「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.98 ★ 日本でも自治体を装って…中国企業が世界各地で「なりすましサイト」、親中反米ニュースを絶賛拡散中

2024年02月17日 | 日記

JBpress (譚 璐美:作家)

2024年2月16日

(Dilok Klaisataporn/Shutterstock.com

要注意、かつて使用していた自治体の「ドメイン」がオークションサイトを通じて流出、悪用されているケースも

 時事ドットコム(2024年2月8日付)によると、カナダのトロント大学の研究機関「シチズンラボ」は7日、日本を含む約30カ国で地元メディアを装った中国の偽情報サイトがあり、中国を称賛する情報や米国を非難するフェイクニュースを発信しているとする報告書を公表した。

運営する中国企業は「偽サイトを次々と立ち上げる会社」?

 同報告書は40ページに及び、欧州、アジア、中南米など世界中のニュースサイトを精査した結果、少なくとも123の中国の偽情報サイトを特定した。偽情報サイトは現地メディアを装い、それぞれの国の地元メディアの記事やニュースリリースなどを無断転載するほか、中国の国営メディアが配布した宣伝用資料などを紛れ込ませている。また、これら偽情報の発信元が、中国・深圳市に籍を置くPR会社「ハイマイ」であることも突き止めた。

「シチズンラボ」によれば、偽情報サイトが最初に開設されたのは2020年春。日本などをターゲットに9つの偽サイトが確認され、【fujiyama-times.com】もそのひとつ。次いで韓国、ヨーロッパ、中南米へと拡大した。

(Aeypix/Shutterstock.com

 偽情報サイトの国別内訳は、韓国(17)、日本(15)、ロシア(15)、イギリス(11)、フランス(10)、ブラジル(7)、トルコ(6)、イタリア(6)、スペイン(5)、メキシコ(3)、ルーマニア、ポーランド、オランダ、ドイツ、アルゼンチンに各(2)、その他、アメリカ、スウェーデン、ポルトガル、ノルウェー、ルクセンブルグ、アイルランド、フィンランド、エクアドル、デンマーク、チェコ、コロンビア、チリ、スイス、ベルギー、オーストリアに各(1)となっている。

 韓国の「中央日報」(2月9日付)によれば、2023年11月に韓国の情報機関である国家情報院もハイマイを「偽サイトを次々と立ち上げる会社」だと指摘。

 ハイマイが運営する韓国の偽メディアは18(23年11月現在)あり、その名称やドメインが実際に存在する地域メディアとよく似たものを使用して、韓国デジタルニュース協会の会員企業であるかのように装い、出所不明の親中・反米ニュースを広め、韓国メディアの記事を無断転載していたと発表した。

福井、福岡、銀座、日光、明治村…

「シチズンラボ」の報告書には、具体的なドメイン名が公表されている。日本のメディアを装う15の偽情報サイトとは、次のものである。

【dy-press.com】【fujiyama-times.com】【fukuitoday.com】【fukuoka-ken.com】【ginzadaily.com】【hokkaidotr.com】【kanagawa-ken.com】【meiji-mura.com】【nihondaily.com】【nikkonews.com】【saitama-ken.com】【sendaishimbun.com】【tokushima-ken.com】【tokyobuilder.com】【yamatocore.com】

 一見して日本を想起させる「フジヤマ」、「銀座」、「東京」、「大和」などの他、「福井デイリー」、「福岡県」、「北海道」、「神奈川県」、「明治村」、「日本デイリー」、「日光ニュース」、「埼玉県」、「仙台新聞」、「徳島県」など、地方自治体や公共団体と誤解しそうなドメインが並んでいる。

流出する自治体が使っていたドメイン

 なぜ、地方自治体や公共団体に似せたドメインが多いのか。

 ひとつには、使用済みのドメインが情報資産としての価値を持ち、広く売買されるドメインマーケットが過熱しているためである。

 通常、ドメインは失効後、オークションに出品することができ、第三者が落札できる仕組みになっている。とりわけ大企業や金融機関、地方自治体のドメインなど、公共性の高いものは信用力が大きく、失効後も検索エンジンに評価情報が残ることで、アクセス数が期待されるために、オークションでの販売価格が高騰する。価格は安いものでは数百円から数千円、数万円程度だが、天井知らずで、世界で最も高いものでは40億円以上で取引された例もある。

 そのため悪用されるリスクが高まる。購入した悪意の第三者が、ドメインを利用して本来のサイトと酷似したデザインのサイトを作成し、個人情報や金融情報を取得するフィッシングのほか、別のサイトにリダイレクトして利用者を誘導するよう操作する危険性もある。

 責任あるドメインオークションでは、悪用が発覚した場合、紛争解決のための法的手続を取ったり、被害を最小限に抑える対策を講じているが、予防措置は整備されておらず、デジタル時代の急激な変化に追いついていないのが現状だ。

2月13日、島根県で新たに3つのドメインが流出したことが判明した(NHK報道)。島根県が2023年10月まで、全国植樹祭の告知などに使っていた3つのドメインが失効後、オークションで売買され、第三者の手に渡っていたことが分かったのだ。

 3つのドメインは、「島根県新型コロナ対策認証店認証制度」、「スモウルビー・プログラミング甲子園開催事業」、「しまねものづくり人材育成支援Navi」で、これらのサイトにアクセスすると、県とは無関係のサイトが表示されるという。島根県は悪用されることが懸念されるとして、注意喚起を呼びかけている。

 この3つのドメインが政治的に悪用されているかどうかは不明だが、冒頭にあげた「シチズンラボ」の報告書では、「デジタル分野での影響力拡大で、中国政府が民間企業を利用する傾向があることが裏付けられた」と指摘していることから、今後ますます警戒が必要になってくるだろう。

「親中的情報が〈偽情報〉というのは偏見だ」

 中国の偽情報サイトは今のところ目立った存在ではない。しかし日本語など、現地の言語で発信されていることから、利用者が不用意に拡散する可能性があり、知らず知らずのうちに中国流の価値観に洗脳されてしまう危険性もある。

 時事通信によれば、在米中国大使館の報道官はロイター通信に対し、「親中的な情報は『偽情報』、反中的な情報を『真実』と主張するのは偏見の最たるものだ」とコメントしたという。

 確かに、親中情報がすべて偽物とは限らない。だが、最大の問題点は、他国の現地メディアの信用力を隠れ蓑にして、秘かに中国の公式見解を紛れ込ませようとする、姑息な手段を使っていることである。

 ひょっとして、中国は「オオカミ少年」だと自覚していて、たまに本当のことを言っても信用されないので、他国の信用力を頼っているのだろうか。

譚 璐美 (たん・ろみ)

東京生まれ、慶應義塾大学卒業。現在はアメリカ在住。元慶應義塾大学訪問教授。著書に『ザッツ・ア・グッド・クエッション! 日米中、笑う経済最前線』(日本経済新聞社)、『帝都東京を中国革命で歩く』(白水社)、『革命いまだ成らず―日中百年の群像』『戦争前夜 魯迅、蒋介石の愛した日本』(ともに新潮社)、『中国共産党を作った13人』『中国「国恥地図」の謎を解く』 (ともに新潮新書)など多数。

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No.97 ★ 「アリババからシフト」孫正義氏とマー氏の関係 巨大企業の経営者が共に歩んできた道のり

2024年02月17日 | 日記

東洋経済オンライン (浦上 早苗:経済ジャーナリスト)

2024年2月16日

ジャック・マー氏(左)と孫正義氏(右)。写真は2015年(写真:AP/アフロ)

ソフトバンクグループ(SBG)が2月8日に発表した2023年10~12月期連結決算で、最終損益が5四半期ぶりに黒字となった。ビジョン・ファンドが投資するAI関連企業の投資収益の向上が要因だ。

一方、SBGは2019年まで保有資産の半分を占め、筆頭株主だった中国アリババグループの株式を実質的に全売却した。

「アリババからAIへのシフト」の転換点を迎えたSBGに対し、アリババは中国当局との軋轢で表舞台から姿を消して久しい創業者のジャック・マー氏が同社株を買い増し、筆頭株主に浮上したことが判明した。

インターネット黎明期の四半世紀前に出会い、盟友関係にあったSBGの孫正義会長兼社長とマー氏は「卒婚」を選択し、AIの波を味方につけ自社の再興を図ろうとしている。

ジャック・マー氏が筆頭株主に

SBGはビジョン・ファンドの投資収益悪化という冬を乗り切るため、2022年から段階的にアリババ株の現金化を図ってきた。

ビジョン・ファンドの重荷に加えて、IT企業への規制強化や経済の減速などチャイナリスクが高まっていることから、2023年にはアリババの全株式売却を決めた。

2019年12月末時点でSBGの保有資産の50%を占めていたアリババ株は、2023年末に0.02%まで低下し、今年1月25日には金融機関と締結していたアリババ株式の先渡売買契約について、現物決済が完了したと発表した。

SBGの発表の数日前、ニューヨーク・タイムズやアリババ傘下の中国英字紙「サウスチャイナ・モーニングポスト」は、マー氏が香港市場で株式5000万ドル(約75億円)相当を追加取得し、筆頭株主になったと報じた。

アリババ創業時からマー氏の右腕を務め、2023年6月にアリババ会長に就いたジョセフ・ツァイ(蔡崇信)氏も、資産管理会社を通じてアメリカで上場する株式を1億5100ドル分(約230億円)取得。2人合わせた株式の保有比率は約7%に上昇したという。

2019年にアリババ会長を退任したマー氏は、保有する同社株を少しずつ売却し、持ち分を減らしていた。

2020年11月にアリババ金融子会社「アント・グループ」の上場が中国当局の「指導」によって直前で延期となるなど、当局との関係悪化も表面化し、マー氏が公の場に姿を現すことも激減した。

ツァイ氏もマー氏と足並みをそろえるように同社の持ち株比率を減らし、アメリカ・NBAチームのオーナーに就くなどアリババの経営から距離を置きつつあった。

ビジョン・ファンドで巨額の赤字を出し、虎の子だったアリババ株の売却を迫られたSBGは孫氏の後継者候補が浮かんでは消え、孫氏自ら経営のタクトを振り続ける。

一方マー氏は早くから後継者育成に取り組み、すっぱりと引退したが、当局の圧力や競合の台頭など複数の逆風でアリババの経営が混迷する中で、社内のチャットで時折発言するようになるなど、再び会社との距離が近づいている。

マー氏は孫氏を5分で落とした

孫氏とマー氏の物語は25年前に幕を開けた。その物語はツァイ氏がいなければ始まらなかった。

マー氏の自宅兼事務所だったアパートの一室でアリババが誕生したのは1999年3月。数カ月後に金融街のエリートだったツァイ氏がジョインし、9月に会社として登記した。

アリババはそれまで40回近く出資を断られていたが、ツァイ氏の旧友を通じ同年10月にゴールドマン・サックス(GS)などから500万ドル(約7億5000万円)の出資を受けた。

「GSが出資したベンチャー企業」のブランドを得たアリババは、アメリカのインターネットバブルの陰りを察知して、市場の黎明期にあった中国の有望企業を探していた孫氏の目に留まることとなった。

孫氏はマー氏と会って投資を即決した。1995年に出資したアメリカ・ヤフーとアリババが後に世界的なIT企業に成長したことで孫氏の名声は大きく高まり、「マーが孫正義を5分で落とした」(中国では6分と言われている)逸話も多くの人が知るところとなった。

孫氏は2019年12月に東京大学で行われたマー氏との対談において、「投資を決めたのは(5分ではなく)10分だったかもしれない」と当時を振り返った。

孫氏によると、投資候補の20社が10分ずつプレゼンし、半分ほどが終わったところでマーの出番がやってきた。

「ジャックはお金は必要ないと言うし、ビジネスモデルもなかった。ほかの人たちはビジネスモデル、お金のこと、自分たちの事業について語っていたが、ジャックは、哲学について語った」

2019年のマー氏と孫氏の対談(写真:東京大学公式サイトより引用)

ジャックは横から、「実はその直前に(GSから)500万ドルを調達していて、お金は必要ないと思ったんだ」と補足した。

初対面の席では、マー氏が5分ほど話を続けたところで孫氏が遮り、「わかった、お金を出す」「いくら必要か」と語りかけた。同氏は「変な人だなあ」と思ったという。GSから500万ドルの投資を受け満足していたマー氏は、孫氏に5000万ドルを出資すると言われて驚き、「10分の1でいい」と答えたという。

最終的に、マー氏とツァイ氏は2000万ドル(約30億円)の出資を受けることで、話をまとめた。

「素晴らしいCFO(ツァイ氏)がいたから決断できました」マー氏は東大での対談で、そう語った。

孫氏はさまざまな場で、マー氏の魅力を語っている。アリババの売り上げやビジネスモデルではなく、マー氏の目を見て、人を動かす力を持った生まれながらのリーダーと判断し、お金を使わせることに決めたという。

74億円が9.7兆円に

SBGの後藤芳光専務執行役員CFOは2022年の振り返りで、

「2000年以来総額74億円を投じたアリババが、23年間で総額9.7兆円の資金を生み出した」

「当時売上高がゼロだったアリババへの投資を決めた孫と、優れた経営手腕で中国での事業成長に挑んだジャック・マー氏が、相互に成長しながら残した実績は、歴史に残る素晴らしいウィンウィンの関係」と記し、「アリババの貢献には感謝しかありません」と続けた。

アリババ株を吐き出したことで、同社はSBGの連結対象から外れ、資本関係もなくなった。

後藤氏は資本関係の有無にかかわらず、「今後も同じ志を持つアリババとの協力関係は続きます」と強調するが、2020年に孫氏とマー氏は「卒業」と表現してお互いの企業の取締役を外れており、ビジネスパートナーとしての関係性は薄れている。孫氏は当時、アリババ株を「できるだけたくさん、長く持ち続けたい」と話したが、それも叶わなかった。

孫氏とマー氏は、ビジネスの現場でも戦友だった。アメリカのオークションサイトのeBayが中国に進出した際、孫氏はBtoB向けのECを行っていたアリババに、eBayに対抗してBtoC事業に進出するよう助言し、資金面で支援した。アリババがそのときに始めたのが、中国最大のECマーケットプレイス「タオバオ」だ。

孫氏とマー氏の人生観は異なる

東大での対談で、マー氏は2人の関係について「犬と狼は似ているが、違う」と説明した。孫氏がそれを受け、「犬と狼は似ているが違うという話が出たが、犬は犬同士、においでわかる。私はジャックを同じ種の動物だと嗅ぎ取りました」と続けた。

ただ、2人の人生観は大きく違うようにも見えた。ビジネスが人生そのものである孫氏に対し、教師出身のマー氏は「早くビジネスの一線から退き、教育や公益に力を注ぎたい」と公言していた。

彼は以前、中国の若者に「20代は良い上司を見つけましょう。30代は自分が何をやりたいかよく考えましょう。40代は得意なことをしましょう。50代では若い人を助けましょう。60代になったら家族との時間を大事にし、仕事のことはあまり考えないようにしましょう」とアドバイスしている。

マー氏は自らの言葉を実践し、2013年に48歳でCEOを、55歳の誕生日に会長を退いた。ダニエル・チャン(張勇)氏がCEO、会長を引き継いで後継者育成も盤石に思えたが、同氏は昨年、アリババ会長も会社分割後のクラウド事業会長も退任し、創業メンバーで「ジャック・マーの黒子」と言われるツァイ氏に後を託した。

マー氏は公の場から去って久しいが、社内チャットではアリババの向かう先や、新興EC企業「拼多多(Pinduoduo)」が時価総額でアリババを上回ったことについて発言している。

マー氏は今年、60歳を迎える。「仕事のことは考えないように」という若者への助言と反対の方向に向かっているように見える理由は、アリババの混迷を見かねたのか、それとも彼が本質的に「孫氏と同じ種の動物」だからだろうか。

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No.95 ★ 中国経済は崩壊に向かうか…共産党と習近平主席の独裁が経済に与える深刻な悪影響とは

2024年02月17日 | 日記

BSフジLIVE プライムニュース

2024年2月16日

FNNプライムオンライン

中国は大型連休・春節の真っただ中。中国政府は景気回復をアピールするが、株安・デフレ・格下げなどが暗い影を落とす。これは崩壊の兆しなのか。「BSフジLIVEプライムニュース」では識者を迎え、中国経済の現状を分析し今後を展望した。

「今年より来年のほうが厳しい」を初めて感じる中国人

新美有加キャスター: 春節は中国の旧正月で、2月10~17日の8連休。中国政府によれば、この前後40日間で過去最多となる延べ90億人が移動する見通し。数字を見ると好景気に見えるが。

 柯隆(か・りゅう)東京財団政策研究所主席研究員: 数え方にもよる。公式統計で約3億人とされる出稼ぎ労働者が都市部と故郷を往復すれば1往復で2回のカウントになるなど、きりがない。中国政府が少しでも明るいニュースを伝え空気感を作りたい気持ちはわかるが、多くて延べ40億人ほどと考えている。結局はどれだけ買い物にお金を消費するか。

江藤名保子 学習院大学教授: 春節で中国から日本に来た友人と話したが、私と同世代の人からすると恐らくほぼ初めて「今年より来年のほうが厳しいかも」という感覚を持ち始めている。不安感、閉塞感は徐々に広がり始めており、行動の変化が如実に表れるきっかけになると思う。

岡嵜久実子 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹: 2023年もすでにゼロコロナ政策が緩和されていたが、今年は本当に制約がない。その点でより強い数字が出るかもしれない。ただリベンジ消費については、2023年4月にかけて起こりかけたがしぼんでしまった。全体としてベースが良くない感じがあるだろうと思う。

反町理キャスター: 「ベースが良くない」とは。また「消費者信頼感指数」という数字はどう見ればよいか。

岡嵜久実子 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹: 2023年の実質GDPは5.2%伸びており政府の目標をクリアしているが、ビジネスをする人の感覚では思ったように売れていない。まさに景気の「気」が良くない。消費者信頼感指数については、ここまで深くマイナスが続くのは初めて。内訳を見ると、人々は雇用に関する状況が相当悪いと思っている。

 柯隆 東京財団政策研究所主席研究員: 中国では日本と異なり、最も雇用に貢献する中小零細企業がコロナ禍で多くつぶれた。すると若者の失業が増える。一般の個人にとってはGDPの成長に実感はないが、自分や身近な人の失業は目の前で起こる。経営者が賃金を下げても、労働者は解雇を恐れ抵抗しない。この状況では貯蓄率が上がり消費が伸びない。また5.2%という数字も、米シンクタンクなどには疑わしいとされている。

新美有加キャスター: 「中国経済光明論」というキーワードの意味は。

江藤名保子 学習院大学教授: 2023年12月の中央経済工作会議で習近平氏が発言し注目を集めた。非常に簡単に言えば「『中国は今非常にいい』と皆で言っていきましょう」ということ。公安部が指示を出しており、やらなければ取り締まりの対象になる非常に厳しい世論統制。習近平氏の3期目に入ってからは中国型発展モデルを称揚する政治体制だが、これを成功させるためのメッセージ性を込めたプロパガンダ。

 反町理キャスター: 政治的・歴史的なナラティブについてのプロパガンダならともかく、経済は日々の暮らしの話。人々がついていけない部分が出るのでは。

 江藤名保子 学習院大学教授: 不満を感じる人は当然おり、皆が素直に納得して従うわけではない。だが共産党の統治の基本的な姿勢は、飴と鞭を同時に使い、人々の諦念を引き出し黙らせていくもの。中国の今の世論は外に対して閉じており、エコーチェンバーの中で信じる人の割合も増える。逆に言えば、それをやらなければ社会をコントロールできない。

岡嵜久実子 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹: リスクが顕現化するかどうかは、やはり最後は人の行動による。「安心しろ」と言いたい気持ちはある程度わかる。だが問題は、日本など他の国では人々が問題を指摘することでバランスを取れるが、中国はそうした発言が出ないようにしている。見えないところでマグマがたまってしまい、政府当局が気づかないリスクがある。

柯隆 東京財団政策研究所主席研究員: 強い国を目指す中国は、軍事力強化のため資源を軍需産業、国有企業に集める。市場メカニズムはおかしくなり、民営企業はどんどん弱体化する。言論統制をすると是々非々の議論が出ず、修正されない。実は最も統制されるのは共産党の幹部。一度ぜいたくを味わったことのある幹部たちが従うか。かなり危ないと思う。

膨れ上がる中国の債務 背景にある地方政府の財政難

新美有加キャスター: 中国の対GDP債務比率は、国際決済銀行によれば2023年6月末時点で307.5%。債務が膨れ上がっている。

岡嵜久実子 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹: 中国の場合、企業部門の債務が非常に大きいと言われる。地方政府も含む政府部門は、国際的には安全圏といえる水準。だが中国の場合、地方政府に関連する企業がインフラプロジェクトのための資金調達を行うなどしており、企業部門にかなり地方政府関連の債務があるといわれる。政府が債務を国外に負わない限り回していくことが可能だが、人々がそれを信用するか。

柯隆 東京財団政策研究所主席研究員: 経済があまり成長しなくなり、不動産バブルが崩壊して土地財政で得られるはずの財源が得られなくなり、地方政府が税金を取れない。歳入は大幅減少、地方公務員は給料をカットされている。中国は各々の地方自治体がそれぞれ独立した年金の社会プールを持っており、経済の発展が遅れている地方自治体は定期的にお金を入れなければ年金生活者の年金がカットされる。ストックとフロー、歳入と歳出、全てに問題がある。唯一の方法は金融緩和ですぐに対処すること。

 反町理キャスター: そうした話の根本に、中国の統治制度の問題はあるか。

江藤名保子 学習院大学教授: 中国の政治家・官僚の人事制度が、中央財政が動かない理由の一つ。今の税制は、本来は中央に財源を集め稼ぎの良くない省に分配するシステムだが、それをうまく使っていない。各地方自治体のトップが評価のために競争しているのだが、そこに経済合理性が恐らくない。本来は経済合理性に基づいて政策を打ち出すべきところ、党の合理性に基づいて動くことが正しいことになってしまっている。

柯隆 東京財団政策研究所主席研究員: 2008~2009年頃に債務の数字が突然伸びた。もっと出世したい地方政府の幹部が、無理に高い経済成長率を目指そうとレバレッジを拡大し借金するようになった。選挙民からの票は関係ないのでやりたい放題。北京からの監督が効かなくなっている感じがする。

日本と全く異なる中国の「税」についての感覚

新美有加キャスター: 習近平政権に誤算・失敗があったか。「共同富裕」というスローガンは貧富の格差を是正するため富の分配をしていくもので、第1次は所得、第2次は税・社会保障、第3次は企業や富裕層の寄付による分配。現状は。

 柯隆 東京財団政策研究所主席研究員: 中国社会には元々、寄付の文化がなかった。そこでアリババなど大きな民営企業、資本家に対して寄付を求めた。後で叩かれるからかなりの金額を寄付したが、あれは一過性。それに寄付とは自分の意思でするもので、強要されるのは寄付ではない。そして、税と社会保障の問題は、給与などの所得に関し日本のような確定申告の制度が不十分なこと。固定資産税も導入されず、相続税も機能しない。理由は調査ができないから。最も金を持つ人が最も権力を持つから、税務署員が調べれば身の危険がある。

反町理キャスター: ダメじゃないですか。再分配機能がありえない社会。中国の税務署はそんなに弱い?

岡嵜久実子 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹: しっかりしていない。まず税に対する感覚が違っており、そこは文化・社会通念の問題で、時間をかけて作らなければならないが簡単ではない。いろんな税のシステムも、企業の場合は税務署の担当官次第の部分が多すぎる。

反町理キャスター: 民主運動がなくて「代表なくして課税なし」でないからこうなるのでは。

岡嵜久実子 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹: その感じはありそう。自分たちで税を払って「こう使うべきだ」と言える立場の人がいない。自分たちが税を払って国のために使うという発想がない、というか、それを持たれてしまうと人々からいろんな意見が出てきてしまう。

反町理キャスター: 共産党の一党支配を揺るがしかねないと。きちんと人々からの信託を受けていない後ろめたさで、踏み込めないでいるのでは。

岡嵜久実子 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹: 元々、社会主義における利潤や資源の分配から始まり、自由度を高めるために利潤の分配の代わりに税を上げてよい形にしたので、根本的な感覚が違うところがあると思う。

 新美有加キャスター: 中国政府が今最も優先することは何か。経済の立て直しへの本気度は。

江藤名保子 学習院大学教授: 中国政府が優先するのは、一貫して共産党の一党独裁体制を維持すること。経済発展も外交の積極的な展開も、共産党がそれを成功させて中国を成功モデル・発展モデルに仕立て上げるためのツール。そして、ほぼ事実上の個人独裁である習近平時代に入って特徴的なのは、彼の権力の維持に与することの重要性。だが今までのような経済発展が見込めず、共産党の求心力が弱まる中で社会統制を強めてしまっている。政治としては良くない方向に進んでいるし、それが経済のプラスになるとは全く思えない。

(「BSフジLIVEプライムニュース」2月14日放送)

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