Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

1/18(土)沼尻竜典作曲・歌劇『竹取物語』みなとみらいで世界初演/幸田浩子の可憐なかぐや姫

2014年01月20日 00時51分58秒 | 劇場でオペラ鑑賞
横浜芸術アクション事業/オペラシリーズ~みなとみらい流 II
歌劇『竹取物語』/日本語上演・演奏会形式/世界初演


2014年1月18日(土)15:00~ 横浜みなとみらいホール・大ホール A席 1階 C1列18番 4,500円
作曲・台本: 沼尻竜典
指 揮: 沼尻竜典
管弦楽: トウキョウ・モーツァルト・プレイヤーズ
合唱: 栗友会合唱団
【出演】
かぐや姫: 幸田浩子(ソプラノ)
翁(おきな): 山下浩治(バス・バリトン)
媼(おうな): 加納悦子(メゾ・ソプラノ)
帝(みかど): 友清 祟(バリトン)
石作皇子: 小堀勇介(テノール)
庫持皇子: 大山大輔(バリトン)
阿部御主人: 大久保光哉(バリトン)
大伴大納言: 晴 雅彦(バリトン)
石上麻呂足: 近藤 圭(バリトン)
月よりの使者: 中島郁子(メゾ・ソプラノ)
石上麻呂足の使者: 盛田 浩(ボーイ・ソプラノ)

 横浜芸術アクション事業/オペラシリーズ~みなとみらい流 IIとして、歌劇『竹取物語』が日本語上演・演奏会形式で世界初演された。このイベントの意義についてはよく知らないのだが、ベトナムのハノイの歌劇場との提携事業にもなっていて、2015年にはハノイでも上演される予定になっているという。
 『竹取物語』は日本最古の物語として知られており、また世界最古のSF小説などともいわれているが、成立年代は不明である。子供の頃から「かぐや姫」の物語として読み聞かされてきたので、物語の大筋は知っている。今回のオペラ化に当たっては、ストーリーは原作にほぼ忠実に再現している。台本も作曲者の沼尻竜典さんが受け持ったが、非常にに良くできた台本であったと思う。平易な現代の口語体で書かれていて、聞いているだけでほぼ完全に理解できたことも嬉しい(会場には字幕装置も用意されていたので、なおさら分かりやすい)。
 私は、このような日本のオペラの初演ものが比較的好きなものだから、この公演をしたときに迷わずチケットを取った。演奏会形式のためか、A席設定だった最前列のど真ん中を確保。ただし指揮者の真後ろには違いないが、オーケストラはやや奥の方に位置し、ステージ手前側にソリストのスペースが取られていた。演奏会形式のオペラを最前列で聴くと、歌手たちのナマの声がかなりの至近距離で聞くことができる。オーケストラもピットに入っていないので音の抜けが良い。物語のイメージは掴みにくいが、舞台公演よりも演奏面ではこちらの方が優れているし、聴きやすいことも確かだ。

 ストーリーをごく簡単におさらいしておこう。オペラ全体が5つの場面に分かれていて、それぞれ第1景~第5景となっている。
 第1景。竹取の翁(おきな)がある日、光る竹を見付けてそれを切ると中から小さな女の子が出てくる。媼(おうな)と二人で育てることにして、かぐや姫と名付ける。
 第2景。不思議なことに3ヵ月後には美しく成長した姫の前に5人の求婚者が現れる。姫は5人に無理難題を押しつけ、それぞれに指定した宝物を3年後に持ってくるように求める。
 第3景。3年後のその日、4人はやって来るがことごとく姫に不正を見破られあえなく撃沈。残りの1人はすでに亡くなっていた。
 第4景。姫の評判を聞いた帝(みかど)は姫を妃に迎えようと口説くが拒否されてしまう。会うことはできないが和歌を交換することを約束する。
 第5景。さらに3年後、実はかぐや姫は月の都で罪を得てこの世に送られて来ていたという身分であることを告白する。許されて月に変えることになり、月から使者が訪れる。姫は帝に別れの手紙を書き、不死の薬を託し、そして月の都に帰っていってしまう。姫がいないこの世で不死であっては苦しみが増すばかりなので、帝は駿河の国のこの世で一番高い山、つまり月に一番近い山の上で薬を燃やすことにする。故にそこを富士の山と呼ぶことになった・・・・。

 今回の『竹取物語』は、まさに沼尻さんの八面六臂の大活躍により成功を収めた。何しろ、台本と作曲で作品を作り上げ、本人の指揮で初演するわけだから、これ以上はない。しかも沼尻さんといえば、びわ湖ホール芸術監督やリューベック歌劇場音楽総監督を務めているオペラを極めてよく知っている人。伸び伸びと、活き活きとした音楽を展開した。管弦楽はトウキョウ・モーツァルト・プレイヤーズ。沼尻さんが手勢を引き連れて、質の高い美しいアンサンブルと豊かな色彩感に彩られた演奏で、ソリストたちの歌唱をバックアップしていた。コンサートマスターは東京交響楽団の同役、水谷晃さん。若いメンバーの多いこのオーケストラで、楽しそうに、見事な采配ぶりを見せていた。

 さて、肝心の新作オペラ『竹取物語』の作品について見てみよう。この手の委嘱による作品は、作曲家が忙しいため(沼尻さんだから指揮者として忙しいわけだが)ギリギリまで作品が完成しないのが一般的。恐らく、出来上がって間もないまま初演を迎えているに違いない。もちろん、世界に数多あるオペラ作品も初演で成功したものなど数少なく、多くは改訂を繰り返して作品の完成度が高まっていくのである。今回の『竹取物語』も、そう言う意味では、初演は迎えたものの完成度という点では、実際にはまだまだというところだろう。
 沼尻さんが作曲した音楽そのものは、難解な現代音楽などではなく、かといってロマン派とか古典派といったイメージのものでもなかった。では日本的な音楽世界を創り上げていたかというと、もちろんそういう要素はかなりあったが、必ずしもそうでもない。この初演を聴いていない人に向けて、言葉で表現するのに一番伝わりやすくいうなら、「ミュージカル風」の音楽ということになる。
 ちなみに本作品は、番号オペラともいえる形式になっていて、全5景で会わせて34曲の楽曲を台詞でつないでいく形式である。
 第1景の初めの方は日本旋法的な音楽作りで、アリアというよりは歌曲風の曲が、独唱、二重唱、三重唱と現れる。合唱もある。第3景あたりからはアメリカのミュージカルのように変わり、ビッグバンド風になったり、ワルツが出て来たりと変化に富む。後半の第4景~第5景は二重唱や合唱曲、アリアなどもあって、ロマンティックな音楽が展開する。終盤は合唱を含めて劇的な盛り上がりを見せていくが、ここもオペラ的というよりはミュージカル風といった方がいいだろう。「沼尻さんの言葉として「誰もが口ずさんで帰れるようなメロディを」と公演チラシに記載されていたが、確かに覚えやすいメロデイも出てくる。J-POP風・・・・? そう言う考え方で創られているのなら、それを尊重しよう。
 完成度がまだまだといったのは、何となくまとまりが良くなく感じたから。オペラが進行して行くに従って楽曲のイメージが極端に変わっていくからである。作曲していくうちに新しい楽想が次々に湧いてきてしまったという感じなのである。だから、全体をひとくくりにすると、「オペラ歌手が歌うミュージカル風のオペラ」といったイメージなのであった。断っておくが、批判的な意味でいっているのではない。ミュージカル風であっても、楽しめて感動的であれば、別に構わない。ヴェルディやワーグナーだけがオペラだというわけではないのだから。
 もうひとつ、この作品が日本の新作オペラとしての優れている点は、日本語歌唱と音楽がピッタリと合っていたことだ。これは台本も作詞も作曲者の沼尻さんが行ったからで、言葉の一句一句が精査されていて、旋律と歌詞の抑揚が合っているのである。だから聴いていて素直に耳に入ってくる。これが調性が曖昧な現代音楽風であったり、外国のオペラやオペレッタを日本語翻訳で歌唱する時などは、言葉の抑揚と音楽の旋律が合わないために、非常に聞きづらくなってしまうことがある。J-POPやミュージカルは字幕などなくても聴いていれば内容がよく分かるのに対して、クラシック音楽系のオペラの方が分かりづらい。まあ、その辺は難しい問題だとは思うが、今回の『竹取物語』は、字幕装置が用意されていたにも関わらず、ほとんど必要がないくらいに聴き取りやすい音楽であった。

 出演者は、まずかぐや姫役の幸田浩子さんがからいらしくもちょっと高慢なところもある役柄を好演。コロラトゥーラ系の軽やかで澄んだ歌声が誰からも好かれるかぐや姫にぴったり合っている。アリアやそれに準ずる二重唱・三重唱が多かったが、とくに高度な技巧を求められるような曲想ではないので、むしろ日本歌曲のように情感たっぷりに歌われていた。
 翁役の山下浩治さんは、翁にしてはしなやかで張りのある声の持ち主で、自然な振る舞いの巧さを発揮していた。新作の初演だというのに気負いが感じられず、ベテランの味わいである。媼役の加納悦子さんも、歌唱は抜群に巧いし、この手の役柄をさせると天下一品である。帝役の友清 祟さんは後半の第4景からの出演になるが準主役に相当する。第4景冒頭のアリアが美しい旋律にのせて素敵だ。歌唱の方はまったく問題はなかったが、役どころかにいってこれはテノールの方が良かったのでは? などと思った。


 前半に登場する5人の求婚者では、石作皇子役の小堀勇介さんだけがテノールで、唯一高い声を出している。庫持皇子役の大山大輔さんは突然ミュージカル風になるワルツを繰り返して歌い、楽しませてくれた。阿部御主人役の大久保光哉さんもミュージカル風、ビッグバンド風の音楽に乗ってリズミカルに歌う。大伴大納言役の晴 雅彦さんはクセのある役どころを面白く見せて会場の笑いを誘った。切れキャラとおネエ・キャラを使い分け、こちらはコミカルなミュージカル風の音楽に乗せて軽快に歌い飛ばした。石上麻呂足役の近藤 圭は途中で死んでしまう役なので出番が少なかった。
 二期会会員を中心に組まれたキャスティングであったが、実力派揃いで歌唱力のレベルは素晴らしく高かったといえる。

 本好演は演奏会形式。企画の母体が横浜市であるため、会場が「横浜みなとみらいホール」に限定されてしまう。そのために演奏会形式でしかできなかったのだろう。提携先のハノイの歌劇場ではオペラ形式で上演されるという。本末転倒で、ちょっと悲しい。そして演奏会形式に関してだが、多少の演出を加えても良かったのではないかと思われる。ストーリーの上では、特別な舞台装置が必要になるとも思えないので、せめて衣装とメイクだけでも採用したら、見た目にも分かりやすくなるし、かなりオペラの雰囲気が出てくると思う。もう一工夫欲しかった。
 とはいえ、お馴染みの物語ではあるし、平易な現代語の歌詞と台詞、分かりやすく美しい音楽と、老若男女が楽しめる作品になったと思う。敢えて難解で芸術的な音楽作品にしなかったことで、ある種の期待はずれの感がしないでもなかったが、十分に楽しむことができたので、かえって良かったと思う。できたら、完全なオペラ形式、あるいはミュージカル形式でも良いから、舞台にかけて欲しい。美しい平安絵巻のような舞台で聴けば、この作品の魅力がもっと鮮明になるだろう。実際に、目をつぶって聴いていると情景が目に浮かぶような、ある種のリアルさと分かりやすさに満ちた音楽であることは間違いないので・・・・。この作品を作り上げた沼尻さんにBravo!を送ろう。

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