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家具修復講座

2010-09-26 | 木工・家具(全般)
家具道具室内史学会の家具修復講座に参加しました。

その学会の会長を勤める小泉和子さんは
大田区の「昭和のくらし博物館」の館長でもあり
主な著書に「家具と室内意匠の文化史」「箪笥」「和家具」
「占領軍住宅の記録」「ちゃぶ台の昭和」などなどなどなど、
日本の家具の歴史を学ぶにあたって決して避けては通れない方。
そんな小泉さんに直にお話を聞ける機会をいただいただけでもラッキーでした

会場は小泉さんが家具の修理と復元を指導したひとつである重要文化財 明治生命館。
昭和9年の創建。
設計はクラシック建築の奇才、東京美術学校教授だった岡田信一郎で
昭和初期におけるオフィスビルの最高峰だそう。
その歴史をひと言でいえば、戦後GHQに接収された際には
米・英・中・ソ、4カ国による対日理事会の会議に使用されるなど
激動の昭和を耐えた記憶が刻まれている。



小泉さんによる講座の様子↓



過去の遺産をゴミの山として廃棄してきた私達は
もっと 文化財としての家具の価値を知らなければならないこと、
それにはまず家具屋が率先していかなければならないこと、
修復の仕事は これから重要なものになるだろうこと。
これまでに ご自身が修復・復元に関わってきた
函館区公会堂、旧名古屋高等裁判所、札幌の豊平館を例に
破損している家具を修復するケース、
家具は紛失しているが資料をもとに復元するケース、
資料集めから始めて家具を製作するケースについてお話を聞きました。
これらは著書の「西洋家具ものがたり」でも写真を見ることが出来ます。

その興味深さを全てここに書ききることはできない。
例えば函館区公会堂。当時の函館市からしてみれば
捨てるばかりの壊れた古い家具にわざわざ予算を投入して復刻することには意味がない。
小泉さんはその文化財的価値を行政に認めさせるため四苦八苦した様です。
女性が一人、男社会の行政と戦うことは
それだけで相当大変なことだったに違いありません。

そういえば日本の家具の歴史を知りたいが為に
犬山の明治村、松本の開智学校、沼津の御用邸などにも行っておいたことが幸いした。
修復作業の講座を聞きながら 実際の感じをイメージしやすかった気がします。



↓そして家具修復家の黒瀧道信さんによる実際の修復についてのお話。



ところで私の日頃の仕事はアンティーク家具の「修理」ですが
今回は家具「修復」講座です。
黒瀧さんによると「修理」とは実用品としての機能を復活させること。
「修復」とは 様々な情報を調査し元々の状態に一番近い健全な状態に戻すこと。
(ただし新品同様にすることではない)
直そうとする家具に対するアプローチが全く違うのです。
修復方法を聞きながら、まるで絵画の修復の様に繊細な印象を受けました。

講義のあと、明治生命館の内部を見学。
↓この本棚はオリジナルだそうです。古いガラスでした。



この様な大きな家具は 部屋の壁から壁の中心に置くのが
洋家具を配置する上での基本なのだそうですが
たまに部屋の隅に寄せられて 間違った展示をしている所もあるそうです。
日本人の感覚としたら背の高い大きな家具は部屋の隅、なので分かる気がします。
所有者にもまた 文化財的家具を展示、保存する知識が必要なんですよね。





↓コチラが対日理事会に使用された会議室。





資料室にあった当時の写真を撮ってみました。
昭和21年に始まり、昭和27年にGHQが廃止されるまで
164回にも及ぶ対日理事会が開かれたそうです。



見学ゾーンから見た1階へ降りる大理石の階段↓とてもキレイ



↓見学ゾーンの回廊を歩いていると何やら不思議なモノが。
写真中央に注目。
木製ドアの左側にあるモノ、一体なんだろう???と思って近づくと





な、なんと。
これがメールシュートというモノです。
ここに郵便物を入れると 下の階にある郵便箱に落ち
まとめて郵便局員さんが回収するというシステム。
レトロなエレベーターや各部屋の明かりのスイッチ、消火栓、
オリジナルで残されていた梶田恵の家具など、見学の見所は尽きません。

2階から見える吹き抜け部分の 漆喰と石膏彫刻の天井↓





この花飾り、ヨーロッパの美術館でもよく見ます。
なんて繊細でキレイな
まったく引けを取らないじゃないか。
この様な重要文化財の中で 家具に関する興味深い貴重なお話を聞けたことは
それに携わる一人として とても良い経験で刺激でした。
参加出来て本当に良かったです
ココで書ききれなかったコトは 何かの機会にまた関連させていこうと思います。




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