「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.67 ★ 台湾半導体「TSMC」、市況低迷下でも際立つ競争力 2023年10~12月期は前四半期比で増収増益に

2024年02月06日 | 日記

東洋経済オンライン (財新 Biz & Tech) 

2024年2月5日

TSMCの2023年決算は減収減益だったものの、業績のパフォーマンスは業界平均を上回る。写真は新竹市の本社工場(同社ウェブサイトより)

半導体の受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は1月18日、2023年の通期決算を発表した。半導体市況の低迷が響き、同年の売上高は2兆1600億台湾ドル(約10兆1081億円)と前年比4.5%減少した。

設備稼働率の全体的な落ち込みに加えて、回路線幅3nm(ナノメートル)プロセスの生産体制の立ち上げ時期も重なり、2023年の粗利益率は前年の59.6%から54.4%に低下。最終利益は8385億台湾ドル(約3兆9239億円)と、前年比17.5%の減益となった。

一方、同時に発表した2023年10~12月期の四半期決算には業績反転のサインが現われた。同四半期の売上高は 6255億3000万台湾ドル(約2兆9273億円)と、前年同期比で横ばい、直前の7~9月期比では14.4%増加した。純利益は2387億1000万台湾ドル(約1兆1171億円)と前年同期比19.3%減少したものの、7~9月期比では13.1%増加した。

「惨憺たる稼働率」と自省の弁

「世界の半導体業界にとって、2023年は極めて厳しい年だった。わが社を含めて業界の先行き予想は軒並み外れ、設備稼働率は惨憺たる状況だった」。TSMCの魏哲家総裁(社長に相当)は、決算説明会で率直に自省の弁を述べた。

とはいえ、TSMCの業績はファウンドリー業界全体のパフォーマンスを上回っている。同社が開示した参考資料によれば、(DRAMやフラッシュメモリーなどの)半導体メモリーを除いた世界の半導体市場の規模は2023年に約2%縮小し、ファウンドリーに限れば13%も縮小した。

TSMCの製品分野別の売上比率を見ると、2023年はサーバー向けなどの高性能コンピューティング(HPC)が総売上高の43%、スマートフォンが同38%を占め、両者で全体の8割を超えた。その他の分野の売上比率は(あらゆるモノをネットにつなぐ)IoTが8%、車載用が6%、家電向けが2%だった。

TSMCは最先端のAI半導体の受託製造でも世界の先頭を走る。写真は3nmプロセスの主力工場である台南市の「Fab18」(TSMC提供)

注目すべきなのは、HPC分野のなかでAI(人工知能)半導体の売り上げが急拡大していることだ。総売上高に占める比率はまだ小さいものの、前年比5割増のペースで伸びているという。

(訳注:AI半導体世界最大手のエヌビディアは、最新鋭チップの製造をTSMCに頼っている)

2025年から2nmプロセス量産

製造技術の面では、TSMCは2023年を通じて(世界最先端の)3nmプロセスの生産能力を大幅に高めた。決算報告書によれば、3nmプロセスの売上比率は2023年7~9月期の6%から10~12月期は15%に上昇。同社はさらに高度な2nmプロセスについても、2025年から量産を始める計画だ。

2024年の経営環境に関して、魏氏は「世界景気全体および(戦争などの)地政学上の不確実性は緩和されない」と予想。一方、自社の業績については「すでに底を打ち、成長軌道に戻りつつある」と自信を示した。

魏氏は半導体業界全体の景気が2024年は上向くと見ており、半導体メモリーを除いた市場規模は前年比10%超、ファウンドリーは同20%の拡大が期待できるとした。

そのうえで同氏は、「TSMCは業界平均を凌駕するパフォーマンスを発揮し、ドルベースの売上高で(前年比)21~26%の成長率を達成したい」と述べた。

(財新記者:翟少輝)
※原文の配信は1月18日

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No.66 ★ 中国のネットから消える経済悲観論 習国家主席の側近は否定的意見を警戒、当局に「明るい見通し」の拡散を促す

2024年02月06日 | 日記

DIAMOND online  (The Wall Street Journal)

2024年2月5日

Photo:Future Publishing/gettyimages

【北京】最近話題になった中国のエコノミストやジャーナリストの論評がインターネットから姿を消した。中国政府が苦境にある経済を実際より良く見せるため、検閲を強化しているとの懸念が広がっている。

 習近平・中国国家主席の側近らは1月、「中国経済について明るい見通しを広める」よう当局に促した。昨年12月には同国の最高情報機関である国家安全部が異例の警告を出し、経済について否定的意見を述べる人物を警戒するよう呼び掛けた。「経済安全保障は国家安全保障の要の一つだ」とした。

最近消えた論評の一つは、市場改革を支持することで知られる北京の経済メディア「財新」が昨年12月に掲載した社説だ。中国経済が崩壊の危機にひんしていた1960年代から1970年代にかけての文化大革命に言及し、政府が経済的課題に直接対処するよう求める内容だった。文革当時、当局者が「状況は素晴らしい」と主張する裏で、人々の生活は困窮していたと解説していた。

 記事はまた、当局者に「事実から真実を求める」よう促した。これは毛沢東や、その後継者で40年にわたる改革開放政策を先導した鄧小平などがしばしば口にした、中国古来の格言だ。

「事実から真実を求める姿勢を貫かなければ、不適切な政策を適時修正することはできない」とするこの記事は無署名で、毛沢東生誕130周年の前日に当たる12月25日に掲載された。

 数時間の内にこの社説は財新のウェブサイトから消えた。同社はコメントを控えた。

 同じ日、中国国有・中泰証券のエコノミスト、李迅雷氏は、中国のニュースサイト「第一財経」に掲載したコラムで、中国指導部が低所得層を支援する措置を取らない限り、家計の消費不足は続くと警鐘を鳴らした。李氏はまた、人口の約7割に当たる約9億6400万人が月収2000元(約4万1200円)未満で生活していることを示す北京師範大学の調査結果を取り上げた。

 このデータは、中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボー)」で瞬く間に拡散したものの、公式トレンドリストから消えた。李氏のコラムも第一財経のウェブサイトから消えた。通信アプリ「微信(ウィーチャット)」の李氏の公式アカウントでも記事にアクセスできなくなり、「規約違反のため、このコンテンツは閲覧できません」のメッセージが表示された。

 李氏から今のところコメントは得られていない。第一財経はコメント要請に応じなかった。

 中国政府が経済に関する言論に神経をとがらせている背景には、成長鈍化がある。2023年の国内総生産(GDP)成長率は目標の5.2%に達したとされているものの、伸び率は新型コロナウイルス流行期を除くと数十年ぶりの低さだった。

 中国経済は長引く不動産不況や輸出鈍化といったさまざまな逆風に直面している。当局は消費者や企業の景況感を回復させるため、金融システムへの流動性供給を増やすなどの措置を講じた。

 それでも、住宅価格は主要都市で下落し、外国人投資家は急ピッチで中国から資金を引き揚げ、国内株式市場は数年ぶりの大幅下落に見舞われている。

 統計の数字が悪くなるにつれ、中国政府は経済に関する情報の統制を強化。若者の失業率が過去最悪の21.3%に達すると、統計局は昨年8月に突然、公表を中止した。12月に発表した新たな算出方法に基づく若者の失業率はわずか14.9%だった。規制当局は一部のデータベースへの海外からのアクセスを制限し、外国のデューデリジェンス(資産精査)会社の事務所を家宅捜索した。

 景気低迷の主因の一つは消費者や民間企業の信頼感低下だとエコノミストは指摘。消費意欲が後退し、企業は新規投資を控えているという。

 経済に関する自由な言論を抑圧しているのは、中国指導部の不安の表れだ。オックスフォード大学中国センターの研究員ジョージ・マグナス氏はこう話し、情報や論評の統制は不透明性と政策ミスのリスクを高めるだけだと述べた。

 UBSの元チーフエコノミストでもある同氏は、「いわばチアリーディングだ」とし、「重要な経済動向に関する議論を封じ込めれば、間違った意思決定につながる」と述べた。

 北京の中国政法大学商学院学部長の劉紀鵬氏は昨年12月、国営シンクタンクが共催したフォーラムで、中国の資本市場は未成熟だと指摘し、個人投資家は国内株に手を出さない方がいいと述べた。

 同氏は12月末、大学の職を辞したと微信の個人アカウントに投稿した。中国メディアが伝えた。TikTokの中国国内版「「抖音(ドウイン)」の同氏のアカウントは、新規にフォローできなくなっている。抖音は「規約違反」が理由だと説明している。

 中国政法大学はコメント要請に応じなかった。劉氏からコメントは得られていない。

 中国共産党はこれまでもたびたび、景気見通しが悪化すると経済に関する国民の議論を制限してきた。米保守派非営利団体フリーダムハウスによると、2023年のインターネット自由度ランキングで中国は9年連続で70カ国中最下位だった。

 微博は昨年12月中旬に一部利用者に対し、「経済について否定的なコメント」をしないよう警告する通知を送った。このうち1人が受け取った通知のコピーをウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した。

 エコノミストであるこの利用者は、「経済について公式見解と違うことを言うと歓迎されない」と語った。「明らかに指導部は、われわれが経済に注目することを望んでいない」

 微博はコメント要請に応じなかった。

 停滞ムードを盛り上げるため、政府はネットのプラットフォームだけでなく、法執行機関や情報機関にも援護を求めている。

 国家安全部は12月、中国経済が大国間競争の「重要な戦場」になっていると微信の公式アカウントに投稿。「中国経済を中傷しようとするさまざまな決まり文句が出続けている」とし、「根底にあるのは、さまざまな偽りの話で中国の衰退に関する『言説のわな』と『認知のわな』を作り上げることだ。その目的は(中略)戦略的に中国を封じ込めて抑圧することだ」と断じた。

 エコノミストは、こうしたメッセージが狙い通りの効果をもたらしているか疑問視している。

 キャピタル・エコノミクスのアジア担当チーフエコノミスト、マーク・ウィリアムズ氏は、「長い目で見れば、消費者や投資家の信頼感は、実際に経済に何が起きているかで決まる」と指摘。「批判的なメッセージを検閲しても、うまくいっているように見せかけているにすぎない」

(The Wall Street Journal/Jonathan Cheng)

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