「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.203 ★ 中国分析の基盤を維持するため経済界は支援を 志望者の減少で日本の中国研究者は絶滅寸前

2024年03月20日 | 日記

東洋経済オンライン (西村 豪多 : 東洋経済 コラムニスト)

2024年3月19日

閉幕した全国人民代表大会(写真:Bloomberg)

中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が3月11日に終わった。閉幕後の首相による記者会見を取りやめるなど、今年の全人代では内向きの姿勢がこれまで以上に際立った。

もともと指名される記者も質問内容も事前に決められており、決して自由な質疑の場ではなかった。それすらやめてしまうのは大きな後退だ。今後ますます中国の政策分析は、当局が一方的に発信する情報を頼りにせざるをえない。

「竹のカーテン」といわれる厳しい情報統制があった1970年代までのように、中国の公式報道の一字一句を読み込んで背後にある微細な変化を観察する作業が不可欠になる。これは政府、企業、メディアに共通の課題で、データの収集と分析力の錬磨が不断に求められる。ベースになるのは学術界による中国研究の蓄積だ。

中国研究を阻む「三重苦」

そこで心配になるのは、日本における中国研究の衰退である。この数年、中国を研究する学者から「大学院の博士課程で現代中国をテーマにする日本人学生が絶えて久しい」という話をよく聞く。増えるのは中国人の留学生ばかりだという。留学生から研究者が育ったとしても、親族が大陸に残っていればその言論にはかなりの制約がある。これでは日本における現代中国研究は遠からず途絶える。

政治学・経済学・社会学などの分野を問わない現象のようだ。現在の日本では大学に安定したポストを得るのは極めて難しい。語学の習得や留学、現地調査などの手間とコストがかさむ中国研究を選ぶと論文執筆に手間が増え、就職レースで圧倒的に不利になる。

就職への不安に加え、最近は日本における対中感情の悪化も強い逆風になっている。さらに中国で学術調査をすることはどんどん難しくなってきた。最後に日本人の大学院生を教えたのは7年も前だという東京大学の教授は「三重苦の時代だ」と現状を形容していた。

成長が鈍化したとはいえ、中国の経済規模は拡大を続ける。一方で内政はますます強権的になり、外交面では強硬さを増している。そんな隣国を研究することの必要性は論を俟(ま)たない。

情報収集の質を担保する学術界の人材を育てるのは、日本全体の課題といっていいだろう。戦前には、上海に設けた東亜同文書院(愛知大学の前身)で中国事情に精通した人材を育てた例がある。私立大学だが、日本政府の補助金など公費を支えに運営されていた。

ただし、現代に日本政府が直接的に関与して中国に詳しい人材を育てるのは、「スパイ養成」とあらぬ疑いをかけられそうだ。中国情報の充実で利益を得る立場の経済界が主体になるのがいいのではないか。経団連など財界団体が音頭を取り、大学院で現代中国を研究テーマにする学生向けに全額給付の奨学金を設けてはどうだろう。

日本独自の知的基盤維持を

米国の投資ファンド、ブラックストーン・グループを創業したスティーブン・シュワルツマン氏は私財1億ドルを投じて2016年に北京の清華大学に奨学金を設けた。エリート候補の若者を世界から集めて中国について知見を深めさせるのが目的で、米中対立が厳しい中でも活動は続いている。

そのまねは難しいだろうが、せめて日本独自の知的基盤は維持したい。インテリジェンスの重要性を説く経営者は昨今多いが、集めた情報を的確に分析できる人材がいなければ絵に描いた餅だ。

教員の定年が65歳とすれば60歳以降は博士課程進学希望の学生を受け入れられない。50代の人材が豊富な今が支援のラストチャンスで、残り時間は限られている。

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No.202 ★ 中国不動産のバブル崩壊はさらに深刻化する…習近平の側近の「爆弾発言」が意味する深刻すぎる状況 「日本のバブル崩壊」よりも長期化する恐れ

2024年03月20日 | 日記

PRESIDENT Online (真壁 昭夫多摩大学特別招聘教授)

2024年3月18日

世界中の経済専門家が耳を疑った

3月9日、中国の倪虹(げいこう)住宅都市農村建設相は、債務超過に陥った不動産企業について「破産すべきものは破産し、債務再編すべきものは再編すべき」と発言した。この発言に対し、多くの経済専門家が疑問を呈している。これまでの中国政権の政策とまったく逆の発言だったからだ。

中国政府は、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)など事実上の経営破綻状態にある不動産デベロッパーの延命を優先してきた。不動産デベロッパーに対して、既存の建設案件を完成させることを要請してきたからだ。

そのため、大手行に対して不動産向けの融資を増やすよう要請を強めた。2月、政府は金融支援を行う不動産事業を記載した“ホワイトリスト”も策定し、大手国有銀行5行は関連案件の融資申請を受理した。

2024年3月11日、北京で開かれた中国の全国人民代表大会(全人代)の閉幕式で、議案可決後に拍手する習近平国家主席(中央)

共産党と政府内の意思統一ができていない?

それを、デベロッパーを破産させるという住宅相発言は、あまりに唐突でよく理解できない。「共産党と政府内の意思統一ができていない」との見方も出ている。

今なお、中国の住宅市況は悪化が止まらない。不良債権問題を抱える企業を支援したにもかかわらず、一方で延命させると言い、他方で破産させるという。今後、どのように中国の不動産市況悪化は収束するか、落としどころは一段と見出しづらくなった。

1990年初頭にバブルが崩壊したわが国は、一時期、債務問題が深刻化した企業への貸し出し促進策を強化した。それでも、不良債権問題、金融システム不安、デフレ環境の深刻化は止められなかった。今回の中国の政策運営方針の不一致で、経済が正常な環境に戻るにはさらに時間が必要になるだろう。

経営難の企業を助けたいのか、切り捨てたいのか

9日の記者会見で倪虹住宅相は、不動産バブル崩壊で経営悪化した不動産企業の破産をいとわない考えを示した。最近の中国政府の政策を見る限り、党中央の関係者がこうした見解を示すのは極めて異例だ。

これまで中国政府は、カントリー・ガーデンや恒大集団(エバーグランデ・グループ)など不動産企業、地方政府傘下の融資平台など、債務返済に行き詰まった企業の延命を優先してきた。

2020年8月の“3つのレッドライン”をきっかけに、中国の不動産バブルは崩壊した。その後、中国政府は、住宅購入の規制を一転して緩和した。融資規制強化の負の影響はあまりに強かった。住宅取得税の軽減や、家電などの購入補助券の配布を行う地方政府も現れた。

それでも目立った効果は出なかった。不動産業者の資金繰りを支援するために、政府は市中銀行に融資を増やすよう指示を強化し、不動産デベロッパーにマンションの完成を求めた。中国人民銀行(中央銀行)も政策金利を引き下げ、市中への流動性供給を強化したりした。

住宅購入者の不満をどうするつもりなのか

2024年1月、中国政府は“ホワイトリスト政策”と呼ばれる不動産支援策も実施した。地方政府などが金融支援を行う不動産事業を選定し、リストにまとめたものである。要は、ホワイトな案件(住むための住宅供給の社会的なニーズが高い開発案件)向けの支援を強化せよという号令だ。同月末、香港の高等法院(高裁に相当)はエバーグランデに清算を命じたが、多くの資産が存在する本土の当局が清算加速に動く兆しは出なかった。

中国政府の政策は、一貫して住宅購入者の不満を抑えることだ。予約販売によって未完成物件のローン返済を抱える家計の不満が高まれば、政治を優先する習政権の基盤が揺らぎかねない。

そうした中国政府の政策と、9日の住宅相の発言は矛盾する。倪虹氏は金融支援を継続する姿勢を示しつつも、不動産企業に厳しい対応をとる考えを示した。前触れのない政策方針の転換に、耳を疑う中国経済の専門家は増えた。

総額4兆円超の地方案件の対応が懸念される

全人代の会期中、中国人民銀行の潘功勝総裁は、「預金準備率に追加の引き下げ余地がある」と述べた。不動産市況の悪化を食い止め、雇用・所得環境を下支えする中銀の姿勢は強まった。

証券監督管理委員会のトップは、投資家が保有していない株を借りて空売りすることをより厳格に取り締まる考えを示した。株価下落時の市場介入も強化するようだ。いずれも不動産デベロッパーなどの延命を重視した政策方針の継続を示唆した。

ところが、住宅相は強硬に不動産業界の整理を進める見解を示した。延命、不良債権処理、どちらを優先して中国が不動産バブル崩壊の後始末を進めるか、落としどころは見出しづらくなった。

懸念が高まるのは、地方政府の対応の乱れだ。記者会見中、倪氏は「地方政府が融資適格と認定した不動産の開発案件は6000件を超えた」と明らかにした。地方政府が認定したプロジェクトへの融資承認額は、2000億元(約4兆1000億円)を超えた。

写真=※写真はイメージです

足並みが揃わないと金融機関に波及する恐れ

その発言を額面通りに解釈すると、ホワイトリストにどの案件をのせるかは地方政府の責任ということになる。足許、中国の住宅価格は下落傾向が続く。2月、カントリー・ガーデンの販売面積は前年同月比89%減と報じられた。2024年も中国の不動産販売額は減少し、3年連続で不動産市況は悪化する恐れが高い。

一方、中央銀行が金融緩和を強化する。住宅建設などを監督する当局も延命を優先する。政策の方向性が一致する場合、地方政府は中央の政策方針に従って行動すればよい。反対に、政策の方向性が一致しないと、地方政府はどの案件を支援するか二の足を踏むだろう。

地方政府の不動産対策姿勢の乱れは、金融機関などのリスク許容度を減殺する。大手行などが不動産分野への融資に慎重になる恐れは高まった。シャドーバンキング、融資平台など不動産デベロッパー以外の融資も抑制傾向が強まるかもしれない。

不良債権処理が遅れた90年代日本と重なる

バブル崩壊後のわが国の経験からして、不動産バブル崩壊に関する政策が後手に回ったり、有効な対策の発動が遅れたりすると経済環境の厳しさは高まる。1990年代、わが国の政府は、金融緩和を強化しつつ、信用保証制度を拡充するなどして企業向けの貸し出し促進に取り組んだ。

1997年度までは公共事業関係費も積み増した。1999年には公的資金を用いて銀行の自己資本を増強した。当時のわが国の政権は、「景気を下支えすればいずれ設備投資が回復して景気は持ち直し、不良債権処理も解消に向かう」と考えた。

しかし、実際にはそうならなかった。不良債権処理が遅れたことによって徐々に金融機関のリスク許容度は低下し、景気は長期停滞に陥った。2008年9月15日のリーマンショックの発生直後、米国は迅速に金融緩和と財政資金を用いた不良債権(資産)の買い取り制度を発動した。また、シェールガス開発の支援も強化した。米国は、バブル崩壊後のわが国の教訓を生かし、景気後退を比較的短期間で切り抜けたといえる。

優秀な官僚の進言が中枢に届きにくくなっている

これまで中国人民銀行や政府の関係者は、失われた30年に陥った日本経済をつぶさに研究し、同じ轍(てつ)は踏まないとの見解を示してきた。しかし、わが国の教訓を活かすことは難しい。今回の全人代で明らかになった通り、習政権は経済よりも政治の強化を優先している。

経済政策に精通した優秀な官僚の進言は、習政権の中枢に届きにくくなったのかもしれない。政策が後手に回るだけでなく、ここにきて方向性までもがばらつき始めた。政策の方向性が定まらないことには、国内の企業、個人、海外企業、内外の投資家は中国の景気先行きに慎重になる。

先行きを懸念する人は、本土株や人民元を売り、資本逃避は激化する恐れも高い。資金流出を食い止めようと中国政府が資本規制を強化する恐れも増す。結果的に資金流入は細り、不動産市況の悪化、不良債権問題は深刻化するだろう。政策の方向性が一つに収斂しないことには、中国経済が正常な環境を取り戻すには長い時間がかかりそうだ。

真壁 昭夫(まかべ・あきお)

多摩大学特別招聘教授。1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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No.201 ★ 習近平政権の批判ありき 日本人が喜ぶ「つまみ食い報道」を繰り返すマスコミに踊らされる“おめでたい人々”

2024年03月20日 | 日記

MAG2NEWS (by 『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』)

2024年3月19日

 

3月5日から11日にかけて北京で開かれた全国人民代表大会(全人代)。中国の国会にあたる全人代では同国の今後を知る上で重要な報告が多数なされましたが、日本メディアはこれまで同様、習近平政権を批判的に扱うことが可能な題材だけの「つまみ食い報道」に終始しました。

そんなメディアを批判的に見るのは、多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さん。富坂さんはメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で今回、中国が何を成し遂げようとしているのかという視点を葬り去るような報道が、日本人に及ぼし続けている弊害を解説しています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

中国全人代のテーマは景気対策と国防、台湾問題だけではないという当たり前のことが伝わらない現実

どの国にも共通する課題だが、メディアの報道はすべてをカバーできるわけではない。

例えば日本の国会でも与野党論戦の的となる華々しいテーマの裏で、地味な法案がいくつも通っていて注目されない。そんな問題が日常的に起きている。

日本の国会に比べ極端に会期が短い中国の全国人民代表大会(全人代)も例外ではない。

全人代では冒頭、首相による政府活動報告(以下、報告)が行われる。報告は経済問題が中心になるが、実際はかなり網羅的だ。

日本では、その報告のなかから「日本人が興味を持てそうなテーマ」で、かつ「(習近平政権を)批判的に書ける」題材をピックアップし、短くまとめた記事が目立つ。ここ数年はGDP成長率の目標値にケチをつけ、国防費の伸びを「軍拡」と批判し、台湾問題で「中国の危うさ」を強調するというパターンが繰り返されてきた。

報道が不正確とは思わないが、報告の全文を読み、比べれてみれば「つまみ食い」感は否めない。中国が対外的にアピールしたい内容とのズレも深刻だ。

もちろん日本のメディアが習近平政権の意図を汲む必要などないし、独自の視点で中国を報じることに問題があるわけではない。しかし、中国が何を目指し、何を成し遂げようとしているのか、という視点まで葬り去ってしまっては、その弊害は小さくない。

例えば、前回の原稿でも触れた「新たな質の高い生産力」である。その前の党大会で打ち出された「中国現代化」と同じく、おそらく日本の読者の頭には、何の情報も残っていないのではないだろうか。

【関連】例年通りの「金太郎飴」状態。重要テーマに触れぬ日本メディア「中国報道」の怠慢

習近平政権がわざわざ「これこれこういう問題に取り組み、社会をこう変えてゆく」と宣言している事柄をメディアが正面からとらえなければ、中国の未来を予測する上で支障をきたすことは間違いない。

実際、日本はこれまで中国の変化を大きく見誤ってきた。

凄まじい勢いで国民に普及したスマートフォンを背景に急速に進んだ社会のキャッシュレス化。爆発的な勢いを見せたライブコマースとそれにともなう流通網の整備。世界的規模にまで成長した家電メーカーや電気自動車産業の台頭。水質汚染、大気汚染に悩んでいた姿から短期間のうちに脱却し、環境を整備すると同時に太陽光・風力発電でリーディングカンパニーを数多く輩出する国へと変貌したことなど、数えれば枚挙に暇がない。

言うまでもなくこれらの変化にはすべて予兆があり、萌芽もあった。それなのに、たいていのケースで日本はそれらを見落とし、目の前に疑いようのない現実を突きつけられてはじめて驚くということを繰り返してきた。

前例に倣えば、今度の全人代が打ち出した「新たな質の高い生産力」も新たな変化の予兆に違いない。

習近平政権は欧米社会に評価されるために政治をしているわけではない。人口の最大ボリュームゾーンを占める農民や労働者のために政策を練ってきたことは報告の全文を読めばよく分かる。

その一つが「脱貧困」への取り組みだ。

中国共産党が結党100周年という大きな節目を祝うために全力で取り組んできたのが「脱貧困(小康社会実現のための)」だ。コロナ禍の2021年、それを達成したことが習指導部の大いなる誇りだった。

そして今回の報告でも「脱貧困の継続」が叫ばれ、脱貧困が瞬間風速に終わってはならないという戒めが記されている。

これは「先に富む」ことにブレーキをかけ「共同富裕」へとシフトさせた変化にも通じる。そして今回、西側社会やマーケットが注目する「目先の景気対策」より、貧困の逆流防止や徹底した就職支援、可処分所得の重視や養老金(年金)増額などに力を入れたことは、彼ら姿勢が一貫していることの表れだ。

習指導部のこうしたかじ取りの成否が明らかになるのは、まだ少し先の話だ。しかも、それは痛みに耐える時間だと言われている。

「新たな質の高い生産力」が意味するのは従来型発展モデルからの脱却だ。北京大学国家発展研究院中国経済研究センター主任の姚洋教授はこれを「粗放で外向き拡張型の成長モデルから、内側の発展を中心とし、イノベーションを動力とする発展モデル」への転換だと解説する。そして変化には「債務への過度な依存や金融、不動産の膨張といった構造的な問題の調整」に付随して「痛みがともなう」と警告する。

中国がもし確信犯的に不動産市況の低迷に耐えているのだとしたら、少し恐ろしいことなのではないだろうか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年3月17日号より一部抜粋。

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No.200 ★ 国内景気が悪化すると中国は優しい国になる:中国経済と外交との関係を検証 EUと米国に対しては顕著だが、日本や韓国には強硬姿勢の例外も

2024年03月20日 | 日記

JBpress (瀬口 清之)

2024年3月19日

2022年11月14日、習近平国家主席はバリ島で開催されたG20首脳会議に出席、米国のジョー・バイデン大統領と首脳会談を行った(写真:ロイター/アフロ)

1.中国の対米外交姿勢と国内経済情勢との相関関係:比較の前提

 中国の外交姿勢と国内経済情勢の間の相関関係については2説ある。

 一つは、国内経済が良くない時は、国民の内政に対する不満をそらせるために対外的な強硬姿勢を強めるという見方である。

 もう一つは、国内経済が良くない時は、逆に経済にマイナスの影響を及ぼすリスクを避けるため、対外的に融和的な姿勢を示すという見方である。

 この点について確認するために、国内経済の景況感を示す代表的な指標として購買担当者景気指数(PMI)製造業の推移のグラフを描いた(図表参照)。

 同指数には製造業と非製造業の分類があるが、景況感を反映しやすい指標を選ぶ観点から、民間企業比率が高い製造業PMIを選んだ。

購買担当者景気指数(PMI)製造業の推移

 PMI指数は企業の購買担当者に対して景況感に関するアンケートを実施して集計したもので、50を上回ると景気拡大の見方が多いことを示し、50を割ると景気減速の見方が多いことを示す。

 米中関係は1990年代から2010年頃までは基本的に良好であり、2001年には米国の後押しで中国はWTO(世界貿易機関)に加盟し、それが輸出主導による中国経済躍進の主因となった。

 しかし、2008年秋のリーマンショック後に、中国政府が実施した巨額の内需刺激策のおかげで世界経済が恐慌への突入を回避したことを機に、中国が自国の国力に対する自信を深め、国内のナショナリズムの高揚にも押されて、それ以前の対外的に控えめな姿勢から強硬姿勢へと転じた。

 一方、米国はWTO加盟を機に中国経済の自由化・市場経済化が順調に進展することを期待していたが、貿易、投資、金融面等での変化の速度は期待を下回るものだった。

 以上の要因を主な背景に、2010年代に入ると米中関係が悪化に向かった。

2.具体的な事象から見た相関関係

 このような認識を前提に、2010年以降の中国の国内経済の景況感と対外政策姿勢を比較してみると以下のような事実が見えてくる。

 PMI製造業が継続的に50を下回った時期(景況感悪化)は2015年1月~2016年6月、2018年11月~2020年2月、2021年9月~2022年末、2023年4月以降現在に至るまでの4つの期間である。

 この間、中国の米国に対する代表的な強硬姿勢を示す事象を見ると、台湾海峡を対象とする防空識別圏(ADIZ:Air Defense Identification Zone)を設定(2013年11月)、21世紀中葉までに中国が世界一流の軍事強国となることを目指すビジョンを第19回党大会(中国共産党第19回全国人民代表大会)で発表(2017年10月)、外交部報道官の対米強硬発言を中心に戦狼外交を展開(2020年2月~2022年末)などがある。

 これらは概ね中国経済の拡大局面で実施されている。

 戦狼外交については、中国の景況感が悪化していた2022年も続いていた。

 この時期は米国が中間選挙(2022年11月)を控えて、新疆ウイグル自治区での人権問題やウクライナ侵攻後のロシア寄りの姿勢に関し、中国に対する厳しい姿勢を強めていた。

 加えて、8月にはナンシー・ペロシ下院議長(当時)が台湾を訪問するなど、米国側主導で対中強硬姿勢を示した。それ応じて中国政府が米国を繰り返し批判する形で、戦狼外交を展開した。

 具体的には、ウクライナ侵攻開始後のロシアを強く批判せず、米国の冷戦思考に基づくロシア・中国包囲網を批判する姿勢を貫いた。

 また、2022年8月のペロシ下院議長の台湾訪問について中国は、米国政府が「1つの中国」を無視していると受け止めて強く批判した。

 米国内の中国専門家の間では、これらの米中関係悪化の主な要因についてはむしろ米国側の対応が引き起こした面が強いとの見方が少なくなかった。

 その見方を前提とすれば、中国としては積極的に対米強硬姿勢を採る意図はなかったが、米国の強硬姿勢に応じざるを得なかった面があると考えられる。

 一方、代表的な融和姿勢を示す事象については、米中間で厳しい貿易・技術摩擦の対立や気球撃墜事件などを巡る対立が続いていたため、中国側が米国からの米中首脳会談の要請に応じない可能性があると見られていたにもかかわらず、最終的に中国側が首脳会談に応じた事例がある。

 一つは、2019年6月の大阪G20首脳会議の時であり、もう一つは2023年11月のサンフランシスコでのAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議の時だった。これらはいずれも経済減速が顕著な局面に生じている。

 加えて、足許のマクロ経済指標を見ると、2023年8月以降多くの主要経済指標は回復傾向を辿っているが、景況感を示すPMI製造業は9月を除いてずっと50を下回っており、経済の悪化傾向が続いていると受け止められている。

 この間の中国の外交姿勢を見ると、2023年11月のサンフランシスコでの米中首脳会談に応じた後、両国政府高官の対話ルート構築に協力するなど、やはり融和姿勢が見られている。

 以上から明らかなように、一部2022年のように経済が悪化していても対米強硬姿勢を続ける例外もみられるが、概ね国内経済が良くない時は対米融和姿勢を示す傾向があると考えられる。

3.対米外交以外の対外政策姿勢と国内経済情勢との相関関係

 米国以外の国・地域については、対EU外交姿勢を除き、これほど明確な関係は見られていない。

 EUについては、2010年以降も独仏を中心にEU―中国関係が基本的に良好な状態を保っていた。

 しかし、2021年2月にEUが新疆ウイグル自治区の人権問題に対して比較的軽微な対中制裁措置を発表したのに対し、中国はその直後に厳しい報復制裁を発動した。

 それによってEU・中国包括投資協定に関する協議が中断され、いまだに再開されていない。

 中国側の厳しい制裁が発動された時期は、世界中が新型コロナ感染拡大で苦しむ中、中国だけが厳しいゼロコロナ政策の成功によって、比較的良好な経済状態にあり、PMIも継続的に50を上回っていた。

 一方、最近はEUに対する中国の対話姿勢が以前に比べて融和姿勢に転じているとEUの中国専門家は評価している。

 EU側はウクライナ侵攻後の中ロ接近を背景に中国に対する批判を強めているのに対し、中国側は対話を拒絶せず、対EU強硬発言も抑制していると受け止めている。

 中国経済は2022年末のゼロコロナ政策解除後、短期間だけ景況感が改善したが、2023年4月以降現在に至るまで悪化傾向が続いている。

 このように、EUについては事例が少ないが、やはり対米外交と同じような経済減速時に融和姿勢を示す相関関係が見られる。

 しかしその他の国については、これほどはっきりした傾向は見られない。

 例えば、日本については2012年秋に尖閣諸島の領有権問題が発生した後、2018年の首脳往来復活に至るまで、2015~16年の経済悪化状況下でも日中関係の改善は見られなかった。

2017年5月に自民党の二階俊博幹事長(当時)が習近平主席との面談の席上、安倍晋三首相(当時)からの親書を手渡したことを機に日中関係改善に動き始めた時期も景況感が悪かった時期ではない。

 2023年後半以降の事例を見ても、福島原発処理水の海洋放出に伴い、日本の水産品の輸入禁止措置をとったほか、日本人向け訪中ビザ発給規制緩和に対する慎重姿勢を崩さないなど経済悪化の状況でも厳しい対日外交姿勢が見られている。

 ただし、昨秋以降、中国当局の福島処理水に対する厳しい批判が抑制されているほか、訪中ビザ規制緩和を巡る交渉でもやや融和的な姿勢が見られているなど、経済の悪化が影響しているように見える面もある。

 そのほか、韓国については2016年の対北朝鮮弾道ミサイル(THAAD)配備を機に、韓国製品不買運動、中国人の韓国への渡航制限を実施。

 2020年4月に中国における新型コロナ感染拡大初期調査を求めた豪州に対しては牛肉、ワイン等の輸入規制および渡航規制、台湾支持のチェコやリトアニアに対しては現在もなお輸入規制を実施するなど、中国国内の経済状況に関係なく厳しい措置が実施されているように見える。

 こうした国・地域による対応の差は、相手国・地域の経済規模、中国経済への影響、国際社会における政治的影響力などが影響しているのではないかと考えられる。

 中国にとって貿易・投資相手国としても重要であり、国際政治でも重要なプレイヤーであるのは米国とEUだけである。

 日本は独自外交路線をとることが少なく、基本的に米国と協調することが多いほか、経済規模も中国との対比では急速に縮小している(中国の米ドルベース名目GDP=国内総生産の規模は2009年後半に日本に追いつき、2023年には日本の4.2倍にまで拡大<IMF世界経済見通し2023年10月>)ため、米国、EUほど経済との関係が重視されていない(IMF=国際通貨基金)。

 その他の韓国、豪州、チェコ、リトアニアなどについてはさらに影響力が小さいため、相関関係が希薄である。

 中国はこうした国・地域別の事情を考慮し、外交政策方針を決定しているため、国・地域により経済情勢との相関関係の差異が生じていると考えられる。

 足許の中国経済は景況感の悪化が続いており、当面これが改善する見込みは立っていない。

 上記の分析を考慮すれば、当面は米国、EUに対して融和的な姿勢が続く可能性が高いと考えられる。

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No.199 ★ 中国 23年の半導体投資22%減、保護主義高まりで

2024年03月20日 | 日記

NNA ASIA

2024年3月19日

中国調査会社の上海群輝華商光電科技(CINNO)が18日発表した中華圏を対象とした半導体業界の2023年の投資額は前年比22.2%減の1兆1,701億元(約24兆2,200億円)だった。保護主義的な動きが世界的に広がる中、半導体の需要縮小やサプライチェーン(供給網)の分断などの影響が広がった。

23年は下半期(7~12月)に市場の需要が徐々に回復し、ウエアラブル端末やスマート家電・家具、スマートカーといった分野向けの半導体需要が増えた。ただ、上半期(1~6月)の投資低迷を補えなかった。

投資を項目別に見ると、半導体設計向けは37.5%減の2,972億元、半導体材料向けは14.3%減の2,232億元となり、全体の足を引っ張った。一方、金額最大のウエハー製造向けは2.1倍の3,962億元。半導体封止・検査向けは84.6%増の1,773億元、半導体設備向けは18.6%増の401億2,000万元となった。

材料別で見た投資額は、シリコンが671億9,000万元、次世代半導体の材料となる炭化ケイ素(SiC)と窒化ガリウム(GaN)向けが525億8,000万元だった。

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