松沢顕治の家まち探しメモ

「よい日本の家」はどこにあるのだろうか。その姿をはやく現してくれ。

宿なし一人旅

2014年10月09日 15時20分05秒 | 日記
家族旅行はべつにして、ひとり旅をするのが好きだ。どこへ行くかいくつかのプランがつねに頭のなかにあって、仕事の都合や目的地の天候などをみながら、ふらっと家をでる。ホテルや旅館は予約しない。いつも出たとこ勝負だ。

学生のときからそうだったが、習慣になったのは社会人になってからだ。新人のとき、12月最初のことだった。今夜から北海道旭川市に行けといわれた。てっきり飛行機だとおもったら、上司は電車を乗り継げという。会社の規定ではそうなっているというのだ。あわてて規定を読むとたしかに電車行を否定していない。たしか「車馬規定」というような古色蒼然たる規定集だった。直前に上司にさからって心証をそこねていたからかもしれないが、どうにもならない。あわててジャンパーを買って午後東北線にとびのった。

青森駅に着いたのは夜になっていた。まず宿をとらねばならない。小さな旅館がみつかった。つぎは食事だ。ふらふら歩いて赤ちょうちんに入った。地元のひとたちがカウンターで酔って大声ではなしている。じゃまにならないように壁際のテーブルにすわって、肴と酒を注文した。酔いがまわってくると、ボーっという汽笛の音が聞こえた。遠くにきたなあという解放感と孤独感とがいりまじった心境になり、ついつい酒がすすんだ。



翌朝の青函連絡船は始発だった。まだ薄暗い中をフェリーはボーっという汽笛をたてながら陸奥湾を北上した。海は荒れ気味だった。2等客室は揺れて、気持ちがわるい。気分をかえようと丸窓から外をみたら、びっくりした。雪の海をイルカの群れが船と競争しているのだ。目が吸い込まれるようだった。おかげで、酔いはおさまったのだが。



函館に到着すると、今度は列車にのりかえて、旭川をめざした。雪の大地を列車は走る。駅弁を買い込んで朝も昼も座席でとる。列車を住み家にしているようで愉快だ。仕事が待っているので酒をのむわけにはいかないのだが、すっかり旅行気分である。暗くなると雪の色は青くなる。旭川駅に着いたのは4時ころだったろうか、あたりは青かった。駅から外に出てまず洗礼をうけた。すってんころりんと転んだのである。防滑機能のないふつうの革靴だったからだ。迎えにきてくれた現地の社員にはおお笑いされた。仕事は数時間で終わった。宿は手配してもらってあった。

ところが上司に報告すると「帰らなくていい。悪いが、四国の高松にむかってくれ、最短の時間で行け。あ、カネはあるか」とおどろく指示があった。あわてて乗換をしらべ、翌日は高松に飛んだ。まだ紅葉がのこっていたのにはおどろいた。仕事をすませ、夜は友人の家にとめてもらった。それも突然電話で頼み込んだのだった。

そうした出張をくりかえすうちに、度胸がついた。日本国内ならばなんとかなる、とって食われるわけじゃない、宿は予約しないほうがいい、いつどんなことになるのかわからないのだからと思うようになった。以来数十年、宿の手配をしない習性が身についてしまったというわけだ。さてまた出かけるか。

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1 コメント

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一人旅 (6x6)
2014-10-09 18:56:02
こんにちは。とても良い記事ですね。

>遠くにきたなあという解放感と孤独感とがいりまじった心境になり

とてもよく分かります。一人旅の醍醐味であり、この孤独感が人に対する心持ちを形成するんですよね。
僕も旅に行きたくなりました。
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