「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.183 ★ 中国全人代 「沈黙は雄弁」を実践 政府の見解と経済の実態との差が広がる中、当局者は厳しい質問を回避

2024年03月14日 | 日記

DIAMOND online (The Wall Street Journal)

2024年3月13日

Photo:Bloomberg/gettyimages

【北京】この記事は中国首相の記者会見に関するものとなるはずだった。

 中国ナンバーツーの首相は30年余りにわたって毎年、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の閉幕後に記者からの質問に答えてきた。国営テレビで放送されるこの会見は国民にとって、中国が直面する喫緊の問題について政府高官が直接質問を受け、どう答えるかを聞くことができる数少ない機会となっている。

 それは11日までの話だった。今年は全人代の閉幕後、李強首相が一度も質問を受けることなく北京の人民大会堂を後にした。課題が山積する中で習近平国家主席が権力の掌握を強め、中国の意思決定は秘密主義に覆い隠されていることが浮き彫りとなった。

 先週の全人代は、表面上は例年と変わらないように見えた。中国全土から集まった3000人近い代表は、天井に巨大な赤い星が描かれた人民大会堂内の大講堂に着席した。初日の5日、李首相は中国版の一般教書演説のような政府活動報告を行った。

 だが全人代は、政府の見解と現実との差がどれだけ大きくなっているかも露呈した。政府は開放性と透明性を約束する一方で、これまで以上に報道陣を「演出」するようになった。李首相の記者会見は、ほぼ説明もなく取りやめとなった。当局者らは中国経済の見通しを称賛する一方で、経済が直面している問題には目をつむった。中国の意思決定権が習主席の下にますます集中しているにもかかわらず、全人代自体は、その投票は民主的なものであるとアピールしていた。

 そうした不一致は、ある程度までは中国政治の特徴であった。しかし、中国経済の根本的な弱点が一段と明らかになるにつれ、その傾向は強まっている。

 この1週間は、中国のテレビや国営のソーシャルメディア・アカウントが一斉に、全人代を何十時間にもわたって取り上げた。ただ、中国経済が直面している最大級の問題――人口減少、債務水準の急増、一部の主要貿易相手国との関係悪化、住宅価格の下落――は、話題に上ったとしてもほとんど触れられなかった。

 代わりに、こうした問題は内密に議論され、最も重要な決定は全て一人の人物、すなわち習主席に委ねられている。全人代の華やかさの下で、高官たちはこの1週間、習主席への全権委任というメッセージを強く打ち出した。

 国家発展改革委員会(NDRC)の鄭柵潔主任は、われわれは「習近平同志を核心とする党中央委員会の強力な指導の下で」持続的な経済回復と長期的な改善を推進する自信や能力があり、その条件も整っていると確信していると述べた。

 中国は特にデリケートな局面を迎えている。政府は何十年もの間、国内に他の問題が存在しようとも、経済全般が好調で、人々が徐々に豊かになっているという事実に頼ることができた。だが当局者らは現在、実態は異なることに気づいている国民が増える中でも、そうしたメッセージの発信を維持する必要に迫られている。

 当局者らは全人代で自信を誇示しようとした。李首相は2024年の経済成長率について5%前後という野心的な目標を打ち出した。習主席が経済成長の原動力を従来のインフラや不動産から先進的な製造業やテクノロジーといった分野へシフトさせようとする中でも、当局としては経済成長をあまり減速させたくないことがうかがえた。

政府はこの目標を達成するために、約1兆元(約21兆円)の超長期特別国債を発行し、その資金を科学技術や食料・エネルギー安全保障などの分野のプロジェクト強化に充てると発表した。習主席をはじめとする指導部は最近、国内での「新たな質の生産力」の解放について話している。この新たな政治用語は、 主に国産技術の強化 に言及しているようだ。

 習氏が国家主席に就任する前には、全人代の代表らは時折、さまざまな問題について公の場で発言していた。今はそうすることのリスクがはるかに高くなっている。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者は李首相の政府活動報告後、湖北省の代表である王道文氏に、首相の記者会見が中止された理由を聞いてみた。

「首相の記者会見中止は妥当だったか」と尋ねると、王氏は「ここでは妥当かどうかは問題ではない。全ては政府活動報告で明らかにされている」と答えた。

 記者が「しかし過去には外国人記者が質問する機会があった」と続けると、「聞いてなかったのか? われわれはもう首相から全てを聞いた」と王氏は述べた。「政府はすでに透明性も開放性も高く、それは素晴らしい政策だと思う」

 全人代で最も明らかになった瞬間のいくつかは、語られなかったことから生まれた。

 昨年の全人代では、当時の秦剛外相が数十人の記者に囲まれ、楽しそうにしていた。中国国旗の特大ピンを襟につけた秦氏はその日、米国を非難し、習主席の構想実現に尽くすナショナリストとしての評判を高めた。

 その3カ月後、秦氏は姿を消した。政府は秦氏に何が起こったのか説明しておらず、所在は不明なままだ。昨年秋にWSJが報じたところによると、政府高官らは、秦氏が不倫関係にあり、相手が米国で子どもを出産した件について調査を受けていると説明を受けた。

 今月7日、秦氏が1年前に記者会見を行ったのと同じ場所で行われた王毅外相による90分間の会見では、秦氏に何があったのか尋ねようとした記者は一人もいなかった(WSJの記者は質問者に選ばれなかった)。

(The Wall Street Journal/Brian Spegele)

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