「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.54 ★ 中国経済の「日本化」が止まらない3つの根拠 急速な景気悪化で日本と中国の“逆転現象”も

2024年02月01日 | 日記

Money VOICE (矢口新)

202421

日本経済が長期にわたって低迷していることで、経済が長期にわたって停滞したり、デフレ環境が続くことが「日本化現象」と呼ばれるようになった。そして今、世界が懸念していることの1つは、中国経済が急速に「日本化」してきていることだ。低迷初期の日本経済と、今の中国経済の共通点はいくつかある。(『 相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 』矢口新)

※本記事は矢口新さんのメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2024年1月29日号の一部抜粋です。

中国経済の「日本化」を示す3つの兆候

日本経済が長期にわたって低迷していることで、経済が長期にわたって停滞したり、デフレ環境が続くことが、「日本化現象」と呼ばれるようになった。

そして今、世界が懸念していることの1つは、中国経済が急速に「日本化」してきていることだ。

低迷初期の日本経済と、今の中国経済の共通点はいくつかある。以下などだ。

  1. 米国からの圧力が低迷の引き金となった
    2. 株価が(2021年2月の)ピークから半減している
    3. 過剰な不動産投資が破綻しつつある

<共通点その1:米国からの圧力が低迷の引き金となった>

日本の場合は、象徴的な1985年のプラザ合意に始まる一連の継続的な外圧を指す。

中国の場合は、米中の経済交流を推し進めてきたヘンリー・キッシンジャーが2011年1月に一転して、「米中両国が冷戦状態に入りつつある」と警鐘したことに始まっている。同年に中国のGDPが日本を抜いて、米国経済の当面のライバルになったことが要因だと思われる。

米国が中国との経済交流を重視した背景は、潜在的な巨大市場であったこと。安価な労働力が得られたこと。中国をソ連から引き離すこと。そして、増長気味だった日本のライバル育成だ。

米国は日本を利用して中国を育成するという一石二鳥の政策を採った。それが、ソ連が崩壊し、中国経済が日本を抜き、米国の対中赤字が拡大したことで、「事情が変わってきた」のだ。

<共通点その2:株価が(20212月の)ピークから半減している>

それぞれの状況は大きく違うが、株価の下落だけが共通していると言える。

上海総合 週足(SBI証券提供)

関連データとすれば、中国株に投資している14の米年金基金のほとんどが2020年以降に保有株を減らしている。また、2023年の中国への海外からの直接投資は前年比8.0%減の1兆1,300億元(1,571億ドル)だった。前年割れは2012年以来となる。

<共通点その3:過剰な不動産投資が破綻しつつある>

これについての一例は、中国2023年12月の不動産大手100社新築住宅販売額は前年比34.6%減の4,513億元(約8兆9,650億円)で、11月の29.6%減から悪化したようなことだ。不動産デベロッパーや、関連金融機関の破綻も出始めている。

こうした市況悪化の最も大きな原因は過剰投資だ。政府の後押しもあって、これまでの住宅購入層はすでに2、3軒所有していることさえ珍しくない。現在、市場全体では1億5,000万人分の在庫を抱えているとされるが、中国でも人口減が始まっているうえに、未購入層の収入は不安定で、若者の失業率が高止まりしている状態では、在庫がはける見込みが立たない。空き家が急増している一方で、大卒者たちの多くが1部屋で共同生活しているのが現状なのだ。

これは、不動産関連企業の収益が今後も改善せず、債務返済が困難になることを示唆している。また、購入資金を払い込みながら住宅の完成が大幅に遅延しているようなケースでは、金利と現在の住居の家賃の二重払いが生じており、購入者の個人破産も増えている。

政府も民間も債務だらけ

これまで急成長を謳歌してきた中国経済はまた、政府から民間に至るまで過剰な債務を抱えている。

2024年に満期を迎える社債は前年比2割増の6兆8,000億元(約140兆円)と、過去最高を更新する。24年の償還額は10年前の7倍で、10年で約2倍のGDPを増加率で大きく上回る。

償還額は26年までの3年間では20兆元(400兆円以上)に達する。償還額を押し上げるのは社債発行残高の3割以上を占める融資平台だ。地方政府の「別動隊」として資金調達を担い、高速道路や地下鉄といったインフラの整備を支えてきたが、融資平台の破綻も見られるようになった。

中国と日本の景気に「逆転現象」も

そこで、景気においてすでに日中の逆転が起きているとの見方も出てきている。ダイヤモンドの記事から一部分を引用する。

上海に着いて、公私問わず、久しぶりにいろいろな友人知人に会ったが、皆一様に「景気が悪い」と嘆く。「たくさんのお店が閉まった」「外国人が少なくなった」「活気がなくなった」「不動産が売れなくなった」「若者が仕事を見つけられなくなった」「失業者が増えた」「皆、お金を使わなくなった」……等々。誰の口からも、こんな言葉ばかりが出てくるのだ。

訪問先では「どうやったら日本のワーキングビザを取れる?」「日本の不動産を購入するのには、どんな条件が必要?」などと聞かれることが多くなってきたという。「『なんだ、結局日本に来たいのか』と思った」と余さんは話す。

今の中国と日本の逆転現象は、果たして本物なのか。そして、いつまで続くのか……両国の未来は、誰にも予測できないのではないかと思う。

出典:中国と日本の経済は「逆転」した?3年ぶりに上海を訪れた私が見た“驚きの光景” – ダイヤモンド・オンライン(2024年1月26日配信)

「誰にも予測できないのではないか」とは言うが、私は「中国と日本の逆転現象は本物」だと思っている。中国経済が元の活況に戻る可能性はかなり低いのではないか?

理由は、中国が政府による一極主導の経済だからだ。

勢いのある中国経済はもう戻らない?

これまでの中国経済の成長は、「豊かになる」ことを目指した鄧小平の国家戦略から始まっている。

それを米国が後押しし、利用した。中国経済が世界の2大パワーとなった今も、中国は新興国枠に留まることができ、途上国ならではの様々な恩恵が得られている。

一極主導は反対勢力や多様化の「無駄」がないので強い。しかし、その強さが過剰を産み、国内の貧富格差や産業格差を広げてしまう。また、汚職なども蔓延ることになる。

システムに無駄や「遊び」があるのは、必ずしも悪いことではないのだ。例えば、日本政府も日本経済を主導し、米国や他国の宗教の影響まで受けて、数々の間違いを犯しているが、日本経済に与える悪影響はそれでも限定的だ。なぜなら、日本のシステムには無駄や遊びが多く、権力の一極集中が見られないからだ。実例の1つが、現在問題となっている政府与党の裏金汚職の規模だ。この金額は逆に日本がいかに民主的で、権力が分散されている国なのかを象徴している。

日本にはまだ復活の目があるが

「日本化」という表現が示しているのは、日本経済はダメな経済の象徴だということだ。

それでも、権力がそれなりに分散されているおかげで、それなりに強い部分も多く、私見では税制改革だけでも大きく復活する目がある。

一方の中国は、政府がころべば皆がころぶシステムだ。復活するにはシステムそのものの変換が必要となるが、現政権は力で押さえつける体制を強化していて、システムの存続が何よりも最優先となっている。

今後の日本経済は、衰退していく隣国とどう向き合っていくかを課題の1つとして考えておく必要があるのではないか。

中国経済のランディングが避けられないものだとすれば、ハードではなく、ソフトランディングになるように、協力できるところは協力していかないと、混乱の火の粉を被ることにもなりかねない。

矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

*左横の「ブックマーク」から他のブログへ移動


No.53 ★ 中国のお金持ちは国外に資産を逃がしている! 中国株では大規模な売りが加速! 過度に売られた中国株に買いチャンスはあるのか?

2024年02月01日 | 日記

ZAI online (ポール・サイ)

2024年1月31日

 中国の経済は最近、多くの問題に直面しています。そして、これが原因で中国経済は米国経済にさらに遅れを取り、中国の株式市場では大規模な売りが加速しています。

 このような中国株に買いのチャンスはあるのでしょうか?

 そのことを検討するため、今回は中国について、さまざまな観点から考察してみたいと思います。

中国が台湾を攻撃するのは、中国共産党が権力喪失を招く可能性が出てきた場合のみ

 まず、中国株を分析するときは、地政学と経済の両方を考慮しなければいけません。

 中国の経済的停滞は一時的なことだと思います。

 中国の経済規模がやがてアメリカを超えるのは驚くことではありません。中国は非常に多くの人口を有しています。中国の1人当たりGDPが中南米の国のレベルになれば、中国の経済規模はアメリカを超える計算になります。

 次に地政学的リスク、戦争のリスクについて検討してみると、私は戦争にはならないと思います。

 中国の指導者たちは、何よりも権力を保持することに関心を持っています。彼らにはアメリカを乗っ取る野望はありません。台湾問題に対してどれほど真剣かはわかりませんが、台湾への攻撃は、おそらく中国共産党が権力喪失を招く可能性が出てきた場合にのみ起こるでしょう。

 私は中国共産党の指導部は心配症だと思っています。ゼロコロナ政策に対して抗議デモが起こったことは、彼らの権力が彼らが考えるほど強固でないことを証明しました。

中国のお金持ちは国外に資産を移し、逃げようとしている

 中国の流行り言葉に「潤」という言葉があります。これは北京語で、発音が英語のRUN(走る・逃げる)と同じなのです。

 お金持ちは逃げています。最も裕福な人々が国外に資産を移している国がどれほど大変な状況か、考えてみてください。これが現在、起こっていることなのです。なので、中国の権力者は心配していると思います。国内のことを心配している間は台湾を攻めたりしないでしょう。

 最近、李稻葵(David Li Daokui)が書いた記事を読みました。李稻葵は中国で最も影響力がある経済学者です。彼は中国が尊敬を必要としている点を強調していました。これはシンプルな考え方だと思います。

 確かに、歴史的に見ると、中国は尊敬されることを求めているように見えます。かつての中国は日本、韓国などが朝貢を行っていれば満足していました。皇帝たちは尊敬を求めただけでした。

 ただ、「尊敬」には実際に経済的、政治的な利益があり、それは過去の中国にとっての利点だったのです。これは米ドルが基軸通貨であることがアメリカに利益をもたらすようなものです。結論は、中国は自国の周辺地域にある程度の影響力を保持することを望んでいるということです。

 中国が安全を確保する1つの方法は、中国の力を日本、台湾、フィリピンに及ぼすことです。これはアメリカがカナダ、メキシコ、カリブ海諸国などを基本的にアメリカの影響下に置く方法と同じです。特に新しい発想でもなく、合理的です。

アメリカが中国を攻撃するリスク。その可能性がより高いものだと中国は考えている

 中国は、アメリカが中国を攻撃するリスクがより高いと考えている可能性があります。

 アメリカは、ある国の政権がアメリカにとってより有利な存在となるように、政権変更を促すことを過去に何度も行ってきました。中国は、数十年前までヨーロッパ諸国・日本に半植民地として支配された経験から、外国勢力に対して猜疑心を持っています。

 これらの要素から考えて、米中間の緊張をやわらげる方法は、アメリカが何らかの形で中国を「尊重」することです。お互いがお互いを敵ではないと認識することです。

 これは、アメリカが中国の政治や中国内の出来事に干渉しないということ、チベット、新疆の独立などを支持しないことを意味します。中国にとって、チベットや新疆への干渉は、中国がテキサスの独立を支持したり、抑圧されているアフリカ系アメリカ人がアメリカで自国を形成することを支持するようなものと聞こえるのです。

 アメリカはサウジアラビアなどは権威主義体制であっても受け入れていますが、それと同じように、中国には中国の体制があるということをアメリカが受け入れれば、緊張はやわらぐでしょう。

 台湾の場合、事実上独立しているのと、テクノロジー面で利害関係があるので、現状維持がアメリカと中国の双方にとってメリットのあるメインシナリオだと思います。

アメリカが多民族化、多文化化することによって、アメリカとアジアの国々との関係が改善してくる

 中国とアメリカの緊張をやわらげるもう1つの要因は文化的なものかもしれません。

 「欧米」という言葉があるように、これまでのアメリカはヨーロッパと同じように括られる勢力でしたが、現在のアメリカは多文化の力を持った存在に変わりつつあります。

 アメリカのこのような変化によって、中国とアメリカはお互いを理解しやすくなるかもしれません。

 アメリカはドイツなどを除いて欧州の勢力とは、今の米中の緊張関係と同じような緊張関係を持っていませんでした。ドイツなどについても戦争が終わったあとは、結局、友好的な存在になるのが一般的でした。欧米間で戦争があっても、それは家族間の喧嘩であり、長期的な敵対関係ではないようです。

 そう考えると、アメリカが多民族化、多文化化することによって、アメリカはアジアの国々との関係が改善してくることでしょう。

 それと、中国がアメリカから技術を盗むことは過大評価されている可能性があります。アメリカで授与されている科学技術系の博士号は、そもそも中国人に数多く授与されているのです(以下の2つのグラフ参照)。

過度に売られた中国の優良株を安値で買えるタイミングは遠くない!

 結論をまとめましょう。

 中国は不動産バブルが弾けたことによって、経済が減速しています。この調整はいつか終わります。地政学的な面についても、中国がアメリカと戦争する根本的な理由がないです。なので、地政学の問題も時間が経つと、緩和してくると思います。

 過度に売られた中国株を安値で買うタイミングはそこまで遠くない将来に来るでしょう。いい企業を安く買うチャンスが近づいていることを意識しておいてください。

ポール・サイ  

ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。

*左横の「ブックマーク」から他のブログへ移動


No.52 ★ 「中国vs台湾の山場」は2月1日!総統選は終わっても台湾がまだ波乱含みの事情とは?

2024年02月01日 | 日記

DIAMOND online  (齋藤幸世:名古屋市立大学大学院人間文化研究科研究員)

2024年1月31日

Photo:PIXTA

113日、台湾では総統選挙と立法委員選挙が行われ、民進党(民主進歩党)が辛くも勝利しました。この選挙については日本でも詳しく報じられていましたが、実は台湾の今後の政局を占う上で、本当の山場は21日にやってきます。

今年520日に行われる新総統就任式を先んじて、この日、台湾の立法院(日本の国会に相当)会議が召集され、立法院長と副院長が選出されるからです。民進党は政権を維持しましたが、立法委員の議席数では国民党(中国国民党)に屈しました。

もし、国民党から立法院長が選ばれれば、公平かつ中立的な立法院の秩序を維持するのは難しく、「ねじれ国会」が予想されています。本稿では、今回の台湾総統選挙と立法委員選挙の結果を通して、今後起こり得る立法院会議の混迷を展望してみます。(名古屋市立大学大学院人間文化研究科研究員 齋藤幸世)

二大政党制の台湾だが 2024年台湾総統選は3党による接戦だった

 1月13日、台湾では台湾総統・副総統選挙と立法委員の選挙が行われました。最初にこの選挙について振り返っておきましょう。

 今回は、民進党と国民党との一騎打ちではなく、第2野党である民衆党(台湾民衆党)も加わった3党による接戦となりました。その結果、投票率は前回2020年より3.04ポイントマイナスの71.86%でした。内訳は、各党総統・副総統候補者の獲得票数が、民進党の頼清徳氏・蕭美琴氏558万6019票(40.05%)、国民党の侯友宜氏・趙少康氏467万1021票(33.49%)、民衆党の柯文哲氏・呉欣盈氏369万466票(26.46%)となりました。

 この民進党の獲得票数は、前回の総統選挙で、蔡英文・頼清徳候補が獲得した817万231票(57.13%)を大きく下回り、立法委員も過半数に及びませんでした。一方、国民党は、2020年台湾総統選挙の獲得票数552万2119票を下回ったものの、総統選挙と同日投開票の立法委員の獲得議席数は民進党を1席上回る結果となりました。そして、今回初参戦の民衆党は、369万466票を獲得しました。この民衆党の支持基盤は、主に若年層のネット民と貧困層。柯文哲氏が台北市長時代、2014年からの8年間で各種SNSと積極的な直接交流により獲得した支持者に加え、昨年から使用し始めたTikTokにより拡大したさらなるファン層が、民衆党の支持基盤になっています。

立法院長は誰になる?野党第1党の国民党は一致団結しているが…

 この原稿を書いている1月下旬現在、各政党は立法院長と副院長の候補者選びに奔走しています。立法院長と副院長が誰になるのかは、113議席ある立法委員の無記名投票で決まりますが、その結果は予測が難しい状況です。

 113議席の内訳は、民進党が51議席、国民党が52議席、国民党寄りの無所属委員2議席(山地原住民立法委員・高金素梅氏と、苗栗県第1選挙区・陳超明氏)ですが、いずれも民衆党との連立政権の構築には消極的です。これに対し、8議席の民衆党は「国会改革を支持すれば賛同する」と述べているものの、各政党から立法院長と副院長の候補者が擁立される方向に動いているため、選出結果の予測がさらに難しくなっています。

 まず、1月18日、第1野党の国民党の韓国瑜氏が名乗りを上げ、副院長候補には民進党政権下で国防・外交委員に選ばれた江啓臣氏(前国民党党首)にほぼ確定しました。ただし、江啓臣氏は、香港民主運動への支持者で、92コンセンサス(※)を見直す考えも持ち合わせています。

 中国での留学経験もある韓国瑜氏は、前回2020年台湾総統選挙で民進党・蔡英文氏の対抗馬であり、当時まだ高雄市長でした。総統選挙に敗北した後、高雄市長としても罷免(リコール)住民投票により失脚して鳴りを潜めていましたが、ここにきて、同氏は高雄市長選に勝利した頃の勢いを取り戻しています。韓国瑜氏を候補に立てることについて、一時、国民党内でも異論が噴出していましたが、朱立倫党首は早々に造反の可能性にくぎを刺し、韓国瑜氏の擁立姿勢を明らかにしています。

 このように、国民党は一致団結し、立法院長の座を奪い取る勢いです。ただし、韓国瑜氏が院長候補に名乗りを上げた日、記者の囲み取材時に、開口一番「三立は来ているのか」と名指しで攻撃的な発言をしました。これは、台湾の三立テレビ局(三立電視台)が、かつて2020年台湾総統選挙時に、選挙の政見発表会で公然と同局を批判したことに対し、名誉棄損で告訴した同局は敗訴し、韓国瑜氏が不起訴となった出来事を指しています。「韓国瑜氏のような感情的な言動は、政治家としてあるべき姿ではない」という批判も出ています。

※92コンセンサス…1992年、中台双方の窓口機関の間での事務レベルの折衝過程で形成されたとされる。中国側はこれを「一つの中国原則を口頭で確認した合意」と解釈し、台湾の国民党は「一つの中国の中身についてそれぞれが(中華民国と中華人民共和国と)述べ合うことで合意した」と解釈している。民進党の蔡英文主席(2012年当時)は、合意文書が存在しないこと、中国が台湾側の解釈を公式に認めていないことを理由として、それは「存在しない」と主張した。

民進党の現職立法院長は 中国から干渉が強まることを危惧

 一方、政権を維持した民進党は、1月29日、正式に現職の立法院長・游錫堃氏と副院長・蔡其昌氏を候補者とすることを決定しました。

 それ以前の1月20日、游錫堃氏は記者の取材に対して、立法院長の立場や姿勢などを語りました。その中で、同氏は、「自分は中国共産党が嫌いな立場であり、中国共産党は自分を『頑固な台湾独立工作者』にリストアップしているが、中国共産党に干渉されることは恐れていない。だから、2020年に立法院長に就任後、コロナ禍でも諸外国議員や訪問団などとの交流を盛んに行ってきた。しかし、もし新たな立法院長が選出され、中国共産党から電話で中国と国交がある国に行くことを止められたり、中国に招待されたりしたらどうするのか」と親中の政党候補者が選出されることへの危惧を強調していました。

第2野党・民衆党は 内部分裂で足踏みそろわず

 第2の野党・民衆党に関しては、民進党か国民党のどちらかと連立に関与する可能性は低く、内部分裂も予測されます。今回の総統選挙前に、国民党との連立野党合意が破綻したこと、2014年「ひまわり学生運動」の際に民進党側に立ったことなど、党首の柯文哲氏はその時々で立場を変えてきたからです。そのため、民衆党としても立法院長・副院長候補を擁立する必要が出てきました。

 まずは、時代力量(※)の党首から民衆党にくら替えして今回当選した黄国昌氏と黄珊珊氏がその候補となるかのように、民衆党は動き始めています。黄国昌氏は、台湾独立思想であり、時代力量の立法委員時代には立法院でも疑惑の追及の手を緩めず、弁護士としての有能さを発揮していました。ただ、黄珊珊氏は民衆党と親民党(※※)との二重党籍が解消されない限り、今回の民衆党比例区での当選が無効になる恐れを指摘されています。

 一方、民衆党党首の柯文哲氏は親中派で、「世界に二つの中国はない」と明言している立場。保身のため、今回立法委員選挙で落選した蔡壁如氏(元立法委員・前台北市長事務所主任)を呼び戻して対抗しようとしています。しかし、黄国昌氏も黄珊珊氏も2026年の台湾の県市長選への出馬も視野に入れ、その存在感をアピールしています。ここからも、民衆党が既に内部分裂を起こしていることがうかがえます。

※時代力量…2015年に成立した、台湾の政党
※※親民党…2000年に成立した、台湾の政党

中国との関係性は、立法院長が誰になるかで決まる 立法院長と副院長が別の政党から選ばれる可能性も

 立法院長と副院長の選出方法の特徴として、ペアでの選出ではなく個別投票で選ばれるため、立法院長と副院長が異なる政党から選ばれる可能性もあります。そうなると、立法院長と副院長の主義主張や方向性の違いから、例えば、立法院長欠席時に副院長に権限が移ることにより、両者間で異なる判断が生じる可能性もあります。立法院の運営は困難が予想されます。

 さらに、もし国民党の候補が立法院長に選ばれれば、台湾と中国との関係性が馬英九政権時代にさかのぼり、当時「ひまわり学生運動」で阻止した中国との「貿易サービス協定」(※)の締結が現実味を帯びます。加えて、これまで8年間民進党が築き上げてきた、多文化主義政治の法制度や政策が大幅に変更される恐れもあります。特に、言語政策や教育制度の中でも、頼清徳氏が中心となって注力しており2030年に台湾社会全体で実現を目指す英語を中心とした「バイリンガル政策」の立法院での審議が頓挫することも避けられないと予想されます。

※貿易サービス協定……台湾と中国間での「海峡両岸サービス貿易協定」の略称。サービス貿易の自由化を目指す同協定は、医療や金融、印刷や出版、建設業から娯楽産業に至るまで、サービス産業の幅広い分野の市場を相互に開放し、参入を容易にするもの。

 たとえ、民進党が立法院長・副院長の座を保持できたとしても、異端児でもあり風雲児でもある韓国瑜氏と黄国昌氏とが立法委員として立法院に出席することで、立法院の議会運営に混乱を招きかねません。ところが、1月29日、民衆党党首柯文哲氏の呼び掛けに応じる形で、国民党と民進党はそれぞれ立法院長・副院長候補者が午前と午後とに分かれて、民衆党の立法委員8名と話し合いの場を持ちました。

 両党とも密室交渉であったものの、まず、国民党の韓国瑜氏によると「国民党と民衆党とが将来互いに手を取り合って、台湾人民の要求と期待に応えられるよう国会を改革する」という話し合いだったようです。特に、韓国瑜氏と黄国昌氏との間にはこれまで個人的な恨みはあったものの、和やかに抱擁する場面も見られました。一方で、民進党の游錫堃氏は、民進党を代表してではなく個人の見解として、「国会改革」は支持し、「ともに団結していかに台湾をより良くするかを考えることが重要だ」と語りました。  

 国民党、民進党両方とそれぞれ話し合いを終えて、柯文哲氏は「民衆党の立法院長・副院長候補者は、1月31日、記者会見の場で正式に発表する」と述べました。今後も、各政党の駆け引きが続くでしょう。そういう意味でも、2月1日の立法院長・副院長選出には要注目なのです。

【参考資料】
中央選挙委員会 選挙及公投資料庫 2020ー第15任総統副総統選挙
https://www.tufs.ac.jp/ts/personal/ogasawara/analysis/92consensus.html
東京外国語大学 小笠原欣幸名誉教授(2012年2月8日執筆)
https://www.koryu.or.jp/Portals/0/images/publications/magazine/2013/9/201309-02.pdf(松本充豊、2013、「交流」No.870、日本台湾交流協会)

*左横の「ブックマーク」から他のブログへ移動