松沢顕治の家まち探しメモ

「よい日本の家」はどこにあるのだろうか。その姿をはやく現してくれ。

旧第五十九銀行本店・・・・・青森県弘前市

2014年10月04日 20時11分57秒 | 日記
3年前の10月10日は弘前にいた。岩木山と八甲田山に初冠雪があったと聞いた数日後のことで、もう肌寒かった。弘前図書館で調べものをして午後4時ころに外に出た。

あたりが急に暗くなったので駅に急いだ。右手に大きな堂々たるルネサンス調の建物があった。旧第五十九銀行本館(現青森銀行)。ああ、これが堀江佐吉の最高傑作か。観ておかなければ後悔する。

外壁は漆喰塗、下地は瓦張り。窓も漆喰塗の外窓。防火目的で和風の土蔵造りを基礎にしたものだろう。扉を開けて中に入る。広い。執務室と待合室との間に仕切り壁がない。2階への階段をあがる。柱のない大空間だ。8間ほどもあるだろうか。よくぞこれほどの広い空間を実現したものだ。

材は青森のヒバをふんだんに使っているという。6、7年前に下北半島の恐山に向かっているとき、とつぜん美しいヒバ林があらわれておどろいたことがある。かすかな香りがただよっていた。日本三大美林のひとつである。青森ヒバは江戸時代の藩経済を支える重要な戦略商品であったから、藩から特別に保護されていた。上の階層でなければヒバを使うことは認められなかった。

数年前には奥能登の下時国家をたずねた。江戸中期に建てられた豪壮な民家だが、やはりヒバを使っていると係の女性が説明してくれた。青森ヒバの記憶があったからだろう、即座に「青森産ですか」とたずねたところ、「いえ、能登産です」と気色ばんだのが印象的だった。ヒバは堅く耐久性がある。関東では好まれないが、東北や北陸ではよく使われる。棟梁堀江佐吉は自信をもってヒバを使ったのだろう。

落雪防止のため、屋根には優美な意匠のバラストレード(欄干)をまわしている。細心の設計が心憎い。

弘前市にはみごたえのある建築が大きく三群ある。武家屋敷の面影をよくとどめた伝統的建造物群、前川國男の作品群、それに堀江佐吉の洋風建築群。旧五十九銀行本店は、西洋建築に憧れた佐吉が多くの経験と知識を集大成するように取り組んだ作品だった。意匠と実用にすぐれ、しかも佐吉が自腹を切って坪単価をあげている。佐吉の最高傑作といわれるのも当然なのである。いいものを観せてもらった。

外は季節はずれのはげしい雷雨だった。ザックから登山用の雨具をとりだして、心はずませながら弘前駅に急いだ。








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