東洋経済オンライン (町田 穂高 : パナソニック総研 主幹研究員)
2024年2月22日
昨年11月の日中首脳会談。大国として影響力を強めようとする中国と、日本はどう向き合えばいいのか(写真:新華社/アフロ)
今年の旧正月(春節)も多くの中国人観光客が日本を訪れたが、その中国との間では懸案が山積みである。尖閣諸島周辺海域での中国の挑発、処理水の問題、日本人への査証免除措置の停止、在留邦人の拘束事案等、難しい問題が多い。
こうした問題を解決し、日中関係を改善するためには、現在の中国外交が何をしたいのかを知っておく必要がある。
昨年12月27日及び28日、中国では、約5年ぶりに中央外事工作会議が開催された。中央外事工作会議は、習近平総書記以下、中国共産党指導部が一堂に会し、国際情勢や中国外交を議論する場である。人民解放軍や中央政府、在外公館の大使、地方政府関係者といった多数の政府関係者が出席し、外交に関する指導部の方針を広く末端まで浸透させるという意味合いも強い。
習近平体制下での同会議の開催は、2014年11月、2018年6月に続き3回目となる。中国は何故このタイミングで同会議を開催したのか。
習近平外交10年の成果とは
今回の中央外事工作会議は、冒頭で2012年の第18回中国共産党大会以降の対外活動に対する評価を行った。この10年間に中国外交には様々な困難があったが、困難を乗り越えて10項目の歴史的成果を上げ、中国は、国際的な競争力や道徳的影響力を有する責任のある大国になったと言う。
第18回党大会は習近平が党総書記に選出された党大会であり、これら成果は、これまでの習近平政権2期、10年の外交活動に対する評価である。
歴史的成果とされた10項目は、前回の中央外事工作会議にあった習近平政権1期目の成果10項目と重なるものもあるが、国際社会でリーダーシップを発揮し、大国となったことをより強調する。大国として振る舞うようになったことを過去10年の外交の成果とし、習近平政権が異例の3期目に入ることを外交面で正当化している。
だが、近年の中国は欧米や日本との関係で対立する局面が目立ち、外交が成功しているとは言い難い。習近平外交が欧米との関係でもよくやったと評価するには、昨年11月に行われた米中首脳会談等、厳しい関係を処理できている形を示す必要があった。
アメリカとの間では、昨年9月に第2次世界大戦中に中国戦線で旧日本軍と戦った旧米軍関係者に書簡を送る等、習近平自ら米中首脳会談のための環境作りを進めていた。昨年11月に行われた米中首脳会談では、中国がアメリカ内部の問題だと突き放してきた薬物問題での協力にも合意した。米中首脳会談を実施したことにより、対米関係を安定させたと前向きな評価ができる環境が整った。
ヨーロッパとの関係では、EU内で発言力があり、経済関係の緊密なドイツやフランスに頼った。昨年、中国はフランスと外相レベルで9回、ドイツとは6回も会談をしている。昨年12月には、1年8カ月ぶりにEU中国首脳会談を実現した。
日本とも、昨年11月に1年ぶりに日中首脳会談を実施し、「戦略的互恵関係」を再確認した。中央外事工作会議の開催には、これら一連の首脳会談が必要だった。
新しさのない「習近平外交2.0」
今回の会議は、過去10年間のまとめに続けて、中国の置かれた国際情勢と今後の対外活動のあり方を議論している。ここでは「新しい」という言葉が多用されており、新しい外交を推進して「中国式現代化」や「中華民族の復興」の実現に貢献するとしている。過去10年の習近平外交を一区切りとし、いわば「習近平外交2.0」への移行を求めるものと言える。
しかし、「習近平外交2.0」の具体的内容は明確ではない。会議では、「人類運命共同体」構想が新しい時代の中国外交の目標だとした。同構想は、各国は協力して世界の発展を目指すべきという提案だが、同構想の詳細はあいまいなままで今回の会議での説明も目新しさはない。
中国は、この文言を国連決議に盛り込む等、普及に努力してきた。中国の価値観を国際社会に浸透させ、欧米の価値観に基づく国際秩序を修正しようとしている。
また、今回の会議では、世界の多極化や経済のグローバル化の推進、覇権主義や保護主義への反対を推進するとした。これらは、2013年の習近平政権の1期目から主張されてきた西側諸国への「異議申し立て」であり、途上国・新興国らのいわゆる「グローバルサウス」を味方につけるものである。
一方で、今回の会議では、過去2回の中央外事工作会議で指摘されていた、他の大国との関係のマネージメントや周辺国との良好な関係の構築といった内容には触れていない。
周辺諸国との関係では、インドや日本との関係は停滞しており、南シナ海の問題でフィリピンとの関係も悪化している。中国外交の「戦狼」ぶりも健在であり、最近も、フィリピン大統領の発言に対して、外交部報道官が「大統領はよく勉強すべし」と批判して、火に油を注いだ。
「人類運命共同体」構想を推進し、国際秩序の変革を求めれば、欧米との関係は構造的に難しい状況が続く。国家主権や安全の擁護は習近平外交の成果の1つであり、領土や領海をめぐる争いを抱える国との関係でも妥協できない。
これらの国との関係では、対話や交流を維持し、状況に応じて関係をマネージするしかない。中国指導部もこの点を認識し、今回の会議では具体的に触れるのを避けたのであろう。
結局、今回の会議は「習近平外交1.0」を肯定し、それを継続することを「習近平外交2.0」の中心としている。中国は引き続き「人類運命共同体」や「一帯一路」を推進し、中国の経済成長をモデルとして広め、自らの影響力を拡大させていくことになるのだろう。
また、途上国の主張を支持することで、国際社会で数を獲得し、国連を中心とした多国間の枠組みを通じて中国の主張を反映させ、欧米中心の秩序を変容させる取り組みも続けていく。
同時に、今後の外交は、時代の変化に合わせて戦略的にアレンジし、「正しさを守りながら、革新を行う」(原文:守正創新)ことが必要だとしている。近年、中国はウクライナ情勢や中東情勢に対する仲介を演出し、特使を派遣する等の積極的な外交を展開してきた。
同じように、国際情勢の変化に応じて影響力を拡大できるチャンスを狙い、「大国として振る舞える」 新しい活動を模索するのだろう。また、「習近平外交1.0」は成果を上げたとして、一区切りつけようともしている。欧米や日本、周辺国との難しい関係を改善させようとする可能性もあり、注視していく必要がある。
日本は是々非々での対応を
日本は、大国として世界に影響力を振るおうとする中国、自らの主張を譲らない中国と向き合い続けることとなる。同時に、中国は、外交関係で難しさを抱えていることを認識しており、日本との「戦略的互恵関係」を再確認し、困難な問題があっても互恵的な関係を進めることには乗ってきている。
日本としては、中国外交のこのような二面性を意識し、是々非々での対応が求められる。領土への挑戦といった譲れない問題については、日本の立場に基づき断固とした対応を続けるべきである。傲慢さや不透明性といった中国の問題点を指摘し、改善を求めることも必要である。
他方で、大国として国際的な課題に取り組もうとする中国や市場としての中国は、日本に恩恵をもたらす側面も持っている。中国をいかに利用して日本が成長するかという視点で、中国の行動を見ていく必要がある。
先の首脳会談では、ハイレベル経済対話や輸出管理に関する対話などの実施で合意した。これら対話を着実に実施し、中国との間で安定的な意思疎通を行うことがまず第一歩である。
そして、中国との対話の中から、互恵的な分野を増やしていけばよい。中国との懸案に取り組み、中国をうまく活用するためにも、意思疎通を通じて中国の考えを把握しておくことが不可欠である。
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