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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/18(月)バーミンガム市響日本公演/ネルソンズ+ヒラリー・ハーンの“熱い”シベリウスと「新世界より」

2013年11月21日 01時01分42秒 | クラシックコンサート
バーミンガム市交響楽団 日本公演2013
City of Birmingham Symphony Orchestra Japan tour 2013


2013年11月18日(月)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 1列 14番 17,000円(会員割引)
指 揮: アンドリス・ネルソンス
ヴァイオリン: ヒラリー・ハーン*
管弦楽: バーミンガム市交響楽団
【曲目】
ワーグナー:歌劇『ローエングリン』~第1幕への前奏曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》
 J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より「サラバンド」*
ドヴォルザーク:交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界より」
《アンコール》
 エミール・ダージンズ: 憂鬱なワルツ

 今年の11月の海外オーケストラの来日ラッシュは凄まじく、チェコ・フィルに始まり、パリ管弦楽団、ウィーン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、ベルリン・フィル、ドイツ・カンマーフィル、トリノ王立歌劇場と続く。これらの超大物オーケストラの中に混ざって、ちょっと地味ではあるが異彩を放ったのがアンドリス・ネルソンズさんの率いるバーミンガム市交響楽団の来日公演である。
 バーミンガム市響は、かつてサイモン・ラトルさんが首席指揮者・音楽監督を務めた期間(1980年~1998年)に世界でも有数のオーケストラに数えられるようになり、私たちの知るところとなった。その後、サカリ・オラモさんの時代を経て、2008年からは現在のアンドリス・ネルソンズさんが音楽監督を務めている。いわば育ての親のラトルさんは、ベルリン・フィルを率いて来日中で、まさに今日、同じ時刻にサントリーホールでコンサートを指揮しているのだから不思議な因縁を感じさせる。
 ネルソンズさんは今回が2度目の来日。前回は3年前の2010年、ウィーン・フィルの来日公演の時である。そのウィーン・フィルも来日中で昨日がツアー最終日で今日離日するというのだから、こちらも因縁めいている。そのネルソンズさんだが、私はまったく聴いたことがなく、未知数の状態であったが、音楽仲間の友人のYさんが絶対にオススメだと言うこともあったし、ヒラリー・ハーンさんのシベリウスも魅力たっぷりだったので、Yさんと並んで最前列のソリスト正面の席(Yさんにとっては指揮者の真後ろの席)を取ったという次第である。何しろ今日は、サントリーホールでベルリン・フィルが、東京文化会館でロイヤル・コンセルトヘボウ管がコンサートを開いているのだ。そのせいか、他に知った顔を見かけなかった。
 今回のバーミンガム市響の日本公演ツアーは、今日18日が初日で、明日19日も東京オペラシティコンサートホールで、明後日20日は東京文化会館で(都民劇場)、翌21日には東京芸術劇場(同劇場主催)と続き、23日には北九州ソレイユホール、24日には兵庫県立芸術文化センター、合わせて3都市で6回のコンサートを行うことになっている。Yさんは東京の4回すべてを聴きに行くらしい。
 ツアーに同行するソリストは、ヴァイオリンがヒラリー・ハーンさんで18日、21日、24日にシベリウスのヴァイオリン協奏曲を弾く。またピアノのエレーヌ・グリモーさんは19日、20日、23日にブラームスのピアノ協奏曲第1番を弾くことになっている。グリモーさんも聴きたかったが、今月は予算を使いすぎているので、断念せざるを得なかった。

 オーケストラの配置は、最近ではあまり見られなくなった、第1ヴァイオリンの対向にチェロを置くというもの。第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスが、時計回りに配置され、音の高低が左右のステレオ効果に置き換えられる配置である。その狙いは果たして・・・・? ちなみに弦楽5部は16型である。

 さて1曲目はワーグナーの『ローエングリン』第1幕への前奏曲。静かな幕開けである。弦楽の微弱音で始まり、徐々に楽器の数が増えていき、長い時間をかけてゆっくりと盛り上がっていく。初めて聴くバーミンガム市響の音は、英国のオーケストラらしくクセのない無色透明といった感じで、楽器本来の音色が純粋に美しい。技術レベルも高い。そして音量もかなり出るようだ。ネルソンズさんは、繊細かつ緻密に、丁寧に音楽を組み立てていく。その流れるようなリズム感も自然体で嫌味がない。クライマックスの全合奏に入る瞬間のタメとタイミングの取り方が実に良い。音楽に豊かさをもたらしている。初めて聴くネルソンズさん、なかなか素敵である。

 2曲目はハーンさんをソリストに迎えてのシベリウスのヴァイオリン協奏曲。ハーンさんは半年ぶりの来日になる。今年2013年の5月にリサイタルのツアーで全国を回ったが、その時は彼女の委嘱作品である小品(アンコール・ピース)をCDリリースに合わせてプログラムしたもので、いまひとつピンと来なかった部分もあった。一方、オーケストラとの共演による協奏曲は、昨年2012年6月のフランクフルト放送交響楽団の来日公演(指揮はパーヴォ・ヤルヴィさん)でメンデルスゾーンを聴いて以来である。
 さてネルソンズさんも素晴らしいが、ハーンさんもまた驚くべき演奏を聴かせてくれた。まず、誰でも知っているようなこの名曲に対して、何か新しいアプローチはあるのだろうか、期待は半分くらいだったのだが・・・・。この曲の持つイメージといえば、北欧の凍てつくような大自然、森と湖の清冽な空気感と、民族的な熱い血潮が水面下で燃えたぎるような、相反する要素が同居しているとろこが特徴であろう。つまりこのようなイメージをうまく表現するのを期待するのが一般的なところだろうが、ハーンさんのアプローチはちょっと違うような気がした。オーケストラが無色透明な英国風であることもあり、今回のハーンさんの解釈は、純音楽的であり、かなりダイナミックなものであった。
 第1楽章から際立っていたのは、楽器が非常によく鳴っていたことだ。とくに低弦(G線)の豊穣な音色と音量は、これまでのハーンさんのイメージを払拭させるものだ。雑な音はまったく出さずに、艶やかな音色で、聴いている私たちの(といっても最前列の目の前だが)身体を共振させるチカラがある。もちろん、中音域から最高音に至るまで、まったく乱れがなく、豊かな演奏が繰り広げられた。
 第2楽章の緩徐部分では、弱音もしっとりとした潤いがある音色で、しかも芯がクッキリとしているために、あえて感傷的・抒情的になりすぎることもなく、冷静で純音楽的である。
 第3楽章の民族音楽的な主題とリズムは、泥臭さ、土俗的な雰囲気がなく、洗練されていて、しかもかなりエネルギッシュで大胆な演奏でもあった。また、ネルソンズさんがオーケストラをかなりダイナミックにドライブし、思いっきり鳴らしていたことにみ驚かされた。何しろ16型の弦楽5部が本気でガンガン弾いているのである。それに対してハーンさんのヴァイオリンはまったく怯むことなく、堂々と渡り合い、見事なコントラストを見せていた。
 何だか抽象的な表現になってしまったが、要するにハーンさんの演奏は、これまで何度も聴いてきた中で、今日がベストであることは間違いがなく、ネルソンズさんという30歳代半ばの、ハーンさんにとっても同世代の指揮者との共演は、お互いに引き合うものがあるのだろう。実に活き活きとした生命力に溢れた、シベリウスであった。Brava!!
 ハーンさんのアンコールは、例のアンコール・ピースの中からではなくて、より一般的なバッハの「サラバンド」であったが、ソロで聴くヴァイオリンの豊穣な音色と流れるようなリズム感が、これもまた新鮮な響きとなって聞こえた。

 後半は「新世界より」。この曲は名曲過ぎて何かと言っては演奏されているような印象がある。今年だけでも何回聴いたことだか・・・・。直近では、つい半月前、2013年11月3日にチェコ・フィルの来日公演で聴いている(指揮はイルジー・ビエロフラーヴェクさん)。こちらはご本家といった感じ。一方、今日のバーミンガム市響では英国風の紳士的な音楽になるのだろうか。
 私はオーケストラは大きく分けるとふたつのタイプに分かれると思っている。ひとつはドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、チェコ、ロシア、北欧諸国などの土地柄に合った音質と、お国ものの作曲家の作品を演奏すると黙っていてもそれっぽい雰囲気を醸し出してしまうタイプで、これをローカル・オーケストラと呼ぶ。もうひとつは特定の傾向を持たずに機能性で幅広いレパートリーを得意とするタイプ。イギリスやアメリカ、そして日本のオーケストラの多くがこちらのタイプで、これをインターナショナル・オーケストラと呼んでいる(あくまで勝手にだが)。世界一のローカル・オケがウィーン・フィルで、世界一のインターナショナル・オケがベルリン・フィルというわけだ。どちらか良いとか悪いとか、好きとか嫌いとかいうことではなくて、あくまでタイプが違うという意味である。
 バーミンガム市響は後者に属すると思う。ラトヴィア出身のネルソンズさんが指揮をして、英国のオーケストラで、チェコのドヴォルザークがアメリカで書いた曲を演奏して、日本人が聴いているのだから、これ以上のインターナショナルはないだろう。先週3回も聴いたクリスティアン・ティーレマンさんの指揮するウィーン・フィルによるベートーヴェンとは真逆の位置関係となる。
 なぜこのようなことをクドクド書いたのかというと、今日のバーミンガム市響の演奏は、まさにインターナショナルな音楽の最高峰のものだったと思えるからだ。この聴き慣れた「新世界より」という曲の中に、もはやスラブ系の土臭さや民族的な血の濃さなどはまったくといってよいほど感じられない。しかしスコアを忠実に再現しているのに間違いはないので、純音楽的な演奏として、素晴らしかったということである。あくまで透明感が漂い、クリアな音色の弦のアンサンブル、木管も金管も楽器本来の音色を高い質感で出してくる。管弦楽のバランスも良く、全体としてのクオリティは極めて高い。ネルソンズさんの音楽作りは、基本的にはストレートで、ダイナミック。リズム感も自然体で、とてもしなやかな印象を受ける。ppは繊細でffは豪快に鳴らす。ところが細やかなニュアンスまで丁寧に作られていて、あらゆる場面で、質感の高い、奥行きの深い音楽を創り上げている。聴いていて、ものすごく新鮮な印象を得た。それくらいに鮮やかな演奏だったのである。「名演」というのとはちょっと違うような気もするが、素晴らしい演奏であったことは間違いなく、ネルソンズさんが世界で注目を集めている理由が分かるような気がした。
 アンコールはエミール・ダージンズの「憂鬱なワルツ」。もちろん初めて聴く曲だが、しっとりとしたロマンティックな曲で、興奮した神経を静めてくれる、素敵なアンコールだった。

 終演後は恒例のサイン会。ネルソンズさんとハーンさんのサインを求めで、長蛇の列ができた。ハーンさんのCDは会場で1枚購入したが、別途持ち込んだ写真にサインをいただいたら、ご覧のように、著作権者の「ⓒPeter Miller」と書き込まれてしまった。「勝手に使っちゃダメよ」ということらしい。なかなか面白いセンスの方だ。一方、ネルソンズさんにはプログラムにサインをいただいた。友人のYさん同様、ネルソンズさんは今後目を離せない指揮者になりそう。この後ネルソンズさんは、2015年にはバーミンガム市響を離れ、ボストン交響楽団の時期音楽監督に就任するという。ますます目が離せなくなりそうだ。



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