいけません。不安と恐怖を、健全な希望に切り替えていくことこそが、あらゆる立場でリーダーと呼ばれる人の役割なのですから。

 1800年前、三国志の時代の入り口で、多くの人は悪政による社会不安におびえました。現代の私たちは、アフターコロナの現代に不安を抱えていないでしょうか。このような乱世にこそ、新時代のリーダーは強く求められ、そして実際に生まれてくるのです。新時代を創り出すリーダーのための、最高の教科書となるのが「三国志」なのです。

鈴木 博毅 (すずき ひろき)

ビジネス戦略、組織論、マーケティングコンサルタント。1972年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。貿易商社にてカナダ・オーストラリアの資源輸入業務に従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。戦略論や企業史を分析し、新たなイノベーションのヒントを探ることをライフワークとしている。『「超」入門 失敗の本質』『「超」入門 空気の研究――日本人の思考と行動を支配する27の見えない圧力』『戦略は歴史から学べ』(以上、ダイヤモンド社)、『実践版 三国志 ― 曹操・劉備・孫権、諸葛孔明……最強の人生戦略書に学ぶ』『実践版 孫子の兵法』『人を自在に動かす武器としての「韓非子」』(以上、プレジデント社)、『1時間で歴史とビジネス戦略から学ぶ いい失敗 悪い失敗』『3000年の叡智を学べる 戦略図鑑』『伝説の経営者たちの成功と失敗から学ぶ 経営者図鑑』(以上、かんき出版)など著書多数。

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