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第83回 日本音楽コンクール 本選会《ピアノ部門》
THE 83rd MUSIC COMPETITION OF JAPAN "PIANO"
2014年10月26日(日)16:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 4列(2列目)12番 3,500円
指 揮: 円光寺雅彦
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
昨日に引き続き、「第83回 日本音楽コンクール 本選会《ピアノ部門》」を聴いた。ピアノ分野の若い人たちのことはあまり知らないので、今回の本選会に進んだ4名とも、初めて聴くことになった。予選会も聴いていないので、まったくの予備知識なし。選考や評価については本来は口を挟むべきではないが、本選会を例によって2列目のソリスト正面鍵盤側で見聴きしただけ、という枠組みの中でのレポートである。あくまで個人的にだが、選考結果に不満を感じたので、今回は簡単なレポートに留めることにする。
本選会に残った4名は、19歳・20歳という同年代で、今回は奇しくも4名のうち3名がチャイコフスキーのピアノ協奏曲という選曲になった。演奏終了後の審査結果発表まで待っていたので、結果は知っているが、例によって時系列でみていくことにする。
●五十嵐薫子(いがらし・かおるこ/1994年生まれ。)
【曲目】ラフマニノフ: ビアノ協奏曲 第3番 ニ短調 作品30![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/2b/8dd21705e42b07136c3acfb196d6ef4d.jpg)
五十嵐さんだけがラフマニノフとなった。見た目の印象にも似て、とてもキレイなビアノを弾く人だと思った。音の粒立ちが整っていて、キラキラときらめくような色彩感がある。爽やかで絵に描いたようなロマンティシズム、美しい音楽が紡ぎ出されていくイメージだ。その逆に強烈な主張のようなものが感じられなくなり、押し出しも強くはない。音量も大きくはないが、全体的には女性的な柔らかな雰囲気に包まれている。とはいえ華奢な感じもしないし、普通の意味で平均的、あるいは平均以上の質感は保っていた。この難曲を選んだだけ合って、技巧的にも安定しているし、流れに乗った美しい音楽であった。
●石田啓明(いしだ・ひろあき/1994年生まれ。桐朋学園大学ソリストディプロマコース2年在学中)
【曲目】チャイコフスキー: ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/94/b67e97522b13cdc62b1646925bc5667c.jpg)
石田さんの演奏の印象は、一言でいうと「剛直」。体型は小柄だが手が大きく、音量も豊かで豪快な演奏だ。曲のテンポを遅めにして、カデンツァなどの早いパッセージも正確に弾いているというイメージだ。そして音色が「重い」という印象を受けた。これはリズム感が重厚で、オーケストラに対して音が遅れて出てくるようなところがあり(そう聞こえる音だということ)、軽快さや推進力がなく、「重い」のである。そして演奏スタイルそのものも、あるいは楽曲の解釈・表現に関しても、剛直で毅然としている代わりに、しなやかさ感じられないのである。
★ここで20分間の休憩が入った。この時点では、どちらかといえば五十嵐さんの方が良いと思った。二人とも甲乙つけがたいが、少なくとも音楽に身を委ねていて心地よいのは五十嵐さんの方だと思う。
●桑原志織(くわはら・しおり/1995年生まれ。東京藝術大学音楽学部1年在学中)
【曲目】チャイコフスキー: ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/0a/0130462f146a67e28b7ee3868e0706c5.jpg)
桑原さんは全体に曲のテンポを速めにして、推進力のある、前に向かっていく演奏だ。音量が豊かであるだけでなく、弱音から強音までがスムーズに広がり、ダイナミックレンジも広い。緩徐部分や弱音部の細やかなニュアンスを含む表現力も幅広く、豊かな表情を持っている。そして何より強く感じたのは、桑原さんの演奏は音楽が「流れている」ことだ。ピアノとオーケストラの親和性に優れ、主旋律を弾くとき、伴奏にまわった時などのスムーズな入れ替わりを見せるし、出しゃばらず、引っ込みすぎず、そしてしっかりと主導権を握って存在感を強く主張している。多彩な音を持つオーケストラに負けない幅広く奥深い表現力を持ったピアノだと思う。彼女は間違いなく、また聴いてみたいピアニストである。聴いている途中で、桑原さんに聴衆賞の投票をすることを決めた。
★この時点で、個人的には桑原さん、五十嵐さん、石田さんの順。友人のKさんは、桑原さん、石田さん、五十嵐さんの順だと言っていた。まあ、だいたい似たようなものだ。五十嵐さんと石田さんは甲乙つけがたいが、桑原さんは別格だと思っていた。
●西原瑠一(にしはら・るい/1994年生まれ。桐朋学園大学音楽学部2年在学中)
【曲目】チャイコフスキー: ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/60/a90cdd0cf150a2a3fa939f2320a9f42d.jpg)
西原さんは、見た目にも緊張してガチガチになっている感じで、演奏の方もガチガチだ。音楽にまったく乗れていない感じで、オーケストラとは別にピアノが進んでいるといった印象。実際にハズレるところが多く、指揮の円光寺さんが何度も西原さんの方を振り返ってオーケストラを何とか合わせているという感じだ。コンサートマスターの三浦さんも何度も西原さんの方を見ていた。どうもオーケストラの音を聴いていない、あるいは聞こえていない、そんな印象であった。また、弱音部分を極端に音量を下げて弾く傾向があり、強音との落差が大きすぎる。どうしてもわざとらしく感じられて、自然な音楽の流れになっていないのだ。どうも独りよがりの感じがする。そんなわけで、最後までドタバタした印象で落ち着きのない演奏になってしまっていた。
★4名の演奏が終わった時点で、私の評価は、桑原さん、五十嵐さん、石田さん、西原さんの順であった。
評価の基準は(あくまで本選会を聴いただけであるが)、一流のプロの演奏家たちの演奏で普段聴き慣れているこれらの名曲たちを、聴く側の私たちにどう訴えかけてくるか、という点である。技巧、解釈、表現力はもちろんのこと、ソリストとして求められる存在感。私たちは専門家ではないので、自分達の過去の体験との比較でしか感じることができない(スコアを読んで勉強しているわけではないので)。実際には、聴衆の大部分の人は素人であって専門家ではない。だからこそ「聴衆賞」が設定されているのだろうが、専門家である審査員の先生方の評価と、聴衆の評価が食い違うことがあるとすれば、果たしてどちらが正しいと言うことができるのだろうか。お金を払って聴きに来る人たちの評価が間違っているのだとしたら、民主主義じゃなくなってしまうぞ・・・・。
本選会の結果は下記の通りである。・・・・結果を見て、コンクールから足を洗おうかな・・・・とも思ってしまった。
【第83回 日本音楽コンクール《ピアノ部門》最終選考結果】
●第1位・・・・・・石田啓明
●第2位・・・・・・桑原志織
●第3位・・・・・・西原瑠一
●入 選・・・・・・五十嵐薫子
※岩谷賞・・・・・・桑原志織
なお、「第83回 日本音楽コンクール《ピアノ部門》本選会」の様子は、下記の通り、NHKのテレビとFMラジオで放送される予定。
●NHK BSプレミアム「クラシック倶楽部」 2014年12月9日(火)6:00~6:55
●NHK-FM「ベストオブクラシック」 2014年11月11日(火)19:30~21:10
●NHK Eテレ ドキュメンタリー放送予定 2014年12月6日(土) ※コンクール全般
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THE 83rd MUSIC COMPETITION OF JAPAN "PIANO"
2014年10月26日(日)16:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 4列(2列目)12番 3,500円
指 揮: 円光寺雅彦
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
昨日に引き続き、「第83回 日本音楽コンクール 本選会《ピアノ部門》」を聴いた。ピアノ分野の若い人たちのことはあまり知らないので、今回の本選会に進んだ4名とも、初めて聴くことになった。予選会も聴いていないので、まったくの予備知識なし。選考や評価については本来は口を挟むべきではないが、本選会を例によって2列目のソリスト正面鍵盤側で見聴きしただけ、という枠組みの中でのレポートである。あくまで個人的にだが、選考結果に不満を感じたので、今回は簡単なレポートに留めることにする。
本選会に残った4名は、19歳・20歳という同年代で、今回は奇しくも4名のうち3名がチャイコフスキーのピアノ協奏曲という選曲になった。演奏終了後の審査結果発表まで待っていたので、結果は知っているが、例によって時系列でみていくことにする。
●五十嵐薫子(いがらし・かおるこ/1994年生まれ。)
【曲目】ラフマニノフ: ビアノ協奏曲 第3番 ニ短調 作品30
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/2b/8dd21705e42b07136c3acfb196d6ef4d.jpg)
五十嵐さんだけがラフマニノフとなった。見た目の印象にも似て、とてもキレイなビアノを弾く人だと思った。音の粒立ちが整っていて、キラキラときらめくような色彩感がある。爽やかで絵に描いたようなロマンティシズム、美しい音楽が紡ぎ出されていくイメージだ。その逆に強烈な主張のようなものが感じられなくなり、押し出しも強くはない。音量も大きくはないが、全体的には女性的な柔らかな雰囲気に包まれている。とはいえ華奢な感じもしないし、普通の意味で平均的、あるいは平均以上の質感は保っていた。この難曲を選んだだけ合って、技巧的にも安定しているし、流れに乗った美しい音楽であった。
●石田啓明(いしだ・ひろあき/1994年生まれ。桐朋学園大学ソリストディプロマコース2年在学中)
【曲目】チャイコフスキー: ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/94/b67e97522b13cdc62b1646925bc5667c.jpg)
石田さんの演奏の印象は、一言でいうと「剛直」。体型は小柄だが手が大きく、音量も豊かで豪快な演奏だ。曲のテンポを遅めにして、カデンツァなどの早いパッセージも正確に弾いているというイメージだ。そして音色が「重い」という印象を受けた。これはリズム感が重厚で、オーケストラに対して音が遅れて出てくるようなところがあり(そう聞こえる音だということ)、軽快さや推進力がなく、「重い」のである。そして演奏スタイルそのものも、あるいは楽曲の解釈・表現に関しても、剛直で毅然としている代わりに、しなやかさ感じられないのである。
★ここで20分間の休憩が入った。この時点では、どちらかといえば五十嵐さんの方が良いと思った。二人とも甲乙つけがたいが、少なくとも音楽に身を委ねていて心地よいのは五十嵐さんの方だと思う。
●桑原志織(くわはら・しおり/1995年生まれ。東京藝術大学音楽学部1年在学中)
【曲目】チャイコフスキー: ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/0a/0130462f146a67e28b7ee3868e0706c5.jpg)
桑原さんは全体に曲のテンポを速めにして、推進力のある、前に向かっていく演奏だ。音量が豊かであるだけでなく、弱音から強音までがスムーズに広がり、ダイナミックレンジも広い。緩徐部分や弱音部の細やかなニュアンスを含む表現力も幅広く、豊かな表情を持っている。そして何より強く感じたのは、桑原さんの演奏は音楽が「流れている」ことだ。ピアノとオーケストラの親和性に優れ、主旋律を弾くとき、伴奏にまわった時などのスムーズな入れ替わりを見せるし、出しゃばらず、引っ込みすぎず、そしてしっかりと主導権を握って存在感を強く主張している。多彩な音を持つオーケストラに負けない幅広く奥深い表現力を持ったピアノだと思う。彼女は間違いなく、また聴いてみたいピアニストである。聴いている途中で、桑原さんに聴衆賞の投票をすることを決めた。
★この時点で、個人的には桑原さん、五十嵐さん、石田さんの順。友人のKさんは、桑原さん、石田さん、五十嵐さんの順だと言っていた。まあ、だいたい似たようなものだ。五十嵐さんと石田さんは甲乙つけがたいが、桑原さんは別格だと思っていた。
●西原瑠一(にしはら・るい/1994年生まれ。桐朋学園大学音楽学部2年在学中)
【曲目】チャイコフスキー: ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/60/a90cdd0cf150a2a3fa939f2320a9f42d.jpg)
西原さんは、見た目にも緊張してガチガチになっている感じで、演奏の方もガチガチだ。音楽にまったく乗れていない感じで、オーケストラとは別にピアノが進んでいるといった印象。実際にハズレるところが多く、指揮の円光寺さんが何度も西原さんの方を振り返ってオーケストラを何とか合わせているという感じだ。コンサートマスターの三浦さんも何度も西原さんの方を見ていた。どうもオーケストラの音を聴いていない、あるいは聞こえていない、そんな印象であった。また、弱音部分を極端に音量を下げて弾く傾向があり、強音との落差が大きすぎる。どうしてもわざとらしく感じられて、自然な音楽の流れになっていないのだ。どうも独りよがりの感じがする。そんなわけで、最後までドタバタした印象で落ち着きのない演奏になってしまっていた。
★4名の演奏が終わった時点で、私の評価は、桑原さん、五十嵐さん、石田さん、西原さんの順であった。
評価の基準は(あくまで本選会を聴いただけであるが)、一流のプロの演奏家たちの演奏で普段聴き慣れているこれらの名曲たちを、聴く側の私たちにどう訴えかけてくるか、という点である。技巧、解釈、表現力はもちろんのこと、ソリストとして求められる存在感。私たちは専門家ではないので、自分達の過去の体験との比較でしか感じることができない(スコアを読んで勉強しているわけではないので)。実際には、聴衆の大部分の人は素人であって専門家ではない。だからこそ「聴衆賞」が設定されているのだろうが、専門家である審査員の先生方の評価と、聴衆の評価が食い違うことがあるとすれば、果たしてどちらが正しいと言うことができるのだろうか。お金を払って聴きに来る人たちの評価が間違っているのだとしたら、民主主義じゃなくなってしまうぞ・・・・。
本選会の結果は下記の通りである。・・・・結果を見て、コンクールから足を洗おうかな・・・・とも思ってしまった。
【第83回 日本音楽コンクール《ピアノ部門》最終選考結果】
●第1位・・・・・・石田啓明
●第2位・・・・・・桑原志織
●第3位・・・・・・西原瑠一
●入 選・・・・・・五十嵐薫子
※岩谷賞・・・・・・桑原志織
なお、「第83回 日本音楽コンクール《ピアノ部門》本選会」の様子は、下記の通り、NHKのテレビとFMラジオで放送される予定。
●NHK BSプレミアム「クラシック倶楽部」 2014年12月9日(火)6:00~6:55
●NHK-FM「ベストオブクラシック」 2014年11月11日(火)19:30~21:10
●NHK Eテレ ドキュメンタリー放送予定 2014年12月6日(土) ※コンクール全般
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