Money VOICE (矢口新)
2024年2月1日
日本経済が長期にわたって低迷していることで、経済が長期にわたって停滞したり、デフレ環境が続くことが「日本化現象」と呼ばれるようになった。そして今、世界が懸念していることの1つは、中国経済が急速に「日本化」してきていることだ。低迷初期の日本経済と、今の中国経済の共通点はいくつかある。(『 相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 』矢口新)
※本記事は矢口新さんのメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2024年1月29日号の一部抜粋です。
中国経済の「日本化」を示す3つの兆候
日本経済が長期にわたって低迷していることで、経済が長期にわたって停滞したり、デフレ環境が続くことが、「日本化現象」と呼ばれるようになった。
そして今、世界が懸念していることの1つは、中国経済が急速に「日本化」してきていることだ。
低迷初期の日本経済と、今の中国経済の共通点はいくつかある。以下などだ。
- 米国からの圧力が低迷の引き金となった
2. 株価が(2021年2月の)ピークから半減している
3. 過剰な不動産投資が破綻しつつある
<共通点その1:米国からの圧力が低迷の引き金となった>
日本の場合は、象徴的な1985年のプラザ合意に始まる一連の継続的な外圧を指す。
中国の場合は、米中の経済交流を推し進めてきたヘンリー・キッシンジャーが2011年1月に一転して、「米中両国が冷戦状態に入りつつある」と警鐘したことに始まっている。同年に中国のGDPが日本を抜いて、米国経済の当面のライバルになったことが要因だと思われる。
米国が中国との経済交流を重視した背景は、潜在的な巨大市場であったこと。安価な労働力が得られたこと。中国をソ連から引き離すこと。そして、増長気味だった日本のライバル育成だ。
米国は日本を利用して中国を育成するという一石二鳥の政策を採った。それが、ソ連が崩壊し、中国経済が日本を抜き、米国の対中赤字が拡大したことで、「事情が変わってきた」のだ。
<共通点その2:株価が(2021年2月の)ピークから半減している>
それぞれの状況は大きく違うが、株価の下落だけが共通していると言える。
上海総合 週足(SBI証券提供)
関連データとすれば、中国株に投資している14の米年金基金のほとんどが2020年以降に保有株を減らしている。また、2023年の中国への海外からの直接投資は前年比8.0%減の1兆1,300億元(1,571億ドル)だった。前年割れは2012年以来となる。
<共通点その3:過剰な不動産投資が破綻しつつある>
これについての一例は、中国2023年12月の不動産大手100社新築住宅販売額は前年比34.6%減の4,513億元(約8兆9,650億円)で、11月の29.6%減から悪化したようなことだ。不動産デベロッパーや、関連金融機関の破綻も出始めている。
こうした市況悪化の最も大きな原因は過剰投資だ。政府の後押しもあって、これまでの住宅購入層はすでに2、3軒所有していることさえ珍しくない。現在、市場全体では1億5,000万人分の在庫を抱えているとされるが、中国でも人口減が始まっているうえに、未購入層の収入は不安定で、若者の失業率が高止まりしている状態では、在庫がはける見込みが立たない。空き家が急増している一方で、大卒者たちの多くが1部屋で共同生活しているのが現状なのだ。
これは、不動産関連企業の収益が今後も改善せず、債務返済が困難になることを示唆している。また、購入資金を払い込みながら住宅の完成が大幅に遅延しているようなケースでは、金利と現在の住居の家賃の二重払いが生じており、購入者の個人破産も増えている。
政府も民間も債務だらけ
これまで急成長を謳歌してきた中国経済はまた、政府から民間に至るまで過剰な債務を抱えている。
2024年に満期を迎える社債は前年比2割増の6兆8,000億元(約140兆円)と、過去最高を更新する。24年の償還額は10年前の7倍で、10年で約2倍のGDPを増加率で大きく上回る。
償還額は26年までの3年間では20兆元(400兆円以上)に達する。償還額を押し上げるのは社債発行残高の3割以上を占める融資平台だ。地方政府の「別動隊」として資金調達を担い、高速道路や地下鉄といったインフラの整備を支えてきたが、融資平台の破綻も見られるようになった。
中国と日本の景気に「逆転現象」も
そこで、景気においてすでに日中の逆転が起きているとの見方も出てきている。ダイヤモンドの記事から一部分を引用する。
上海に着いて、公私問わず、久しぶりにいろいろな友人知人に会ったが、皆一様に「景気が悪い」と嘆く。「たくさんのお店が閉まった」「外国人が少なくなった」「活気がなくなった」「不動産が売れなくなった」「若者が仕事を見つけられなくなった」「失業者が増えた」「皆、お金を使わなくなった」……等々。誰の口からも、こんな言葉ばかりが出てくるのだ。
訪問先では「どうやったら日本のワーキングビザを取れる?」「日本の不動産を購入するのには、どんな条件が必要?」などと聞かれることが多くなってきたという。「『なんだ、結局日本に来たいのか』と思った」と余さんは話す。
今の中国と日本の逆転現象は、果たして本物なのか。そして、いつまで続くのか……両国の未来は、誰にも予測できないのではないかと思う。
出典:中国と日本の経済は「逆転」した?3年ぶりに上海を訪れた私が見た“驚きの光景” – ダイヤモンド・オンライン(2024年1月26日配信)
「誰にも予測できないのではないか」とは言うが、私は「中国と日本の逆転現象は本物」だと思っている。中国経済が元の活況に戻る可能性はかなり低いのではないか?
理由は、中国が政府による一極主導の経済だからだ。
勢いのある中国経済はもう戻らない?
これまでの中国経済の成長は、「豊かになる」ことを目指した鄧小平の国家戦略から始まっている。
それを米国が後押しし、利用した。中国経済が世界の2大パワーとなった今も、中国は新興国枠に留まることができ、途上国ならではの様々な恩恵が得られている。
一極主導は反対勢力や多様化の「無駄」がないので強い。しかし、その強さが過剰を産み、国内の貧富格差や産業格差を広げてしまう。また、汚職なども蔓延ることになる。
システムに無駄や「遊び」があるのは、必ずしも悪いことではないのだ。例えば、日本政府も日本経済を主導し、米国や他国の宗教の影響まで受けて、数々の間違いを犯しているが、日本経済に与える悪影響はそれでも限定的だ。なぜなら、日本のシステムには無駄や遊びが多く、権力の一極集中が見られないからだ。実例の1つが、現在問題となっている政府与党の裏金汚職の規模だ。この金額は逆に日本がいかに民主的で、権力が分散されている国なのかを象徴している。
日本にはまだ復活の目があるが…
「日本化」という表現が示しているのは、日本経済はダメな経済の象徴だということだ。
それでも、権力がそれなりに分散されているおかげで、それなりに強い部分も多く、私見では税制改革だけでも大きく復活する目がある。
一方の中国は、政府がころべば皆がころぶシステムだ。復活するにはシステムそのものの変換が必要となるが、現政権は力で押さえつける体制を強化していて、システムの存続が何よりも最優先となっている。
今後の日本経済は、衰退していく隣国とどう向き合っていくかを課題の1つとして考えておく必要があるのではないか。
中国経済のランディングが避けられないものだとすれば、ハードではなく、ソフトランディングになるように、協力できるところは協力していかないと、混乱の火の粉を被ることにもなりかねない。
矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
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