「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.185 ★ 中国、テック分野で「米国排除」急ぐ 国産品への置き換えを強化する「79号文書」

2024年03月14日 | 日記

DIAMOND online (The Wall Street Journal)

2024年3月13日

Photo:Bloomberg/gettyimages

 中国に進出している米テック企業に災いが降りかかろうとしており、その前兆は紙に書かれている。「79号文書」だ。

 中国政府が2022年に作成したこの文書は、米国産技術の排除を強化するよう指示する内容で、この取り組みは「Delete America(米国を排除)」を表す「Delete A」とも呼ばれる。

 79号文書は機密性が極めて高く、高官や幹部らは文書を見せられただけで、コピーを取ることは許されなかった。事情に詳しい関係者が明らかにした。そこには、金融やエネルギーなどの分野の国有企業に対し、ITシステムで使われている外国製ソフトウエアの置き換えを27年までに完了するよう指示されていた。

米テック大手は長年、コンピューターや基本ソフト(OS)、ソフトウエアを通じて中国の急速な産業発展を支え、同国で大きな利益を上げてきた。だが中国指導部は、長期的な安全保障上の懸念を理由にこの関係を絶ちたいと考え、自給自足を急がせている。

 最初に標的となったのはハードウエアメーカーだ。デル・テクノロジーズや IBM 、ネットワーク機器大手シスコシステムズは、自社製品の多くが中国企業製に置き換えられていくのを徐々に目の当たりにするようになった。

 基本的な事務処理からサプライチェーン(供給網)管理まで、日常業務に使われるソフトを提供する企業も標的にされている。マイクロソフトやオラクルの同業企業は、外国テック企業に残された中国での収益源の一つである同分野でシェアを失いつつある。

 中国のこの取り組みは、習近平国家主席の長年の構想の一端に過ぎない。習氏は、半導体や戦闘機といった重要技術から穀物や油糧種子に至るあらゆるものの自給自足を促している。大局的には、食料や原材料、エネルギーで西側諸国への依存を減らし、サプライチェーンを国内に絞る戦略を掲げる。

 79号文書が出された22年9月当時、米国は半導体輸出制限と中国テック企業に対する制裁を強化していた。中国政府は同文書で国有企業に対し、電子メールや人事、業務管理用のソフトについて、外国製から中国製への置き換えの進捗(しんちょく)状況を四半期ごとに報告するよう求めた。

 指令を出した国有資産監督管理委員会は国有企業部門の監督機関で、中国上場企業上位100社のうち60社余りを監督している。同委員会と国務院(内閣に相当)はコメント要請に応じていない。

 中国の22年の公的支出は48兆元(約988兆円)余りに達した。こうした公的部門の購買力に支えられたテック企業は、製品を改良して米企業との技術格差を縮めることができる。

 中国製の代替品が品質で劣る場合でも、国有企業が忠実に購入を増やしたことが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認したデータや仕入れ書、関係者の話で分かった。購入したのは銀行や金融サービス会社、郵便局などだ。

 06年当時の「中国は恵みの地で、知的財産が主な課題だった」。中国との技術協議に関わったことのある元米通商代表部(USTR)高官はこう話した。「今はチャンスの気配がついえたという感じだ。(西側)企業は何とか踏みとどまっている」

 技術の国産化を推進する動きは「新創」と呼ばれる。安全で信頼できる技術を指す「ITイノベーション」とも解釈される。技術や貿易を巡る米中対立が激化し、多くの中国企業が米国産技術へのアクセスを制限される中、中国にとって対策の緊急性が増している。

 李強(リー・チャン)首相は5日に行った全国人民代表大会(全人代、国会に相当)での政府活動報告で、この方針を改めて表明した。公表された24年予算案によると、科学技術への支出は10%増の約510億ドル(約7兆5000億円)に達する見通し。伸び率を前年の2%から引き上げる。

 中国各地で開催される見本市では、業者が外国ブランドに代わる国産技術を売り込んでいる。南京の見本市に出展したある半導体製造装置メーカーは、顧客がサプライチェーンから「米国を排除」するのを支援すると言い切った。

 中国で開発された代替品は使い勝手が良くなっている。地方政府の当局者は16年当時、中国軍関連企業が開発したOS「麒麟」を搭載したコンピューターで、スプレッドシートを開け閉めするのに丸1日かかったことを覚えている。麒麟の最新版について同当局者は、09年に発売されたマイクロソフトのOS「ウィンドウズ7」になぞらえ、素晴らしいというほどではないにしろ、使えることは使えると話す。

 つい6年前まで、中国政府が入札するハードや半導体、ソフトは大半が西側ブランドのものだった。23年までに国産品が多く占めるようになった。

 北京市の公務員の中には、それまで使っていた外国ブランドのパソコンを、同市に拠点を置く清華同方のものに交換させられたり、アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の代わりに中国製品を業務に使うよう指示されたりした人もいる。

細る受注

 習氏はこの10年、技術革新と産官による国産技術活用を繰り返し説いてきた。13年にエドワード・スノーデン元国家安全保障局(NSA)契約職員が、米当局が中国の携帯電話通信や大学、民間企業をハッキングしていたことを暴露すると、習氏の信念は一層強まった。国力と市場を活用して、OSなど必須ソフトの開発上の障壁をなくすよう、幹部に指示している。

 中国がハードウエアの置き換えに力を入れ始めたことで、IBMは中国での売上高が徐々に減少してきた。同社は21年、その20年以上前に立ち上げた北京の研究部門を縮小した。

 かつて中国で大きな存在感を示していたシスコは、国産品の応援買いが広がったことで中国の業者に受注を奪われていると19年に明らかにした。調査会社カナリスによると、デルは、中国パソコン市場におけるシェアが8%と、ここ5年でほぼ半減した。

 ファクトセットの推計によると、サーバーやストレージ、ネットワークを手掛ける米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)は、売上高に占める中国の割合が18年は14.1%だったが、23年は4%にまで減少。同年5月には中国合弁会社の保有株49%を売却すると発表した。

 この2年で、アドビやセールスフォース、シトリックスの親会社クラウド・ソフトウエア・グループなどの米ソフトウエア企業が中国直営事業から撤退または縮小した。

 マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツ氏と幹部は、人工知能(AI)や米中貿易での協力などに関して中国指導部と協議するため、頻繁に北京を訪れているものの、同社が現地で提供する製品は減っている。ブラッド・スミス社長は昨年9月、売上高に占める中国の割合はわずか1.5%だと米議会小委員会の公聴会で明らかにした。同社の昨年度の売上高は2120億ドルだった。

 マイクロソフトはコメントを控えた。

 一部の中国国有企業は、基幹業務に不可欠な外国製IT製品の国産品への置き換えに積極的ではない。状況を知る関係者が明らかにした。国産品の安定性や性能に懸念があるためだという。

 ただ、中国の独自技術は高度化しているだけでなく、国内のエコシステムにも深く組み込まれている。国産業務ソフトは、中国企業の間で電子メールの代わりに広く使われているチャットアプリ「微信(ウィーチャット)」に対応している。

 モルガン・スタンレーの調査によると、国内で調達する動きは民間企業にも広まりつつあり、国産ソフトを購入する傾向が強まっている。

 中国がまだ後れを取っている先端技術や、同国に参入している多国籍企業向け販売などでは、西側企業にもまだチャンスがある。

 だがいずれ、公的部門による国産品優遇により、中国市場では西側企業の不振が強まる可能性があるとアナリストは指摘する。

 経営助言会社アジア・グループの中国部門責任者ハン・リン氏は、「ソフトウエアの成長にはユーザーからの継続的なフィードバックが必要だ」とし、「それが国内業者にとって強みとなる」と述べた。

(The Wall Street Journal/Liza Lin)

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