「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.61 ★ 中国と立場逆転!?日本で今「高級ブランド品」が売れまくり!“新たな買い手”の正体とは?

2024年02月03日 | 日記

DIAMOND online (姫田小夏:ジャーナリスト)

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2019年の春節時期は、銀座四丁目交差点も中国人買い物客らでにぎわっていた(著者撮影)

経済の減速が続く中国で、高い成長を続けてきたラグジュアリーブランドも苦境に立たされている。「無類のブランド好き」と言われてきた中国人も買い物どころではないのだろうか。一方で、熱い注目が注がれるのが日本のラグジュアリー市場だ。一体、何が起きているのか。(「China Report」著者 ジャーナリスト 姫田小夏)

ブランド業界全体に立ち込める暗雲

 ルイ・ヴィトンに代表されるLVMH、グッチを抱えるケリング、カルティエを擁するリシュモン…。こうしたラグジュアリーブランドの売り上げの3割は中国による貢献だと言われてきた。中国の富裕層に加え、新興の中間層がけん引し、高い成長を遂げてきた市場だ。だがこの業界にも陰りが見えるようになった。

 2023年10月11日、LVMHの株価が急落した。同日の株式市場ではケリング、リシュモンも下落した。その原因として、英ロイター通信は、同年の第3四半期は物価上昇で欧米の若い世代による需要が減速したこと、中国の回復もまだら模様であることを報じた。

 新型コロナウイルスが拡大する直前の2019年に、米マッキンゼーが発表した「中国ラグジュアリーレポート」によれば、2018年、中国の消費者は7700億元(当時約1150億ドル)に相当するブランド品を国内外で購入したという。これは世界レベルでの消費の3分の1に匹敵する規模だ。同レポートは、中国の消費者によるブランド品購入は2025年までに世界消費の4割を占める1兆2000億元に達すると予想していた。

 中国市場はそれほどまでに注目されおり、また業界全体も楽観を崩さず中国に大きく依存してきた。ロックダウンが断行されたコロナ禍でこそ消費は落ちたが、「2023年はV字回復するのではないか」と期待を寄せられていたのがブランド品市場だった。

 だが、今ブランド業界全体に暗雲が立ち込めている。

今、中国でブランド品を消費するのは若者たち

 中国では過去長らく人民服が着られていたが、1990年代後半まで、大都会の上海でもその姿がポツポツと残っていた。それでも“ファッションの街”と言われる上海では、女性たちがファッションに目覚め、旺盛な購買力を見せるようになる。ラグジュアリーブランドが本格参入をし始めたのは、上海でショッピングモール建設が始まる2000年代初頭のことだった。

 他のブランドに先駆けて参入していたのは、イタリア発祥の男性向けラグジュアリーブランドA社だった。アジア市場を管理していた佐藤尚さん(仮名)は当時をこう振り返っている。

「ブランド各社は、『顧客の嗜好が多岐にわたる難しい市場』と言われるようになった日本から離れ始め、中国に力を入れるようになりました。その中国は2000年代を転換点に日本のマーケットを追い抜きました」

 バブル崩壊の痛手を負う日本経済とは対照的に、中国では目覚ましい経済発展に伴い、新興の富裕層が続々と出現した。

 山西省の石炭ビジネスで成功した筆者の知人は、ルイ・ヴィトンのバック大中小を大きい順に腕にぶら下げ、腕にはダイヤの時計、首にはエルメスのスカーフを巻き付けるというコテコテの“ブランド女王”に変身した。

 管理を任された中国の華東地区で、佐藤さんは、欧州や日本の市場では見たこともない“金持ち”に遭遇した。「金の指輪に金のネックレス、お札で膨らんだセカンドバッグを小脇に抱え、クロコダイルのブルゾンを700万円の現金でポンと買っていくといった得意客もいました」と回想する。

 このような中国の“ブランド第一世代”の特徴について佐藤さんはこう語る。

「短期的に巨万の富を築き、周囲から金持ちに見られたいという欲求が、アパレルやアクセサリー、時計などの高級品の高い需要に結びついていきました」

 歳月が流れ、こうした第一世代にはすでに子や孫がいる。今、中国でブランド品を消費する主人公は「90后(1990年代生まれ)」や「00后(2000年代生まれ)」だ。

 20万元(1元=約20円)を超えるエルメスのクロコダイルのコンスタンス(エルメスの代表的なバッグモデル)を購入した90后もいれば、50万元のA.ランゲ&ゾーネの時計を買ったと言う女性もいる。バレンシアガのストライプシャツ、ディオールのサドルバッグ、ルイ・ヴィトンの「スクエアードコレクション」などを立て続けに購入する00年后の男性もいれば、プーチン大統領が腕にはめていたというIWCのウォッチを購入して喜ぶ90后の男性もいる。

 こうした事例からは、依然として高額消費を可能とする層が部分的に存在していることがわかる。

 だが全体で見れば、「バブル崩壊か」とささやかれる中国経済の鈍化とともに、ブランド各社の今後の予測を弱気なものにさせている。

日本でブランド品がめちゃくちゃ売れているワケ

 一方で、今、ラグジュアリーブランドが目を向けているのが日本市場だ。

 世界の統計データを扱う「スタティスタ」は2024年の市場の見通しについて「中国の収益については560億ドルで3.93%、日本は323億ドルで中国よりも高い4.69%の成長」だと公表した。また投資家向けの情報プラットフォーム「アジアファンドマネージャーズ」も、「日本のブランド品市場はここ数年で急速に回復し、2023年は夏のボーナスの増加と観光部門の活発化でこれらの支出が増加した」と報告している。

 日本のラグジュアリーブランド市場の伸びについて、アジアのファッションマーケットに詳しい事業開発研究所(東京都)の島田浩司代表取締役はこう語っている。

「今、日本でラグジュアリーブランドが非常によく売れています。その要因には、今まで主要な客層ではなかった日本人がブランド品を買うようになったことがあります」

 日本の株式市場が活況を呈していることも一因だろう。ユーチューバーやインフルエンサーなど新興の所得者層の出現、“パパ活”を通じて高額を得る女子たちや、歌舞伎町に見るような“一夜で高額を売り上げる業態”が新型の経済圏を成すようになってきたことも、「これまでにない客層の消費」を生んでいる可能性がある。

 近年はネット販売も充実するようになった。こうした購入環境の変化は、身なりやマナーに気を遣うブランドショップに行かなくても、欲しい商品を手に入れることができるようになったという意味で、新たな顧客層にとってハードルをかなり低くしていると言える。

 日本に再びブランド消費をカムバックさせ、すそ野を広げるようになったのは、確かに新たな消費者層の参入があるといえそうだ。

日本で売れてるブランド品、その最終消費者は?

 実は日本でブランド品が売れているもうひとつの理由があった。これまでになかった“商品の流れ”だと島田さんは語る。

 振り返れば、新型コロナがまん延する直前まで、日本のブランドショップは中国人観光客による爆買いによって支えられていた。インバウンド市場の黎明期においては、富裕層らが自分のために購入したものだったが、2015年以降は、日本で買ったブランド品を中国に担ぎ込むという“転売ヤー”の暗躍が注目された。

 中国国内でブランド品を購入する場合、関税など諸税が加算され、本体価格は少なくとも1.5倍以上に膨らんでしまうというデメリットがある。中国人が日本や香港などでブランド品を買いたがったのは、こうした内外価格差に加え、ニセモノが存在するというリスクもあったからだが、「日本で購入するブランド品」は、円安がさらにお得感を押し上げてきた。

 島田さんは「確かに中国経済は厳しいが、国民の気持ちはそんなに落ち込んでおらず、ブランド品を持ちたいという欲望は依然強い。以前のように気軽に訪日できる環境ではないとはいえ、中国人による需要は潜在しているのです」と話す。

 その需要を満たすのが、業者すなわち“転売ヤー”による組織的な仕入れと転売だ。かつては訪日中国人観光客に“担がせてきた日本の商品”だが、今では組織的に日本から送り出す新たな商品の流れが生まれているのだと言う。島田さんはこう続ける。

「日本は今、中国人消費者向けの“仕入れ天国”になっています。ここ数年は中国の経済状況を反映してか、中古ブランド品の買い付けが大変顕著です」

 確かに近年は日本で「ブランド品高額買取り」をうたった新聞の折込チラシが目に付く。中国人留学生の中には「休日は中古ブランド品探しに行く」という人もいる。「使用後は保存袋に入れる」という日本人の習慣が、日本の中古ブランド品の「保存状態のよさ」という高い評価に結び付いているようだ。

 日本が中国人消費者向けの“仕入れ天国”になり得るのは、日本から中国への国際配送の“環境整備”にもある。中国系物流企業が日本で活動していることは当コラム(『訪日中国人のカネは日本に落ちない?中国本土へ吸い上げる「囲い込みモデル」の貪欲』)でもお伝えしたが、“転売ヤー”は中国系物流企業を利用することで、日本郵便の「EMS」よりはるかにスピーディかつ安価に商品を中国に輸出することができる。

 日本で高まるブランド品需要、その一部を支えているのはやはり中国の消費だったようだ。「中国政府による規制もあり、以前より転売活動はやりにくくなった」という見方もあるが、これについての詳細は稿を改めお伝えしたい。

 一方で最近の中国では、アイドルやゲームなど、自分たちが追いかけたい対象が細分化するようになった。「欲しいものは必ずしもラグジュアリーブランドではありません」とするコメントも耳にする。日本がそうだったように、中国の若者の消費行動も世代交代とともに変化していくのだろう。

 もっとも、中国は「金持ちに見られないと相手にされない」といったお国柄でもある。見栄と面子にこだわる中国で、ブランド品は他人より上に立つための必須アイテムとして、今後も需要を伸ばしていくのかもしれない。

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No.60 ★ 中国株が大暴落!習近平も誰も経済を救えず、共産党の特権階級も逃げ出す準備 政府が株主の企業群「ナショナルチーム」も力尽き、中国経済は焦土と化すか

2024年02月03日 | 日記

JBpress (福島香織:ジャーナリスト)

2024年2月2日

中国経済を救うことはもはや困難?(写真:JMiks/Shutterstock.com

満留・1月30日、中国の株式市場が大暴落した。これを受けて中国国内では「ナショナルチームが力尽きた」という見方が広がっている。  

  • ナショナルチームとは、政府が株式を保有し管理下に置く金融機関や大企業のことで、これまで株式市場を下支えしてきた。
  • だが、もはや買い支える力を失っている。中国経済の立て直しは困難との見方も出ており、習近平国家主席のかじ取り次第では、中国経済はいったん「焦土」と化すかもしれない。(JBpress)

 おそらく、中国はもう株式市場を立て直す手段をもっていない。

 1月30日、中国の株式市場が再度大暴落した。今年に入って雪ダルマ式暴落が続く。最大の理由は「ナショナルチーム」と呼ばれる中国機関投資家らの力が尽き果てたことだ、という指摘が出始めている。

 習近平は不動産バブルを抑えるために、その資金を株式市場に誘導する政策を2015年以来とってきた。それが2015年夏の上海株災難と呼ばれる大暴落を引き起こし、以降その信頼を失った。その後、党の主導・管理を強化することで、なんとか株式市場の信頼を取り戻そうと立て直しに取り組んできた。その実動部隊が「ナショナルチーム」と呼ばれる、国家が株を保有する金融企業、中央企業などだ。株が大暴落した時、どこからともなく資金を集め、食い止めてくれる。デフォルト寸前の企業に資金注入してくれる、そういう力強い存在である。

 だが、彼らの力も限界だ。習近平政権の経済政策に対する不信感から、2023年には外国投資家の中国株式市場離れが本格化。そして三中全会という党の今後4年の政策方針を決めるために必要な全体会議も開かれず、経済政策が迷子状態の中では、もはや誰も中国経済を救えない状況になりつつあるようだ。

「ナショナルチームではもう中国市場は救えない!」

 1月30日、そんな嘆きの書き込みが中国のSNSにあふれた。同日の中国株大暴落は、上海深圳300指数(CSI300)が過去5年間の最低を更新。香港ハンセン指数は2009年以来の最低を更新。上海証券総合指数(上海指数)は2022年以来最悪となった。1月30日の上海指数の終値は2830.53。昨年秋の段階では3000が防衛ポイントと言われていたが、いまやそれは遠い目標となった。上海、深圳両市場における同日の取引額は6637億元だが、前取引日より1415億元縮小している。終値は上海指数が1.83%減、深圳成長指数が2.4%減、創業板指数が2.47%減と軒並み下落した。

 上海指数の1月の月間下落幅は6.27%で、この下落幅は昨年通年の3.7%をはるかに超えた。深圳成長指数の1月の月間下落幅は13.77%で、やはり昨年通年の下落幅13.54%を超える勢いだ。創業版指数の1月の月間下落幅は16.81%、昨年通年の下げ幅19.41%に迫る勢いだ。2024年1月、月間下落率30%以上の株は653銘柄、20%以上の株は2807銘柄、これは上海、深圳2つの株式市場の半分以上を占めるという。

 

不動産バブル崩壊に多くの産業が道連れに

 中国の株式市場は2021年2月からMSCI中国指数でおよそ60%以上下落している。この2年暴落の最大の原因は外資の撤退とみられている。2023年に中国市場に流入した外資の9割が同年末までに流出したといわれ、外資撤退の潮流に歯止めがかからない。

 背景には中国不動産バブルの崩壊を中心とした経済展望の暗さがある。恒大集団など中国を代表する不動産企業の事実上の破綻と、その処理の見通しの悪さから、中国不動産市場の立て直しが不可能という見方が強まっている。恒大は1月、香港高裁から清算命令が出ており、中国国内に恒大が保有する資産の精算手続きのやり方次第では、中国社会の不安定化や香港の金融ハブとしての機能にも影響が出てくる。

不動最大手・中国恒大集団には「清算命令」が下った(写真:CFoto/アフロ)

 いずれにしろ、これほど時間を引き延ばしても恒大の再建に失敗した事実は、中国不動産バブル崩壊不可避という印象を国際的に与えてしまった。不動産投資は中国経済の主要な牽引力であり、これが崩壊すると地方財政は逼迫し、失業率は高騰、資源・材料・家電に至るまで幅広い産業が道連れにこける。しかも習近平はインフラ建設への投資削減も指示しており、経済回復のきっかけになる政策が今のところない。

 また、多くの投資家たちは2つの目的から資金回収の動きを強めている。1つ目はインフレによる家庭支出の需要が高まったことで、投資に回す資金が減った。2つ目はリスクヘッジのための資金回収だ。また、不動産企業を含めた多くの企業の経営悪化から、債権の返済のための株式売却が加速したことなども株式市場に影響を与えた。

 一方、投機家たちの博奕(ばくえき)的な株売買が香港株の乱高下といった形で動揺を引き起こしている。下落した中国株の逆張りで資金を注入する投資家も少なくない。1月23日のハンセン指数は過去2カ月で最大の上昇幅を記録した。だが1月30日には、ハンセン科技指数が3%、ハンセン指数が2.2%下落。そのほか消費、テクノロジー、不動産関連が軒並み暴落した。空売りによる資金の吸い上げが繰り返され、これがさらに市場の信用を徐々に失わせていく結果となった。

当局は市場コントロールに必死だが…

 こうした状況に中国当局はこれまで、いわゆる党による株式市場のコントロールを強化することで市場の動揺を抑え、投資家の信頼を取り戻そうとしてきた。党に忠実な中央企業や機関投資家らに株を買い支えるように指示したり、また地方政府などに、地域の企業の上場を支援するよう指示したり、また企業幹部が戦略的に保有する株式の貸出に制限を設けたり、といった具合である。

 最近の動きでは、1月29日も何立峰副首相が北京の会議において、地方や各機関を通じて上場企業が直面する具体的困難と問題を検討して解決し、資本市場の安定と経済発展を推進せよ、と指示を出していた。28日には、中国証券監督管理委員会が、「投資家を中心とした監督管理理念をもとに、(空売りを制限するため)譲渡制限付き株式の貸付に対する管理監督を強化する」と通達を出した。

中国の株式市場を買い支えようと当局は必死だが(写真:ロイター/アフロ)

 国務院国有資産管理委員会は1月24日の記者会見で、中央企業幹部の業績評価の基準に、市場価値管理、株価管理を組み込むことを発表。同日、証券監督管理委員会は、中央企業に自社株買いの促進、投資家に報いるための証券機関の影響力を発揮させ、この方面の基本システムの整理改善任務を指示した。また同じ日、中央銀行(人民銀行)は預金準備率を0.5ポイント引き下げ、およそ1兆元の流動性を放出する、と発表した。

 こうした国家主導の市場管理強化によって、A株市場は一時大幅に反発。1月25日は中国の中の字のついた企業株は軒並み上昇し、中国石油株は8年ぶりにストップ高となった。この時、上海指数は2900の大台に回復し、中国メディアはA株爆発、中国石油ストップ高、と大報道した。海外メディアの中には、これを「ナショナルチームによる市場救済」と表現するものもあった。

力尽きたナショナルチーム

 S&Pグローバルマーケットインテリジェンスによれば、1月26日までの1カ月に170億ドル以上の資金がCSI300に連動する4つの中国の上場投資信託に流入したという。その市場規模の18倍にあたるS&P500だけが同期間、それより多い200億ドルの資金を集めた。だが、オフショアCSI300インデックストラッカーのいずれにも匹敵するほどの大量購入はなかったという。また米ゴールドマンサックスも中国国内ETFへの資金流入が2015年以来最大となった、とリポートした。

 具体的には易方達CSI300指数ETFの運用資産高は1月だけで70%以上増え、816億元に達した。華泰PB・CSI300ETFなど他のETFにも大量に資金が流入。だが同時に、外国投資家は1月だけで182億元相当の中国株をクロスボーダーコネクティビティ(国境を越えた取引)を通じて売却、6カ月連続の純売却となっている。

 こうした国家の指示による大量の資金注入は、2015年夏に上海株が暴落したときの市場安定のための買い支えと同様の措置だが、問題はその介入効果が、以前と比べて極めて短期的になっていることだ。

 結局1月29日、上海証券指数は再び2900を割り、2019年10月以来の最低を更新。さらに30日には冒頭に書いた通りの大暴落が起きた。つまり、もう、中国ナショナルチームはすでに力尽きている、というわけだ。

かつては海外投資家に大人気だった

 ナショナルチームの概念は、2015年7月の上海株暴落の時に生まれたものだが、具体的には国家が株を保有する政府関与の企業体で、主に中央滙金企業や中国証券金融企業を含む機関投資家などで構成される。彼らは、党の指示で、市場に資金を投入、株価維持に努めてきた。こうしたナショナルチームの動きは、海外機関投資家も注目しており、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ証券が毎月発表する世界各地のファンド・投資経理リポートによれば、中国エクイティの売り出しは、アップルやマイクロソフト、アルファベットなど米7大株(マグニフィセント・セブン=M7)の取引に次ぐ、世界のファンドマネージャーの間で2番目に人気がある取引だ。

 その「ナショナルチームが、ついに力尽きた」というSNS上の声を当局は削除している。すでにそうした専門家のコラムで読めなくなってしまったものも多い。つまり中国は今後も、彼らナショナルチームを使った株価コントロールを継続するつもりだ。

 ブルームバーグによれば、中国当局は新たに、中国国有企業のオフショア口座から2兆元を動員して、上海深圳香港の株式市場に注入するという。ほかに、少なくとも国内資金3000億元を追加で調達して株式市場の買い支えを行うらしい。

 果たして、これがうまくいくというのか。

結局は共産党の特権階級の救済が狙いか

 米サウスカロライナ大学エイキン校の謝田教授がラジオフリーアジアに対して、こんな解説を行っていた。

「中国が経済は安定していると宣言するが、経済下落はすでに反転がありえない情勢だ。株式市場は経済のバロメーターであり、市場の自信の萎縮ぶりを反映している。中国政府は基本的に中国市場を支えることができず、株価は下がり続け、人々はすでに中国のウソの宣伝を信じなくなっている」

「実際、外資が中国から撤退し、その傾向が加速化している」「これは政府が株式市場をコントロールするというやり方が本来の経済ルールに反しているからだ。株式市場に資金を注ぎ続けて、国有企業株を買い支えたり、キャッシュアウトを補填したりしてきたが、これは、実のところ国有企業の株主、つまり中国共産党の『権貴族(中国版オリガルヒ、権力と資本の癒着に関わる紅二代らの総称)』を救済するということなのだ」

「だから、これは市場救済と言いながら、本当の意味の市場救済ではなく、ダメな国有企業を救い、中国共産党の利益を救済するということなのだ」

 在米華人エコノミストの李恒青も「当局による市場救済とは、最終的にナショナルチームが利益をもったまま市場から退場できるように導くことだ」と指摘し、この動きは、ナショナルチーム、つまり共産党幹部たちが株を持つこうした企業を焼野原になりつつある中国株式市場から撤退させる準備に入った、という見方を示した。

「そうした過程で、個人投資家がそれに巻き込まれて富を失う。このように集められた市場救済のための資金は短期的に資本市場を盛り返させることになるかもしれないが、中国の株式市場全体の中のほんの一滴にすぎない」と指摘していた。

 実は私の友人も、中国株で構成された投資信託を大量にもっており、それがすでに元本の半分以下になっていると嘆いていた。中国のナショナルチームの実力を信じて中国株安が始まった後も逆張りしていた人は日本人にも多かったことだろう。

 だがやはり、一国の経済を1つの政党が完璧にコントロールするなど本来無理なのだ。また、あってはならない。習近平がやり方を変えないのであれば、今は中国経済がぺんぺん草も生えないほど燃えつくされるのを、火の粉ができるだけかからないように見守るだけだろう。そして焦土に新たな種をまく機会を待つのだ。

福島 香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト。大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。

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